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還咲の桜  作者: 占地茸
第一章  旅立ち編
6/32

一歩だけ

トントンッ

「入っていいわよ」

母さんにそう言われると、襖を開けてお父さんが入ってきた。

「準備できたか?」


「もうちょっと待ってて。今春人の服を決めてるから。んー、梅さん、そっちも良いけどやっぱりこっちにしましょうよ」

バッ

「そっちもええけど、坊っちゃんはこっちの色の方が似合うに決まっとりますぅ。あ、なぁ坊っちゃんはどっちがええの?」

バッ



「どっちも嫌だよ!!」

僕は今かなり危機的状況にある。何故か。

服が坊やだからではなく、お嬢だからさ。

今僕の目の前には、赤い生地に椿の柄がいくつかついた着物と、昨日話していた例の着物が置かれており、どちらを着るか問い詰められている。


因みに僕が選んだ服は、可愛くないからという意味不明な理由で速攻却下された。


(と言うか梅の奴、冗談だと思ってたのに本当に仕立て直してたのか…)

どちらも目が本気すぎる。怖いってもうホント。

着るの男ですよ?分かってます?


「うぅ、お父さ〜ん」

僕はお父さんを最後の頼みの綱にした。我が父ならば暴走したこの2人を止められる。

お父さんは僕を見て頷く。…勝った。





「んー、俺は梅が選んだ着物の方が「お父さん!?」

さっきの頷きはなんだったのか。我が父は、2人の選んだ服を吟味し始め、なんと梅の選んだ物の方がいいと言い出した。昨夜にお面がどうだのこうだのと、宣っていたではないか。

み、味方がいない、だと?

まともなのは僕だけか!?



と、とにかくどうにか服の柄を変えれるように動かなくては!

何か案がないかと箪笥の中を見回したが、僕自身があまり服に関心がなく、ほとんどお母さんか梅が選んできたようなものしかない。

まずい、まずいぞ!このままだとあの服になっ

ポンッ






「きまりやねぇ?坊ちゃん?」

背後を振り返れば、心底嬉しそうな顔をした付人が僕の肩に片手を置き、もう片方の手でしっかりと自分が選んだ服を握りしめ、こちらに近づけてくる。

あ、逃げなきゃ。

「やめ「逃さへん」

ここで僕は意識がなくなり、










気づいた時には…。






……………………

………………

…………

……






「おお!今年はすげぇな!!」

「ええ。前よりも更に派手になってる!あ、火の神輿もあるわよ!」

「楓さん。あんまり興奮せんと、お体に触りますよ?」

お父さんとお母さんは祭りの出し物に大興奮しており、悪魔は母の身体に負担がかからないか心配しているが、祭りだからか本人も少し浮き足立っているのは明らかだ。





「ほら。坊ちゃんもそんな後ろにおらんと、はよ行こお?」

「許さない」

「フフ、ご機嫌やなぁ。可愛い顔して、その姿やとさらに可愛く思えるわぁ」

この悪魔には言葉が通じないのか、会話ができない。

こっちは怒ってんだぞ舐めてるのか。

「舐めてへんよ?」

「っ!?もう、梅!」

「ンフフ!もう坊ちゃんほんま可愛いわぁ」

いやな時に心を読みよって!

わぁーっと、手を広げ近づき、抱きついて頬擦りをかましてくる悪魔。


「はぁ」

「春人?どうしたの?疲れるにはまだちょっと早いわよ?まだ始まったばかりなのに」

「これからこの格好で回ると思うと、それだけで疲れるよ」

「どうして?とても似合ってるわよ。これから回るところ全部に自慢していくのだから。それに雰囲気だけでも街の人は貴方に釘付けなのは間違い無いわ。安心して」

「ぁ…」

無自覚鬼畜発言をサラッとする我が母は、疲れる理由がさらに増えたことに全く気がついていない。

本当に父が言うような、勘の良さを持っているのだろうか。

少なくとも過大評価しているのは間違いない。

(あれ?あんな目にあってる原因、もしやこの人達では?)



