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⑧ シギュンの窓④小さな始まり

【前回のオレオー】

次々と踊りの輪に誘われる友人たち。いつのまにかシギュンはひとりぼっちに。そんな彼女に差し伸べられた一つの手――――

 夏至祭の踊りの輪に加わるのはちょっと厳しくなった今日この頃。私の回りの子はどんどんお母さんになっていきます。エイディスちゃんなんか、もう二人目がお腹の中に。みんなすごいなぁ…父と母に孫を抱っこさせてあげたいなとは思うのですが、悲しいかな、私にはそういう話がとんとやってきません…

 さて、今夜は隣村の会合に参加です。もうすぐ収穫祭ということでその打ち合わせです。いつもは母が行くのですが、あいにく足をくじいたとかで私が代理です。とはいえ私も楽しみにしていて、お母さんになったみんなに会えますからね。

 懐かしい顔ぶれが集まれば、女ですもの話が弾んでしまいますよね。秋分の頃ともなれば日が落ちるのも早く、外はすっかり暗くなってしまいました。

「いけない! もうこんな時間!」

 名残惜しいですが、みんなには収穫祭でまた会おうねと約束し、そこそこにお別れを告げて、私は帰途へ着きました。

 収穫祭が近いこともあり間もなく満月を迎えるお月さまが照らしてくれています。明るいことは明るいですがそれでも暗い夜道です。無意識にも私の足取りは早歩きになりました。

 私の村へ続く道で一か所、木々と草が生い茂ってお月さまの明かりが届かないところがあります。小さいときからそこを通るのは苦手で、父の手を両手で握りしめながら目を瞑って歩いたものです。今は自分ただ一人。しっかりと目を開けて歩かなければなりません。

 低木の茂みを抜ける道に差し掛かった時。


ガサッ


 草木が揺れる音。何? …狼なら唸り声が聞こえそうなものですが、そうではなさそう…それなら人…私が駆け抜けようと走り出した途端


ガサガサッ

ガサガサッ


 1、2…4。4つの大きな人影が並び、私の行く手を塞ぎます。月の明かりを背に顔は見えません…が、この大きさ、体格なら男の人。間違いない。ジリジリと近づいてきます。私を囲むように。

 恐怖で竦む脚に言う事を聞かせて後ろへ後ずさりますが…背中は大きな木の幹にぶつかりもう後には…左手へ逃げようと体を向けたその瞬間。

 きっと木の幹の後ろで待ち構えていたのでしょう。私はもう一人いた者に腕を掴まれ、草むらの中に引き倒されました。それを合図としたかのように先ほどの人たちも殺到。まるで獲物を仕留める狼のように。右腕、左腕が次々と抑えつけられ

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 悲鳴を上げた口も大きな厳つい手で塞がれてしまいました。

「ムグゥッ ムグゥッ」

 もう声すら出すことができません。私の脚の先に立つ人。これ、盗賊なんかじゃない、狙いは私のカラダ…私は両膝を上げて固くそこを閉ざします。

 足元にいた人は私の前へ脚を着くと、私の両膝を掴み、広げようと力を込めます。必死に抵抗しますが私の力では抗えるはずもなく…

 私、こんなところで、こんなコト…イヤ、イヤァ!

 固く閉じたはずの両膝が抉じ開けられ、もうダメ…と思ったとき。

「何やってんだ、お前ら」

 男の人の声。

「ああん?」

「何やってんだか聞いてんだろうがァッ!」


バゴォッ


 鈍い打撃音とともに、私に覆い被さった人がどこかへ飛んでいきました。それに代わって見えたのは、青い月明かりに照らされた、大きな人の影。

「テメェ、何しやがるッ!」

「それはこっちが聞いてんだァッ!」

「何だコイツ…ロキ⁈ コイツ、ロキだぞ! ガァッ⁈」

 …ロキさん…?

「俺がロキならどうだってェんだッ!」

「ヤベェッ! 逃げんぞッ! 殺されんぞッ!」

「逃がすかよォッ!」

「ヤ ガァッ⁈」

 暗がりのシルエットでしかないので何が起こっているのかよく分かりませんが、さっきまで私を囲んでいた人たちが次々と地面に叩き伏せられていきます。叩き伏せられた人たちは、何かビクン、ビクンとして…それはたぶん、私は見ない方がいいもの、見てはいけないもの…

「大丈夫か? っと、おっと。これ着とけ」

 彼は上着を脱ぐとふさぁっと私に掛けてくれました。

 青白い月明かりが木々の間から差し込み、その人の正体を露わにします。やっぱり。

「ありがとうございます…ロキさん」

「あん? …なんか見覚えあんな、お前…シギュンか!」

「はい! そうです! あの、お久しぶりで」

「あいさつとかどうでもいい」

「はい、あの、ありがとうございます…」

「礼とかどうでもいい…けど、その、大丈夫だったか? その、いろいろと」

「はい…危なかったですが…」

「こんなところをこんな時間に女がウロついてんじゃねぇ。危ねぇに決まってんだろ」

「す、すみません、でした…」

「あ、いや、言い過ぎた。まぁ無事だったんならいいけどよ。気を付けろよ」

「はい…ありがとうございます」

「だから礼はいい。また厄介ごとに遭う前にとっとと家に帰れ」

「はい、あの」

「早く!」

「はいっ!」

 私は一目散にその場を駆け離れました。そのまま真っすぐ家に戻ります。家に戻った私の姿を見て、父も母も驚き、事情を聴いてきました。私は怖い目に遭ったこと、そしてそこからロキさんに助けられたことを伝えました。伝えた途端さきほどの恐怖が蘇り、私は年甲斐もなく母に泣きつきました。母は何も言わず、私を抱きしめてくれました。体の震えが収まり、私が泣き止むと

「それでその上着…」

「…あ⁈」



 翌朝。お借りした上着をお返ししなくてはと、私は昨日歩いた道の途中で立っていました。多分、彼はここを通る。そんな確信めいた予感がして。昨日の今日だからドキドキしていそうなものですが、不思議と私は落ち着いていました。

 朝もやの向こうに大きな人の影。

「あ?」

「あ…あの、これ。その、昨夜はありがとうございました!」

 やっぱり。女のカンというのはときにこうして当たるものなのです。

 そしてロキさんとしばらく立ち話を。彼はこれからアースガルズに行くと。なんでもアース神族の一人として迎えられたそうで。すごい…そんなことってあるんだ…アースガルズに行けるだけでもすごいのに。

「じゃあな」

 私はアースガルズへ向かう彼のうしろ姿を見送りました。


 それから…この道で待っていると彼が通る。それを知ってからというもの、私は毎朝この道へやってきて、彼を待ちます。会えるのは3日に1回くらいですが、少しだけ立ち話をして、アースガルズへ向かう彼のうしろ姿を今日も見送るのです。それが私の新しい日課となりました。


あとがきはこちらにまとめました。

→「なぜ?なに?オレオー!」(N7423LN)

各エピソードで使用したネタとその解釈なんかを書いています。

本編と併せて読むとより面白く!

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