卒業の日のお弁当
※『第6回なろうラジオ大賞』応募作品です。使用キーワードは『卒業』『弁当』。
卒業式後のHRが終わった教室は、大騒ぎだった。
やけにハイテンションで騒ぐ連中や、感極まって泣いてる女子達など──。
でも僕ははしゃぐ気にもなれず、黙々と机の中身を鞄に詰め込んでいた。
──もうこれで津田さんとも会えなくなってしまうのか。あの約束もたぶん、忘れられてしまったんだろうな。
津田さんは物静かな子だった。
ハブられているとかではないけど、女子の輪に入るよりは、独りで本を読むのを好むような子だった。
いつからか、僕はそんな彼女の事が気になりだして、さりげなく声をかけるようになっていた。
「津田さん、何読んでるの?」
「〇〇って小説だけど──」
「それ、主人公が変人で面白いよね」
彼女の読書傾向はバラバラだったけど、僕の読んだ本も多くて、会話に困ることはなかった。
最初は躊躇いがちに反応していた彼女も、少しずつ打ち解けてくれてきたように感じていた。
この頃にはもう、僕は彼女への想いを自覚していたと思う。
そして、彼女も僕に少なからず好意を抱いてくれていると錯覚してしまったんだ。
「津田さん、今日もお弁当なんだ。自分で作ってるの?」
「でも昨日の残り物も多いし、手抜きだよ」
「でも、美味しそうだよ。
いいなぁ、津田さんのお弁当、食べてみたいな」
かなり勇気を振り絞って言ってみた。でも彼女の表情がかすかに曇ったのを見て、僕は勇み足だった事に気づいた。
「あっ、ごめん! 図々しかったよね」
「別にいいよ。自信作が出来たら、その時にね」
でも、それから彼女の態度はどことなく素っ気なくなってしまった。話しかけても生返事が増えたし。
それまで冷やかしていた友人たちも、空気を読んでか、何も言わなくなってしまった。
そしてぎこちない空気のまま、卒業式を迎えてしまったのだ。
何となく教室の騒ぎも落ち着いて、そろそろ解散の気配が漂う。皆、記念写真を撮ったり打ち上げに行ったりするんだろう。
僕も友人と合流しようと歩き出した時、ふいに後ろから手が引っ張られた。振り返ったら、津田さんだった。
「あの、お弁当作ってきたんだけど」
え、覚えててくれたんだ!
「本当は私のお弁当、母が作ってくれてたの。
あれから練習して、自分でも何とか作れるようになったんだけど──卒業式の日にお弁当って、やっぱり変だよね?」
「そんなことない、嬉しいよ! 一緒に食べよう!」
周りでは皆が遠巻きにニマニマしてるけど、かまうもんか。
今ならきっと言える。
告白するのなんて朝飯前だ!