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⑥ アングルボザの窓③夏至祭当日

【前回のオレオー】

ロキを快く思わぬ母親と対立するアングルボザ。彼女の願いは夏至祭の踊りにロキに誘われること。そしてそのあとも――――

 会場に着いたときにはもう祭りは始まっていた。昨日見かけたうず高く積まれた薪も轟々と燃えている。会場ではあちこちに大きなテーブルが出され、盛りだくさんの食べ物が盛りだくさんで山になっている。

「なんか食ってくれば?」

 ロキはそう言うけど

「アタイはいいよ、アンタ食べてきなよ」

「珍しいな。肉、いっぱいあるぜ?」

「うん。分かってるけど、今はいい」

「そうか。ちと行ってくら」

 アタイは今ちょっと何か食べようって気にならない。なんだか神経質になっちゃってる。今向こうで皿を手にして右に左にウロウロ歩き回るアイツの動作ひとつひとつの方が気になるから。



 大きな白樺の幹、その周りだけなぜだかあまり人がいなかったんで、アタイは樹に寄りかかって会場を眺めている。去年も、その前の年もその前の年も、同じ景色。アタイは変わっていってるのに変わっていかない景色。それがなぜだか気に入らなくて、あのにぎやかな人の輪の中に入るのを躊躇われる。

 真ん中には大きな焚火、その周りに小さな焚火がいくつか。村の長老の話じゃ、あれを跨いで飛ぶと邪気が払われて清められるとか。その昔、焚火に飛び込んで大やけどしたバカが次の年にはすごくまともになって、それ以来邪気を清める行事になったって話だけど、迷信にもほどがあるよね。大体焚火に飛び込んで無事でいられるか、って話。

 その大きな焚火のところへロキがやって来た。他にもいつもつるんでる仲間が数人。何か話してるようだけど…焚火から少し距離を置いて…まさか…うわっ、突っ込んだ⁉ すぐに反対側に出てきて大声上げてるけど、そりゃ熱いよ…バカだなぁ…伝説のバカがこんなに身近にいたなんて…ホント、アイツはいくつになってもバカばっかやってる。小さいときからそこは何にも変わらない。ホント…バカなんだから…



ドン ドン カン カン …


 腹の底から響く太鼓と拍子木の音。踊りの時間の始まり。テーブルの回りにいた女の子たちがわらわらと人の山から出てきて焚火の回りに輪を作り、男の子たちは焚火の前に陣取り、お目当てを『迎え』に行く準備を始めた。そして…こんな時にアイツが隣にいない…

 いや、人混みを掻き分けアイツがやって来た。

「待たせたな。俺たちも踊ろうか」

 いつもの調子で手を差し出すアイツ。それが…なぜだか気に入らなくて。

「毎年踊ってるんだがら、たまには他の人とでも踊ってきたら?」

「ん? そっか。わかった、そんじゃ行ってくら」

 と、アイツは行ってしまった…

 自分で言っておきながら…何食わぬ顔で行ってしまったアイツ…無性に寂しくなってきた。アタイは…無理にでも手を引かれ連れ出されたかった…のかな…

 一旦人混みに紛れてしまえば簡単にアイツを見失ってしまう。どこで誰を誘ってるなんて見えやしない。でも…きっと…最後はアタイのところへ戻ってくるハズ…アタイはそう信じてる。

 歌は流れ、焚火の回りの踊りの輪はどんどん大きくなっていく。もう誰も彼もが相手を見つけて。それをアタイは遠くから見てるだけ。

 …ふと…焚火の炎の向こうに見慣れた大男の姿。相手は…なんだかとっても小さな女の子。一緒に踊っている姿が焚火の陽炎の向こうで揺らぐ。アイツは彼女を優しく包むかのように抱き寄せ、グルグル回って踊っている。アイツって…あんな小さな女の子が好みだったの? こんな場所からじゃどんな子かよく見えないけど…可憐さ、純朴さ、そんなのがあるってのは分かる。そして、それはアタイには無いもの、というのも分かる…二人の姿はグルグル回りながら、また炎の向こうに消えた。

 …アタイ、なんであんなこと言っちゃたんだろう…こんなの見ることになるなんて…その方向を見ていられず、アタイは空を見上げた。少しだけ闇を纏った空は、ちょっと歪んでいるような気がした。



「よぉ。何やってんだ、一緒に踊りに行こうぜ」

 声を掛けられてビックリした。 …ロキ?

「…戻って来たの?」

「当たり前だろ。さぁ、行こうぜ!」

 アイツってば、胸の前で組んだアタイの腕を掴むと強引に引っ張り、アタイを踊りの輪の中へ引きこんで…やっぱり…ロキは私へ戻ってきてくれた…


♪白い花咲くベリーの丘♪

♪未来の実りを夢に見る♪


 アタイ、今、ロキの腕の中で踊ってる。『命の歌』を聞きながら。右に左にクルクル回って、何の迷いもなく。それはもう体が覚えていることだから。

「…あの子はいいの?」

「あの子って?」

「さっき一緒に踊ってた、小さい子」

「ああ…なんかよ、小さ過ぎて踏んじまいそうでな。ケガさせちゃ悪いだろうって早々に切り上げたよ」

「…ぷっ⁉ ふふっ。あははは」

「なんだ? なんかおかしいか?」

「ううん、別に。アンタ、ロリコンかって思っちゃったよ」

「よせよ。俺にはそんな趣味ないぜ?」

「ごめんごめん。でも今聞いたら、アンタらしいな、って」

 ロキ、体が大きいなとは思ってたけど、こうして抱かれるとその大きさをひしひしと感じる。とても逞しいものに包まれているようで、そしてアタイが小さくなったようで。とても…守られてる感じ。


♪青い果実はまだ遠く♪

♪誰と分け合う?その甘さ♪


 焚火の炎がグルグルまわる。アタイたちの回りをグルグル回る。アタイたちは今、世界の真ん中にいるんだ。

 優しく強く抱きしめられて、アタイはもう力が入れられない。カラダのすべてをココロのすべてをみんなみんな、ロキに預けてる。


♪あの子?(あの子?)♪

♪この子?(この子?)♪

♪私? 私! フゥゥゥゥゥゥ!♪


 …不意にアイツが耳元で囁いた。

「ボザ。二人っきりになろう」

 それは…アタイが待ちに待っていた言葉。


♪夏至の光に揺れる花♪

♪やがて結ぶよ未来の輪♪


「…うん」

 アタイはロキに手を引かれ 踊りの歌は遠ざかっていく――――



 薄暗闇に白樺の幹が白く浮かんだ森の中。狼避けのかがり火も遠く、周りには誰もいない。踊りの歌も遠く、でももうアタイの耳には届かない。

 森の中を駆け抜けたアタイたち。息が乱れ、互いの鼓動が重なる。どちらからともなく求め合い、唇を重ねる。長い沈黙の中で、ただ熱だけが伝わっていく。そしてロキが肩を押す。その意味を分かっているから、草の茂みに身を横たえた。それから…ロキはまるでオオカミのように襲い掛かり、突き潜るヘビを、アタイは沈黙をもって受け入れる――――


 ――――ロキの肩越しに見えた空。星は無くとも輝いて見えた。


あとがきはこちらにまとめました。

→「なぜ?なに?オレオー!」(N7423LN)

各エピソードで使用したネタとその解釈なんかを書いています。

本編と併せて読むとより面白く!

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