準備万端
第三章・新風祭編、開幕でございます!
投稿が遅くなってしまい申し訳ありませんでしたあ!
代表者発表からそろそろ半月が経ち、新風祭まであと二日となった。
気温も暖かくなり、桜が芽吹くのにも丁度あと二日といったところだろう。
遥か西の土地にも、春人たちと同じ様な学校が点在していた。
「おう、今日はもうその辺にしとこうや」
同時刻、手にミットをつけた中年の男が、その年齢にしては大きすぎるガタイをした男子に訓練を中止するように呼び掛ける。
「も、もうかいな!?まだ体力有り余ってしゃあないっちゅうねん!」
「しゃあけどそろそろ休んどかんと今度の新風祭に響いてまうで」
「ぐっ、分かっとる!わかっとるよ…しゃあけど…」
今度出場する新風祭に参加する男子は、自身の教師の言葉に理解はしているが不服そうである。
その様子に教師は、呆れと感心の意味を含んだため息を漏らす。
「お前は血の気が荒いったらあらせんのー。大丈夫や、お前の実力なら優勝確実や。せやから少しは安心して体を休ませぇや」
「不安やからやっとるんやあらへん!ワクワクしてたまらんのや!」
落ち着くよう教師が宥めるが意味も無く、男子は逆に更に鼻息を荒くし、その場で拳を振り始める。
「ごっつ強い相手がきっとようさん来るっちゅう事が分かっとんのにじっとなんかしてられへん!じっとしとったらこのワクワクが体の内側から爆発しそうや!」
「っ…」
この歳にして恐ろしいほど鍛え抜かれた肉体、呼応するかのように大きく伸びた身長と骨格、その眼光にはまるで獣が宿っているようだ。何より教師が恐ろしく感じたのは、その殺気の圧力である。教師がこの子と同世代でないことを、心からありがたく思ってしまう程の殺気の圧。
嘗て彼が育て上げてきた生徒の中でこれほどの逸材は見たことがなかった。
その男子を末恐ろしいと思う反面、期待している面もある。
この子なら優勝どころか、将来位席入りも夢じゃない。
「もう少しで叶う…。どついてどつかれて、お互い知らん相手同士の全てを出し合ったガチンコ勝負が…。もう少しで出来る!こんなんわかっとんのにじっとなんかしてられへんで!!」
その場から少し先の木まで一瞬で移動した男子は、その木を地面ごと思い切り殴り飛ばした。
「うおっ!?少しは落ち着け馬鹿垂れ!けどあんまり期待せんほうがええんちゃうか?毎年開催しとるけど、お前ほどの男は滅多におらんかったで」
「そうやなぁ、ワイも毎年見に行ってたからそう思うわ。しゃあけど、ようわからんけど多分今度の大会、いつもとは違う気がするんや」
「なんやと?」
「確証はあらへん。せやけどそんな気がしてならんのや」
真っすぐ研ぎ澄まされたような眼光が、その説得力を物語る。
確かにその予感は何故か教師にも覚えがある。噂では東の方の学校で、龍崎大将の孫らしき子供が編入学したっていうし、何より冬村家の子供が入学したと通達があった。
他にもそれぞれの方角にそれなりの強力な能力を持った生徒が入学したという。
しかし、今回の優勝候補はここ浪速の、西虎威訓練学校であることに変わりはないと教師は確信していた。
数人の大将の子供を預かっている上に、その他にも粒ぞろいに強い能力。
そんな中にいても特別強い目の前の男子は、彼らを出し抜いて代表に選んでしまうほどに圧倒的であった。
他の生徒も満場一致で彼を推していたほどのカリスマ性。
それを支えているのは彼が唯強いだけではなく、数えるだけでも眩暈がするほど繰り返した訓練の数々を、人一倍努力してきた場面を見てきたからだろう。
「おーい牛次!アイス買うてきたからみんなで一緒に食べようや!」
何人かの生徒が窓から身を乗り出し、彼を誘う。
「あかん!ワイ今今度の祭ん為に身体引き絞っとる最中や!せっかく買うてきてくれたのに悪いんやけどお前らで食べてな!」
しかし今度の祭りに全てを出し切るつもりなのだろう。
少しでも懸念を捨てるため、彼はこの誘いを断った。殊勝な心掛けだと感心する。
「ふーんそっか。っじゃあお前の前で食うたるわ!」
「っんな!見えんとこで食わんかい!食いたくなってまうやろ!」
「みんな!どうせなら牛次を取り囲んでアイス食おうやー」
『あーい』
「ちょ、くんなお前ら!おい!そんだけのために能力使って取り囲むなや!」
しかし、彼がそれほどまで警戒するほどの相手がこの大会にいるとは思えない。
彼は、何をそんなに焦っているのだろうか?
