代表選抜
だいぶ長くなってしまいました。
分けた方がいいと思われる方がいましたら、二話に分けようと思います。
今日は代表生徒の発表当日。
ここ最近は能力強化と体術の特訓、そして新風祭の予行演習も兼ねて、一対一での組み手を行っている。
祭りがあることを伝えられてから、皆代表に選ばれようと張り詰めている。
今日、というより最近特に気合が入っているのは…
「おらああ!」
「ぐっ!」
(今のは危なかった!)
今現在、相対している甲坂君である。
彼は僕の仮倉敷と似たような技、おーらを纏った木刀を振るってくる。
祭りを聞いてからというもの、彼からは人一倍の殺気を感じる。
さっきから相手をしているが、とても生きた心地がしていない。
紙一重で躱してはいるが余裕は一切無く、彼の底なしの体力と実力の差が僕をどんどん窮地へと追い込む。
最初は彼の能力を防御に特化したものだとばかり思っていたがとんだ見当違いだった。
間合いが伸びる刀、相手の行く手を塞ぐ壁、先を尖らせて飛ばしてくるなど様々な使い方をしてくる。その癖そのどれもが固く、壊すことが難しく対処ができない為どうしても後手に回ってしまう。
距離を取ろうと槍を振るってけん制するが、止まることなく突っ込んでくる。
彼との超接近戦は不利だと、ここ最近嫌という程分からされた。
「くっ!」
「オラオラどうした!流石にバテてきたか!?」
いくら振るってもあの剛力で悉く軽く弾かれてしまう。なるべく槍の先端を当てようとしてもすぐに掻い潜られてしまい、彼の間合いに引きずり降ろされてしまう。
「っくそ!」
自分の有利な間合いに引きずり込もうと一気に後方へ飛び退く。
急な後方跳びには流石に彼も追いつけまい。ここから一気に逆転してやる!
ガンッ
「いだっ!…うえっ!?」
何かが後ろへ下がることを妨げた為、振り向くといつの間にか背後に森が広がっていた。
な、何故こんなところに木が!?
まさかと思い前を見ると、ほくそ笑みを浮かべながら上体と共に刀を斜め下から振り上げる甲坂君の姿が目前まで迫っていた。
なんだよ…。ここまで誘導された上に、僕の行動まで読まれてたのか。
思い切り顔に当てられたと同時に激痛が走り、僕の意識は一瞬で飛ばされたのだった。
……………
…………
………
……
…
目を覚ますと、かーてんなる布が僕の目の前でひらひらと舞っている。そのあとすぐに気持ちいいそよ風が、僕の頬を撫でて流れていく。
「…………はっ!!訓練!」
「もう終わったよ」
「えっ!?」
声のする方に振り向くと、机にかじりつきながら答える美鳥さんのほかに先生とひかり、冬村さん、そして甲坂君の姿があった。
甲坂君はしょぼくれているような様子で、それを先生が睨んでおり、冬村さんは冷たい目線を送っていた。
ひかりは僕が目覚めたことを確認した瞬間こちらに駆け寄り、頭を抱きしめてきた。
「むぐっ」
「春人君大丈夫!?あのバカが強く打ったせいで…ただでさえ治りにくい体質なのに…」
「え、あ、うん。大丈夫だよ。あとその、ごめん、抱きしめられるとちょっと痛い…」
「わわ!ごめん!!」
すぐに解いてくれたが代わりに手を握ってきた。
なんというか、本当に距離が近いな。
「あの、何故甲坂君はそんなにしょぼくれてるの?」
「え?なぜってそれは」
「流石にやり過ぎたと反省してます。強く打ってごめんなさい」
しょぼくれた甲坂君が頭を下げながら僕に向かって急に謝った。
「え?……あ、ああさっきのか。ううん、別に大丈夫だからさ」
一瞬なんのことかわからなかったが、先ほどの一撃のことに対して謝っているようだ。
その姿を見て先生がため息をつき、呆れたまなざしを彼に送る。
「全く、組み手の時はあれ程制限しろと言っておいたものを懲りずにやりおって」
「で、でも花宇田が…ぁ……。はい…大変申し訳ありません」
「ったく、しっかり謝ったことだし我々は教室に戻るぞ」
「はい…ホントにごめんな」
先生と共に皆が退出していった。
弱い自分が悪いのだから何も謝ることないのにと思ったが、美鳥さんがジト目を僕に向けてくる。
「春人君、君の傷はいったい誰が治してるのかな?」
「う……美鳥さんです」
「そう、君が怪我をするたびに僕が逐一治さにゃならんのだよ」
要は仕事を増やすなと言いたいのか。だけどそれも仕事の一部では
「ふうん、なら僕が疲れるのは仕方がない、と言いたいのかね?」
「!?!?……そそそんなことは!?」
「はは、冗談。君がそんなこと考えてるとは思ってないさ」
こ、この人本当に妖じゃないんだよな!?読心術がすごすぎやしないか!?
