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④ ニョルズの告白

【前回のオレオー】

ロキが来た。フェンリルもヨルムンガンドもヘルも来た。ラグナロクがやってきた。だが戦わずして無事解決。微かな謎を残して――――

「ロキなんぞワシが一捻りにしてやったのにのう。ガハハハハハ」

「なんのなんの。私だってオーディン様からお借りしたグングニルがあれば」

「ロキ殿と当たるのは私の役なのですが」

 皆一気に緊張から解かれて意気揚々と引き上げてくる。祝ラグナロク回避!ということで祝杯でも上げようかと全員「オレんち」集合!とした。 …そもそもオレの家なのか微妙、なおかつさすが最高神サマのお宅だぜ、広いわ部屋はたくさんあるわで、オレ自身迷子にならんよう普段からあまり家の中を歩き回ってない。なのでフリッグに頼んでセッティングをしてもらった。なんかいつも悪いな、と思ったりもする。

 トールのバカでっけぇ声が相変わらずうるせぇな、と思っているところへ

「オーディン。話がある」

 と、ニョルズが何やら難しい顔をして待っていた。

 話って…さっきの件の続きか?



 祝杯の方は各自勝手にやっててくれってことでオレは一人抜け出し、さっきの「取調室」でニョルズとサシで話すことに。ニョルズが何言い出すのか分からんし、ロキの件もある、トールがまた荒ぶらないよう、みんなの前でというワケにはいかんだろう。

「で、話ってなんだ?」

「先ほどの、オーディンが尋ねたラグナロクの件だ」

「ん? 話せるの?」

「どうやらラグナロクが回避されたおかげで口止めが無効になったらしい。今なら話せるし、すべて話してしまいたい」

 「~しまいたい」あたりに「言いたいことはあったが言えなかった」感が現れてる。そういうのを聞くのも上司の仕事だ、伊達に社畜やってねぇからな。

 薄暗い魚油ランプを挟んでオレとニョルズ。見た目はさっきと同じ構図なんだが、違うといえばニョルズから切り出したことだ。

「オーディン。語るべきか、迷っておったのだが… …実は我は、ヴァンからの工作員だったのだ」

「…マジか」

 苦悩に満ちたニョルズの顔。初手から強烈なヤツが飛び出したのだが、終わってみればそれすらカワイイもんだった。

 そもそもアース=ヴァン戦争の講和のための人質というのが名ばかりで、3人とも工作員としてアースガルズに送り込まれた。グルヴェイグをアースガルズへ偵察として送り込み、その反応からアース神族をセイズに溺れさせれば内部からの崩壊が望める。そこで親であるニョルズとともにセイズの天才でもあったフレイヤを送り込むことになり、フレイはその護衛の役を担った。フレイとフレイヤは双子の兄弟ではあるが互いに愛し合っているので常に一緒にいるのは自然なこととヴァン神族は判断した。しかしアースの秩序に則ると近親のそうした関係はご法度だから、ニョルズは少々厄介なことになった、と思ったそうだ。ちなみに二人の母、すなわちニョルズの嫁は妹なんだと。これもまた公には口にできず、心苦しかったそうだ。 …「妹モノ」はラノベのジャンルの一つだとしてもココまでいくとウチのレーベルじゃ扱えねぇな…その妹の扱いはオレの察し通りで、ニョルズが裏切らないよう向こうで人質になっている。

 ところでフレイはフレイヤの護衛、というのはこれまた名ばかりで、ヤツは戦争で数多のアース神族を討った。だからアース神族へ引き渡せば処刑されるものとヴァンの連中は考えていた。だがこっちへ来て、フレイは被害者は出したもののその強さ・勇敢さを称えられ、ニョルズ同様の厚遇を受けることに。トールなんか好きそうだもんな、そういうの。ただ、親としては息子を殺されずに済んだんだ、ありがたいと思いつつも自分の立場を思うと複雑だったそうだ。

