うぃーあーふぁっと
ぶう太を拾って一週間。
獣医さんにぶう太は太り過ぎかもしれないと言われてしまった。
確かにテレビで見る豚以上に頬の肉が垂れ下がっているとは思っていた。そこもかわいいんだけど。
しかし私自体、腹の肉がやばい気がする。
というわけで。
「一緒にダイエットしよう、ぶう太!」
「ヴィー!」
ご飯の量を減らすのは健康に良くないということで、早朝に散歩することにした。
クロの散歩は母と銀杏が交代でやってるので私はしたことなかったのだ。
購入した大きなハーネスをぶう太に取り付ける。
爽やかな空気の中、歩き出した。
同じく散歩してる人や新聞配達してる人など道行く人達に豚!?と驚かれながら進んで行く。
舗装されてない田舎道でも、ぶう太の固い蹄は軽々と砂利を踏んでいた。
坂を二、三通り過ぎ、最も長い坂を上がっていく。この坂を越えて下れば山のふもとに着く。そこで私は足を止めた。
ここには山からの湧き水がでている。
地元の人が常用していて、外から来た人が二リットルペットボトルに汲んでいくような天然水だ。
私は鞄から空のペットボトルとペット用の皿を取り出して、皿に水を注いでぶう太にあげた。
自分もペットボトルに水を入れて一気に飲み干す。
「生き返ったー!」
ついでにペットボトルに汲んだ水を顔にも浴びせた。
ぶう太が自分もお願いというように鼻をすりつけてきたので、ぶう太にもかけてやる。
ボロいベンチに座って休憩していると、ぶう太が一心にどこかを見ていることに気づいた。
視線を辿ると、小川がある。
今時では珍しい泳ぐことができるような、濁っていて生き物が住む川だ。
「ぶう太、川に入りたいの?」
ぶう太はばっと私を見て、また川に視線を戻し、しかし振り切るように川とは反対の方向の私達の家へ歩き出した。
「わわ、いいの?まだ時間あるから入っても大丈夫だよ?」
ぶう太は決して振り向かないまま私を引っ張るように進んだ。
一人じゃ続かないダイエットも一緒に頑張る相手がいるなら続くもので。
早朝の散歩は日課となり、特別な理由が無い限り毎日行われた。
私は腰回りが多少細くなった程度だったが、ぶう太は見事にスリムになった。
散歩で顔見知りになった人達が、ぶう太やせたねえと声をかけてくれる。
そのたび、ぶう太が誇らしげに顎を上げるので笑ってしまった。
小川をぶう太が一心に見つめるのもいつものことだった。
決して入ろうとしないのも。
そんなことしてる内にいつの間にか、ぶう太が来てからはじめての夏休みに突入していた。