あいみーとぴっぐ
豚ってかわいいと思う。
スタンプみたいな鼻とか、でっぷりしたお尻とか、あたたかくてかさついたピンクの肌とか。
白豚も黒豚も斑のある豚もどれも素晴らしく愛らしい。
なにより小さいながらも懸命に動く尻尾が大好きである。
私は幼い頃からいつか豚を飼いたいと思って過ごしてきた。
しかし現実的に考えて無理があったので、家にいるのは妹が親におねだりして買ってもらった黒いトイプードルである。
私はいつもテレビの中で動きまわる豚達を見ながら恋わずらいのようなため息をついていた。
そんなある日、私は豚を拾いました。
ミニブタじゃなくて、食肉用みたいな大きさの白い毛のぶっとい豚ちゃん。
道の真ん中でどてどてと鈍く歩いていたので、後ろから抱きついて前足の付け根に腕をまわして持ち上げてみたら、なんと全長が私の鼻の辺りまであった。
「でっけー!!」
興奮しながら豚の顔を覗き込む。
丸く黒い瞳がきょとんとした様子で私を見ていた。
「かわいいいいい!!」
叫びながら(近所迷惑)たぶん首であろう贅肉部分に頭をぐりぐりすると、豚はフゴッフゴッと鳴きながら短い前足を必死に振ってきた。
ゆっくりと地面におろす。しかし羽交い締めするように私はしがみついたままだ。
拘束をちょっとだけ強めると豚はだんだんおとなしくなってきた。
「観念したかい豚ちゃん・・・?」
人生初の言葉責めを駆使しつつ薄っぺらい耳に口を当ててみたらまた暴れ出した。
ちょこざいな!と騒がしく攻防していたら、近所のお姉ちゃんに見つかった。
「ぎゃああーーー!何やってんの紅葉!!野生の動物は変な病気を持ってるかもしれないんだから触っちゃ駄目だって昔から言ってるでしょうが!しかもよりによって豚!汚い!臭い!絶対病気持ってる!早く離れなさーい!!!」
やだやだあたしのだい!とどこかで聞いたような感じに抵抗してたら保健所の人を呼ばれた。
正しい行為なのだがひどい。
この辺りに養豚場なんかあったっけ?と首を傾げる保健所の人に泣く泣く豚を明け渡した。
あの豚ちゃんは元の場所で立派な豚肉になってしまうのだろうな・・・。
うん、今日の夜ご飯は豚肉のしょうが焼きにしよう。
私は、飼い犬の太ももを触りながら鳥のササミみたいだ今日はササミを茹でようと考える人間である。
とぼとぼと家に帰り姉ちゃんや保健所の人から念押しされたシャワーを浴びた。
そういやあの豚、なぜか石けんみたいな匂いがしてたなあ。
食事中に家族にこの話をすると二十にもなって何をやってるのかと母から怒鳴られた。
父は私が豚と出会ったことに吹き出し、妹は紅葉有り得ないとどん引きした。
姉を呼び捨てか銀杏よ。
「でもさ、食肉用の豚の耳に付いてるようなタグとか無かったんだよ。マジックで番号やアルファベットとかも書いてなかった。昔行った牧場のまさに家畜な臭いもなくて、綺麗だったよ」
「それなら誰かが飼ってる豚だったのかもしれないな」
「関係ないわよ豚は汚いものなの。まったく田中さんとこの菜々子ちゃんが通りがかってくれて本当良かった。迷惑かけたお詫びしないと」
「紅葉、ちゃんと病院で検査した方がいいんじゃない?」
「失礼な、私は健康体です」
ご飯の後で、皿洗いをしながら父の言うようにペットとして飼われている豚の可能性もあったんだなと考えた。
ここは近所の老人の家の鶏が朝日と共に鳴く田舎である。
近くにいるのだったら勇気を出して触らせてもらいに行きたいと思った。
私はあの豚に一目惚れしたようである。
夜、銀杏の抱き枕の大きさがあの豚と同じであることに気づいて、銀杏が寝てる間に奪い取って抱きしめながら眠りについた。
豚好き!をどうにか文字にしてみました。