旅の終わり、そして始まり
「見つけた。これが、あの、秘霊石」
僕はいつにもなく興奮していた。心臓がばくばくなっているのが自分でもわかる。
「おーい、翔、あったか?」
「うん」
僕は今河 翔。
いたって普通の小学六年生だ。隣にいるのはクラスメイトの会田 光秀、そして、
「ちょっと待ってよ〜」
この人もクラスメイトで級長を務める小沢 美智子。この三人で、僕らは伝説の石を求めてここまで来た。この洞窟に。何故僕らがこんなことをしているかというと……あれは一週間前になる。
いきなりお父さんが深刻そうな顔をして、こう言った。
「翔、静が、静が、不治の病にかかった」
静というのは僕の妹のことだ。今年でちょうど十になる。静は小さい時から僕の後ろについてきて、人が現れると僕の服の端をつまんで後ろに隠れる、そんな子だった。そんなもんだから、僕も小学校にあがった辺りから、この子は僕が守らないとだめだ、と勝手に思い込んでいた。最近になってこのままじゃ静に友達はできないと思い、少し、辛くあたっていたということを、思い出す。
「病気?治らないの?静、死んじゃうの?」
お父さんは何も言わない。
「ねえっ、ねえっ」
何度も肩をゆするが、お父さんはそれ以上何も言わなかった。僕はお父さんが何も言わないことで静が死んでしまうことを認めざるをえなかった。でも認めたくなくて、その晩、縁側で一人ただただ、泣いていた。やさしい静、ふくれた静、かわいい静、泣き虫の静、それらが全て消えてしまう。そう思うと、泣かずにはいられなかった。空を見るとまん丸で光を照らしている月が何故か憎くなり、それに向かって石を投げつけるも石は重力に習って落ちてきた。
「くそっ! 月まで僕を馬鹿にするのか?」
悲しみはMaxになり、自分でも泣くのを止められなくなった。泣きじゃくる僕を奥の部屋で寝ている(はずの)じいちゃんが慰めに来た。そして、こう言った。
「翔や、泣くな。まだ希望はある」
「えっ?」
希望? そんなものあるはずがない。静は死んでしまうのだから。
「まだ静は死んでないじゃないか!」
「あ……」
僕はそこに気づいていなかった。そうだ! まだ静は死んでいない。
「でも具体的にどうすれば」
「そのぐらいは自分で考えなさい。翔はもう小学六年生なのだから。来年は中学校にいくんだよ?」
「うん、わかったよ、じいちゃん。なんか元気がでてきた」
じいちゃんのもう遅いから寝なさいの一言で、僕は寝ることにした。
翌朝、僕は静のために何ができるのか考えた。まず、毎日、静に会いに行く。これは確定。次に……。次に僕は何ができるんだ? 考えること一時間、考えてもらちがあかないと思った僕は仲のよい友達、光秀に協力を要請、学校で集合ってことになった。学校は今、夏休みの期間で休みなのだが、図書室を利用して本を読む子や教室で宿題を進める子、外でサッカーを楽しむ子等、各々の様々な目的により、利用されている。当直の先生は日によって変わるが、たいてい二人くらいはいる。なぜ光秀や僕の家集合でないのかといえば、学校にはパソコンがあり、いろいろ調べられるからだ。僕は学校の玄関前に座りながら、ボーっと、グラウンドでサッカーをしている子ども達を見ていた。すると、前から、サッカーボールを追いかけて、こっちに走ってくる子がいる。いや、よく見ると、サッカーボールを蹴りながら、こちらに向かってきている。あれは、あのとげとげ頭は!
