本来の姿
「颯太、いよいよね」
話しかけてきた女性へ相打ちを打った。
「ああ」
風早颯太は満足げに辺りを見回す。
壁にはたくさんの写真が飾られている。沢山の写真は色んな種類があった。
これらはすべてアマチュアカメラマン、要は写真家のたまごたちが撮った作品群。
この中には颯太の作品も展示されている。
「君の作品はどの辺りに展示されているだい?」
「えっと、ここより先の所にあるけど」
女性は指を今いる場所から左に指した。
「颯太、展示会始まったらゆっくり皆の作品観れないかもしれないから、観ておく?」
「うん、勉強になるだろうしね」
何点かの作品を観てから、少しすると見覚えのある名前がある作品の前に到着する。
作品の下には作品名と撮影者も名前もあった。
作品のタイトルほど大きくないが、小さな字で弓波愛紬となっている。
「これが君の作品だね」
「この前落石あったでしょ、その瞬間をね」
「迫力や怖さが伝わってくるね」
「ええ。実際小さな規模だったけど、目の当たりにして夢中で連射してたな」
ふたりは作品の事をあれこれ会話をしながら、再度展示会を巡るのだった。
*****
本木彩七は展示会のチケットを電車の座席で見つめている。
ガタンゴトン、そう揺れる電車は平日の昼下がりで、車内が空いている。あちらこちらと座席にはまばらに人がいるだけだった。
彩七の両隣も誰も座っていない。
チケットを見て、ふと彩七は今朝の出来事を思い出すのだった。
「彩七、ママもその展示会ついて行こうかしら?」
「ママ、彩七は独りで行きたいの」
「でもねぇ、心配なのよ」
「わかっているわ、ママ。でもこのままじゃ何も出来ない女性になっちゃう」
「いいじゃないそれで。今を生きているんだから」
「彩七はそんなの嫌なの」
「ママは彩七の身体が心配で。ちゃんと丈夫な体に」
悲嘆の表情が母親を覆いつくすのがわかった彩七。
「それ以上言わないで、ママ」
母親の手を取り、それ以上母親が自分を責めない様、言葉を続ける。
「彩七の心臓はちゃんと動いてる、ママたちやお医者さんのおかげで」
「ええ。でもね――――」
母親が不安げな瞳で彩七を見る。無垢な娘の顔、その彼女を苦悶させる言葉を口にするのが怖くなるのだった。少し間を置いてから違う言葉に変えて話を続ける。
「そうね、昔みたいに過保護が過ぎるのはよくないわね」
「今は彩七を信じて、ママが心配するような事はしないから」




