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還咲の桜  作者: 占地茸
第二章  入隊編
30/32

からくり技師の卵

指先に力を集中させて前方の木に向かって指をさす。

"澪標(みおつくし)"

唱えると同時に木の方向のみに光が照らされる。

僕だけができる即席懐中電灯の出来上がりだ。

何とも微妙な技であるが、使える場面は多いだろう。


「けど、うーん…」

光の調節も前よりは慣れてきたが、やはり融通が利かない部分が出てきた。



それは細かな方向操作である。

一方歩行に光を指し向けることはできても、壁を挟まれてしまえば防がれてしまう。

それを解決する為、ここ数日ずっと光の屈折を試しているがうんともすんとも言わない。

光の球を作り飛ばしてみようとしたがまだ慣れていない為、すぐに霧散してしまって使い物にならない。

それにこれでは、全方向に光が走ってしまう。

どうしたものか…。



「どうした花宇田、浮かない顔だな」

甲坂君が肩に手を置いてきたので振り向く。

「むえっ」

頬に彼の指が突き刺さる。最近他の人にもやられるなぁ…主にひかり。

「へえ、本当に柔らかいな」

「にゃにするの」

「悪い悪い。一度お前にやりたかっただけだ。ところで、何に困ってたんだ?」


さらっと話を戻されたので、問い詰めたかったがそのまま続けることにした。

「うん、どうしても光を屈折させることが出来なくて…」

「屈折させるって…。なんか難しそうなことやってんな」

彼は感心するように言ったが、まだ兆しすら一回も見えていない。

「あはは、まあ実際難しくて止まってるんだけどね…」

自分で言ってて悲しくなってきた。



そういえば、訓練中彼は石のように固い能力を自由自在に形を変えている。何かコツがあるのだろうか。

「甲坂君はどんな感じで能力の形を変えてるの?」

「俺の能力は、なんつーか…言ってしまえばオーラだから、結構自在に形を変えられるんだよ。形を模ったり、何かに纏わせた時だけ異常な硬さになるんだ。だからあんまり参考になんねえと思う」

「お、おーら?そ、そっか…」

ふむ、どうやら彼にとって形を変えることは容易な事のようだ。



「まあしいて言えば、形を変える時はしっかりとしたイメージを思い浮かべる事ぐらいかな。それ以上はやってねえし、何なら感覚…?なんかすまん、あんまり参考にならなくて」

ゆるりと天才肌部分を見せつけられたが、人によって能力違うしね?…多少はね?

あんまり気を落とさずにやっていこう。

「…いやいいんだ、ありがとう。…うん、ちょっと汗拭くね」

おっと何故か目から汗が…。まあ物は試しだし、やってみるか。



「形を変える想像をしながら…、"澪標"」

…うん、なーんにも変わらなかった。まあ、ね…。わかってた。



「は、花宇田?そのぉ、ごめんな?」

「いいんだ…。いいんだ…」

「ま、まあ何でもかんでも自分だけでやる必要はないと思うぜ?やり方は他にもある」

「ん?それってどんな…」


甲坂君は自慢げに鼻を高くする。

「ふっふっふ、それはな…からくり装備だ!」


から…うん?からくり?

…なんじゃそりゃ、ちょっとよくわからない。

何にも反応せずにただぽかんと甲坂君を見つめていると、時間が経つにつれ顔がみるみる赤くなっていく。

独りで盛り上がったことが恥ずかしかったようだ。





……………

…………

………

……






「ここかな、甲坂君が言ってた工作室っていうのは」

先生に許可を取ってから言われた通りの場所に来たが、分厚い扉の奥からは車の音に似た妙な音が聞こえてくる。


校舎の東側はあまり来ないので気が付かなかったが、どうやら同期の中でも様々な専門を目指す人がいるようだ。若い男子の声が聞こえてくる。

突っ立ってても仕方ないので、扉を開こうとすると…

「何でこんな変なもんしか作らねえんだ雷電!言われた通りのものを作れ!」

「うお!?」

急に中から大きな声、それも怒った声が響いてきた。


「拙は拙なりに改善をしたまでの事!拙の案の方が見た目的にもよいと存じます!」

今度は若い男性の声が響いてきた。

その後もさらに怒鳴り合いの声が響き続けている。

急に開けるのが億劫になってきたぞ。怖いし、何より邪魔しちゃ悪いかも知れない…。

よし帰ろう。



「俺が便所に行ってる間に、そのいらん機能を外しとけ!わかったな!」

え、こっちに来る!おいちょまてヨ!


「…ん?開かねえぞ。っこの!」ガンガンッ

………はっ!!ま、まずい!焦るあまり、咄嗟に扉を抑えるという奇行に走ってしまった!

周りに人はいないし、言い訳しようにも言い訳のしようがない。ど、どうする!


