十戒堂
「お初にお目にかかります鬼神殿。私は」
「おうおう!随分遅かったな!あんたを待ってたんだよぉ俺!」
白髪の男を遮って大男が声を上げる。誠士郎と対峙出来たことにとても嬉しそうだった。
「ちょっと!急に大声上げないでよ!折角目の前に色男が来てやる気上がったのに、あんたのバカでかい声で台無し!こんな奴とつるんでるなんて思われたくないんだけど!」
「綱海。私が喋っているときにかぶせないで頂けますか?少し悲しいです」
「まあいいじゃねえか!憧れの男にやっと会えたんだぜ?はしゃぐってもんよ!」
白髪の男の肩をバシバシと叩き、宥める。
「個人的に自己紹介を遮られたあとに、またするのはやりにくいのです」
「ああそうかよ。面倒臭ぇ野郎だな。さっさと言え。ったく、相変わらずキザな野郎だな」
綱海と呼ばれた男は、手を振って面倒事を催促する。
「では改めまして、お初にお目にかかります鬼神殿。私は」
「知っている。≪物狩り≫の幽間、≪怪羅≫綱海、≪死体傀儡師≫道弱、≪遊乱≫の波瑠、だろ?大罪十戒堂のうち、その四人が何故こんなところに集まってる?」
また遮られたが、白髪の男は驚いた表情を浮かべた。
「なんと。覚えて頂けているとは、とても嬉しいですよ。
ええ、私が十戒堂のうちが一人、幽間にございます。以後お見知りおきを。と言っても、貴方は此処で我々に殺されなければなりません。出会って早々申し訳ございませんが、勝手を通させていただきます」
そう言うと、幽間は腰にある刀を抜き、切っ先を誠士郎にの方へ向けた。
それに続いて三人も各々の武器を構える。
だが誠士郎は、そんなことより幽間に抱えられている春人に目を向けていた。奴らのうち、誰かのせいなのか、また他のやつがやったのか分からないが、ぐったりしていて、意識がないようだ。
それを見てから、ずっと拳を握り締めていた。血が滴るほどに。
「おい、鼠ども」
「「「「っ」」」」ゾクッ
声を掛けられただけで死の予感を感じる四人だったが、それだけで怖気付くほど腑抜けではなかった。しかし次の言葉を待ってしまう程、圧を感じて、動く事ができなかった。
「俺は今、頗る機嫌が悪い。何かにあたりたいほどにな。だが、俺は血も涙も無いお前らとは違う。そこでお前たちに提案がある」
「今すぐに、その子を置いて此処から立ち去れ。そうすれば命だけは助けてやる。五体満足でな」
この提案をするのは、眠っているとはいえ、息子の前でするのは嫌だったから。彼らも、決して自分達に対する情けでは無いことも自覚していた。
「さっさと答えろ」
四人とも答えは決まっている。
「「「「やなこった!」」」
そう言った瞬間、眼前の鬼が一瞬にして消えた。
ビチャ
水の音がして横を見ると、首から上が無い女の身体があり、血を噴き出している。そのまま後ろを振り向くと、波瑠と呼ばれていた女の頭を持つ誠士郎が悠然と立っていた。
「まずは一人目だ」
そう言って、頭を三人の目の前に投げつける。
「まじかよ!いいねぇ!」
「流石は鬼神。お手のものですね」
「こりゃあ、真面目にやらんと喰われるのぉ」
その事に、ある者は更に高揚し、ある者は感心し、ある者は一層警戒を高める。
「そうか。よく分かったよ。
じゃあ、死んでくれ」
ドサッ
隣の肉塊が倒れた音をきっかけに、戦闘の幕開けとなった。
…………………………
…………………
…………
……
…
「ォオラァ!!ハッハァ!!」
綱海が、剛腕を活かしながら思い切り拳を振り切る。
霧の膜に包んで衝撃を吸収したが、誠士郎は後方へ吹き飛ばされた。
「ほれ!こやつを捕まえよ!」
吹き飛ばされた場所には、既に何体もの乾いた死体が配置され、一斉に襲いかかる。
「ふっ」
それを体術で全て薙ぎ倒し、一気に道弱に近づく。
「させません」
しかし間に幽間が割って入り、抜刀の構えをする。
「秘技、"酒仙文字"」シュルッ
「っ!!」
たった一太刀、妙な構えでも無いのにも関わらず、何故か軌道が読みづらい。誠士郎はなんとか頬をかすめるだけにとどめたが、避けた束の間、そのまま第二の刃が襲いかかる。
しかし今度は完全に避け切った。
「まだ続きますよ」シュッ
「ちっ!」
シュルルルルルル
どんどんと速さを増していく。絶対不可避と思える程、高速の連撃であるが、これを悉く捌き、避ける。
「ハアッ!」ドオン
そして最後の一太刀である、真向切りを避け切ったと共に、霧を纏った足で回し蹴りを食らわした。幽間は自ら飛んで衝撃を逃がしたが、斜め上空へ吹き飛ばされてしまった。
「ふう、避け切られるとは。やりますね」
上空で、防御した腕を摩ると違和感を感じる幽間。
「ふむ、あの回し蹴りで腕にひびが入りましたか。後ろへ飛ばなかったと思うと…。全く、末恐ろしいですね。フフ」
「あいつは後だな、今は…」
「ゥオラァ!チィ!!」
綱海と死体が後ろから襲い掛かったが、誠士郎は目もくれず道弱に一気に近づく。
「お前からだ」
「ぐっ!」
「2人目」
霧と殺気を纏った手刀が道弱に襲いかかる。
がしかし、寸手のところで防御された。
遮ったのは先程まで生きていた女の身体だった。
「手が早いな。変態ジジイ」
「ほほ、危ない危ない」
女の身体が、吊るされた人形になりながら道弱を側で守っている。
「この女は、出るとこが出ていない故、見栄えが悪いの。じゃが、扱いやすく此奴の能力も」
ゴウッ
「うおっと!まだ話しておる最中に殺しに来るとは!せっかちじゃな!」
「ジジイの話は長いと相場が決まっている。付き合いきれん。ましてやお前の様な犯罪者の話など、聞く価値はない」
女の身体をねじ伏せ、既に左手に圧縮した霧を、道弱に向ける。
「散りな。"唐霧"」キュウッ!