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私たち代表者は体を休めるために、先生は祭りで付添人として同行するため、現在この学校は実質休校で普段の授業は行われていない。しかし、今度の祭りは全員で観戦をするため華街とその近辺に実家がある以外の生徒は帰省せずに学校で生活をしていた。
「春人君、この間からずっとあの調子だけど大丈夫かな?」
最近、春人君の様子が変であり、とても心配だ。今度の試合に対して余程緊張しているみたい。
「確かにあの時感じた圧力が今は無いな…」
隣にいるナオ本人もそう感じているようだ。
彼ですら本気にさせた実力を春人君は身に着けたはずだったのだが、最近の彼の動きにはキレが無く、とても彼を追い詰めていた者とは思えないほど、常に不安げな雰囲気を漂わせている。
「やっぱりナオもそう思う…よね」
「まあ仕方ないんじゃない?戦わなきゃいけないし、代表者ってだけで相当なプレッシャーだと思うし」
「だとしたら相変わらず肝が小さい男ね」
夕ご飯を一緒にした美遊は目の前でうんうんと頷き、その隣にいる冬村さんは呆れるようにため息をこぼした。
「でも今回はそうじゃなくて、何かやろうとしてるみたいね。彼」
「「「え?」」」
冬村さんの言葉に対し、何もピンとこない私たちは頭を傾ける。
その様子が意外だったのか、逆に彼女が少し驚いた様子で私たちを見つめる。
「橘さんはともかく…あ、貴方たちそれなりに仲がいいのに気づいていなかったの?」
「「あ、あはは」」
いやぁこれはお恥ずかしい。
一番長く時間を共に過ごしていたのに全く気付かなかったなー。
「呆れた……貴方たちよく友達やってるわね」
「「ぐはっ」」
彼女の恐ろしく鋭い言葉が私たちの心を抉る。
「なんだかんだウチが一番キツいこと言われてるからね?」
「ご、ごめんなさいそんなつもりは…。ただ橘さんは何というか、その、人に合わせないというか、空気が読めないというか」
「うん、ありがとう冬村さん。ちょいその辺にしとこっか。心が死ぬ」
「ほっ、分かってくれてうれしいわ」
冬村さんにその気は本当にないにしろ、フォローが下手にもほどがある。
項垂れる美遊を見て本当にそれでいいのかといいたくなったが、更に傷口を抉ることになりかねない為ぐっとこらえる。
「うう、つまりハルが最近調子が悪いのはその為なのか?
「…ハル?」
え…今なんて?
「ええそうよ」
「そうだったのか。にしてもよく気が付いたな。普段そんなそぶり一切なかったぞ」
「ねえハルって?」
呼び方が、変わってるんだけど、なんで?
「た、偶々そう感じただけよ」
「へえ、偶々……………ねぇ?」
「ちょ、ちょっと何よ橘さん、その含みのある言い方は」
「べっつにいー?雪のお姫様も随分とお熱があるようで可愛いなぁと思っただけだし?」
え…ナオだけじゃなくて冬村さんまで彼の事を…。
「そうなの?」
「っ!そ、そんなつもりはないから!」
「ど、どうしたひかり。なんか目が怖いぞ?」
目が怖い?そんなつもりはないのにどうして?