「漏れるっつんだよ!うぎぎぎぎ!おい開けや!」

ここまで来たら仕方ない。…押し通る!

「ふんぬ!」

思いは一つ、………怒られたくない!


「師匠、何やってるのでござるか?」

「戸がね、開かないの!ちょ、ほんと、開けよ!開いて!開いてください!」

「致し方ない…。師匠の面子のため、拙も手伝うでござる。せーの!」

うぎぎぎ…!流石に二対一だから力負けする!

もう、だめだ!


「「一、二の、三!」」

「ぐあっ!」

思い切り後方へ飛ばされ、うなじを強く打ち付けてしまいそのまま意識が飛んでしまった。




………

……




目を開けると同時に鉄や木が混じったような匂いが鼻をくすぐる。

知らない天井だ…。なんか久しぶりだなこの感じ。


「ここは…」

「お、目が覚めたでござるか?師匠、目が覚めたでござる」

身長は僕よりも少し高い丸眼鏡をかけたちょんまげ男子が上から顔をのぞかせた。

一昔前の時代の髪型だなこの人。


「…ん、意外と早かったな」

師匠と呼ばれた男が、その人の隣にドカッと座る。

筋肉隆々で顎ひげを蓄えた中年男性が僕をじっと睨む。

やばい。声から察するにこの人が扉を開けようとしていた人だ。ボコボコに殴られる…。



「あ、あの…先ほどは扉を塞いでしまい、た、大変申し訳ありませんでした…」

頭を下げて謝る。が、到底許してもらえるとは


「…許す!」

「え早っ!自分が言うのも変ですが、もう許すんですか!?」

「師匠はそういう小さいことは気にしない人でござる」

小さい事だっただろうか?この年の人にとってはかなりの一大事のように思うのだが…。


「一言目が謝罪なのが気に入った。もし違ったなら拳骨を食らわしていたところだ。がはは!」

謝罪が一言目で出て本当に良かった。あの腕で殴られたら頭蓋骨が砕けそうだ。



「自己紹介しよう。俺はこの教室の担当教員、羽後目源二(うごめげんじ)っつうもんだ。んで、こっちのあほ眼鏡をかけたやつが」

「弟子の雷電陶真(らいでんとうま)と申しまする。以後お見知りおきをば」

「ご、ご丁寧にありがとうございます。初めまして、僕の名前は花宇田春人です。てあれ?雷電ってあの時…」

同じ教室にはいなかったが、最初の夜の日に皆へ妙な解説をし出した人だ。


「おお、まさか覚えておられたとは…。いやいや恐れ入りまする」

「あの時はもっと物々しい言い方だったような気がするのですが…」

「こいつは趣味が幅広くてな、かなり特殊なものも多い。同士だったか?なんか同じ趣味の奴を見かけると口調が変わるんだよ。はあ、お前またやったのか…」

起こるのではなく呆れ顔で諭しているあたり、普段から相当勧誘しているのだろう。

あの時を察するに、碌な趣味ではないのは確かだな。



「師匠も見識を広く持つでござる。世界には、ありとあらゆる種類の書物や内容の数々、そしてそれに伴う恋愛の幅広さがありまする。例えば、この間の甲坂殿と花宇田殿との間にはまだ知り合って間もないでありながら新たなる希望の兆しが」

