第一章 「学位取引」
X年11月9日、A国のアラマンタ州にある証券取引所に、学位取引所「ガクイ・エクスチェンジ」を運営する企業「ガクイード」が上場した。市場の期待は大きく、公開価格を大きく超えて初日の取引を終えた。
「ガクイード」は1人の青年によって設立された、革新的な企業だ。
幼い頃から成績優秀でA国トップクラスの名門私立アルホンダラ大学に入学するも、高過ぎる学費の支払いに苦慮、「学位なんて、どうせカネで買わされてるようなもんだ。それも法外な高値でね。賢かった友人は皆揃って起業、ドロップアウトして行ったよ。これじゃ大学がやってるのは”ぼったくり紛い”の学位販売ビジネスじゃないか。ならボクが真の学位ビジネスを展開する。クソみたいな学閥も、根幹から壊してやる。常にチャンスに溢れた、真の実力主義社会を構築する。学位にだって流動性を付与してやる。これが創造的破壊、イノベーションなんだ。」と考えたA国の元苦学生ドロップアウト、マーク・ショウケンマンフリード氏が、華やかなセレブ学生たちを小馬鹿にしながら、そして実質学費無償化された超優秀奨学生達のことは僻みながら(彼はアルホンダラ大学の完全給付型奨学生枠をminus-sumと批判していた)思いついた、学位を暗号資産化して売買する取引所ビジネス。ー 真面目に大学/大学院で学び、学位を手にしたものの、碌な仕事がなく*、思ったように稼げないー。*(あくまで彼らの主観であることに注意)
そんな不満を溜め込んだ”エリート”の若者たちが、都市部には溢れていた。卒業後も重くのしかかる学生債務、住み良さゼロながら高い賃料、そして慢性的に欠乏する”碌な仕事”ー。彼らの需要に応える形で急速に成長を遂げ、いまや上場するにまで至ったこの取引所ビジネスは、まず地方の経営破綻間際の私立大学、サザン・ガクイン大学が初めて学位売買を承認、ガクイードとタッグを組み、事業投資として「ガクイ・エクスチェンジ」という会社を共同設立したところから始まった。そのため、この取引所は当初、A国の無名な地方大学の学位売買しかできなかったわけだが、とりあえず英語圏への留学経験プロファイルが欲しい東E地域諸国の学生からの需要が高く、売買は活況を呈した。A国では地方の微妙な(聞いたこともない)私立大学という印象であったこのサザン・ガクイン大学の卒業生達が、自ら払った学費に学位取得労務分のプレミアム(勿論、楽しかった遊興費も経費として算入した)、そして些かのブランド代(東E地域諸国の人々は”A国の大学”というだけで過大評価する傾向があった)を自らの好きなように上乗せし販売、大金を手にする姿をみて、都市部の学生たちはこの学位取引所に注目するようになった。そして他大学も、このサザン・ガクイン大学が受け取る分配金やライセンス料の多さに強く興味を持ち、卒業生に加えて在学生(こっちはいけない!)からの後押しもあり、参画を決める大学が相次いだ。
そして最近、ガクイードのブランド力を一気に高めたのが、名門ガクインダード大学の参画だ。A国新政権からの思想統制要請に反対して資金供与が打ち切られ、おまけに学長のスキャンダルによって”スマート”だったブランドイメージが毀損、経営破綻しかけていた都市部のいわゆる「ガクイー・リーグ」の名門。この大型学位が取引されるようになってから、取引所内の流通金額は一気に跳ね上がった。さらには東E地域の経済大国B国の”いわゆるアルファベットとかを用いた通称”で総称される大学群からも各層から有名無名の大学が参入し、こちらはA国や西E地域諸国のB国文化好きセレブが趣味的な範囲で集め、SNSのプロファイルに暗号資産学位を組み込む(載せる)ファッションとしても流行し、売買は活況を呈した。そもそも、B国では対総人口比で学位を持っている人数が異常に多かった。まるで義務教育かというレベルだった。そのため、国内市場における学位需要は既に飽和していたのだが、国際的にコンテンツ産業がめっぽう強いB国の”愛され国家”としてのメリットがここにあったわけだ。B国の学位は高くついた。とにかくこの国は売り手だった(少々、身を切って売ってる節も否めなかったが)。「もう転職する予定もないから、学位を売って子育て資金にしよう」と考える人たちも増え始め、この学位取引所はさらに儲かり始めた。実際に、夫婦揃って学位を売ると、かなりのキャッシュが入ってきたのである。それは余裕(やはり一括)で立派なマイホームが買える(場所にもよるが)ほどの額だった。SNSには「最注目の暗号資産〜学位がアツい〜」、「ハッキリ言います、今売るなら学位です」「億り人になる方法→まず、学位を売ります」等の胡散臭いメディアや広告媒体の謳い文句が踊り、ガクイードの出資者や売り手は非常によく儲かったことなどが紹介された。
→第一章はここまで。第二章に続く予定です。
とりあえず今回は読んでくださり、ありがとうございました☺️