「母を置いてこちらへ参り、あれらもさぞや苦しかったであろう。その上でフレイの扱い、其方にはまこと感謝しておる」

 と頭を下げた。オレは…何もしてないからな…「それはなにより」と曖昧に返すしかないのだが。

 ニョルズの役割はアース神族、特にオーディン(じじぃ)がラグナログを回避するような行動を取った場合、その妨害に当たること。フェンリル、ヨルムンガンド、ヘルの3人の処分でオーディン(じじぃ)は彼らを殺すつもりだったが、ニョルズはそれを引き留めた…んだそうだ。オレは知らん話なんだが。ただそれは任務以前にニョルズの本心でもあって

「生きとし生ける者、容易く命を奪うことは、我は許されないことと考えておる。オーディンはどうなのだ? 今でも殺しておけば、と思っているか?」

 …それを聞いて、フェンリルのことを思い出した。アイツだけでなく3兄妹とも、生きていたから「ママ」に再会できたわけだ。さっきのフェンリル、とても嬉しそうで楽しそうで…それを思うとな。

「いいんじゃねぇか? 生きてりゃそのうちいいこともあるってもんさ。むやみに殺す必要はないって、お前の考えは間違っちゃいねぇ。そこはむしろオレも賛成だな」

 それを聞いて安心したか、ニョルズは文字通り胸を撫で下ろした。

「そもそもよ、なんでアース神族とヴァン神族は戦争なんかすることになったんだ?」

「元々このあたりの土地はヴァン神族のものであったのだ」

 その土地へオレたちアース神族が入植し、囲いを作って「アースガルズ」を名乗り、ヴァン神族の土地を「ヴァナヘイム」と区別して呼び始めたんだそうだ。新入りに土地を分けてやるくらい何ともない、と当初はヴァンの誰もが思っていた。だが、秩序を重んじるアース神族はアースガルズ内で秩序を強要し、それをヴァン神族にも強要、しばしばそれはアースガルズの外でも見られた。これをヴァン神族固有の文化への侮辱だと感じるヴァン神族もいて、彼らは徒党を組み密かに先鋭化していった。この勢力を「戦定派」といい、アース神族の滅亡を目論んだ。ヴァン神族の大部分はニョルズたちと同じ「和定派」で、こっちはアース神族が出ていってくれればいい、くらいに思っていたそうだ。

 戦争の少し前、戦定派はアースガルズへ偵察を送ることにした。それがグルヴェイグ。コイツはオレが睨んだ通りゴーレム、こっちじゃ「モックルカールヴィ」と呼ばれる。オレは知らんのだが、ヨトゥンもモックルカールヴィを作れるんだそうだ。しかし大違いなのは、ヨトゥンのヤツはただのバカでっかい土人形だったが、ヴァン神族のヤツは生きたヤギを潰してヒトのカタチに再構成したものだってことだ。さらに、コイツを動かすのに「魂」と呼べるものが必要なんだが、それはフレイヤから複製したらしい。やったのはフレイヤのセイズのコーチが怪しいとニョルズは言う。なんでもヴァン神族内では女子は皆小さい頃からセイズを嗜むのだそうで、その技術はヴォルヴァから教わる。戦車道みたいなもんか? ヴォルヴァにも階級と言うかグレードがあって、フレイヤはその素養の高さから最上級のヴォルヴァがコーチに就いたんだそうだ。とにかくそんなセイズの天才の魂を受け継いじまったから、グルヴェイグもセイズを使いこなせてしまうってことに。これがどういう技術なのか、どこからこの技術がもたらされたのか…ニョルズ曰く「戦定派は『外部の知』に触れたのでは」と。「外部の知」ってのは引っ掛かるからツッコんでみたが、ニョルズも知らんとしか。埒が明かんな。だが偵察目的ということで和定派の一部もこの計画に乗ったせいで、グルヴェイグが「壊される」まで、裏でそんなことがおこなわれているなんて誰も気が付かなかった。グルヴェイグの報を受け、ニョルズたち和定派の代表は戦定派へ抗議したんだが、和定派の一部が乗っかっちまってるからな、それは叶わずグルヴェイグは何度もアースガルズへ送られることになった。まぁヤギ1匹潰せばできちまうからな。