そんなことよりもだ。
「ナオ、今春人君の事…」
「ん?ああ、俺たち呼び方変えたんだよ。こんだけつるんでていつまでも他人行儀なのは変だしな」
「へえ、そうなんだ」
私ですら…
「ひ、ひかり、さん?」
私ですら、そんな可愛く呼ばせてもらってないのに。
「ずるい…」
「……………へ?」
「ずるいって言ったの!!」
「…………ず、ずるいと申しますと?」
ナオは何で私が怒っているのかわからないといった表情を写す。
その顔がさらに私の怒りを膨れ上がらせる。
なんでわからないかなあ!?
「ずるいじゃん!私だって……私だって……!そんな風に読んでいいなんて言われてないのに!」
「あ、天菜さん落ち着きなさい!」
「そ、そうそうひかり!落ち着きなよ!甲坂だって春人君と別に仲が悪いわけじゃないんだし…。なにもおかしくはないんじゃないかなぁって」
……………え
二人して、ナオの事庇うの?
ジロッ
「「っ!!」」ビクゥ!
「どうしてそんなこと言うの?」
「…っ」
「ひっ」
だんまり。こういう時は彼女に聞くのが一番だ。
「ねえ、どうして?……………美遊」
「名指し!?え、えぇえっとぉ、そそそそそそれはぁ…あのですねえ。呼び方なんて別にそんな大げさなことじゃないと」
「は?」
今なんて言った?
「ひいいいいいいい!違う違うそうじゃなくてですね!?」
「……………馬鹿」
「じゃあなんなの?」
「ええっとあの、そういう所が呼ばせてくれていないのかなぁって」
「「っ!!」」
「…」
「馬鹿!なんでそんな火に油を注ぐ様な真似するの!馬鹿なの!?」
「俺もそうだと思うけど、もう少し言葉を選んでだな!」
「ふええ…ももももしかして私、また何かやっちゃいました?」
「「ああやっちゃってるよ!」わよ!」
「………………へえ、そうなんだ」
「「「っ!!」」」
「もう少し詳しく聞きたいな?美遊、ちょっと二人だけで話そ?」
「ええいやでも」
「早く」
「…はい」
私は美遊と手をつないで、席を立つ。
おっと、忘れてたよ。
「…何はともあれ助かったぜ」
「ナオもちょっと来て」
「はい」
「…馬鹿ね」
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僕は先生にもらった測定機を取り出し、つながれている青と赤色の皮をかぶった二本の銅線を握って、意識を集中させる。
空はもう既に明るくなり始めている。
もう少ししたらここからでも日の出が見えるようになるだろう。
これが最後の試みになるな。
今日も十分動いた。
感覚もつかんでる。
後は意識してできるかどうか……………。
「スウ……………ハア、……………ふっ」
滲む汗。
刻々と過ぎていく時間。
服がすれる音すら透き通るほど静かな空間。
ただじっと、黙々と、
ひたすらに、その可能性を信じて…
ジ
ジジッ
「……やった………つ、ついに、できた」
測定機の針が右へ動いただけだ。決して目立つような変化は起こっていない。
だけどそれは出来ると信じて続けた二か月余りの毎日、やっとの思いで成功した証だった。
「やったな」
後ろで見ていた先生が零すように呟いた。
「先生、僕ついに出来ました!」
「おおよくやった。よし、後は試合でぶつけてこい!」
「はい!」
何とか間に合わせることができた。
鬼胎という名の積もりに積もった曇天から一筋の希望を指し込むかのように、日の光が僕らを小さな窓から照らしていた。
……………
…………
………
……
…
午前八時半。
依然頼んでおいたからくり装備が出来たのか気になったので、工作室に向かう。
「失礼しま」
「お待たせいたした春人殿!」
「うわっ!?」
扉を叩いて開こうとしたら勝手に扉が開きだし、雷電君が顔を近づけてきた。
勢いよく飛び出されたので少しよろめきながらも、彼の顔を見る。
目の下には隈が見えるが、顔全体に喜びを張り付けたような顔を見せる。
どうやら間に合ったようだ。
「その様子だと、出来たみたいだね」
「ええ!つい先ほど試運転と各テスト項目を終えたばかりでして、やっとこそ満足頂けるような装備が完成致した!ささ、早速中の方へ!」
連れられて行くと、そこには手の平くらいの大きさをした円柱型の装備が二つ置かれていた。
透明なガラスの中に鏡のように反射する謎の鉱石が埋め込まれ、頭の方には周りに数字が羅列しており、てっぺんに多分指をかけるであろう輪っかが取り付けられている。
「全く、遅すぎだ馬鹿弟子が」
「いやあ拙自身も粋がった癖に、ここまで納入日がギリギリになるとは思いもしなかったでござる」
「まあでもこうして間に合ったわけだし、大丈夫だよ」
彼もまだ僕らと同じ学生な訳だし仕方ない。
