探し者
どうも占地茸です。
初投稿かつ完全処女作品なので拙い文章で申し訳ありませんが、気に入っていただいたら幸いにございます。
感想の方も受け付けているので、ダメ出しや改善点なども感じられましたら、自身の文質も上がるので気軽に書いてくれるとありがたいです。
どうぞよろしくお願いします。
「ここか、彼の住む町は。随分と探したぞ」
黒く長い服を着た男が、最近巷で噂になっている「車」という乗物から降り立つ。
町を一瞥して、納得したように頷く。
「…なるほど。確かにいい場所だ。離れてはいるが、町は想像よりも栄えている。活気も溢れているし、なにより空気がうまい。息苦しいあの場所とは天と地の差だな。だが、やはり道のりが悪い。道中は馬車用の舗装しかされていなかった。山道用の車輪を履かせてはきたが、やはり時間がかかってしまったな」
少し町の雰囲気やここまでの苦労に浸っていると、後ろから同行してきた者たちが降りて、並び始めた。
「全員、無事到着しました。…では予定通り聞き込みを開始しますか?」
「ああ、何かわかったらすぐに知らせろ。私も探る。あまり目立つような行動はするなよ。場合によっては、彼に悟られる。そうなったら早々に撤収する羽目になるし、今後もやりにくくなる。気を付けろ」
「了解。では各員、始めろ」
『はっ』
掛け声とともに、似たような服装の人物たちが一斉に散り散りになるのを黒服の男は見送り、再度町の方へ目を向ける。
「よし、では私も動くか」
そう言うと、黒服はにこやかな顔を浮かべながら、町へ歩き出した。
............
.........
......
...
八百屋の男がある人物が映してある紙をまじまじと見つめる。
「あんた、絵がすごいうまいんだなぁ。まるで人をこの絵にそのまま映してるみてぇだ」
その紙を渡した笑顔を浮かべる黒服は、自慢げに話す。
「これは写真というものでね。その時映っていた情景を紙に焼き写すことができるんですよ。すごいでしょ」
「へえ!それじゃあこれ、絵じゃねえのか!すげえなぁ…。あんた華街からきたのか?さっきも馬がいねえ車に乗ってたようだし」
「あれは自動車と言って、馬がいなくても動いてくれるんですよ。しかし親父さん、いい眼をもってるねぇ。まさにその通り。私は普段、記者をやらしてもらってるんですが、少し町から離れたものを特集しようと思いましてね。何かネタになるものないかなと思いましてね。仲間とともにその旅の最中なんです」
納得した八百屋は何度もうなずいた。
「ほおー。道理で服も変わってるわけだ。いやあいいねぇ!俺も一度でいいから都会に行ってみたかったもんだよ。おっと、話がそれちまったな。せっかく華町からわざわざ来てもらってるんだ。目新しいもんはこの町にはねぇが、珍しいもんならあるぜ。この街唯一の個性と思える「神来≪かもら≫祭り」が明日開催するんだ。すげぇんだぜ、今年は皆んなかなり気合い入ってるからな」
八百屋は楽しそうに男に伝えるが、男は平然としていた。
「なるほど。その祭りは、この町では人気なんですか?」
「そりゃあ年に一回しかやらないし、この町の守り神に向けて奉公と宴をして今後もお守り下さいってお願いするものでもある。まあ殆ど宴が主体だがな。毎回派手にやるわけよ。俺んとこも店出すからよ。よかったら来てくれや」
(ほう、なら彼も動くかもしれん)
「なるほどそれで皆さんこんなに活気ついてるのか。これは思わぬネタがあったな。明日がとても楽しみだ。必ず行きますね」
「おう、待ってるぜ!」
ある程度話を合わせた黒服は、本題をさりげなく持ち出す。
「あ、そうそう、ここに来たのは別の目的もあるんです」
「別の?年末だってのにあんたも忙しい人だねぇ!なんだい?協力できるかもしれねぇ。言ってみな」
気を良くした八百屋がそう答えると、黒服は眼を細くして半月型の笑みを浮かべた。
「本当ですか!いやぁそれはありがたい。ほとんど当てがなくて、ほとほと困り果ててたんですよ。さっき見せた写真の男を探しているんです。昔の友達でして。文通をしていたんですが、そいついつも家に誘ってくれないんですよ。なので今回ネタ探しの旅ついでに、家に行って脅かしてやろうと思ったんですよ。何か知りませんか」
八百屋が改めて写真をよく見ると見覚えのある顔だと感じた。
「ああ!誠≪せい≫の野郎か!あいつさっき軍務終わったからーって言って帰ってきてたぜ。旦那、運がよかったなあ。あいつ家にいないのがほとんどだから」
「!!」
黒服の男は内心少し驚いていた。こんなにも早く有益な情報が出るとは思わなかったからだ。
(いや、彼の性格なら町の人とも交流があってもおかしくないか)
平静を保ちながら、顎に手を当てる。
「なるほど。それであいつ、俺を家に誘わなかったのか」
「だろうな。だが俺もあいつの家、よく知らねえんだ。よくこの坂を上がっていくから上なのは間違いねえんだが。おーい誰か、こんなかで誠の家しってる奴いるかあ?」
「!!」
八百屋が急に店を出て声を張り上げたので、男は内心とても動揺した。この付近に彼がいないことはわかっているが万が一がある為、気が気でなかった。
(これを聞かれていたら、まずい!)