「よしじゃあ、そろそろ行こうぜ。ハル、はいこれお面」

何が「よし」なのか知らないが、お父さんは僕らに呼びかけ、出店の方へ足を運ぶ。お母さんは返事をして父の隣に並び、悪魔はその少し後ろに下がり、共に歩み始めた。

足取りが重いが仕方ないと思い、僕も渡されたお面をつけて歩き始めた。

本当にこの服と合わないな。何故賛同したんだあの人。


――――――――――――


「ねぇ、あの子」

「まぁ!うふふ」

「ウホ、いいおと、男の、娘?」

「唆るぜ。これは」


道ゆく人に噂される。うぅ、めちゃくちゃ恥ずかしい。それに何だか寒気もする。こ、怖い。

情緒がぐちゃぐちゃになりつつある為、堪らず梅の手を握る。

梅がこちらを向くので、しばらく握っててと目線を送る。

し、仕方なくなんだからね?


「…坊ちゃん。あんまあたしを誑かさんといて」

「?」

「言ったそばから。いくらあたしでも、



我慢の限界があるんよ?坊ちゃん♡」



ビクッ

その時、いつもの揶揄う梅と同じように顔に笑みを浮かばせていた。しかし、普段とは何か違う。同じ顔なのに目線に熱があり、普段とは別の顔を覗かせている。まるで捕らえた獲物を見るような目だ。

何かとてつもないものを呼び起こすと思い、咄嗟に手を母の空いている方に移す。

「あら、手繋ぐ?フフ、みんな貴方を噂してるわ。男の子、なのにね?」

手を握ったことに心底嬉しそうな母は、嬉しいついでにルンルンで僕を揶揄う。少し引っかかるが、なんだかんだでやっぱりお母さんがとても安心する。

「梅、もう片方の手を握ってあげて。お祭りだもの、一緒に並んで歩きましょう?」

「はい♡」

「えっ」

安全地帯と思っていた場所は危険地帯だった。


「ま、ちが「ぎゅっ♡」

握られた手から、妙な湿り気と熱、そして決して逃さないと謂う意志を感じる。斜め上から視線を感じると同時に、ジュルッと音が耳に残る。

これは詰んだな。




「よお!誠じゃねぇか!やっと来やがったか!」

いつの間にか八百屋のおじさんが開く出店に着いたようで、いつもの様元気にお父さんに話しかけてきた。

「おう、おやっさん。悪りぃ、遅くなったな。本当はもうちょい早く来るつもりだったんだが。色々とな」

「いいってことよ!いやぁ久しぶりだな!すっかり男前になったじゃねぇか!」

そうか。お父さんは暫く帰ってきてなかったから、祭り自体も久しぶりなのか。


「おいおい、昨日あったじゃねぇか。しかも一言一句おんなじセリフ吐きやがって」

「あれ?そうだったか?あんま昨日の記憶がねぇな?」

「珍しいな。あ、もう老いが始まっちまったか」

「やかましい!余計なお世話だ!まだまだ現役よ!」

「ははは。そんなに元気じゃ、まだまだくたばらんな」

「あたぼうよ!俺は百まで店を構えるって決めてんだ!」

2人は10歳離れているのに、年齢差という壁を感じない間柄なのがよくわかる。どちらもまるで同い年の友達みたいだ。

いいなぁ。僕もあんな風に話してみたいな。


「しっかし家族総出で祭りに参加たぁ、ほんと仲のよろしいこって。…ん?お前に娘なんぞ、…この娘、もしかして、春君か?」

「…は、はい」

「えっと、何で女の子用の着物なんだ?」

「「「おう(はい)、似合ってるだろ(でしょ)?」」」

「……えっと、似合ってるな」

ねぇ困ってるじゃんか。


「やっぱそうやろ!?ほんま坊ちゃんは可愛いんよ。ほんとはおめかしやりたかったけど、おめかし無しでこれやからなぁ。おめかししたらなぁ。でもでも碧い目はクリッとしとるし、顔も小さいし、はぁぁ見てみぃこの小さな口。背は少し伸びてまったけど、まだまだ成長期に入りきっとらん華奢な身体と服がとっても際立っとるんよ?逆に、今でしか見られない謂わば限定もんやの!わかる?なぁ?」

