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 今度の街では、魔物を使った薬はやめておこう。

 あまりに特異すぎる薬が原因でもめ事がおこり、面倒くさくなって街を離れることが多かったフレデリカは、過去の反省の元、できるだけ普通の薬を作るようにした。しかし、普通の薬だけを作る日常に飽きるのにそう時間はかからなかった。


 隣に住む老夫婦に教わり水田に稲を植えてみた。暖かいこの地域では稲の生育は早かったが、雑草もよく育つ。時には稲より大きくなってしまうので、村の人はせっせと除草している。

 自分の田に生えてきた草を見て、抜かなきゃなぁ、と考えているうちにふと思い立ち、フレデリカは隣町のギルドまで足を運んだ。


「薬の材料を手に入れたいのだけど、このあたりで魔物がよく出る場所はどこかしら?」

 フレデリカを見て、街のギルドの受付をしている男は豪快に笑った。

「お嬢さんが魔物退治? 無理無理。素材を手に入れたいなら、注文すれば取ってきてくれるよ。専門家に任せた方がいい」

 自分を普通のお嬢さん扱いしてくれるギルドの受付の男。フレデリカはその対応が新鮮で機嫌を良くした。フレデリカは一般的な薬師がするように受付の男に依頼書をもらい、薬に使う比較的入手しやすい素材を五つほど書いた。素材採集の依頼の相場も教えてくれ、それはフレデリカの経験からしても適切な金額だった。実に親切だ。フレデリカは料金を前金で支払い、少しばかりチップも支払った。


 三日後には注文した素材が入手できた。

 初級の冒険者が入手できる程度の物、冒険者でなくても手軽に採れる草も入れておいたが、素材の扱いも悪くない。このあたりでどの程度の魔物が出るのか推測でき、ギルドの統率力、信頼度もOKだ。

 フレデリカはギルドを贔屓にすることを決め、新たに三つの素材を依頼した。


 持ち帰った素材は薬用に加工し、田で試すためのものは裏にある泉の近くに建てた小さな小屋に入れた。それから連日フレデリカは朝な夕なと小屋に向かい、一週間後、夜の散歩に行くと言って家を出た。

 フレデリカのわくわくした姿を見て、また何か始める気だな、と察したジョシュアは遠くからフレデリカを見守ることにした。いくら魔女とは言え、夜遅くに一人で出歩かせる訳にはいかない。

 フレデリカは自分の田まで行くと木陰でしばらくじっとしていたが、何をしているのかは暗くてよくわからなかった。時々水音がしたが、フレデリカ自身が田の中に入っている様子はない。二、三時間はいただろうか。フレデリカは再び小屋に立ち寄った後、家に戻っていった。


 翌朝、フレデリカの田には雑草がなくなっていた。稲を狙う虫も減っていて、数日後には苗がひときわすくすくと成長していた。

「薬師さんのところの田んぼは何をなさったのか。魔法でもかけたんですかいね?」

 隣に住む老夫婦が畑仕事の傍ら声をかけてきた。フレデリカに稲の育て方を教えてくれ、苗も分けてくれた親切な夫婦だ。

「草を取る仕事がもっと楽にならないか研究しているんです。そちらの田でも試していいですか? 苗には被害がないよう気を配りますし、もしなにかあればうちの田でとれた米をお譲りします」

「ああ、いいとも」

 隣の田は定期的に手が加えられ、よく管理されていたが、それでも雑草は生えてくる。稲が育つのだ。雑草にとってもよい環境に違いない。


 フレデリカと話をして一週間後、老夫婦の所有する田はどこもきれいに雑草がなくなっていた。

「こんな広範囲を一体どうやって…」

 フレデリカは笑顔を向けたが、その方法は答えなかった。

「またすぐに生えてきますから。定期的に実験させていただいてもいいですか?」

「ああ、大歓迎じゃ」


 老夫婦はフレデリカが除草作業をしてくれたことを友人や自分の息子にも話した。

「方法はわからんのじゃが、朝になったら草がなくなっておってのう。手前の畑から順番にじゃ。夜のうちに何かしたようじゃが、朝一番に行くと、水がキラキラ輝いておった」

 茎の汁を吸う虫も、変色する葉も減っている。ネズミやモグラを近くで見かけなくなった。水質もよくなり、田の中には稲の害にならない虫やオタマジャクシ、カエルや小エビなどはそのまま元気に暮らしている。


 何人かがフレデリカに直接その秘密を聞きに行ったが、

「まだ試している途中ですので」

と言って何をしているのかは教えてはくれなかった。しかし、

「もしよろしければ一度そちらの田でも試していいですか?」

と言われ、田の所有者は喜んで力を借りることにした。

「ただ、あまり数多くこなせません。自分の田もそろそろもう一度手をかけなければいけませんし。これ以上はお受けできないので、他の方にはあまり広めないようお願いしますね」




 フレデリカの家の裏にある泉の横には小さな小屋があるが、そのそばにも小さな田ができていた。

 おかしなことに、その田は小屋の裏手に隠れるようにあって、小屋が陰になって日が当たらず、稲の生育には向いていないように思えた。

 村人が覘いてみると、そこの田は日陰にしてはよく育っているところもあれば、苗の先がなくなっているもの、黄緑に変色しているもの、腐りつつあるものなど生育状態はばらばらで、所々に黒い焼け焦げがあった。

 まだ試している途中とはこのことだろうか。薬師の実験がどんな風に行われるかなど想像もできず、変な薬が使われていたとしてもこうして試してから使っているのなら大丈夫だろう、とその場を後にした。


 数日後、フレデリカに声をかけた者の田は皆除草が行き届き、稲は青々と育っていた。

 話を広めるまでもなく、稲の生育が違いすぎてやがて噂は広まっていった。あの村で何かしている、が、あの村の薬師が何かしている、に変わるのに、そう時間はかからなかった。

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