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⑮ シギュンの窓⑤旅立ち

【前回のオレオー】

村の寄り合いの帰りの夜道、シギュンは待ち伏せていた男たちに乱暴されそうになる。それを救ったロキと――――

 今日もこの場所であの人を待ちます。青い空はどこまでも青く、遠くの世界まで見えそうです。


♪白い花咲くベリーの丘♪

♪未来の実りを夢に見る♪


 歌が聞こえてきました。そう、夏至祭が近づいているのですね。これは『命の歌』。まだ歌えちゃいますよ?


♪青い果実はまだ遠く♪

 青い果実はまだ遠く!

♪誰と分け合う?その甘さ♪

 誰と分け合う?その甘さ! ねっ?


 私? 私! フゥゥゥゥゥゥ!


♪夏至の光に揺れる花♪

 夏至の光に揺れる花ー!

♪やがて結ぶよ未来の輪♪

 さあ連れてっ…あれぇ? 間違えたぁ…歌わなくなってから久しいですからねぇ…


 朝もやが晴れた森から人影。今朝は会えるようです。

「おはようございます!」

「ああ、おはよう」

 …なんだか元気がない。ロキさんらしからぬ、というか。

「あの、お体の調子でも?」

「…俺、これからアースガルズに行く。そしてあっちに住むことになった。もうヨトゥンヘイムには戻らない」

「…え…」

「アングルボザとも別れた。そして、シギュン。お前と会うのもこれが最後だ」

「…え…」

 言われた言葉が飲み込めません。頭が働きません。今、この瞬間が、ロキさんとお話できる、最後…?

 …それは嫌。私は、もっとロキさんとお話したい。鮭の燻製の塩加減とか、洗濯してて洗濯板を流してしまったとか、最近は薪割りも上手になったとか、そんなそんな、他愛もないことを聞いてくれるロキさんが好きだった…

 …好き、か。そう…私、ロキさんのことが好きなんだ。きっとアングルボザさんのことがあるから、私、自分の気持ちを心の奥に閉じ込めてしまって、自分でもそこから目を逸らそうとしていた。どうしよう…胸がドキドキして、でもチクチク痛い。好きだって気が付いたのに、もう会えないの…?


『シギュン。あなたは素直でいい子だけど、ここぞ!というときにはわがままになっていいのよ?』


 …ふと…夏至祭で初めてロキさんと踊った夜、お母さんの元へ戻ったときに言われた言葉。思い出した。

 きっと…今がその時。今この瞬間を逃したら、もう永遠にロキさんに会えない!

 心が熱い。体が燃えている。私の想いが溢れ出る。私の口から言葉が迸る。

「ロキさんっ! 私もっ! 私も連れていってくださいっ!」

 …言った。

 ロキさんは驚いている。何を言ってるんだ、という顔をしている。

 でも。

 私は目を逸らさない。私の気持ちから目を逸らさない。真っすぐ。どこまでも真っすぐ。ロキさんに、この方に私の気持ちを伝えたいから!

「…分かった。ついて来い」

「っっっっっっっ ハイっ!」

 通じた。私の想い、通じた。ロキさんの姿が歪む。分かってる。ボロボロと涙が零れているの、分かってる。

「…で、どうすんだ? もうこのまま行っちまっていいのか?」

「…あっ⁉ 少しだけっ! 少しだけ待っていただけますかっ⁉」

「当たり前だ。お前だって最後にあいさつしておきたい相手がいるだろう」

「ハイっ! すすすすぐ戻りますっ! すぐ戻りますから」

「いいから行ってこい。俺はここでずっと待ってる」

「ハイ! 行ってきます!」



バンッ


「お母さん! 私、ロキさんとアースガルズに行くから! そのままそっちに住むから!」

 慌てて帰ってきた娘が何の脈絡もなくこんなことを叫べば驚くのは当然です。でも、はじめは驚いてましたけど、すぐに笑顔になって

「そうかい。そう決めたんだね」

 そう言って私を抱きしめてくれました。

「ごめんなさい、お母さん。私、勝手に」

「いいのよ。あなたが決めたことなんだから私もお父さんも口出しできることじゃないからね。幸せになりなさい」

「ありがとう…お母さん…お父さんも…」

 お父さんはやっぱり複雑な表情でしたが

「行っておいで」

 と、いつものように言葉少なく、でも優しく送り出してくれました。



 とりえあず着替えなど身近なものだけを急いで鞄に詰め込むと

「何も贈れる物はないけどね」

 と、摘んだばかりの野菊の花束をくれました。

「ありがとう、お母さん」

「さぁ、行っといで。待ってるんだろう?」

「はい! あの、長い間、お世話になりました!」

「うん。私たちもあなたの親でいられて幸せだったよ」

「あの…」

「おしゃべりはいいから。早く彼のところへ行きなさい」

「あの…はい! それでは!」

 私はそっと扉を閉じると、ロキさんが待つあの道へ走りました。



「ハァッ ハァッ お、お待たせしました!」


♪南の島には渡り鳥♪

♪厳しい崖に巣を作る♪


「もういいのか?」


♪白い卵に想いを託せ♪

♪相手は誰かと右左♪


「はい!」

「それじゃ、行くぞ」

「はい!」


♪あの子?(あの子?)♪

♪この子?(この子?)♪

♪私? 私! フゥゥゥゥゥゥ!♪


「ああ、それ寄こせ」

「あ、はい! お願いします!」

 ロキさんは私の鞄を持ってくれました。私の手には、野菊の花束だけ。


♪もうすぐ殻から顔を出す♪

♪会ってみたいねパフィンの子♪


 私はちょっとだけ振り返りました。そこにはもうすぐ夏至の青い空がどこまでも広がっています。

 さようなら、ヨトゥンヘイム――――



 ――――それから。

 長い旅の末、アースガルズへ着きました。アース神族の皆さんは、来るのがロキさんだけと思っていたので私を見てビックリしていました。でも一緒にこちらへお世話になる旨を伝えますと、それはそれは大歓迎。そして、「お主たちは結婚するがよい」と、主神でいらっしゃるオーディン様からの言葉をいただきました。

 …結婚、って何?

 伺ったところ、アースガルズのしきたりで、一緒に暮らす男女は夫婦(めおと)として正式に登録し、皆でそれを祝福してくれるのだそうです。 …とっても、素敵な風習ですね! ヨトゥンヘイムにはそういった風習がなかったから新鮮です!

 そして結婚の祝いということで祝宴の席が設けられ、三日三晩騒ぎ続けました。まるで夏至祭を連日開催したような賑わいです。でも、こうして皆さんから認められてロキさんと…いえ、ロキ様と一緒に暮らせるというのですから、とても素敵なお話です。


 やがて、私たちに子が生まれました。男の子。名前はナリ。もちろん私にとって初めての子。しっかり、大事に育てていかないといけませんね! 大切な、ロキ様との子、ですから。


あとがきはこちらにまとめました。

→「なぜ?なに?オレオー!」(N7423LN)

各エピソードで使用したネタとその解釈なんかを書いています。

本編と併せて読むとより面白く!

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