まいふぁみりーいずすうぃーと
家族が帰ってきてバトルになった。
しかし意外にも父と妹はぶう太を飼うことに反対しなかった。ちゃんとしつけはしろと言われただけで終わる。
問題は母だった。潔癖症ってほどではないのだが汚い物は嫌いだ。
「なんで豚なんか引き取ってきたの!?豚にあげるご飯は無いからね!!さっさ返してきなさい!!」
心なしか体を縮めたように見えたぶう太の首に両手をまわして言う。
「いや。反対されても捨てない。ぶう太は保健所に返したら処分されちゃうんだよ。そんなの私は絶対やだ。ぶう太を飼うためのお金は全部バイト代から出すし、お母さんには迷惑かけないようにします。だからぶう太を家で飼うのを許してください」
できるだけ声を荒げないようにして頭を下げる。
熱くなりやすい母はこっちがおとなしくしていれば冷めるのも早い。
予想通りそこまで言うなら・・・とあっさりぶう太を飼うのを認めてくれた。
その後は三人揃ってぶう太を撫でたり触ったりしてきた。ぶう太はじっとしている。
私はクロが走っていかないように抱っこしていた。
「思ってたより臭くないのね」
「調べたけどちゃんと世話してあげれば、そんなに酷い臭いはしないんだって。ぶう太は元から石けんみたいな臭いしてたから大丈夫だよ」
「ぶう太っておとなしいねー」
「おとなしいどころか。さっきクロに舐められて気絶してたよ」
「何それ!」
家族みんなで笑った。
ぶう太はなんだかふてくされたような音を鼻から出していた。
「豚って何食べるんだ?」
「雑食だから基本的には何でも食べるみたい。だから野菜とか果物とか」
「ねえドッグフードは?」
「お母さん達が帰る前に出してみたけど、ものすごい時間かけて食べてた」
キャベツやバナナなら凄い勢いで食べるのにクロのドッグフードは目の前にして固まっていた。
食わないかと思って下げようとしたら、決意を込めたような瞳で見上げられ、様子見にしたらのろのろと食べ始めた。
途中からクロに奪われたがまったく未練がないようで皿の前からどいた。
きっと苦手なんだろう。
無理して食べさせることもないので、今度は出さないことにした。
「もう食べさせてみたの?」
「うん。豚ってたくさん食べるイメージだったんだけど、ぶう太は私と同じぐらいしか食べないみたい」
このことは本当に嬉しい誤算であった。
ぶう太の食費はあまりかからない。
後は予防接種とかブラッシング用の器具とかだが、まあバイト代で賄えるだろう。
ちなみに私のバイトはスーパーの精肉・惣菜売り場である。日々、豚肉その他をパックして売りさばいている。
食べるのと愛でるのは別物だということで、今日の晩ご飯は冷しゃぶである。
私が歩くとぶう太もどすどすと後をついて来るので家族は相当驚いたようだった。
「懐かれてるな、紅葉」
「クロにはよく咬まれてるのにね」
「うるさい!」
ちゃぶ台のまわりに四人並んで座ると銀杏と私の間にぶう太が座った。
なにこのかわいい生き物。
「ぶう太ー、あーん」
思わずタレを漬ける前の豚肉を手で口へ運んでやり食べさせると、銀杏が共食い・・・!と戦慄した。
でもぶう太おいしそうだよ。