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還咲の桜  作者: 占地茸
第一章  旅立ち編
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祭りの前夜は

ひとしきり遊んだ後、梅は晩御飯の準備の為に、下に降りていった。僕も手伝うと提案したら、ケガをしてるから駄目と言われた。ならお父さんに幼い頃からしていた、武術のお稽古をつけてもらおうとしたが、こちらも五体満足の身体じゃないからと却下された。少し寝たし充分休んだからいいのに。



特にやることもなかったので、外廊下から外を眺めている。子供ながらに凄い家だと思う。二階や庭もあり、他にも道場や、広い故に未だよく分からない部屋もたくさんある。「硝子」という板でこうやって外を眺められるのも他の家ではあまり見ない。



今日は夜だと言うのに、街から賑わっている声が聞こえる。ここから少し離れているにも関わらず、この時期の街の夜は、まるで昼のように賑やかになり、明かりも消えず、とても綺麗な街並みが浮かび上がる。この景色はこの家からしか見られない、新しい年が近いことを知らせる風物詩だ。

「そういえば、明日だったな。神来祭り」



物思いに耽っていると、下の階からいい匂いがしてきたと同時に、後ろにある襖の先に気配を感じた。僕の自室からこちらの様子を伺い、僕の隙を虎視眈々と狙っている。



「梅、バレてるよ」

「あら、ばれてもうた。また驚かそう思うたのに」

そう言って梅が襖を開けた。バレたことが不満なのか、少し不服そうだ。

「同じ日には、流石にね」

「そう言って坊ちゃん、同じ日に同じことでびっくりしてるの、よおさんあるよ?」

「…」



自覚は無かったが思い返すと多分あると思うので取り繕う為、ダンマリを決め込む。

よし、隠せたな。

「ンフフ、なかったんやねぇ、自覚、ンフフフ」

すぐにバレた。そうだった、この人心読めるんじゃん。

僕の反応を見て、またクスクスと笑っている。

(うう、そんなに笑うことないのに…)

「あ〜、笑った笑った。本当に坊ちゃんは、反応がとっても良くて、面白いなぁ」

「も、もう!何の用なの!」

なんだか恥ずかしくなり、話題を強引に変える。

梅は笑いながら姿勢を少し正す。



「ああそうやそうや。ご飯ができたから呼びにきたんよ。今日はお魚さんや。手ぇ繋いで一緒に下いこ?」

「そうだと思った。ありがとね、作ってくれて。それじゃ行こっか」

僕は立ち上がって、下に向かおうと歩き出す。

「もう、いけずやねぇ」

恥ずかしくて手を繋がなかったことに後ろで不満を漏らす梅。

「僕はもう来年で11歳になるんだよ?そこまでこどもじゃ、…聞いてる?」

「んもう、ええやん。そんな恥ずかしがらんでも、ね?」

話してる間なのに手をつないできた。言うことあんまり聞かないしホントにこの人付き人なの?

「ほら、はよ行こ?ご飯が冷めてまうけんさ?」

「…ん、わかったよ」

僕は説得を諦めて、手を繋いで食卓へと足を運んだ。



「怪我も治ってきたねえ」

「梅が必要以上にかまってくれてたからね」

僕の体は、傷の回復が極端に遅いが、いつからか梅とだけ触れ合うと怪我が早く治る変な体質だった。ゆえによく怪我して帰ってくる僕の看病を任されており、その体質が分かった当初、母親が複雑な表情をしていたのをよく覚えている。

「その、あ、ありがと」

「ふふ、いいんよ」

その間、梅は「えへへ」と嬉しそうに笑っていた。





………………

……………

………

……




「あー、もう一年だったのか。今年も早いな」

ご飯を食べている中、外から見えた街の様子を伝えると、お父さんがしみじみ感じたように話した。

「本当に。しかも貴方も久しぶりに帰ってきた。来年は、家族みんなで迎えられそうで本当によかったわ。ね、春人」

「うん。えへへ」

母がとても嬉しそうだ。お父さんはいつも住み込みで働いている為、こうやって家族でご飯を食べるのも珍しく、お父さんに会えてとても機嫌が良い。

(相変わらずお父さんのことが好きすぎる母だな)



「じゃあ今年の祭りは、みんなで行こうか」

お父さんが祭りに僕らを誘うと、お母さんが大はしゃぎになった。ふんふんと息巻いている。

「いいわね!ねぇ梅さん!一緒に浴衣、着ていきましょ!」

「ンフフ、ええねぇ、ほな後で、柄も選びながら一緒に引っ張り出してきましょうな」



とても楽しそうに話していると、梅がこちらを向いてニヤついていた。

「あ、そや、坊ちゃんも着る?ゆ・か・た。」

「まさか、あの浴衣着せるつもり?」

「うん♪」



それは僕がまだ4歳の頃に祭りで着た、桜色で女の子みたいな花柄の浴衣だった。その頃の事はあまり覚えていないが、髪が長かったので後ろで結び、その浴衣を着た僕を見て大興奮していた事だけは鮮明に覚えている。