心の中を見られているようで、嫌な汗が止まらない。
「まあ僕が疲れることはともかく、君は少し自分に対して優しくない節があるな」
「そ、そんなことは」
あんまり考えていなかったが、そんなにも身体を大事にしていなかっただろうか。
「君がここに来てからというもの、ほぼ毎日顔を合わしているのだけれど……、その理由のほとんどが訓練中による怪我だよ。そのどれもが無視できないものばっかりで、治すのにも一苦労だ」
「うっ」
「まあ火が消えている今の君に注意しても、たぶん変わらないしね」
「…?す、すみません…」
確かにここ最近怪我をよくしているが、問題ないと本人が言っているにも関わらずひかり達が随時引っ張って連れてくるのだ。自分では別に大怪我と言えるような怪我をしていない。
しいて言うなら肋骨の骨を何本か折ったくらい?だけどそれも別に大したことでもないしなぁ…。
うーん分からん。
「はあ、わかってなさげだなこれは」
「す、すみません。自分としては大怪我とはあんまり…」
「……こりゃ本当に重症だな」
本音を正直に言ったら、美鳥さんにため息をつかれてしまった。
「肝に銘じな春人君、自分を大切にして戦え。これは僕のためじゃなく、君の仲間のため、何より君のために言ってるんだ」
「……………はい」
美鳥さんにしては柄にもなく真剣な眼差しで言ってきたので、素直に返事をしてしまった。
確かに傍から見たら骨折とか見苦しいもんな。なるべく苦労を掛けないようにしなくては。
「……今はそれでいい。いつの日か君がまた心の火を灯した時、この言葉の本当の意味を改めて考えてみてくれ」
「…?わかりました」
言っている意味があんまり分からないが、また味が感じられるようになったら分かるってことなのかな。まあそれに関してはなるべく早く治すとして、美鳥さんに言われた通りなるべく身体を大切にしながら戦うことを意識しよう。
まあでも、一応僕もまだ卵だけど軍人の端くれですし、多少は大目に見てくれるよね?
