蒼霧の鬼
今回、キャラクターの視点がコロコロ変わります。
分かりずらいかもしれません。もし「分かりずれえな!」と感じた方が多い場合は編集しようと思いますのでご感想お願いします。
「了解。そのまま予定道理に事を運べ。相手はあの男だ。気を抜くな」
『了解』
部下が息子を確保した。彼が常に周りに気を配っていたため、スキがなさ過ぎて時間がかかったが。
彼もやはり人だ。世間では鬼神と謳われていても、家族と特別な時間を過ごすとなれば、緩むものだ。
取り敢えず第一関門は突破。第二関門は追いつかれずにたどり着けるか。ある意味一番の難関だが、部下には頑張ってもらう他ない。
「一応早く手を打っておいた方がよさそうだ。あれらも動かすか」
「…………私だ。何があるかわからん。早めに手を打つ。すぐに奴らをだせ。私も母方の方へ向か…」
なんだ?ここはこんなにも見通しが悪かっ…
「…!くそ!早すぎるだろ!すぐに動かせ!彼が動き始めた!」
直ぐに気づけなかった。辺りが霧に包まれつつある。
そう、この霧が、青みがかったこの霧こそ
彼が、
『国一おっかない鬼』が動き出した証拠だった。
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1分前
「二人とも寄れ」
「わわ、どうしたの」「旦那様、どうしたん?」
春人が消えたと認識した瞬間に、二人を抱き寄せてすぐ周りに霧を広げる。
…近くには居ない。珠人であることは間違いない。
クソ、敵はこの日のために用意周到に準備しているな。
「梅、悪いが楓とすぐに家に戻ってくれ」
「春人?春人は何処!?」
「ハルは俺が探すから安心してくれ」
「旦那様、坊ちゃんは[餌]や。用心してな?」
「ああ、わかってる」
「旦那様。どうか坊ちゃんを頼みます。奥様は必ずお守りいたします故、どうか、ご無事で」
「おう。悪いがそっちも頼むな?」
「お任せください」
梅は楓を連れて家の方へ歩き出す。
俺は本格的に体から霧を出し、辺り一体にばら撒いた。
「貴方」
声の方に振り向くと、楓が心配そうな顔を浮かべている。
梅も落ち着いてはいるが、何処か不安げである。
「どうした?」
心は冷えきっているが、笑って返す。
「必ず、一緒に帰ってきてね?」
「…おう、任せろ!」
「さて、と」
俺はさらに霧を濃くしながら領域を広げる。
愛する妻を不安にさせたこと、妻の使用人に余計な仕事を増やしたこと。
何より俺の息子を攫ったこと、
必ず後悔させてやる。
「捉えたぞ、鼠が」
――――――――――
「〜にこの子か?〜の子の形だが」
「ああ、〜まちが〜、〜子がアイツの〜だ」
んん、なんだろ。話し声が聞こえるけど頭がボーッとする。
疲れて寝ちゃったのかな?
何処なんだろう。揺れてる。なんだか記憶が曖昧だ。
手足が動かない、口も思うように喋れないし、声も出しにくい。なんだろこの感じ。よく分からない。
「〜が動きはじ〜た。なる〜稼げ。私はなんとして〜、〜の元へ」
聞いたこともない声。誰だろ、お父さんの友達なのかなぁ。なんで僕を抱えてるんだろ。
「んぐぐ」
「起きたか。流石鬼の血を引く子だ。分解が早いな」
「おひはんは、はれ?」
「すまない。名前は教えられないんだ。悪いのだがもう少しだけ寝ていてくれ」ピトッ
うなじに手を当てられた瞬間、体からまた力がなくなっていく。また眠気も襲ってきた。
だめだ、ねちゃう…。
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スウ、スウ
寝てしまったか。
…”しまった”だと?自分で眠らしておきながら、まだ偽善者の面を被る自分に嫌気が差す。私はこんな時になっても、まだ非常になりきれない。隊長と昨日話して、覚悟したはずではないか。
これまで人に言えないようなことなど何度もしてきた。子供に対しても、別に初めてではない。
なのに、何故こんなにも心が揺さぶられるのだ。この子に特別な情がある訳ではない。彼には世話になったことはあったが、それ以上の付き合いもない。
「次に目を覚ました時は、きっと私達を憎悪するだろう。それでいい。君には愚かな我々を未来永劫許さないで欲しい」
嗚呼、今わかった。
俺は、
君がこれから、私の持つ罪すら抱えて地獄へ落ちていくことが、
悔しくて悔しくて仕方がないのだ。
ドォォォン
!!