「…ア、ハイ」

もう引いてるじゃん。元気が人一倍ある人が声を小さくし、後退りするほどには。


「春君、苦労してるなぁ」ボソッ

「な・に・か?」

「いいえ何でもございません。ご拝見させていただきとても光栄にございます」

「そうやね?」

この一瞬で完全に力関係が明確になった梅と親父さんだった。





「おい!敦!寝てねぇでお前も降りてこい!春くんが来たぞ!」

「…ぁ、ああ」

ドキッ

会いたくない!特に今は!

この間の件もあってだけど、こんな格好見られたら絶対に馬鹿にされるに決まってる!

(また、あんな思いを…。いや、もっと酷くなるかも)

鼓動と呼吸が速くなる。目の焦点が合わない。冷や汗が出てるかも。思考もまとまらないし、どうしたらいいのか分からない。逃げたいのに、足に力が入らない。けど、逃げたらみんなの気が悪くなる。どうしようどうしよう。

怖い。怖い。こわい!





『お前はそいつらより強い。』

ふと、父がかけてくれた言葉が頭の中に響いた。

皆んなより強い。そんなの思いもしなかった。自分は人間じゃない化け物でありながら、ただ光るだけの雑魚能力だと。珠人としても劣っているのだと考えてきた。

他人どころか自分自身さえ救えない。

父の様にはなれないのだと。



そんな僕が強い、か。 

そう言ってくれた、お父さん。僕をいつも気にかけ、心配してくれている優しいお母さん。

『坊ちゃんのこと、信じて見守っとるよ』

信じて側に居てくれると誓ってくれた梅。



まだ頼りないし、足らない所だらけな自分を見ててくれている、この人達に少しでも、少しずつでも、応えられる為に。

何より、自分が言った言葉を嘘にしない為に、




この恐怖(人たち)から、逃げちゃいけないんだ。





考えているうちに、彼が降りてきた。

僕の姿を見て少し目を見開くが、すぐに鋭い視線を送ってきた。

(あの言葉を、嘘にはしない!)

少しでもと、毅然に構える。睨み返してはいけない。父の言葉の意味はきっとそんなことではないはずだから。

背筋を伸ばし、悠然と、目を自分なりに凛々しくする。

無論、見栄を張っているだけ。少し押したらすぐに倒れる様なハリボテの意地。

それでもいい。ただやられるだけにはもういかないんだ。



「!…けっ」

「本当に女の子みてぇだろ。髪が長かったらマジでわからなかったぜ。ガハハ!」

「…だとしたら親父。相当節穴だな」

彼は目線を外し、小石をけって町の方へ歩き始めた。その後ろ姿は何故か震えていた。

「な、なんだと!おい、どこ行くんだクソガキ!」


「…何がかわいいだよ、くそが。どこに可愛さがあるんだよ」

何か呟いていたが幸い、親の前のおかげでこれ以上噛みつかれずに済んだようだ。



「愛想の無い息子だぜまったく。ごめんな、春君。嫌なことしたらやり返していいからな?俺も後でちゃんと叱っとくよ」

「…いえ。きっとこんな格好だからびっくりしたんですよ」

「ハハハ。ま、そらあ違えねえな!」

その後も少し話をして、親父さんの売る焼きとうもろこしを一つ購入し、次のお店へ足を進めた。



き、緊張したぁ〜。本当に怖くてたまらなかった。お母さんにも隠したままだったし、噛みつかれていたら絶対バレるから本当によかった。





肩の力を抜いていると頭に大きな手が置かれた。上を振り向くと父が笑っていた。


「よくやった。さすがは我が子だ」


どうやら、少しは期待に応えられた様だ。

たった一歩だけど、今はその確かな一歩を踏めたことに少しだけ喜ぼう。


「えへへ!…ぁ」


ん、体は正直。がっつり喜んだ反応をした。

シロコ、かわいいねぇシロコ…。

あっどうも、犯罪者予備軍です(自己紹介)。

皆さんもブルアカをやりましょう。

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