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「しかし珍しいな甲坂、お前が加減を誤るとは」
教室に向かって歩く途中、原栄は甲坂に驚嘆の声だけを差し向ける。
それを聞いた甲坂は、先ほどまで対峙していた春人の事を改めて思い浮かべる。
「アイツ、この短期間ですげえ強くなってたんだ」
「え、そんなに強かったの?」
ひかりの質問に対し、甲坂はしっかりと頷く。
「初めて対峙した時はそこまで脅威に感じなかったけど、日に日に相対していくうちにどんどん攻めずらくなっていって、いつの間にか本気で戦ってた。いや、本気を出さなきゃいけなくなってた」
「あの子が……そんなに…そう」
横で聞いていた冬村が呟くように驚嘆の声を漏らす。
甲坂は足を止めて、原栄の方へ顔を向ける。
「先生、もしかしてアイツを代表にする気か?」
その言葉を発した瞬間、全員の歩みが止まった。
ひかりと冬村は原栄へ、原栄は甲坂へ目線を移す。
「だったらなんだ」
「反対だ。まだアイツは代表に相応しくない」
原栄の言葉に対し、甲坂はきっぱりと反対の意を伝えた。
しかし原栄は何もうろたえることなく、毅然とした態度を続ける。
「誰を代表にするかはお前じゃなくワシが決める。お前に口出しされる言われはない」
「だからそれじゃダメなんだよ!」
「ナ、ナオ?」
原栄の回答に対し甲坂は声を荒げて反論する。
「何故そう思う?」
「…ア、アイツはまだここにきて俺達よりも少ないし、学んでいないことも多い。何よりいつもの基礎訓練ではいつもビリだ!そんな奴が代表だなんて…」
「ほお、つまりなんだ。自分よりも後に来た奴に追い越されるのは嫌だと、こういう事か」
「ち、違う!!お、俺はただ…」
「この恥知らずの大馬鹿者が!!」
「っ…!」
「例え基礎訓練での結果が何番だろうと皆より学がなかろうと、何であろうと関係ない!ワシは常に高い目標を持ち、努力している者こそ代表にふさわしいと思っておる!
あ奴は此処にきてから貴様らとの差を少しでも埋めようと、休みの日も黙々と努力してきた!ワシが休日二日の内一日は体をしっかり休めろと言ったのにも関わらず、あ奴は一人で基礎訓練と同じメニューをこなし、授業の復習と能力強化の訓練をワシに隠れてやっておった!」
「っ!!」
「貴様もその一部を目撃したにもかかわらず、そのような心無い言葉を発するとは言語道断!今の貴様よりかは葉っぱの方がよっぽど代表にふさわしいわ!!」
「っ…」
「ああ腹立たしい!!貴様の性根がそこまで腐っていたとは思わなかったわ!」
「せ、先生、何もそこまで言わなくても」
ずかずかと足音を大きく鳴らしながら歩く原栄の背中を追いかけるひかり。
甲坂は何も反論できず、自分の気持ちと春人に対する思いで頭の中がぐちゃぐちゃになっていた。
「喧しいぞ天菜!実際葉っぱは血のにじむ様な努力をしたから、あのバカにも通用するようになったのだ!今のアイツの強さなら十分通用する!ああもう言ってしまうが貴様も代表入りしているのだから、少しはお前も危機感を持て!」
「ええそんな大事なことこんなヌルっと伝える!?ってそうじゃなくて!」
「ええいなんだ!?悪いがこいつは代表から外すのは確定だ!いまさら何を言っても遅い!」
「だ、だけど…」
「もういいんだひかり」
先ほどの原栄の言葉を受け入れた甲坂は、抗議を続けるひかりの腕を掴みそれを止める。
「ナ、ナオ!?本気なの!?だってアンタこれに出るのが夢だって…」
その選択にひかりは驚愕する。
彼は小さい頃からこの大会に出たいと言っていたのだ。しかしこの新風祭は今の学年でしか参加できない。つまりこの歳にしか参加ができないのだ。今後にも似たような催しはあるが、彼は新風祭に対し特別な夢をもっていた。恐らく先ほどの言葉も自分が選ばれないと考えてしまいつい心無い言葉が出てしまったと、ひかりは気づいていたので先生の答えに対し縋り付いていた。
「……………先生の言う通り俺には代表の資格はない」
