《☆》婚約破棄が聞こえません
☆さらっと読めるショートショートです。
「マリーベル・ラトレア伯爵令嬢! 貴様とは今日で婚約破棄だ!」
王立学園の卒業パーティーでマークス第三王子がそう叫んだらしい。私には聞こえなかった。
「あらマリーベル。今日も殿下のエスコートは無し?」
「そうみたい。何の連絡も無かったわ。またアマンダ様を連れてるんじゃない?」
「卒業パーティーというのに、相変わらずね」
「別にいいわ。皆といる方が楽しいし」
などと、ローラ達と話がはずんでいたせいもあるのだが……。
「きゃっ!」
いきなり後ろから腕を引かれて、私は思いっきり尻餅をついた。痛たたた……。
誰のいたずら?、と振り返っても誰もいない。
おかしいわね、と思ってローラに
「今、誰か私の腕を引かなかった?」
と聞くと、皆私の後ろを見ている。
「何? どうかしたの?」
ローラが視線を私に落とす。
「見えないの……? 今、そこで殿下が怒っているわ」
振り返っても誰もいない。
怖っ!
「マークス様、お亡くなりになったの!?」
「違うっ! 見えないのはマリーベルだけよ」
本当に、ここにいるの……?
「マークス様、いらっしゃるのでしたら手を貸してください」
尻餅をついたまま手を差し出すと、誰かに雑に手を握られた感触と共に引っ張り起こされた。うん、この大雑把さはマークス様だ。
後ろからアマンダ様がてててとやってきて、空間に腕を絡めた。うん、間違いなくマークス様だ。
壁際に控えていた侍女のデイジーが駆け寄って来て、私のドレスの裾を直す。全く、マークス様ったら淑女に何て事をしてくれるのかしら。
私はデイジーにある物を用意するようにお願いする。
「マリーベル。殿下が『見えないふりはよせ』って言ってるわ」
「え?」
「『私の気を引きたいのだろう』ですって」
「はあ?」
私は振り返ってアマンダ様の右隣の空間に向き合う。
「きっと、私がマークス様が見えなくなったのは、マークス様のご希望を叶えるためですわ。先週のお茶会でご自分が言ったことをお忘れですの?」
ローラは何も言わない。ということは忘れてますのね。
息を吸い込んで思いっきり大音量で再現する。
「貴様は私とアマンダを苦しめたくて私の婚約者の座にしがみついているのであろう? なんという底意地の悪い女だ! 貴様のような心根の醜い女が私に相応しいわけがない! さっさと身を引け! いっそこの世から消えてしまえ!!」
何度でも復唱できますわ。
忘れようにも忘れられなくて、毎晩ベッドの中で枕をボスボス叩いてましたもの。
ふんっ!、とその場を離れようとしたらまた腕を引かれて、今度は思いっきり横に倒れる。
もう! 見えないのだから身構えられないって、何で学習しないの!
「デイジー!」
マークス様の手は借りず、駆け寄って来たデイジーに立たせてもらう。
「マリーベル。『王子に挨拶もなく去る気か』って」
「そんな事で暴力をふるったのですか?」
呆れた。
「デイジー。頼んだ物は?」
「用意出来てます」
デイジーが合図すると、庭師が白い粉の入ったバケツを持って駆け寄って来た。
ありがたくバケツを受け取る……ととっ、粉を入れるとバケツって案外重いのですね。
アマンダ様の前へ行き、全力でアマンダ様の右側にバケツの粉をぶちまけた。アマンダ様にも掛かったのは不可抗力という事で。
バケツの中身は庭師が使う承石灰。見事に白い人型が出来た。
「マークス様。お目にかかれて光栄ですが、これにて御前を失礼いたします。床を汚した事、お詫び申し上げます」
人型に優雅にカーテシーをして会場を去った。
その後、マークス様とアマンダ様と、真実の愛を焚き付けていた側近たちは、揃って北の果ての王領に飛ばされた。
もちろん簡単に決まったわけではなく、私の前代未聞の症状に、医者や学者や神官や呪術師や法律家や貴族院のご意見番まで集めて聴聞会が行われたので、ここぞとばかりに今までの事を訴えたのだ。
頭脳も器量も凡庸な第三王子との結婚に旨味はないと名家の令嬢が皆辞退したために伯爵家の私と婚約になったのを、自分が好きで他の令嬢を蹴落としたのだろうと思い込まれ。
アマンダ様と真実の愛に目覚めてから、勝手に私を仮想敵にして、お茶会やエスコートはわざわざ約束してすっぽかし、私の誕生日にはクズ石のペンダントを放り投げて目の前でアマンダ様に高価なネックレスを贈り、学園でうっかり顔を合わせると「何を企んでいる」「私を解放しろ!」と罵られ。
陛下や王妃様に婚約解消を願っても、「ちゃんと結婚させてあげる」と見当違いの励ましをされ。
皆がこれは病むわ……という顔になった時、マークス様のお言葉を暗唱して聞かせたら、全員がテーブルの端の椅子を見つめた……。
そこにいらっしゃったんですね、マークス様。
私は、マークス様に心を傷つけられたせいでマークス様が見えなくなった哀れな被害者と判定された。
見えなくなった本当の理由は、
「この世から消えてしまえ!」
と言われた時、
「お前が消えろ!」
って思ったからじゃないかな。まあいいか。
2025年1月18日
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ありがとうございます(^∇^)




