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 帝国で「月隠(つごもり)の魔女」の二つ名をもつフレデリカ。その魔法の腕は確かで、帝国の魔術師として仕え、先の皇帝の信頼は厚かった。しかし新しく即位した皇帝とそりが合わず、帝国から離れて間もなく三年が経とうとしていた。

 共に旅をするのは弟子にして「蒼月の騎士」の二つ名を持つジョシュア。帝国一の騎士の復帰を願う皇帝は今でも居所を探り、手紙をよこし、追っ手を差し向けることもある。


 ジョシュアは呪われた騎士で、その呪いを解くためにフレデリカに弟子入りし、行動を共にしているのだが、魔女が誘惑して「蒼月の騎士」を連れ去ったという根拠のない噂が立った。それを真に受けた皇帝に逃亡罪だと刺客を送りつけられ、以来帝国とは絶縁状態。

 実のところジョシュアの方こそフレデリカに入れ込んでいるのだが、真に誘惑に長けているのは皆殺しの呪いを持つ「剣」の方だった。呪いが薄れてくると示し合わせたかのように刺客が送られ、逆上したジョシュアが刺客を倒し、血を吸って剣の呪いが強化される。剣の高笑いが聞こえてきそうだ。


  呪いの餌を送ってこられませんように。

  呪われたまま帝国にお返ししましょうか?


 皇帝宛に送った手紙が効いたのか、見張りはついても刺客は来なくなった。送りつけられた刺客をジョシュアが片っ端から冥府に送り、腕の立つ者が激減したのも理由の一つだろう。

 しかし世間には切らねばならない悪党はどこにでもいて、強盗、野盗、人さらい、領地争い、襲撃やけんかに巻き込まれたのまで含め、なんやかんやでジョシュアは剣を抜く羽目になり、人を切れば呪いはぶり返す。日常的に何かあれば

「殺そうか?」

とつぶやくジョシュアに剣を抜かせないようフレデリカも気遣ってはいるが、止めきれないこともある。

 面倒になって、いっそ呪いを解いてしまおうと何度思ったことか。しかし、ジョシュアから呪いの解除は止められている。酔った勢いで、自力で呪いを解けたら結婚してもいいなどとしょうもない約束をしてしまったせいだ。そして呪いが解けないまま旅は続き、二人の仲はさほど進展しないながらも一緒にいるのが当たり前にはなっていた。




 国のお抱え魔術師をやめたフレデリカは、気ままな「薬師」としての生活を選んだ。

 諸国を回り、気に入った土地に家を構え、薬屋を開業する。薬の質が違いすぎて店は繁盛するのだが、ジョシュアを巡るトラブルやら、薬に対するいざこざやらで、面倒になると気の向くまま次の国へ。この三年で移動した国は六カ国になる。


 目の前に七カ国目がちらつく国境に近い街で、フレデリカは新たな家を手に入れた。

 格安で買った家を自分好みに改修するのも楽しみの一つだ。裏には畑に泉、田もある。ここリゾ地方は米所で、煮込み、炊き込み、炒め物、サラダにもお米がよく使われる。米を使った麺まである土地柄で、ここに来て最初に食べた魚介と米の煮物が実にうまかった、それがフレデリカがこの街に住むことを決めた理由だった。

 いつも気まぐれに街を選ぶフレデリカに慣れているジョシュアは、師匠の決定に異を唱えることもなく、新しい家作りに協力し、自分用の部屋をもらい、用心棒兼店番を務めた。


 大抵どこの街にも薬屋の一軒くらいあるもので、すぐに客がつくことはないのだが、フレデリカの店には最初は大抵女性客がやってくる。ジョシュアを薬師と間違えた面々が仮病あるいは恋の病という難病にかかってしまうのだ。愛想の悪さからジョシュア目当ての客がいなくると、次第に本当に薬を必要としている者が顔を見せるようになる。困っている人に手を差し伸べ、しかもその薬の効き目が抜群で、さほど時を置かずフレデリカの店には客が訪れるようになった。


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