後ろが騒がしい。彼が近づいている。急がなければ。
――――――――――――――
「ちっ、ぅっとしいなぁ!!」
「くっ、ハァッ!」
右拳を寸で避けたと同時に、霧を右腕に纏わせ、振りかぶる。
ゴヴッ
「邪魔だ!デカブツ!!」
「!?」
思い切り相手の右頬に当て、そのまま地面へ叩き落とした。
「が、はっ」
俺のことを追ってこない。
大男はそのまま意識を手放したようだ。
懸命に跡を追うが、新手が立ち塞がる。
「クソ!何人いやがるんだ!!」
時間を稼がれている。いや、体力を削られているのか。
もう何十人と倒したが、未だ息子には追いつけない。
春人を攫ったやつは一瞬で遠くまで移動するが、どうやら瞬間移動ではなく単に素早いやつのようだ。しかし、こうして道中に何人も手練れの伏兵が忍んでいて、中々追いつくことができない。
追いつけないことに焦りを感じるが、奴らはそれすらも狙っているのだろう。奴の顔を見るがどいつもこいつも無表情でただ下された命令を忠実にこなしているだけで、その先にある目的が掴めない。どうやら下手な奴らには教えていないようだ。それだけ念蜜に立てており、よほど知られたくないのが伺える。
何で、よりによって俺の息子なんだ。
何でこんな時に!
ふざけるな、ふざけるなよ!
「道を開けろ」
「っ!」
奴が少しだけ怖気付き、たじろいだ。
その一瞬の隙を、俺は見逃さない。
予め、片手で包み込める大きさまで圧縮した霧を、目の前の敵まで一瞬で近づき、腹部に発勁を当てる。
同時に、圧縮した霧を一気に爆発させた。
「ぶはっ!!」
血を噴き出し、木々を薙ぎ倒しながら、真っ直ぐ吹き飛んでいった。
「ふーっ」
ああ、つい熱くなってしまった。
さっきの奴は死んだか。流石にやりすぎたが、どうでもいい。
今は追うことだけに集中しろ。足を止めるな。
「お願いだ。俺が行くまで無事でいてくれ!ハル!」
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「おい、そろそろ出番だぞ」
目標地点に辿り着いた私は、既に到着していた屑に話しかけた。任務とは言えこんな奴と共にやらなければならないなんて。本当に吐き気がする。
呼ばれて起き上がった男は、紫色の目がとても澄んでいて、ニヤついていた。何故こんな奴が、こんな綺麗な目をしているのかが分からない。男はすぐに抱えた子供に目を向ける。
「素晴らしい。予定より早いではありませんか。この子が彼の子供なのですね。おや?息子と聞いていましたが…」
「ちゃんと男の子だ」
それを聞いて少し驚いた表情を浮かべるが、すぐにまたニヤつき始めた。前よりもっと口角を上げて。
「何とまあ、可愛らしいお顔ですね。もし。この子も鬼の子なのでしょう?少しだけ抱きかかえても宜しいでしょうか?」
奴が手を広げてこちらに近づく。こいつ…舐めるのも大概にしろよ。
「ふざけるな。まだ貴様に預けるわけないだろう。後、立場を考えて物を言え。いつその首落とされるかわかったものではないぞ?」
「ええ、存じていますとも。少なくともこの任務が終わるまでは、私の首は繋がったままなのも、ね?」
くそ、こいつ自分の立場を分かっているな。今回の事は伝えていないのに、数少ない情報で自分が行う役割の重要性を理解したのだ。その上での挑発だ。だがお前は所詮駒にすぎない。
「どうかな?お前の代わりはいくらでもいる。いつでも切り捨てられるぞ」
「ふふふ、はははは」
肩を揺らして不気味に笑う。なんだ急に。
「何がおかしい」
「いえなに。答え合わせができたので、少々うれしく思いました。それに、駒なのは私たちだけでなく貴方もですよ。きっと我々には期待は寄せていないでしょう。ああ、気を悪くしていたら申し訳ありません。あまり深く考えないよう、お願いします」
掴めない。