「光秀!」
僕は立ち上がった。当の光秀は、
「やべっ、ボールの勢いが止まんね、翔、パス!」
と、いきなり、シュートを決めやがった。だが、急にシュートされて受けることのできる奴のが少ない、と僕は思う。結果、僕は反射的にボールを避けてしまい、僕が座っていた短い階段の、ちょうど、角にあたり、それがかえって、光秀の顔面に当たった。奴は衝撃的な出会いだったぜ、と捨て台詞を残して気絶してしまった。つっこみどころ満載だったが、僕は冷静に、こんなのに協力してもらって、本当に大丈夫だろうか? と、思ってしまった。光秀は演技だったんじゃないか、と思えるくらい、すぐに目を覚ました。僕はコホン、と咳払いをして、
「まあ、君がサッカーボールを持っているのはいつもどおりとして、本題に移ろうか」
妹が病気で、死んでしまうかもしれない! だから、僕にできることをしたいんだ。お見舞いに行く他に何かないか探すの手伝ってくれないか? と、話した。光秀はわかった、と言うと、
「そのかわり、貸し、ひとつだぜ?」
と、快く引き受けてくれた。パソコンで二人で調べて、ひとつの解にたどり着いた。
「千羽鶴……か」
「な、いいだろ、翔! これで治るかもしれないぜ!」
光秀の目がまぶしいくらい光っている。
「悪くない、けど、千羽も折れるかな?」
「なーに、俺様も手伝ってやるって。一人で折らなくちゃならない、なんてルールはない、だろっ?」
「ありがとう、光秀」
辺りも夕焼けで真っ赤になっていて、日もバターのように溶け始めていた。帰らなくちゃ、とは思うものの、周りをみると、誰がしたのか、本が散乱している。光秀がトイレに行っている間に全て片付け、フー、と一息つくと、先程まではなかったノートがあり、表紙には、『伝説の石について』と書かれている。何これ、と僕は鼻で笑ってしまった。しかし、裏表紙も見たが、名前が書かれていない。光秀はトイレが終わったようで、
「もう、いくぞー」
と言うので無自覚にノートをカバンに入れ、光秀の元へ走って行った。光秀と病院に行き、静と話をして、今日は帰ることにした。折り紙は用意してないから、明日いっぱいもってこっと。
帰宅して、自分の部屋でカバンを整理していると、身に覚えのないノートが……。
「伝説の石について?」
「うわっ、おどかさないでよ、じいちゃん。つか、ノックぐらいして!」
いつの間にかじいちゃんが僕の後ろから顔を覗かせていた。
「ほうほ、悪かったな、しかし、伝説の石……か、懐かしい言葉が出てきたもんじゃ」
じいちゃんはノートを手にとり、ポケットから眼鏡をとりだすと、それをかけて、一枚一枚パラパラとめくり始めた。
「ほう、よく調べておる」
何がなんだかわからない僕はとりあえず、用件をきくことにした。
「じいちゃん、何しにきたの!」
「そうじゃった、飯じゃ、飯」
食後、僕は縁側に座っているじいちゃんの隣に座り、話しかけた。静に、できることがわかったからだ。
「じいちゃん、僕、毎日静に会いに行くよ、そして、千羽鶴を折る!」
じいちゃんはそれまで月を見ていたが、僕の方に体ごと向きなおして、
「それはいい」
と、優しい笑顔で賛同してくれた。会話は静の話でいっぱいだったが、最後に、じいちゃんは、
「ときに、翔。先程のノート、翔の字ではないね?」
と、真顔できくので僕も真剣に答えた。
「う、うん」
「そうか……。翔や、じいちゃんと約束しておくれ。あのノートは絶対に見ない、と。まだ見てないね?」
僕は疑問に思いながら、
「見てないよ? なんで?」
「それを言ったら内容を話したのも同然になる。その手はくわんよ」
「ちぇー」
その日は笑いながら話は終わった。次の日、午前は光秀と静に会いに行き、もって来た大量の折り紙を折り方の書かれた紙を見ながら四苦八苦し、楽しく会話をした。午後から、あの、ノートを持ち主に返すため、光秀にもつきあってもらい、学校に行くことにした。ノート片手に、階段を上っていく途中で級長(小沢美智子)に会った。
「ん? 二人とも宿題やりにきたの?」
「いや、美智子は?」
「あたしはモチ、読書をするためよ、会田君が夏休みに学校に……、世も末かしら」
と、級長は両手を広げて大げさに演技したかとおもえば、
「そ・の・点!」
と、僕の方に向きなおり、
「常に上位で私と争う翔は違うわよね。あ、そのノート、もしかして、極秘の勉強ノート? あたしにもみせなさいよ」
と、神業か、と思えるスピードで級長は僕の手からノートを奪いとった。僕は、あきれつつ、返してよ、といったが、あろうことか彼女はノートの内容を読み始めた。
「え……と、なになに。伝説の石について。伝説の石とは四種類ある。そのうち、三種類は能力に関係するものだが、最上位である石は何でも願いの叶う石である。しかし、残念ながら、ひとつしか存在しないらしい。……というのも」
ここで光秀が級長からバッと、ノートを奪い返し、その本で級長の頭をたたいた。あ、それ、僕の本じゃないんだけどな。
「いじめっこかお前は」
級長は頭を掻きながら、
「ごめん、ごめん。……でも何これ! 宝の地図!」
「何だって」
と、光秀もパラパラと、ノートを開き始める。
「ちょっと、二人とも」
僕はじいちゃんとの約束もあって、返して欲しかったのだが、
光秀はバッ、と僕に見えるように本を広げた。
「これ、見ろ、翔。伝説の石のある地図だぜ」
そこには確かに、地図が書かれていた。しかし、よくみると、そこは学校の裏山だ。
「そんな、伝説級の石がどおして学校の裏山にあるのさ」
光秀は本をめくり、
「わからないけど、この本に書いてあるだろ、何々……」
二人してわくわくしながら本を読んでいる。全く、仕方ないな……。
「秘霊石をこの無結晶の眠る地に隠す。この山の小屋の扉にこのノートをかざせ、さすれば、異界の扉が開くだろう」
試作品です
2011/9/11
多少更新いたしました。
すこしずつ更新したいと思います。
9/30
多少、更新しました。