「黙れ変態眼鏡。勝手に気持ちわりい解説始めんな」

羽後目さんは彼のあしらい方を熟知しているようだ。

彼の目が怖かったので僕では止められなかった。


「ふふ、その内師匠もいずれ分かる日が来るでござるよ」

「きめぇ…こんなのが俺の弟子なのか」

「いつかはそれが世界の一般常識になるでござる」

「なってたまるか」

「して、花宇田殿はどうしてこちらにお越しになられたのでござるか?」

「切り替ええぐいな」



……あ、そうだ。今までの出来事がめちゃくちゃすぎて忘れてしまっていた。

「あの、ここでからくり装備を作っていただけると聞いたのですが…」

そういった瞬間に、雷電さんがこちらに身を乗り出し、両手を握ってきた。

「うわ!?」

「装備の開発でござるか!?改良でござるか!?どのようなものでもお任せあれ!」

「あ、あの…えと」

「雷電、そう詰め寄っては答えるに答えられんだろうが」

「!これは失礼いたした!」

師匠に諭された弟子は、身を乗り出した身体を下げて縮こまる。羽後目さんはため息を一つついて僕と向き合った。

「じゃあ坊主、どんなもんがほしいんだ?」

僕は自分の能力と技について説明した後、欲しい道具の内容や形について話していった。




………

……




「今言ったものを新風祭までに間に合わせてほしいんです」

「なるほどなあ、用件はわかった。うし、ぎりぎりになるが拵えてやる」

「本当ですか!助かります」


「いやあ色んな案が思い浮かんでくるでござるなあ。ふむ、どこに着けれるようにするか…。腕の裏なんてのはいいかもしれぬなあ」

話している内に目を輝かせてぶつぶつと呟いている所を見ると、物作りが特別好きなようだ。


「雷電さんは物を作るのがお好きなようですね」

「そうかしこまらず、雷電でよいでござるよ。そうですなあ、物を作る、特に一から全てを作るのはワクワクすると言いますか、まだ見ぬ出会いといいますか…」

自分の考えをまるで夢を語るように話す彼の姿が、なんだかとても素敵に見えた。



「お前はいつものように補佐だぞ」

「そ、そんな殺生な…!自分で言うのも何でござるが、拙はかなり腕を上げたつもりでござる!」

「まだまだ未熟だ馬鹿もんが。俺達からくり技師は時に人の命、更には使用者自身の命にも関わるもんを作る。確かにお前の成長は目覚ましいがそれはまだ発展途上。装備を作るにはまだ若いわ」

「そこをなんとか…」

「ならん。今回もお前は補佐に入れ」

どうやら雷電君が作ることに、羽後目さんは反対なようだ。

本当なら彼らの問題であり、これは口出しすべきことではないかもしれない。



でも僕は、彼に作ってほしいと思ってしまった。



「あの、今回の装備開発の依頼、雷電君に作っていただけませんか?」

「なっ」

「っ!ほ、本当でござるか!?」

彼の言葉にしっかり頷く。


「坊主本気か?まだこいつは未熟も未熟、技師としては卵だ。現にお前以外の同級生は、全員俺に依頼していった。そんな奴に態々依頼するなんて」

「そうですね…確かにそうかもしれません」

羽後目さんの言う通り、本当なら師匠である彼に任せた方が確実で希望通りの装備が届いてくる筈だ。


「でも僕は、何だか彼に作ってほしいと思っちゃったんです」

「花宇田殿ぉ…」


「はあ、依頼人がここまで言ってるんだったらしゃあねえな。今回の装備開発はこいつに監督させるわ。雷電、しっかりやれよ」

「お願いするよ、雷電君」

「はっ!貴殿のご希望に添えれるよう全力を尽くします故!」

彼は僕の手をしっかりと握ったまま、最後まで頭を下げ続けていた。

うん、この人だったらきっと大丈夫だろう。


その後外せない条件や様々な案などを出し、自分の欲しい装備の造形を落とし込んでいった。





……………

…………

………

……






「必ず納期までには間に合わさせるから安心して待ってな」

「必ずや花宇田殿の期待に応えて見せるでござる!」

「お二人とも、ありがとうございます」

僕は二人の返事を聞いた後、扉の方へ近づく。


「ではよろしくお願いします」

「えぇえぇ、お任せあれ!あ、花宇田殿!出る際はそこの新聞紙敷いている所は踏まない方がよいかと!」

「?何でですか?」

「乾いていない故、敷いているのでござる。深くは聞かないで頂きたい」

「??…は、はあ、わかりました」

よくわからないが真剣な顔をして言われちゃそうせざるを得ない。

言われた通り新聞紙を避けながら扉を閉め、皆がいるであろう校庭に足を進めた。




僕以外の人は既に装備を作ってたのか。まあ途中入学だし、そういう事もあるだろう。

「葉っぱ、こっちだぞ」

「あ、先生」

廊下を曲がった先で先生が姿を現した。僕が来るのを待っていたようだ。どうやら授業も休憩に入ったらしい。ということは槍の使い方を教わる時間が来たので、道場の方へ共に向かう。



「何を頼んだのだ?」

ふと聞かれた質問だったがどこか圧がある。まあどうあれ正直に答えるほかないのだが…。

「えっと、光の向きを変えられるような道具が欲しいとお願いしました」


僕の答えを聞き、少し間を置く先生。

先ほどの圧の訳は何となく分かっている。恐らく僕が逆に便利すぎる道具を頼んでいないかを確かめたかったのだろう。今の時期は能力の向上にある。そんな時から道具に頼っていては、今後に影響を及ぼす。

だから僕も開発する際、あくまでも僕の技を活かすような装備にしてくれと彼らに念押ししておいた。



「まあいいだろう。中には能力に関係のないものを頼もうとした奴もいたからな。貴様もそのような恥知らずなものを頼んでいないかと思って気になったのだ」

「皆の装備案も見てみたかったです」

きっとそれぞれの性格や能力に合った形や様々な細工の案があったのだろう。

できればその瞬間に立ち会いたかったなあ。



「新風祭の代表発表はもうすぐだ。それまで気張れよ葉っぱ」

「…はい!頑張ります!」


色んな人がここまで付き合ってくれているのだから、なんとしてでも代表に選ばれなけらばならない。新しい技もまだまだ完成しているとは言えない。何としても完成させなければ。


新風祭の代表発表まで残り数日。

ここからが正念場だ。

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