 しかし3度目の正直というか、3回目にグルヴェイグが「壊された」ことをきっかけに、戦定派と和定派の一部はアースガルズへ攻撃を仕掛けちまった。むろんアース神族もそれに反撃するわけで、そうなると和定派全体も黙っているわけにはいかない。ニョルズたち和定派主流に迫り、全員が武器を取ることになった。それがアース=ヴァン戦争開戦の経緯だそうだ。戦定派には「もしかするとこの戦争がラグナロクになるのでは?」と思った連中もいたらしい。そもそもアース神族を滅ぼしたい連中だろ? だから余計に開戦への流れは強く、止められなかった。

 結局戦争は一進一退の膠着状態になり、疲弊の一方。そこで講和が結ばれることになる。ただ、どちらかが勝ったってわけじゃないから中身は灰色決着。あれだ、ポーツマス条約みたいなもんだ。だからアースでもヴァンでも不満は燻ったまま。だからヴァン神族、というより戦定派は、開戦を抑えられなかった責任をニョルズたちに押し付け、人質としてアースガルズへ送ることにした。戦定派が責任を取るべきだと思うだろ? しかし和定派内に戦定派を支持する連中がいるおかげで世論はニョルズたちを罰する方向で動き、ただでさえ権力闘争で負けたってのに、工作員としての任務まで押し付けられたんだと。ただし不必要なことをうっかりしゃべらないように、話す言葉に制限を設けた。戦争の中身もその中の1つだ。ちなみにしゃべっちまったら頭がばーん!ではなく首がスパッと切れるんだそうだ。あまり違いはないけどな。

「そこにラグナロクの情報も含まれた、ということか」

「そういうことだ。ヴァナヘイムでは、其方が未来のことを知りたがっているというのはすでに知られていた。予言なぞ、少し先の天気を知れるだけでよいのに、其方は世界の終焉(ラグナロク)ばかりを知りたがり、それに備える行動ばかりをとった。おかげでラグナロクへの流れが必然となっていったのだ」

 あちゃー。それってラグナロクが起こるの、オーディン(じじぃ)のせいだってことじゃねぇか。

「それでヴァン神族はラグナロクについてどれほど知ってたんだ?」

「ヴォルヴァによって語られることそのままよ。あの、詩のような語り口のおかげで解釈は人それぞれではあるが、アース神族が滅びるというのはヴァン神族の共通認識。それ故ヴァン神族がそこに巻き込まれぬよう、つねに回避行動を取っておる。戦後アース神族とヴァン神族との間に関わりが減ったのもそうしたことであろう。あの戦争がラグナロクではなかった、それなら他に何かとんでもないことが起こる、ということだからな」

「なるほどね…」

 事情は分かった。つまり北欧神話のラグナログというゲームには大雑把に3人のプレイヤーがいる。アース神族、ヴァン神族、ヨトゥンがそれだ。ゲームの結果は分かっていて、それはアース神族の全滅。それに直接手を下すのはヨトゥンだ。ならばアース神族を滅ぼす意思を持っているのはヨトゥンではないか?と考えるだろうが、そのヨトゥンはラグナロクに巻き込まれる立場だ。わざわざ自分たちもまきこまれるために策謀を張り巡らせるだろうか? 当然答えはNOだ。ならばプレイヤーとして前に出てこないヴァン神族が裏で糸を引いていると考えるのが自然だろう。だがラグナロクは今や回避された案件だ。とはいえヴァン神族、特に戦定派にとってはアース神族を滅ぼすことこそ民族の悲願ともいえる。今後もオレたちに干渉して滅びの道へと(いざな)うことは間違いない。事情があるとはいえ一方的に滅ぼされるのはごめんだぜ。それなら。

「ニョルズ。オレはこれよりヴァン神族と話をつけにいく。それでケリがつかないなら討つことになる。そのときお前はどうする?」

 ニョルズは憑き物が落ちたような笑顔で答えた。

「我はアース神族だ」

 その言葉に迷いは感じられなかった。

「ふ…分かった。後悔するなよ」

「無論だ」

 オレは席を立ち宴会場へ向かった。もちろんみんなに伝えるために。これよりヴァナヘイムへ向かう、と。


あとがきはこちらにまとめました。

→「なぜ?なに?オレオー!」(N7423LN)

各エピソードで使用したネタとその解釈なんかを書いています。

本編と併せて読むとより面白く!

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