① 寒波到来とかそういうレヴェルじゃねぇ!
【前回のオレオー】
壮絶なるロキ拘束の事情を知った東雲オーディンは彼を解放。ラグナロクを起こさないとの約束とともに――――
寒ッ! 寒すぎじゃございませんかぁ? まるで冷凍庫だよ、コレ。まだ冬じゃねぇと思うんだけどなぁ。
あれから…ロキを解放してからひと月ばかり過ぎた。その間、いろいろあった…ということはなく、平和なもんだね。ラグナロクなイベントがなけりゃこんなもんなのか。いいね、平和だね。まず何がいいって、二度寝しても会社から電話が掛かってくるってことがない! これはデカいよ、ぐっすり眠れるもん。ちゃんと眠れてりゃここへ来ることもなかっただろうが、ここに来てからぐっすり眠れるというのも皮肉なもんだ。まぁオレの元のボディは永眠してんだけどな。
ロキとシギュン、今頃どうしてっかな。ロキはいかにも「地元のヤンキー」って感じだが、シギュンは…なんというか、「不良男子に憧れるクラスで目立たない子」って感じか? ただあの子、とんでもなく芯が強そうだ。夫を支える健気な妻と見えるが、実は夫がヘタれた時にはケツを叩くくらいのしっかり者じゃなかろうか? ロキの力にベッタリ依存ってのとは全然違う。だからこそロキにもシギュンを守りたいって気持ちが生まれるのかもしれん。ま、この辺編集者の目から見たキャラ診断みたいなもんだ、実際はどうかしらんけど。お似合いの夫婦として微笑ましく見守ってやりたいよ、世界の終焉さえ絡まなきゃな。
ところで我が息子(らしいぞ?)バルドルが殺されてなんであんなに大騒ぎになったか、というのがあちこち話を聞き回って分かってきた。どうも光の象徴とか、そういう扱いらしい。日本の神話で言えば天照大神みたいな? あっちは主神でオーディン相当、天照が天の岩戸に隠れて暗くなったという即時性が違いくらい。バルドルが死んで世界から未来の光が失われた、そんなとこらしい。イケメン神が死にました、ってだけの話じゃないようだぜ?
…寒ぃ…ふかふかの羽毛布団があるような世界じゃないからな、そこは仕方ないんだが、あまりの寒さに今朝は二度寝できずにそんなことをつらつら考えてたんだが、なんか夜が明けるの遅くね? 緯度が高いと季節が進めば夜明けが遅くて暗いってのは分かるけど、それにしても、だよ。 …なんかヤな予感がするんだが…
◆
意を決してベッドから這い出る。マジ寒ッ! キッチンへ行ってみれば妻のフリッグがすでに起きていて、朝食の「酒」を出してくれた…トーストとか食いたいんだけどなぁ、バターたっぷり乗せて。「妻のフリッグ」とは言ったものの、未だに「誰このおばあちゃん」感は拭えないのは内緒だ。
「なぁフリッグ。まだ夜明けないの?」
「普段ならもう日が昇っていてもおかしくない頃なのですが…お日様もこう寒いと調子が出ないのでしょうか?」
んな訳あるかー!とツッコミたいのをグッと抑えて、そうか、フリッグは天然ボケキャラなんだな、と今さら理解。痴呆ボケでないことを祈る。
だがしかし、猛烈にイヤな予感がしているぞ…いや、まさかとは思うが…念のためにアイツに聞いとこう。無論、智の生首ことミーミルだ。
◆
あーあーあー…お外真っ暗だよ、おい。寒い中スレイプニルに頑張ってもらい、ミーミルの泉へ到着。するとどうよ…泉凍ってるし! いや、流水だから凍ってるのは表面だけだろうが、こんだけ寒けりゃ凍りもするわな。で…ミーミルは… …マジですかい…
「いやー、オーディン助かったよー」
…智の生首はカチンコチンになっていた。下手に動かして割れたら困る。そこで蜜酒の熱燗でもチビチビやりながらミーミルと話でもしようと持ってきた鍋、コイツでお湯を沸かして生首@凍りづけの脳天からぶっかけてやったらハイこの通り。 …智の生首がこんなギャグキャラ枠にいていいんだろうか?
