③ ヘル地獄⁈
【前回のオレオー】
海中引きこもり蛇ヨルムンガンドからも言質は取れた。だがラグナロク関係者はまだいる――――
「次はどこへ行かれるのですか? 主」
「ここでいい。ヒュミル。ちと一部屋借りるぞ」
「ええ、ええ、お好きにお使いください」
次は災厄三兄妹の末娘、ヘルに会いに行く…のだが。コイツがヘルヘイムってところにいる。そもそもはニヴルヘイムって場所なんだがヘルがいるからヘルヘイム、と呼ばれてる。案外有名人なんだな。で、なんでそんなとこへ行くって、そりゃオーディンがそこへ追いやったから。オーディンに追いやられたが、今ではそこの女王様だと。追放者がエラい出世だな。
ヘルヘイムってのは、簡単に言えば「黄泉の国」あるいは「冥界」。死んだら行くところだ。普通に簡単に行ける所じゃない。死ねばいいって? そいつはフェンリルに食われでもしたら考えよう。普通には行けない。なら普通じゃなきゃいいのよ。死者になれば霊魂的存在になる。オレがトラックに轢かれたときのようにな。だったら、生きたまま霊体に、すなわち幽体離脱ってのをすりゃいいってことよ。そしてオーディンってヤツはセイズって魔術を会得している。これを使えば霊体になって移動が可能、ヘルヘイムにも行けるそうだ。オーディンは女装してまでセイズを極めたが、オレは女装はせんぞ。見たいか? じじぃボディのブライチパンイチ姿を。そんなわけでヒュミルに空き部屋を案内してもらい、ここで肉体と別れてヘルヘイムとやらに行ってくる――――
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暗っ! 寒っ! ミーミルから聞いていたヘルヘイムの印象そのままではあるが…
ああ、オレさっきまでヒュミル宅の部屋にいたんだけど、瞑想して「ヘルヘイム行きてぇなぁ」って念じたらここへ来ていた、って話よ。花塩作品以上に雑な展開だが、どうやらオーディンにはすでにセイズがプリインストールされてたみたいで、そんな雑な方法でここまで来れちった。ここまでセイズを使いこなせているとは、女装した甲斐があったな、オーディン!
まぁ暗いことは暗いんだが、何も見えない真っ暗闇ってわけでもない。薄らぼんやりとなんか見えるなくらいの明るさはある。そんな薄暗がりを何かがもそもそ蠢いてたりするんだが、「死体」ってわけじゃないらしい。動くし。そもそも肉体は置いてきてここに来るんだからな。だからといってキョンシーみたく元気にピョンピョン跳ねてるわけでもない。まぁ元気な死者だったらそのまま生きてろ!って話なワケで…で、ヘルお嬢ちゃんはどこにいますかね…
「誰?」
後ろから女の子の声。もちろんびっくりしたよ? だって暗いところで後ろから声かけられたら驚くに決まってんじゃん。で、振り返ると…
「ここはヘルヘイム。死者の魂が集まるところ。あなたのような魂が来るところじゃない」
暗くて見えないのか、オレがオーディンとは分からんようだ。ならば名乗って
「オーディン、様? お久しぶりでございます」
と、深々と頭を下げ…ているかどうか分からん。なにせ見えないからな。
「それは失礼いたしました。では感度設定を調整いたします… …これでいかがでしょう?」
あ、見えるようになった。まだ多少暗いけど。それはさておき、目の前には… …ゴスロリだ。ゴシックロリータな少女が立ってる。
「ゴスロリ、とはなんでございましょう? それでオーディン様、このヘルヘイムへはどのようなご用向きで?」
えっと、ヘルを探してるんだけど、ヘルヘイムでヘルを探すってややこしいな。
「ややこしくはございませんよ。私がヘル、ロキの娘でございます」
と、ゴスロリ少女はお辞儀をする。
…で、気が付いたか? オレはまだ何も言葉を発していない。なのに…会話が成立している?
