④ これより神族会議を開催する!
【前回のオレオー】
冥界の支配者ヘルからも言質は取った。だが肝心のヤツと話をせねば。だから開くのだ。神族会議を――――
戻ったオレは神族会議を開くメンツを集めるためフリッグに頼んで神々に声を掛けてもらった。誰を呼べば良いんだか分からんし。
「あなた。全員揃いましたわ」
「ああ、分かった。今行く」
さてダイニングに行ってみれば、長机のようなテーブルが部屋の真ん中にドン。それを囲って「北欧神話の神々」ってのが集合している。この景色…まるで重要案件の編集会議だな。妙瑛文庫から初のアニメ化作品が出たときを思い出す。こちらへと案内された席は上座。すなわち編集長席。 …こんな形で昇格しても嬉しくねぇなぁ、おい。メンツはオレの右手から順に、フレイ、トール、ヘイムダル、ブラギ、一つ空いてフレイヤ、フリッグ、そしてオレの左にニョルズと計7人。7神? あ、7柱って言えばいいのか。で…ニョルズ、そしてフレイ、フレイヤがヴァン神族からのトレード組。フレイとフレイヤって兄妹なんだそうだが…なんかここへ来るとき手を繋いでチュッチュしながら歩いてたんだけど…そういう関係…なのか? これって追求すると『レーベル違い』になる案件? で、あのおっさんがヘイムダルか。ラグナロクのクライマックスを彩るおっさんがコイツなのか。ふつーにおっさんだ。競輪場でモツ煮を買う行列に並んでても違和感ない。やっぱり北欧神話の配役、おかしくね?
ところでアース神族ってこんだけしかいないの? やけに少なくね?
「なぁフリッグ。これで全部なの?」
「全員に呼びかけはしたのですが…お留守だったり体の調子が悪いとのことだったり…皆様お年なので無理もないかと…」
これ、絶対居留守と仮病だな。最高神の呼びかけに応えるのがこんだけとは…最高神の権威が落ちたか、そもそもアース神族がフリーダム過ぎるのか…
それで…対面のアレ…ブラギ、って何者?
「お父様! 緊急の会議、とは何事ですか⁉︎」
そのブラギが真っ先に発声した…エェェェェェェェェ? ブラギってオレの子? こないだ死んだバルドルと、殺っちまったヘズってオレの子なんだろ? え、まだ子供がいたのかよ。
「ブラギ控えろ。父上の御前であるぞ」
ブラギを制したのが脳筋トール…エェェェェェェェェ? 今コイツ「父上」って言ったぞ? え? コイツも、トールもオレの子なの? こないだオレを「オーディン様」とか呼んでたよ? マジか…こんなごっつい髭面のおっさんが、ションベン横丁辺りでやけにデカい笑い声を上げてる客みたいなおっさんが、オレの子? え、トールって同期かと思ってたよ。 …いや、よく考えたらオレ、見た目はジジィだったんだな。中の人的には同期くらいの感じなんだけど…あー、ダメだ混乱するな。見た目はジジィ、中身はおっさん。それが今のオレだ。どうせなら見た目は美少女が良かった…
…よく考えるとさ、ニョルズ、フレイ、フレイヤは元ヴァン神族。この3人とヘイムダル以外身内じゃねぇか? 神族会議だってのに親族会議になってる気がする…
で、気になるのは空席だ。そもそも肝心なヤツがいない。
「ロキ呼んでないの?」
「ロキ様はお留守で…」
フリッグが困り顔で応える。
「誰かロキがどこに行ったか知らね? 呼んできてよ」
「ロキならワシが捕えて閉じ込めましたぞ」
あちゃー…
自信満々で応えたのはトール。さすがオレの子、脳筋ヤロウだぜ…
って…バカヤローッ! ロキに話があったから会議開いたんだぞ⁈ ラグナロクってどうにもこうにも首謀者はロキ。だったらロキに言いたいこと言わせてやって、他のヤツらにも思うところを言わせて、腹割って話そうと思ってたのに! 台無しだよもぅ…
…だが自信満々、「ほめて!」と言わんばかりの我が息子を見ると…余計なこと言ってコイツまでヘソ曲げて要らんことになるのは困る。トラブルは少ない方が良い。なんたってこっちは間もなくオオカミに食われる予定の身。自分の命が掛かってんだ!