「ところでなんの用だい? ボクの様子を見に来てくれたのかい?」
「あー…まぁそんなとこだ。まぁこれでも飲めよ」
と湯沸かし第5陣くらいでやっと辿り着いた熱燗をミーミルに勧めた。
「わーありがとー、オーディン。でもボク、手がないから飲ませておくれよ」
あー…そうだった…生首介護だこれ…それからやっと本題。
「なぁミーミル。なんでこんなに寒いんだ? それに全然日が昇らねぇだが」
「フォンブルヴェト来てるからね。太陽は今朝、昇ってくるところをスコルが食べちゃったし。昨日の夜は月が西の空に沈むところをハティが丸飲みしてたしね」
「マジで? 見たの?」
「見たよ。いい食べっぷりだった」
…マジか…ホントにオオカミが天体を食うのか…
「ってことはよ…ラグナログ、来ちゃってるってこと?」
「来ちゃってるよ。いい感じで進んでるよ。ちょっと違いはあるけどほぼ予定通りかな?」
はぁぁぁ…溜息しか出ない。ラグナロクって不屈の魂を持ったラガーマンなのか? すげー突進してくる。
「なぁ、ミーミル。オレ、フェンリルとヨルムンガンド、ヘルと会ってきたんだ」
「へぇ」
「で、オレはその3人と話し合って、彼らにラグナロクを起こさない、って約束をしてきた」
「へぇ」
「そして、捕らえられたロキも解放した。ラグナロクを起こさないって約束をして」
「そうなんだ」
「だが今もこうしてラグナロクが起こり、進んでいる。これはどういうことだ?」
「さぁ?」
「さぁって。今起こってるこの事象、ラグナロクで間違いないんだよな?」
「そうだね」
…相変わらず返事が素っ気ねぇっていうか他人事というか。まぁそういうヤツなんだと言ってしまえばそれまでだが。
「ロキも解放してやってさ。気の毒だったよ。ロキもだが、嫁のシギュンも。スカジが連れてきたヴァーリってヤツに息子を殺されて、なんかさ」
「何言ってるの? ヴァーリは君が連れてきたんだろ?」
「あ?」
「ヴァーリはキミの子供だよ。バルドルを殺された恨みを晴らすって、バルドルが死んだその日のうちにキミはリンドと関係を持ってヴァーリを産ませた。ヴァーリは一晩のうちに成人して、バルドルを殺したヘズを殺し、その後ナリを殺した。すべてキミの指示でね。本来のラグナログまでの道程はそういうことになっているよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。オレは知らんぞ? 大体、ロキが拘束されたとき、オレはフェンリルたちに謝りに行ってたんだぜ?」
「でもユグドラシルが知っているラグナログは、そうして始まることになってるよ」
「なんだそりゃ…」
ったく、身に覚えのない『関係』ばっかだな。素人童貞のオレがなんであっちこっちでパコって孕ませたことになってんだ? 北欧神話ってのはオーディンの遺伝子でデキ上がってんのか? 「イイ思い」なんてこっちはなんもねぇってのによ… しかもパコったその日にハイ出産、一晩で成人とか、神話の設定どうなってんだ?
それはともかく、オレはラグナロクを回避するためにフェンリルたちに会った。アイツらはロキが何も言わなければラグナロクには参加しないと約束した。だがその裏で、本来起こるはずのないこと…オーディンの指示なしでトールたちはロキ捕獲に動き、オーディンの息子とかいうヴァーリがヘズもナリも殺している。まるでシナリオから外れたストーリーを外から矯正するように。そしてシナリオ通りに、ってくらい的確にフォンブルヴェトが始まり、太陽も月も消えた。つまりストーリーを変えたところでラグナロクのシナリオは生きている。
…シナリオ?
「なぁミーミル。ラグナロクが起こって世界は滅びる。その時世界のすべての人々は死滅する。そうだな」
「そうだね」
「ヴァン神族は?」
「さぁ?」
「さぁ、って」
「ボクがユグドラシルから知り得る知識はアース神族のことが中心なんだよ。ヴァン神族の話ってあんまり聞かないなぁ。だからヴァン神族がどうなるのかって、ボクには答えられないんだ」
「ふむ…」
どういうことだ? 世界が滅び、人々は死滅する。はず。だがヴァン神族がどうなるのかは分からない。これはどういう…待てよ? そもそも北欧神話ってのは誰目線で書かれたものだ? 言ってみれば地の文、モノローグやナレーションに相当する部分、これは誰の言葉だ? 少なくともアース神族はラグナロクで滅びる。滅びるというからには滅びのその最期の瞬間までの一部始終を記録することはできない。車に轢かれて意識が無くなるまでの一部始終をスマホにポチポチ記録するようなもんだ。ムリだろ、それ。だが…滅びなかった者は記録することができる。
…もしかして、北欧神話はヴァン神族視点、ヴァン神族が記録したものなんじゃないか? そもそもアース神族とヴァン神族は敵対関係だ。それが原因で戦争を起こし、和平を結んで人質交換までやっている。だがヴァン神族はニョルズ、フレイ、フレイヤと、族長クラスを送り込んだというのに、アース神族からの人質、ミーミルとヘーニルは、気に入らないからとミーミルの頭を切り落としてアース神族へ送り返してきた。ヘーニルに至っては行方不明…
怪しいな、ヴァン神族。むしろ裏で糸を引いてアース神族をラグナロクへ導いて滅ぼそうと? 動機は…やはり戦争の一件か。アース=ヴァン戦争は、グルヴェイグって魔女ともいうべきヤツがアースガルズへセイズ魔法を持ち込んだことがきっかけと以前ミーミルは言っていた。このグルヴェイグってのは何度殺しても蘇る不思議なヤツではあるんだが、ともかく何度殺しても蘇ってはアースガルズへやってくる。これはヴァン神族からの偵察の使者、と考えられないか? スパイを殺したことを理由に開戦、戦争となった。まぁ、結局戦後の人質交換でやってきた色ボケフレイヤがセイズを広めちまって、こともあろうか最高神たるオーディンがソイツにハマっちまったからな。結局はヴァン神族の目論見通り、ってことになってんだが…しかし…なんでオレが犯人探しなんかを? オレんとこのレーベル、ミステリーはやってないんだがなぁ。
とにかく。ヴァン神族が怪しいことは確かだ。
「そんじゃオレ、帰るわ。ちと話を聞いてみたいヤツがいるからな」
「ふぅん。ねぇオーディン、またボクにお湯をかけに来ておくれよ。ね?」
「ああ。気が向いたらな」
…気が向いたら、で来るヤツってあんまいないけどな。
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あとがきはこちらにまとめました。
→「なぜ?なに?オレオー!」(N7423LN)
各エピソードで使用したネタとその解釈なんかを書いています。
本編と併せて読むとより面白く!