こいつが今何を考えているのか。
「私のことなど貴方に理解できるはずもないでしょう」
「!」
心を読む能力があるのか。
「ふふ、まあそういうことでいいでしょう。教えるつもりはありませんが、ある意味能力の一つではありますので」
ドォォォンドォォォン
私が走ってきた方角から、轟音と暴風が押し寄せる。
「来ましたか。もう少し貴方とおしゃべりを楽しみたかったのですが、あなた方から頼まれた任務をこなすとしましょう。あ、よろしければ今度一緒にお茶でも」
「この子にもしものことがあったら分かっているな?」
「はっ」
私は抱えていた子供を部下に預けて、その場を後にした。
どうか無事で。
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「ふむ、つれないですね。まあ、今度ゆっくりとお話しすれば良いでしょう」
男は、寝ている子供に目を向ける。
「嗚呼、なんて素敵な肌、まるで女性のような整った顔、そして」
「おい、よるな」
「五月蠅いです。お静かに」シンッ
「は、ぇ」
男は子供を一瞬で奪い取り、腰の刀で目の前の物を頭から真っ二つに切り裂く。
グシャ
そして身体が切られたことに今気付いたかのように、遅れて地面に倒れ込んだ。
しかし男は目をむけずに抱えた子供に夢中になる。
「なんて、綺麗な血の色なんでしょう。触ると血の巡りがしっかりと伝わる。こんな小さい体でも血が巡り、息をして、必死に生きようとしている。生命に関する美しいものがたった一つの物に集約されている。
素晴らしい。素敵だ。嗚呼、もっと見てみたい。生きようとする顔を。その糧である筈の、
彼の血を出してみたい。
触ってみたい。
舐めてみたい。
それを作り出している心の臓腑を」
「おいおい、穏やかじゃあねえな」
後ろを振り返ると、供にここに連れてこられた者たちが、先程の音を聞き付けて寄ってきた。
「この子があまりにも素晴らしい素材だったので、つい我を忘れてしまいました。起こしてしまったようで申し訳ありません」
「はっ、想ってもねえこと口にすんな。やる前に一応言っとくが、邪魔と感じたらすぐぶっ殺す。あいつは俺のもんだ」
「カカッ!お前さん1人でどうにかなる相手ではないわ。こんな老いぼれにも声が掛かるほどじゃ。全く手荒く扱うのも程々にしてほしいのぉ」
「大罪人が何言ってんの。はぁ、こんな変態共じゃ、この先が思いやられるわ。頼むからすぐには死なないでねー。その後大変だから」
毛が無くなった老人、黒髪の筋肉隆々な大男、気だるげそうな女性が、白髪の爽やかそうな男の近くによる。
「おお、あの鬼神を相手に生き残れるとお思いとは、良い気迫です。是非今度お茶を飲みながら語らいませんか?」
「いやよ。絶対碌な目に合わないもの」
「そうですか。残念です」
「しっかしよぉ。散々ちょっかい掛けてきたやつらから仕事の依頼が来た時は驚いたもんだ。何人か殺しちまったが」
「ほお、大男でも驚くことがあるもんじゃな。案外、肝っ玉はそうでもないのかの?」
「爺。残り少ねえ寿命をさらに縮める気か?」
「カカッ、やれるもんならやってみい」
ギンッ!!
死角から目に見えぬ速さで飛んできた霧の塊をはじいた4人。
「やっときたか。待ちくたびれたぜ」
「ほほお。凄まじい殺気じゃのお。今のもかなり危なかったわい」
「はあ、面倒くさいなあ」
「皆さん。相手は国一の強者。気を引き締めていきましょう」
4人ともそれぞれ戦闘態勢に入る。
ゴオオオオォォ
周りの霧が、風と共に森の奥へ集まっていく。
その奥から、額から角が二本生えた鬼が現れる。
「息子を返してもらおう」
その顔は、怒りと殺意以外の感情は読み取れなかった。
戦闘描写、馬鹿難しくないか?
次のお話書くのが億劫です。
分かりずらかったら気兼ねなく仰ってください。頑張りますので!