「まず!」ボッ!
予備の死体を急いで取り出したが間に合わず、
ドドドドドドッ!
左手から前方へ一気に放たれた莫大な霧の中で、更に連続で爆発を繰り返し、八つ裂きになった。
「老いぼれた鼠にしてはやるじゃねぇか。生きてるとはな」
「がはっ、うぐ」
何とか寸手で死体を盾にしたが受けきれず、木に体を預けて血を吐いている。
「ごふ、ほほ、まだまだいけるぜ?小僧」
「まあいい。くたばりな」
今度こそとどめを刺す。
その瞬間、
「ぐっ!」
「やっと当たったぜ」
綱海の剛腕が誠士郎の脇腹にねじ込まれた。
「そらよ!」
「がっ!〜ちぃ!」
そのまま振り抜き、横へ弾ける。
飛ばされながらも何とか体制を立て直す。
(何故だ。気配はしっかりと把握していた筈…)
すると血を吐きながら道弱が、肩を揺らして笑う。
「ほ、ほ、ごふ。さ、さっきまで此奴がおった所を、よう見てみぃ。ぐふ」
目だけ晒すと、綱海程の大柄の死体が居座っていた。
「彼奴はわしの九重傀儡の一つ、[縄熊]じゃ。九重傀儡は、わしが十戒堂に瓜二つになる様作った物。貴様が感じ取っていたのはあの人形の気配じゃよ」
「だとしてもだ。たとえ一つ増えようが、俺が把握できないわけねえだろ」
すると、綱海が顎に手を当て、ニヤリとほくそ笑む。
「いや?そうでもねぇのさ。俺に限ってはな」
「意味がわからんな?これは、俺の鍛錬不足なのか、それとも随分と舐められてるのか?」
「いんやどれでもねえ。俺はあんたと、[ステゴロ]だっけ?をやりたいからな。特別に見せてやるよ」
次の瞬間、誠士郎は驚く。
綱海の身体が、半透明になったからだ。
「お前ならこの意味がわかるだろ?」
「なるほど。お前、
妖だったのか。通りで感じ取れないわけだ」
妖。この世に彷徨う亡霊。正気が全く無いが並々ならぬ執念で現世に留まる者達のことで、その性格、容姿、大きさ、特性も様々である。だが、完全に気配を消す能力と、他者の感情を見抜く能力が妖には必ず備わっている。
「正解だ!お前やっぱ頭良いな!俺頭良い奴は好きだぜぇ!」
「お主が少し阿呆なだけじゃよ、グフ、全く」
「おいジジイ。もうお前助からねえんだから、あんま俺を逆撫ですんなよ?」
「喧しい。まだまだ、と思ったが本当のじゃし。ゲホ、少しは労ってほしいもんじゃ」
誠士郎は殴られた箇所に手を当てる。
(くそ、さっきの一撃で肋骨が数本折れてやがる。あーもう、くそ痛えなぁ)
「つーか流石だなぁ。ほら見ろよ。殴った方の手の骨盤が外れてやがる。あの一瞬で壊しやがったんだ。おー怖え」
「しっかりやられてるではないか。はぁ、ゴホ、頼りにならんのぉ」
(早いとこケリ付けなきゃ、ヤバいな)
「ならば今世最強の傀儡師として、最期の演舞を披露し、お主に引導を渡してやろう」
そう言うと、9体の傀儡が誠士郎の前に立ちはだかる。
「ったく、張り切りすぎだ。変態ジジイが…」
同時に遠くへ吹き飛ばしたはずの幽間が戻ってきた。
「遅れました。おお、これがあの…。死なれる前に見る事ができて、とても嬉しく思いますよ」
「3人どころか12人になっちまったな!へぇ!面白ぇなぁ!やるじゃねぇか糞ジジイ!」
九重傀儡、最終幕"伽藍宴楽"
「ほほ、すまぬな小僧。正真正銘最期の演舞じゃ。十戒堂を模した我が傀儡達の怪演、とくと味わうが良い」
戦闘描写むずいよぉ〜。書いてて途中訳わからんかもしれない。
上手に描けてたでしょうか?
また分かりにくかったら教えていただきたいです!
因みに幽間の元キャラは(I)です。書いてて思ったがここまで似せたらパクリかもしれん。限度がわからん。