④ アングルボザの窓②夏至祭、その前日
【前回のオレオー】
イタズラ小僧で有名なロキ。その傍らにはいつもアングルボザがいた。彼女の目に映るのはロキひとり――――
ロキのイタズラは相変わらず。この間は牧場に忍び込んで、牛の尻尾同士を結んで「綱引きだ!」ってやってたよ。2匹の牛がモーモー言いながら引っ張り合ってるのを見て、アイツ、ゲラゲラ笑ってんの! 「誰だ、こんなひでぇことしたの!」って。お前だよ!ってもちろんみんなで突っ込むさ。そしてしまいにゃ結んでるところから尻尾が切れちゃって、ビックリした牛が走り回って柵がもうメチャクチャ。他の牛も逃げ出しちゃって大騒ぎに。いつものことながら、どうせアイツだろって捕まって、ゲンコツもらってがっちり叱られてた。でもやっぱり懲りないんだよねぇ。釈放されたらもう次のイタズラを考えてる。
それで、見てるアタイたちはどうかっていうと、叱られたことがないんだ。いつもアイツ、「やったのは俺だから」って一人で行っちゃう。たしかに…そりゃアタイたちもイタズラを手伝ったりはするけど、確かに考えたのも言い出したのもアイツなんだけど…でも最後は全部自分が責任を取る。なんだかカッコイイじゃないさ。
それでさ、アイツ、近頃なんだか急に体が大きくなってきたんだ。なんというか、ガッシリしてきた、というか。背なんかアタイより大きくなっちゃってさ。なんだかこう、そばにいるだけで安心できる、っていうか。アイツと二人きりになることが多いこともあるのかな。なんだかアイツが逞しくなっていく様子が手に取るように分かって、見つめられるとドキドキしてくる。アタイはアイツのことが好きになってきたのかもしれない…なんてね。
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明日は夏至祭。
もちろんアイツも行くよ。いくら村から冷たい目で見られていたって祭りとなれば話は別。誰にだって参加する権利はある。通りがかりのおじさんだって料理をつまんでいくくらいなんだから、ロキにだってその権利はある。そうだろ?
夏至祭に行くのは初めてじゃない。もうこれで3回目。いつもアイツと一緒で、踊りも踊ったりしたけど、でもそのあとの「お誘い」はさっぱり。アイツはまだイタズラする方が楽しくてしょうがないみたい。仕方ないな、悪ボウズだし。アタイもそんなロキが好きなんだし。でも今年は…やっぱり誘って欲しい…そう思ってる。アタイもさ、年々胸も腰も大きくなって、女らしい体つきになってきた。だから、一緒にイタズラする仲間ってだけじゃなくて、女としても見て欲しいな、なんて。他の女に靡くなんて考えられないけど、その証が欲しい、っていうかね。
外からは毎年恒例、夏至祭に向けて女の子たちが歌を練習してるのが聞こえてくる。
♪昇れ太陽 燃える火よ♪
♪踊れ歌え 今日の日を♪
♪花咲き乱れ 小鳥は歌い♪
♪大地の恵み 感謝せん♪
『夏至の火の回り』、だね。何度も聞いたから覚えちゃったよ。練習に誘われたりもするけど、こんなの聞いてりゃ覚えるっての。なにが「花は咲き乱れ小鳥は歌い」だよ。花が咲いて鳥が鳴くって当たり前過ぎ。それこそ天地がひっくり返りでもしない限り、ね。そんな当たり前のこと歌って何が楽しいのさ? だからわざわざ覚えるまでもない、ってこと!
踊りもそう。ちょっと見てれば覚えられるし、輪の中に入って周りを見ながら踊ってればできちゃうって。練習なんか要らないよ。そんなことより誰と踊るかが大事なんだからさ。 …ま、アタイには関係ないけどね。
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祭りの衣装は今年も母ちゃんが用意してくれてる。ただ、やっぱり…アイツに見て欲しいからね。もう大人なんだからさ、コドモっぽいのはイヤ。女として見られたいから今年は母ちゃんにいっぱい注文を出してる。
「こんな地味なのでいいのかい?」
今年は大人っぽく見えるように青地にした。焚火の明かりを受けて、絶対に大人っぽい、キレイな色で見えるはずなんだ。
「地味じゃない。いいんだよ、これで」
「金糸で刺繍とか入れようか?」
「だからいいんだって! そういうの要らないって!」
「そうかい…? 素敵な男性に見染められるといいんだけど」
母ちゃんの言葉の外にある意味、アタイは気付いた。
「…それ、ロキ以外の男のことだよね?」
「…いいかい、アングルボザ。女の幸せってのは、素敵な男性と巡り会って、子供を産み、育てて、その成長を見守ることなんだよ? 今は楽しくてもその先が」
また説教! そんなのつまんない! 絶対楽しい方がいいに決まってるのに! だから最後まで言わせない!
「そんなの関係ないよ! アタイはアタイの好きな人と一緒になるんだから!」
「アングルボザ…」
母ちゃんの言葉を振り切って、アタイは家を飛び出した。また説教なんかされたくないのはもちろんだけど、アタイはアタイの生きたいように生きたい。ただそれだけ。母ちゃんを困らせたいんじゃないんだ…分かって欲しいのに… …頭冷やそ…
外はまだ白夜の太陽で明るいまま。見上げれば白樺の白い幹が微かに夜の薄いヴェールをまとった青い空へ伸びている。あてどなく歩いて祭りの広場に出た。晩飯前の一仕事と、大人たちが明日の焚火の準備中。大きい薪は大人たちがガン、ゴロンと積み上げる。その周りでおチビたちが手伝って、投げた小さな薪がカランと小さな音。チラッとお隣のトールセンさんと目が合った。「ボザちゃんも手伝うかい?」って言われたけど、「結構です!」って逃げてきちゃた。
そう。明日は夏至祭なんだ。やっぱり…アイツに誘われたいな…明日はあの薪たちは焚火となって燃えるだろう。でもアタイの体は焚火の炎よりも熱く燃えている。
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あとがきはこちらにまとめました。
→「なぜ?なに?オレオー!」(N7423LN)
各エピソードで使用したネタとその解釈なんかを書いています。
本編と併せて読むとより面白く!