「でも…」
「いいんじゃない?本人がそう言ってるのだから」
冬村が淡々とした声で二人に向かって発した。その目も彼に向けているが、ここ最近で一番に冷え切っている。
「冬村さん…」
「甲坂さん、私は貴方の夢なんて知ったことではないのだけれど…
あれが本心であろうとなかろうと
それでも貴方が発したあの言葉は、最低よ」
「っ…」
「確かに貴方の言う通り、彼の体力はビリだし、私たちより空っぽの脳みそだし、臆病だし、能力も使える場面が限られてるし、打たれ弱いし、身長も私より低いくらいだし、よく怪我するし、
……………はっきり言ってまだ弱いわ」
流石にそこまでは言ってないと思う甲坂だが、黙ったまま彼女の言葉に耳を傾ける。
少し間を置いた後、先ほどよりも暖かさが見えるまっすぐな眼差しを向ける。
「ただ、あの人は貴方よりも誠実よ」
「…」
「目標に向かって一生懸命努力してる」
「…ああ」
「そして、例え逆であっても彼は決してそんな言葉は言わないわ」
「っ……そう、だよな」
甲坂はこの時自分のしでかした過ちが、骨の髄まで理解したような感覚を覚えた。
先ほどよりも足がぐらつくような気がする。目の前が真っ白で頭の中の整理ができない。
(俺、本当にどうしちまったんだ…。
此処にアイツが来てからというもの、心が乱されることが多くなった。
アイツの努力を散々見ていたのに…、
負けたくないからって…ただ自分が出たいからって…
ひかりを取られたくないからって…最低なことをやっちまった)
「…決まったな。先に教室に戻っておれ。葉っぱも戻ってきたとき、改めて代表を発表する!」
もう今の甲坂の中には、春人に対する負の感情は存在していなかった。
ただ代わりに、自分のしでかしたことへの後悔が身体に重くのしかかった。
「…」
……………
…………
………
……
…
春人と原栄以外は皆教室に集まり、二人の帰りを待っていた。
結果に対し、張り詰めた顔をする者、何処か落ち着かない者、毅然とした態度で待つ者、など様々であった。
甲坂は何処か活力がなく、何時もの有り余る生気が感じられない様子だった。
あの後、ひかりは甲坂に対し何も言えなかった。
子供の頃からの夢を、一時の感情で自ら捨ててしまった上に、自分が代表入りしていることを知っている以上、下手な励ましは逆に彼の神経を逆撫ですると思ったからだ。
実際、彼の失言は彼女から見ても目に余るものであったことは間違いない。いつもの彼なら絶対に言わないようなことを、しないような態度を何故彼にだけ向けるのかが分からなかった。
思えば最初の刀の稽古から変だと感じていた。
彼は力の制限を間違えるような人間ではない。それが初心者相手でなら尚更分かっている男だ。それなのに彼が来てからというもの、どこか落ち着きのない態度で青たんができるほど強く打ち、今日だっていくら彼が強くなったからといっても、彼の技量なら気絶するほど強く打つのではなく、寸止めで終わらすこともできた筈…。
ひかりは自分の幼馴染が何故あそこまで心を乱しているのかが分からなかった。
「全員集まったな」
そうこうしている内に原栄と共に、春人が教室に戻ってきた。
完全には治っていないようで、頭部には包帯が少しまかれていた。
彼の席は甲坂の左の席に位置している。自分の机に戻るためこちらに近づいてくる際に、原栄にバレない為に小さくではあったが、自分の身体に別状はないから気にしない様にと微笑みながら手を振った。
その姿を見た甲坂は、彼に向けた醜い感情を心の底から恥じた。
(俺はこんなにやさしいやつに対して…)
「皆ここ数か月、実によく頑張った。互いに切磋琢磨し、自分の課題や欠点に対し正面から向き合ったこと、素直に称賛する。よくやったな」
皆の顔が、どんどんと張り詰めていく。今か今かと結果発表を待っている様子だ。
「では、新風祭に送る代表者四名を発表する。名を呼ばれた者は返事をしろ」
「一人目、天菜ひかり」
「はい!」
「二人目、冬村雪」
「はい」