「もちろんですわ。ここはヘルヘイム、死者の霊が集まる場所。霊体でおられるオーディン様なら意識で会話が可能でございます」
そうなんだ! …っていうか、しゃべるための口をもった肉体が無ければ話すことができないからそういうシステムになってるのか。
「そういうことでございます」
…ってことは下手なことは考えられないってことだ。ヘルはなかなかの美少女だ、とか。
「あらイヤですわ、オーディン様ったらお上手ですこと。うぇひひひ」
…でも体が半分、腐っているように見えるのはいったい…
「これは今年のヘルヘイムコレクション、最新モードですわ」
…うん…そっか。まぁその、人それぞれだからな。
「それで、オーディン様は私への賛辞の言葉を賜りにわざわざここまでいらしたのですか?」
あ、いや、そうじゃない。まぁ、その、まずはあれだ、すまんかった。
「何が、でらっしゃいますか?」
いや、こんな暗いところに送り込んじまってな。
「ああ、そのことで。いえ、私もはじめは暗くて怖いなとは思いましたが、日の当たらぬ場所というのはお肌にはよろしくて、今でもほら、この通り。美白を維持できていますの」
そう、なんだ。あの、恨んだりしてない?
「どこであっても住めば都、幸せはどこにでもございますわ。うぇひひひ」
ポジティブだなぁ。あと、それからな、これから先、世界の終わりってのがやってくる。それはロキが首謀者ということなんだが
「お父様! そうでございますか! お父様が一旗揚げるというのであれば、私ヘルも粉骨砕身の思いでお供させていただきますわ! うぇひひひ」
あー…ヘル、お前もかぁ…
「お前も、とおっしゃいますと?」
あ、いや、お父さん好き過ぎだろって。フェンリルもヨルムンガンドも、そしてお前もな。
「もちろんですとも! お父様は料理が得意で、お母様が大変にならぬようにとよくキッチンに立たれていました。私、お父様の料理が大好きでございまして、特に牛のテールと
――――2時間経過――――
でしたのよ? そのときのお母様ったら…あら、オーディン様、如何なされました?」
ああ、ヘルってよくしゃべるなぁ、と。
「あらあら。これは失礼いたしましたわ。なにぶん『生きた人』相手にお話しするのはずいぶんと久しいので、あまりに嬉しくなってついつい思い出話を
――――さらに1時間経過――――
なので私言ってやりましたのよ! ってあらやだ、また私ったら、一人でしゃべってましたわ!」
ああ、うん。いいよ、好きなだけ話すといい。オレ、ずっと聞いてるから。
「そうはいきませんわ。まだオーディン様の御用を伺ってませんから」
そこは憶えてたんだ。で、ヘルはロキがやるなっていえばやらないのか?
「もちろんですわ。お父様の言葉は絶対ですもの」
そっか。分かった。済まない、邪魔したな。
「いえいえお邪魔などそんなことは。それで、オーディン様、よろしければまたいらしてくださいまし。なかなか『生きた人』とお話しできる機会ってありませんもので。うぇひひひ」
おう、いいぞ。ただ…忘れてるかもしれないけど、オレって神なんだ。
「そういえばそうでしたわっ⁉」
◆
――――ふぅ…やれやれ。無事見覚えのある部屋に戻ってこれたぜ。そして目の前には真っ青になったヒュミルがいた。
「オーディン様! ずいぶんと長かったですな。あちらで何かあったのですか? 私めはてっきり死んでしまったかと」
「そう簡単に殺すなよ⁉」
というわけで、ヘルの言質も取った。ヘル、なかなかいい子じゃないか。言葉遣い丁寧だし。妙な笑い声は気になるが。なんかこう…躾ができたトー横キッズ的な? それと…うん…話、長かったね。楽しそうにイキイキとしゃべるもんだからついつい話に付き合っちまったよ。小学生の時、登校だってのに近所のおばちゃんに捕まって遅刻したのを思い出した…
ともあれよく分かったのは、ロキってば子供たちにそうとう慕われているってこと。それに根はいいヤツっぽい。それがなんであんな…バルドルを殺してみたり、暴言吐いたりしたんだろな。そこは疑問だが、とにかくロキを抑えればラグナロクは回避できるという筋は見えた。あとはこのプロットに沿って話を運べばいい。ならまずは…神族会議だ。全員集合だな。
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あとがきはこちらにまとめました。
→「なぜ?なに?オレオー!」(N7423LN)
各エピソードで使用したネタとその解釈なんかを書いています。
本編と併せて読むとより面白く!




