Are you Buta?
私は見慣れない小川のほとりにやっとこさたどり着いていた。服は水に濡れて張りついている。
予想以上に大変な道のりだったので、ぶう太に会えないまま力尽きるかと思ったよ。
きしむ体をどうにか動かす。
その場に寝転んで空を見れば、なんだかパステルのような水色をしていて太陽らしきものの色はクレヨンのオレンジだった。
うまく異世界ってやつに辿りついたのか、はたまたあの世か。こんなファンシーなあの世はちょっとやだ。
風はそよそよと穏やかに吹いている、私の状況に反して。
日向はあたたかいのだが、濡れた体には少し厳しい。
早く移動しよう。
油断すれば眠ってしまいそうな頭を振って起こす。
体を反転させて、整えられたようなクレヨン黄緑な草の上を這いずっていると、ふいに影がさし、大きな手に腕を取られた。
「モミジ!」
こんな変な場所で私の名前を知ってるなんて一人しかいないよね、たぶん。
「ぶう太・・・?」
会えたのが嬉しくて、笑いながら顔を上げて、私はそのまま固まった。
視界に入ったのは、長いまっすぐな白髪をひとつに結んだ、ぶう太と同じ緑の眼をした、とんでもない美形の青年だった。
服装は昔学校で見た古い洋画で田舎の偉そうな人が着ていた者と似ている。
なんか花背負ってません?幻覚ですか、そうですか。
おいちょっと待て私の豚のぶう太君はどこいった。
「モミジ・・・!良かった、モミジ、無事で・・・!」
とんでもねえ美形は人の名前を連呼しながら私を抱きしめてきた。濡れるのにも構わず密着する。
ついで片手は私の腰を寄せ、もう片手で頭を固定して顔に鼻をすりつけてきた。
ほぼ初対面としか思えない顔の男から過剰なスキンシップを受けて私は恐慌状態になった。
ぶう太ー!助けてー!!
「ぶ、ぶう太ー!」
「ああ」
「あんたじゃない!豚のぶう太!!」
「私が豚のブウタだ。モミジのブウタ」
そんな訳あるか!ぶう太はちょい太っちょで小心者の泣き虫だぞ!例え間違えて人間になったとしてもこんな劇的な変化を遂げるものか!
なんてことを伝えてみると、美形は瞳をやわらかく細めて、私の目元にキスしてきた。なんでやねん!!!
低く優しげな声で囁かれる。
「デブで犬が苦手な小心者で君が欲しいと泣いた泣き虫、その通りだ。だが一つ訂正がある。私達は一緒に¨だいえっと¨とやらをしただろう?痩せたブウタは誇らしげだっただろう?君の為に頑張ったんだ」
「・・・・・・」
ぐうの音も出ない。
自称ぶう太は私の頬を両手で包んで額に額を合わせた。近い。近すぎる。ちょっとよろけたらキスしてしまう距離だ。
私は暴れようとしたけど、ぶう太にそっくりな緑の瞳が私の動きを止める。
「モミジ、会いたかった。ずっと君にこの手で触れたかった」
熱のこもった瞳と言葉に、私の容量は限界に達して、あっさり気を失った。