彼は装置の片方を持って、部屋にある全ての窓のかーてんを閉め、僕を机から少し離れた場所に移した後、部屋の明かりを机の上以外の全てを消した。
「ささ、春人殿!拙の手際の悪さ故に申し訳ありませぬが、集合時間まで時間がありませぬ。急いで試運転の方を行っていただきたいでござる。先ずは机に置いてある方に光を当ててみてくだされ!」
「わ、わかった」
言われた通りに、澪標で机の上の装備を照らす。
すると直角に光が曲がり、その奥に立っている柱を照らした。
「おお凄い!曲がってる!」
「それは中にある石ころのおかげでござる」
「え、この石が?」
「左様。その石は持ち主を記憶する鉱石、命録石というものでござる。本来は他の鉱石と何ら変わらぬが、記憶した者が殊人である場合にのみ、その者の能力に合わせて姿や質を変える特殊な石にござる」
へえ、世の中にはそんな石があるのか。
まあ形を覚える石もあるって聞くしそんな感じと一緒か。
「言い訳で申し訳ないが今回の装備を制作するにあたって、この石がそれなり希少で入手するのに手間取ってしまい、ここまで遅くなってしまったのでござる。本当に申し訳ない」
「ううん、僕のためにわざわざ用意してくれたんだもん。お礼を言っても言い切れないよ」
彼は僕の様子を見てホッとしたのか、直ぐに先ほどと同じ様な笑顔を浮かべる。
「では今度はこの装備の頭の周りにある、数字が書かれた部分を回して矢印の部分に好きな数字を置いて見てくだされ!」
「う、うん!」
数字は10単位で切り替わり最低0、最大350まである。
「じゃあ、150にして…と」
「ではでは、机に置いて照らしてみてくだされ!」
照らしてみると、少し曲がった先を先ほどと同じように照らしていた。
「へえ!さっきの数字は反射する角度を変えられるのか!」
「それだけではありませぬぞ!そのまま照らした状態のまま、動いてみてくだされ!」
その装備を中心にして歩いていくと、光の当たる場所も同じ速度で変わっていく。
「僕から見た時の角度が変わらない。これは使いやすいな」
だけどさっきから気づいていたのだが、僕が出してる光度よりも少し暗いような…
「今回特に苦労した部分でござるなあ。その石には春人殿以外から差し向けられる全ての光は反射せずにそのまま透過するように調整したでござる。しかしそこまでは良かったものの、屈折の角度を操作するためには様々な知識と検証が必要としたのでござる。まず最初に」
「その辺にしとけ。そろそろ集合時間だ」
時計を見ると既に短針が九時にほぼ指しかけている。
「もうそんな時間でござるか!ささ、春人殿。これをお持ちになり早く集合場所へ!」
「え、でもまだ説明していない箇所があるんじゃ」
「心配ご無用、説明書とゴーグルを付けてあるでござる。荷台の中でそれをお読み頂ければ!」
「う、うんわかった」
ごーぐるとは?まあ後で確認しよう。
急かされながらも装備を箱に入れて、集合場所へと向かう。
あっと、一番大事なことを言い忘れていた。
「雷電君、作ってくれてありがとう!行ってきます!」
「!!いってらっしゃいませ!ご武運を!」
…………
………
……
…
午前九時。
集合場所である校庭に着くと馬車が何台か学校に停車していた。
僕らの学校は他の学校よりも華街に近い場所にある為、毎年迎えは自動車よりも燃費がいい馬車なのだそうだ。
「まさか馬車移動とは…車に乗れると思ったのに、何というかちょっと拍子抜けだな」
「代表者とはいえ、お前たちはまだまだ卵だ。そんな若造どもの、しかも一番近い学校にまで自動車を出すほど景気がいいわけではないからな。それにこちらの方が大人数を運べる」
「わーったよ。言ってみただけだ」
そういう割には随分とすねたような顔をするナオ。
というより頬っぺたが妙に赤いような気がする。
そういえば冬村さんもどこか疲れた顔をしていたし、美遊さんなんか顔が真っ青で体を震わしている。風邪でも引いたのだろうか。
「というかハル、来るの遅かったな。どうしたんだ?」
「こないだ教えてくれたからくり装備が完成したから取りに行ってたんだ」
「おおついに出来たのか!だけどまた随分とギリギリだな」
「まあ色々あってね。ナオの方こそ、顔が赤いけど何かあったの?」
「ん?あー……………まあ色々あったさ」
……………それ以上は聞かないことにした。
「おはよう。春人君」
「っ!お、おはようひかり」
……………なんだ?いつもの彼女ではない。
ただ挨拶をしただけなのに、言い表しにくい妙な圧を感じる。
恐らくナオの頬っぺたにも関係することだと思うのだが、それが何かは全く分からない。
「……………やっぱり君もナオって」
「………っ!」ゴクッ
成程!そういう事か!!