「三人目、………………花宇田春人」
「っ!…は、はい!」
「…っ」
「最後に、
……………甲坂直也」
「………………え、は?」
「以上四名が代表者だ」
「ちょ、ちょっと待てよ……………」
「これは終着点ではない、寧ろ始発点。
選ばれなかったものは、選ばれたものに思いを託し、
選ばれたものは、選ばれなかったものの思いを背負って挑むのだ」
『はい!』
「では、夕食の時間だ。全員食堂に移動しろ」
原栄が教室を出たと同時に、教室中に歓喜、嘆息、驚愕など様々な声が上がった。
「うわあ選ばれなかったぁ…」「まさか花宇田が選ばれるとは思わんかったな」
「ぐやしい~」「いやあおめでとうひかり、冬村さん!」
「いやあおめでとう甲坂、花宇田!甲坂はまあ選ばれるとは思ってたが、まさかお前まで選ばれるとはなあ、ほんとに驚いたわ。良く選ばれたな」
「あはは、僕もほんとにそう思うよ」
「ちょっと悪い。先行く」
甲坂はすぐに席を立ち、教室を出ていく。
「え?あ、おい!……………行っちまった。腹そんな減ってたのかな?」
「うーん、たぶん違うと思うけど……」
「…」
甲坂が気になったひかりは後をつけるように教室を出た。
………
……
…
「えっと、確かこっちに…」
「なんでだよ!!」
「!!」
ひかりが声のする方へ顔をのぞかせると、甲坂が先に出ていった原栄に詰め寄っていた。
「どういうことだよ!?なんで俺が代表に入ってんだ!」
「……」
先ほど自分の名前が呼ばれたことに思うことがあるようだ。
「ジジイ言ってたじゃんか!俺は、俺は……………、代表にふさわしくないって」
「ナオ………」
「俺自身も、そう思ってた。アイツの方がよっぽど代表相応しいって………実際アイツは選ばれたし、そこについては俺も大賛成だ。
……………っだけど!俺を選んだことには納得できねえ!この教室にいる奴ら全員は、俺よりも代表に相応しいと思ってる。それを誰よりも一番分かってるのはあんただろ!」
「なんで、なんで俺なんかを選んだんだ!!」
甲坂は張り裂けそうな声で問い詰めるが、肝心の原栄はそんなこと意に介さない様子だ。
ひかりは確かに気になっていた。あれ程避難していたのに彼を選んだのには、どんな理由があったのだろう。
「お前を態々選んだ理由は、今お前が答えを見せている」
「………………は?い、意味が解らん、どういうことだよ?」
更に疑問が浮かぶ甲坂を背に、原栄はそのまま話を続けた。
「確かにワシはお前を代表に入れるつもりはなかった」
「っ……じゃ、じゃあ」
「だがある奴がワシに教えてくれたのだ。自分と同じで彼も藻掻きながら成長している途中なのだと。そいつに言われた通り、教室に戻った時お前の態度をしっかり見さしてもらった」
誰かが自分が代表になるよう、先生に抗議したようだ。
だが、あの場面を見ているのは原栄とひかり、冬村の三人で他の生徒は全員教室で待機しており、目撃することはない。ひかりかと一瞬考えたが、俺が止めるように言ったのだからその線は有り得ない。
一体誰がそんなことを…。
「教室でのお前の姿は滑稽であり、哀れであり、何より自業自得としか思えなかった…。
だがそいつの言った通りお前は今、他者を見下すのではなく、他者を気遣い、自分の意思で、こうして掴んだ自分の夢すら他者のために、己の正義のために捨てようとしている。
これを成長と呼ばずして、一体なんと言うのだ」
「……こんなの、別に成長の内に入らねえよ」
甲坂は原栄の言葉を吐き捨てるように否定した。
「今のお前の中ではそう思うのかもしれん。
だがきっといつかわかる。それを成長と捉えられる、自覚できる日がな」
「…」
原栄の言葉を聞き、甲坂は想う部分あれど押し黙った。
これを成長と呼ぶにはあまりにも粗末なものだという考えは変わっていないが、どこか説得力がある。
ならば待とう。これを成長だったとわかる日を。
「ふう、最初はどうなることやらと思っていたが。カカッ、あの馬鹿餓鬼め、態々直談判しに来おって。自分に怪我を負わせた奴だというのに、本当にお人よしにもほどがある」