「オレ、ミーミルんとこ行ってきたんだわ」
気を取り直して、オレはミーミルから聞いた世界の終焉について掻い摘んで話した。するとな…
「そうか…」
「やはり避けられぬか…」
全員に落胆の表情が浮かぶ。脳筋トールですら真顔だぞ。
「あれ? みんなラグナロクのこと、知ってんの?」
驚いたような視線がオレに集まる。あれれ? なんでそんな不思議そうな顔すんの?
「…いや、オーディン様が以前お話していますし…」
「ヴォルヴァから語られたという予言も我ら全員オーディン様から伺いましたし…」
うっそーん? ラグナロクのこと知っちゃって、オレずいぶんテンション上がってんだけど? こりゃみんなに知らせなくちゃ!って。 なんだよ、知ってんなら先言えよなぁ。特にオーディン! そういう大事なことはオレにも先に言っておけ! だから報告連絡相談は大事だとあれほど…
「あー…オホンっ。みんな記憶力いいな。素晴らしいことだ。オレはすっかり年食っちゃって、誰に何話したかよく憶えてねぇんだよ。まぁ知ってるってなら話が早い。今言った通り、ミーミルは間違いなく来ると言っていた。あれだ、確定演出でグルグルピカピカ状態だ」
「…カクテイエンシュツ、とは?」
「グルグルピカピカとは?」
いけね、神話の世界にゃパチスロないか。
「あ、すまん、こっちの話。それでどうするかなんだが」
「父上! なれば戦の準備ですな! ヴァルキュリアに命じてエインヘリャルの支度を急がねばなりますまい!」
トールが目をキラッキラ輝かせている。あー、コイツってば戦争したくてしかたねぇんだな。ケンカ覚えたての中学生かよ⁈ そうやってすぐ力で解決しようとすっから世の中戦争ってのがなくならねぇんだ。オーディンは平和主義者なんだぞ?
「いや、その前にやることあんだろ。大体戦の準備ったって…フレイ、鹿の角は用意したのか?」
「ななななななななぜそれを⁈」
…あれ? なんだこの反応…まさか…
「なぁ、フレイ。お前、剣はどうした?」
「ギクゥゥゥゥゥゥゥッ⁉︎」
オレと同じ反応してんじゃねぇっ! ってことは…
「ヘイムダル。お前はロキと相打ちで死ぬ。って、ミーミルが言ってた」
「某がロキ殿と…」
ヘイムダルもこの反応…のようで、いやいや、オマエ口元が弛んでんぞ。トリを飾れるって内心小躍りしてんだろ!
これ、どうやら「ラグナロクが来るぞ!」と聞いてはいても、個々に誰が誰と当たってどうなるってとこまでは聞いてないっぽいな。ついでに言えば、最後は焼かれて全滅エンドってのも。オーディンよぉ、何度も未来の話聞いてんなら話通しとけやぁっ! だから報連相は(略) いや、オーディンがみんなに気を遣って言わなかったのか? 確かに「全滅です! この世界のみんな、焼かれて全員全滅です!」って言われりゃ戦う気にもならんもんな…こりゃほっときゃエライ目に遭いそうだ。しかたねぇ、語ってやるさ! 知ってること全部な!
◆
「…というわけだ」
語ったよ、スルトが剣ぶん回して世界中を炎の海に沈めて世界が終わるとこまで全部。
「そ…そんなことになってしまうのか…」
ニョルズが一番ショック受けてるっぽい。顔が真っ青。何か言いたそうにこっち見て、口を開きかけて止まった。が、俯いて手を握りしめてる。なんか真面目そうだな、コイツは。
「そんなことになるなら…剣を手放さなかったものを…」
フレイも下向いてプルプル震えてる。でもそれはどうかなぁ? 女がらみじゃ無理じゃねぇかなぁ…Vライバーに入れ込んで全財産を投げ銭したようなもんだし。
「だいじょーぶだいじょーぶ。だってお兄ちゃん、『立派な槍』を持ってるもん。ねー?」
フレイヤ! こんな場面で下ネタぶっ込んでくんじゃねェっ! ってかやっぱお前らそういう関係かよ⁉︎ 神々がこんなじゃそりゃ人心も乱れるって。
「しょーがねーなぁ、これでも使っとけ」
と、オレは傍にあった棒っきれをフレイに投げ渡す。
「これは…そんな⁉︎ 私にグングニルを使えと⁈ それではオーディン様が使う武器が無いことに!」
「要らねぇんだよ、そんなもん」
ヤリを投げて投げヤリになった、とかそういうダジャレじゃねぇぞ?