彼女の圧の原因は、ナオの呼び方についてだ!間違いない!
まずいまずいまずいまずい!!
やはりこの呼び方をするのはやはり早すぎたか!
それはそうだ。よくわからないガキンチョが自分の幼馴染を親しげに呼んでいるのである。彼女にとってはあまり面白くない状況なのは言うまでもないだろう。
……………はっ!そう思うってことは、
つまりひかりは、ナオのことが……………
つまりそういう事か!!
「ふっふっふ…」
「…?春人君?」
遂に分かってしまったよ僕は。
ならば僕は最大限支援し、応援しようではないか。
「任せてひかり」
「………………え?何のこと?」
ふむ…これは恥ずかしいからとぼけているに違いない。だが今の僕はすべて理解している。
しかし不思議なもんだ。他人の恋愛事情とはこうも心躍るものなのだろうか。
今の僕が二人に対し何ができるか。
「わかってるから、大丈夫だよ」
「っ!!そ、そうなんだ!…それじゃあ私も」
答えは決まっている。
「うん、やっぱり早かったんだ。呼び方を戻すよ」
「………………へ?」
それは、二人との距離を改めて考えて計ればいいのだ。
「改めて、新風祭頑張ろうね!天菜さん!」
「」
どういう事だろう。
苗字で呼んだ瞬間、一瞬で絶望に満ちた表情になり、倒れてしまった。
な、何か癪に障る部分があったのだろうか?
「ど、どうしたひかり!?何があったんだ?」
「わ、わかんない。僕なりに気を利かしたつもりで呼び方を戻したんだけど、そしたらなんか倒れちゃったんだ…」
ナオがぎょっとした表情で見つめてきた。
「も、もどした?」
「え、うん。苗字の方で呼ぶように…」
「ああ、それはぁ…」
「?」
他の人もひかりを少し憐れむような顔を浮かべている。よくわからんが間違えたようだ。
取り敢えず正解を探ろうと天菜さんの方へ目線を戻す。
「そう、私は天菜。名前はそれだけ」
わあ、意味が分からないことをぼやき始めた。
「よし、全員そろったな。…なぜ天菜は倒れているのだ?」
全員がそろったことを確認したことを確認した先生は倒れているひかりに戸惑う。
それは僕が一番聞きたいよ。
「ま、まあいい」
いいんだ…。
あ、ひかり、じゃなく天菜さんがよろよろと上半身を起こした。
一つ咳込んだ後、今一度僕らの方へ凛とした顔を向ける。
「さあ馬車に乗り込め。出発するぞ!」
僕らは馬車に乗り込み再度確認されたのちに、御者は華街へと車輪を廻し始めた。
向かっている最中、血涙しながら呼び方を戻すよう要求されたので戻した。そこまでか。
まあいつの間にか、名の方が呼びやすくなっていたので少し安心する。
だけど同い年の女の子って、皆こんな感じなのだろうか?
僕、女の子の気持ち、わからない。