「!…それってもしかして」
「………!!な、なあ先生、もしかして俺の代表を推薦したのって」
「ここ数か月葉っぱの事もあって久しぶりに疲れた。お前らもさっさと飯食って寝ろ」
そのままゆっくりとその場を立ち去る原栄を、甲坂は呼び止めることをしなかった。
それよりもやるべきことが急遽出来たのだ。
彼は急いで教室の方へ戻っていった。
「……………あっぶなあ。危うくバレるところだったぁ」
急いで物陰に隠れたひかりは、甲坂に気づかれることはなかった。
「でもそっか。春人君が先生に言ってくれたんだ」
不思議と笑みがこぼれる。本当に原栄の言う通り、お人好しにもほどがある。
でもそれがあるからこそ、時折彼から不思議な魅力を感じるのだろう。
「盗み聞きとは、見掛けによらずいい趣味しているな」
「んぎゃああああああ!!」
急に背後から声を掛けられ、ひかりは咄嗟に大声を上げてしまう。
「せ、先生!?あれ!?さっき確かに…あっちに…」
「だが、隠れて聞き耳を立てるにはへたくそだったな。顔をのぞかせ過ぎだ」
ひかりはこのセリフから最初からバレていたことを察した。我ながら隠し事はうまい方ではないとは思っていたが、こうもあっさりバレてしまうのは少し落ち込む。
(でも春人君、先生にナオの事を言ったってことは……………)
つまり彼はあの時、あの場面の全てを聞いていたという事だ。
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先生との話し合いの後、俺は急いで教室に向かって走っていた。
怪我を負わした相手なのにも関わらず、授けてくれた恩に感謝するために。
新しく出来た仲間にちゃんと謝るために。
「花宇田!!」
教室の扉を開けると、他の奴らは談笑していたがどこにも花宇田の姿はなかった。
俺たちの席に近く、ここ最近アイツとも仲の良くなった物辺拓己に話しかける。
「おい拓己!花宇田どこ行った!」
「な!?なんだなんだ!?来て早々肩を揺らすな!脳がふるえるうううう!!」
「どこに行ったんだ!はよ言え!」
「ななんか先食堂行くって!」
「っ!!サンキュな!」
「はい!私はいたって健康です!」
脳を揺らし過ぎて正気を失ってしまったが、アイツの場合いつもとそこまで変わらないのでそのままにして教室を飛び出す。
味覚を失ってるアイツが、態々食堂になんか行くわけがない。
不思議と思い当たる場所が思い浮かび、自然とそちらの方に身体が向かう。
………
……
…
きっとアイツが行く場所といえばきっと道場だ。
始めてアイツが武器を手にした場所。
俺は乱れてしまった息を整え、少しぼろい引き戸の扉を開く。
「…花宇田」
「あれ、甲坂君?どしたの?」
本当にいた。
俺も随分こいつのことを分かってきたのかもしれない。
扉を閉めて、小さい身体をした同期に近づく。
痛々しい傷跡がすでに彼の肌から所々姿を見せる。未だに絆創膏を外すことができない場所や、治ってまだ間もないであろう箇所がそこら中に浮かんでいた。
自分が付けてしまった傷跡もあるが、それだけではない。
首元には何時付けたか分からない痣の跡、腕や足には転んで擦りむいたであろう擦り傷や槍の扱いの練習で付けたであろう脹れ跡が見える。
「すまん、手を見せてくれ」
「え…うん?いいよ?」
「っ!!……………これは…」
何のためらいもなく差し出された両手の平は、恐らく見る者全てを驚愕させ、言葉を失うだろう。
肉刺ができて潰れるという事を夥しいほど繰り返された事で出来たであろう大きく膨れた新たな肉刺がいくつもできていた。
手の平には勿論の事、どの指の腹にも似たような大きさのものが出来ており、指の間の皮などはまた新しくずる向けてまだ間もないのだろう。既に血が滲み始めている。
この手を見ただけでも、コイツがどれだけ努力してきたのか分かる。
これほどまで頑張っている男に対して、俺は相応しくないと思っていたのかよ…。
あんな言葉を、かけたのかよ…!