「やだよ!僕はこの格好でいいよ!」

「大丈夫、今でもとっても似合うけん、ね?」

「ね?じゃない!それに!もう服小さいから着れないよ!」

「だいしょうぶや。また仕立てた♪」

「」

そこまでやることか。怖いってもう。



「梅。あまりからかわんでやってくれ。確かにまた見たいもんだが、これとは似合わんからな」

「これ?」

そう言うとお父さんは、お面を取り出した。そのお面は()()()()で見たお面と同じものだった。


「お父さん。これ、あの場所にあったやつ?」

「あの場所?…いや、お面なんかあったか?これは俺が作ってきたモンだぞ?自信作でな!」

「え?あ、あぁそうなの」

お父さんは、自分が見たお面は見覚えがないと言う。



(おかしい、見えない位置には無かったはず…)

お父さんの返答にさらに頭を悩ます。明らかに父が現れる前から会ったお面なのに、自分が作ってきたと言う嘘をわざわざ言う必要があるのか。たとえ作ってきたとしても自分が作ってきた面と瓜二つなものが置いてあって気づかないのも変だ。



(どうして…。…あ)

そういえばあの時、泣いていたせいであまり気にしなかったけど、木にお面は掛かっていなかった。まるで最初から無かったかように。



(どうしてなかったんだろう)

「どうしたの?春人?」

お母さんが心配そうに、下を向いた僕の顔を覗き込む。

「ん?あ、っとぉ、なんでもないよ?明日、どこ回ろうか考えてだけ」

「…そう?そうねぇ〜、明日どこを回ろうかしら?」

母に返事しながら目の端で父の顔を少し見る。

態度には出さないが、目だけはまるで観察し、見定めるかのようにジッとこちらの様子を伺っていた。



(なんだか、あまり触れてほしくなさそう…)

お母さんに今回の傷について、勘づかれるからかな。ぼくの判断に任せるつもりだし、きっとそうかも。

そのまま母の方を見るが、勘づいているようには思えない。



「…ハル」

「ん?何?」

声をかけられたことに少し驚きながら、今度はしっかりとお父さんを見た。何を言われるんだろう。今は、お父さんが少しだけ怖く感じる。






「お父さんがいるからな」

お父さんはそう言って眉尻を下げながら僕に微笑んだ。

ありきたりで慰めるため発したその言葉に、顔に、

何故か安心し、とても心に残った。

「ありがとう。お父さん」



その後皆で祭りについて話し合って神社にお詣りした後は、お母さんが行きたがった金魚掬いが一番最初になり、最後に穴場で花火を見ることになった。


---------------




























































































「穴場、か」

目的の家に忍び込んだ影一つが小さくこぼす。

影は音、気配一つなくその家を後にして、離れていた大きな影と重なる。

「総員、明日の奴らの行動先がわかった。今から言う場所に、配置をつけろ」

「「了解」」

影は正確且つ、必要最低限の説明を行った。


……………

…………

………

……


「…以上だ。質問があるもの以外は任務開始だ」

大きな影はどんどんと小さくなり、やがて二つの小さい影になった。



「発言を許可する。なんだ」

「………本当にやるのですか?」

「お前に話したのは、まだ舞台から降ろすべきではないと判断したからだが。…当たり前だ。これをやらなくてはまた数百年、いや、数千年は先延ばしになる。後世のためにも動かねばならん」


「……お恥ずかしいですが、これは余りにも酷ではありませんか!今までこの国に尽くしてきた彼に対して、ましてやなんの関わりもないその子供に背負わせるなんて…」


「情か?古株のお前が珍しい。彼に()()()()のであれば、才あるその子供に頼ればいいだけのこと。たとえどんなに弱い能力であれ、あの子も鬼の珠人であることには間違いないのだから」


「…しかし…っ!なら、私が!」


「今更言っても遅い。第一にお前では役不足だ。能力も、実力もな。確かにあの子から見れば必要のないものを無理矢理背負わされるものだ。溜まったものではない。が、これは仕方ないことだ。このような事にならないためにも、あの子には最後の犠牲になってもらう。


…それに、鬼というのは古来より人に仇なすものだ」


「!!…そんなのって!」


「話は以上だ。これ以上肩売りするなら、他の者と同じ運命を辿るぞ?奴らよりも早くな」



「…本当にあの子が最後なのですか」


「そのつもりだ」


「その後には、本当に来るのですよね?」


「その為にあの子が必要だ」


「…今回ほど、自分の無力さを呪ったことはありません」


小さな影が一つ消えた。

最後に残った黒い服の男は、深いため息をして、月も出ていない夜空を見る。






「それは、私もだよ」

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