「そんなもんって…それではオーディン様は」
「そもそも戦わなきゃいいんだ」
「戦わずして負ける気ですかっ、父上!」
もー、トールはやる気満々の元気っ子だなぁ。
「そうじゃねぇ。そもそも戦争が起きなきゃいいんだ」
「オーディン様、それはどうやって…」
ヘイムダルの一言で全員がオレを注視する。オレは静かに一息つき、ハッキリ明瞭に、絶対噛まないようにこう言った。
「ロキを解放する!」
「「「「「「「エエエエエエエエエエエエエエッ⁈」」」」」」」」
すげーな、驚嘆のユニゾン大合唱。
「そんな⁉ やっとのことで捕らたのですぞ!」
トールが髭に埋まった目ん玉をひん剥く。そりゃ相手は巨人だもん。手こずるわなぁ。だがそんな手荒い方法ばっかやってっからロキがへそ曲げんだ!
「まずな、オレはフェンリル、ヨルムンガンド、ヘルと会って来た。ついでにフェンリルはすでに解放済みだ」
「なんてことを⁉ フェンリルは危険ですぞ!」
「だからこそ父上が先頭立って封じたのではありませんか!」
おおお。凄いぞ批判の声が次々と。ところがどっこい、こちとらこないだまで社畜やったんだぞ? 集中砲火には慣れてんだ。
「♩お父様の言葉は天の言葉 猛き獣もその理に平伏す♩」
なんでブラギは急にポエム歌い出した?
「そうらしいけどよぉ、フェンリルはじめみんないい子たちばっかだったぜ? ラグナロクには参加しないって言質も取った。ただし条件がある」
「条件?」
「ロキが何も言わなければ、だ。ロキがやれと言えば全員やる。ラグナロクに参加する。フェンリルも、いい子なんだがロキが食えと言えばオレを食うぞ。そう言ってたからな」
「なんということだ…」
「分かったろ? ロキが危険なのは分かるが、ロキ自身じゃなく、ロキの言葉が危険なんだ。拘束ったって、いつまで拘束し続けるつもりだ? もしその拘束が解けたら、アイツは腹に憎悪を抱えたままになるんだぞ? ラグナロクを回避なんて不可能になる」
「なぁに、エインヘリャルがいればわが軍は無敵。ロキの軍勢など赤子の手をひねるようなもんですぞ。ウワハハハハハ」
何言ってんだ脳筋…それが負けるって結果になると言ってんだよ…そもそも赤子の手をひねるとか、全滅させられる悪の組織の常套句だぞ…古い特撮じゃな。
高笑いのトールは置いといて、参加者みな顔を見合わせる。ヴァン神族は…ニョルズとフレイが俯いたまま動かない。しかしその横でフレイヤは楽しそうにフレイにベタベタしとる。何なんだろうな、コイツらは。
「ともかく。ロキは解放する。これは最高神たるオーディンの意思だ。そんでオレはこれからロキんとこ行って話をつけてくる」
「父上がおひとりで行かれるのですか⁈」
「当たり前だ」
「誰かお伴を」
「要らん。オレ一人で行く。とにかく。オレが戻ってくるまでは動くなよ。絶対余計なことすんなよ」
…まさか「押すなよ。絶対押すなよ」のギャグがまかり通る世界観じゃあるまい…と思いたいが。まずはオレが食われる危機を回避したい。そんなわけでギャーすかうるさい連中を置いて、オレはロキが捉えられているという洞穴を目指すことにした。
◆
あとがきはこちらにまとめました。
→「なぜ?なに?オレオー!」(N7423LN)
各エピソードで使用したネタとその解釈なんかを書いています。
本編と併せて読むとより面白く!