「花宇田、本当にごめん」
「……甲坂君は何も間違ってないよ。僕自身、本当は代表なんか相応しくないって思ってる」
「それは違う、違うんだ…。俺は、俺は…………
お前ほど代表にふさわしい奴なんかいないって思ってる」
「……こ、甲坂君?」
言葉を紡いでいくにつれ、どんどんと思考がまとまらなくなっていく。なぜだか泣けてきてしまうし、本当に情けないことこの上ない。
「甲坂君、な、涙が…ああ…」
俺を気遣い、手ぬぐいを渡そうとしてくるが、俺は受け取らず片手を傷に触れないように優しく両手で包み込む。
「俺のあの時の言葉、お前は聞いてたんだろう?だからお前は先生に…」
「…あはは、先生には伏せておいてって強く言っておいたんだけど。まあでも、流石に気づかれるよねぇ」
少しおどけた声色で言う彼だが、きっと俺に恥をかかせない為だったのだろう。
今日は本当に頭が上がらないな。
俺はぐちゃぐちゃ思考の中で、変わらず感じていた事を言葉に込めて伝える。
「お前のおかげで、俺は今日、夢をかなえられる機会が出来た。
本当に、本当に、………っ……あ"りがとう"。春人ぉ……」
伝えたらさらに思考がぐちゃぐちゃになっていく。みっともなく泣き散らかす同い年の男子を見たらどう思うかなど、今の俺には考える余裕はなかった。
ただ謝罪と感謝を伝えたい。それだけだったのだ。
「………………僕が君を代表にするように言ったのは、君の方が代表にふさわしいと思ったからだけじゃないんだ」
「………ズビッ………え?」
正面から見るには小さい身長なので、いつも彼は俺を見上げる形になる。
今回も彼は少し微笑みながら俺を見上げて、もう一つの訳を話し出す。
「もしも僕が代表入りした時、
その時は皆の中で、一番肩を並べて戦ってほしい人だったから」
「っ…………いいのか俺で」
「君がいいんだ」
「俺はお前をあんなふうに貶してしまった男だぞ。それでもか?」
「それでもだよ」
「俺は……俺は……」
「僕は君だからいいんだよ」
嗚呼、こいつの目には嘘がない。
まっすぐな目で何の迷いもなく、こっぱずかしい事もスパッと言いやがる。
本当に、眩しいったらありゃしないな。
……………だけど、
だけど何が、
何がお前の目を濁らせてるんだ?
「ほら、皆食堂で待ってるよ?いっしょに行こっか」
「花宇田」
「?どうしたの?」
「俺のことは甲坂じゃなくて、ナオって呼んでくれ」
「え…でも、いいの?もっと何というか、特別な人しか…その…」
「お前だから、そう呼んでほしいんだ」
「っ!……………そっか。えへへ、そっか。………わかったよ、ナオ」
「…へへ、あんがと。…あと、…えっと、そのだな?
お前のことは春人って呼ばせてくれないか?」
「え…」
「ま、まあ嫌だったらいいんだけどさ!」
「そ、そうだなぁー。じゃあ僕のことはぁ……その、ハルって呼んでほしい、です…」
「…!はは、顔真っ赤だな」
「そそそんなことはないと思うですよ!!??」
「勿論だぜ。ハル」
「!!……………うん、いいね。うん、いいな」
全く、可笑しくって仕方ねえ。
どうしてだろうな。ただ呼び方を変えただけだってのに。
俺とハルは前よりもずっと仲が良くなった気がしたんだ。
第二章、これにて終了でございます!!
いやあ、もう本当にここまでお読みいただき誠にありがとうございます!!
まだまだ続きますよ!!
お気に召しましたら今後とも還咲の桜のご愛読の方、よろしくお願いいたします!!
なんか最後ホモ臭くなっちまったな…。
まじでそんなつもりなかったのに、なんでやろ?(すっとぼけ)




