ゆあねーむいずぶうた
次の日の土曜日、大学は休みバイトも休みということで畳でごろごろしてたら保健所から電話がかかってきた。
豚の引き取り手がなかったらしい。
思わずガッツポーズしてしまった。
保健所のお姉さんは昨日、私があまりに豚にご執心だったので連絡をくれたのだそうだ。なんていい人・・・!
そして念のために携帯の電話番号を渡しておいた自分グッジョブ!
このままだと処分することになると言われたので、急いで引き取りに行った。
家族に相談なしで決めたのでもちろん後に騒動となる。
車を三十分ほどとばして、私は遂に豚と感動の再会を果たした。
豚の方は檻の中で現状に気付いていないのか鼻ちょうちんを出してのんきに寝ていたけどね。
私は檻を掴んで心のたけを叫ぶ。
「ぶう太会いたかったー!!」
「あれ?お宅の豚だったんですか?」
「いえ、今名付けました!」
昔飼っていた兎を母がうー太と呼んでいたので合わせてみた。
「ぶう太、ほら起っき!」
檻の鍵を開けてもらい、軽く叩いて起こしてみるとぶう太は何度かまばたきした後、猪のような勢いで私に突進してきた。
ひでぶ!とボケる余裕もなく私は後ろへ倒れ込む。
ぶう太は冷たい床の上に横たわるはめになった私の頬に鼻をブヒブヒとこすりつけてきた。
何この懐きよう。天国?
保健所のお姉さんが慌ててぶう太を押しのけて私を立たせる。
ぶう太は私の足というか膝部分にも鼻をすりつけてきた。
ジーンズが鼻水ででろでろになっているがかわいいから許す。
「な、懐かれてますね・・・」
「やっぱりそう見えます?昨日が初対面なんですけど」
若干引いている彼女と二人で首を傾げた。
ぶう太は暴れることなく、車の後部座席にどっしりと横になった。
下には保健所の人からもらったブルーシートを敷いてある。
迂闊にもケージを用意してなかったのでどう連れ帰ろうかと思ってたのだが、無用の心配だったらしい。
伝染病の有無などの検査は保健所がしてくれたようで健康だ。
でも、念のため犬で世話になってる動物病院でも診察してもらう。
豚を診るのはじめてだわーと言われた。
ぶう太は車酔いすることもなく無事に我が家におりたった。
ずっと私について回っている。
出掛ける際にケージに入れといた犬のクロ(オス)が私が帰ってきたのに気づいて吠えていたが、とりあえず今は放って置く。
ぶう太を家に入れようと思ったが、後ろ足を地面につけたまま持ち上げて引きずるわけにはいかない。
なので段差はクッションを置いて登ってもらいフローリングの廊下は私のバスタオル数枚を駆使してその上を歩いてもらった。
そして辿り着いた私の部屋!畳!
引っ掛けるだけの古い鍵を外して窓を開ける。
この部屋は縁側、庭と繋がってるのでいつでもぶう太を外に出してあげられるのだ。
動物が口に入れそうな物を急いで机の上に置いたり捨てたり押し入れに詰め込んだりする。
その間ぶう太はいい子にバスタオルの上に横ばいになって私を見ていた。
未だ諦めず吠え続けているクロとは大違いである。
「はーい、ぶう太、この子はクロだよ。クロ、この子はぶう太。二人とも仲良くね」
掃除を終え、家族より先にクロとぶう太を対面させてみた。
クロは興奮気味に右へ左へ跳ねている。トイプードルならではの身軽さだ。
対してぶう太は体をまったく動かさず落ち着いてクロを見やっている。
王者の貫禄・・・!なんて思ってるとクロがぶう太に近づいていき臭いを嗅いで、なんと頬辺りを舐めた。
ブギッとぶう太はまさに豚が潰れたような音を出してバスタオルの上に頭を落とした。
「ぶう太ーーー!?ちょ、気絶・・・!そんなに怖かったの!?」
落ち着いていたわけではなく、びびって動けなくなっていたと判断するべきだろうか。
しかし自分の体の四分の一ほどの犬に舐められ気絶とはぶう太は相当な小心者のようだった。
動物にyouは使わなかった気がするけど言わずもがなってことで。