「八百屋さん。驚かしてやりたいから。声抑えて声!」
「あ、そうだった。悪い悪い」
「誠さんの家?」「誠ちゃんの家ねえ」「あいつんち、どこだっけ」
ガヤガヤガヤガヤッ
周りからぞろぞろと人が集まってきたが、誰も知る人物は現れなかった。
「しっかし、まさか誰も知らねえとは。俺もあいつに世話になってるからいろいろ差し入れしたかったんだが。悪いな、旦那。力になれなくて」
そう言うと、八百屋は写真を男に手渡す。
(結果、八百屋のおかげでいろいろと知れたし、最初にしては上出来か。だが、皆交流はあるのに肝心の家の場所を知らないとは思わなかったな)
「いやいや、あいつがいることが分かっただけ、十分力になっていますよ。ありがとうございます。商い中にお邪魔しました!」
男が店を出ようとすると、子供が一人店に入ってきた。どうやらこの店の子供のようだ。
「ただいまぁ~」
「おう、おかえり、じゃねえ!てめぇ、また店番さぼってどっかいきやがったな!何処ほっつき歩いていやがった!!」
「げっ、父ちゃん…。ど、どこでもいいだろ。忙しかったんだぞ」
(この子供、父親そっくりだな)
目の前の親子を見くらべ、しみじみと思った。
「ほおー!!店を抜け出してまでやることとは、どんなものか聞いてみたいもんだ!何が忙しかったんだ言ってみろ!!」
子供は父親の問いに、応えずらそうに口をもごもごしていた。
「いじい~、ああいや、け、そ、そう!喧嘩を売られたから、かってきたんだぁ」
声の大きさが最後になるにつれ、小さくなっていった。
(噓丸出しだなこの小僧)
子供は、父親から目をそらしながら吹けていないが、口笛を吹いている。男はなんてわかりやすい表情なんだとつくづく思った。
「なにぃ?喧嘩だあ?
……まあそれだったらいいけど」
「え、うそだろ」
男が八百屋の答えに驚く。まさかここまで分かりやすい嘘に気づけない人間がいるとは思わなかったからだ。そして八百屋も噓だと指摘されたことに驚いていた。
「なにぃ!?噓なのか!?」
子供は慌てて取り繕う。
「うぅ噓じゃねえよ!ほんとだって!」
そういうと子供はキッと眼を鋭くして男を見つめる。
(余計なこと言うんじゃねえ!とでも言いたげな目だな。悪ガキめ)
「なんだ噓じゃねえのか。噓じゃねえって、旦那」
「え、ああ、そうなの」
その一言を聞いて、八百屋に気付かせるのもなんだかばかばかしく感じた。
(幸せな人だなあ、この人、日々何の憂いもなく生きてそうだ)
そんなことを考えながら息子にも家について聞いてみた。
「ねえぼうや、この人の家は知らないかい?この人、わたしの友達でね」
「ああ、誠のおやっさんか。ごめん。俺も知らねえんだ」
やはりか、と少し落胆しながら、一応用意したもう一枚を子供に見せる。
「そうか、いやいいんだ。ありがとう。じゃあ最後にもう一人、この子は知ってるかな?今度は子供なんだけど、見おぼえはないかね?」
最期に見せたのは探している男の息子の写真だった。別の角度からも探るために用意したのだが…
(多分知らないだろうな、この親の子だし)
男の中で、無意識に八百屋の評価がどんどん下がっているため、とばっちりでその息子の評価も自然と下がる。男は、もう半ばダメもとで子供に提示する。
「ん?あ、ハルだ」
「えうそだろ」
「なにい!?うそなのか!?」
「噓じゃねえってだから!」
「なんだ噓じゃねえのか。噓じゃねえって、旦那」
息子ごめん、父親と一緒にして。
男の中で息子だけ評価が上がった。そして目の前の子供に心の中で謝罪した。
読んでいただき本当にありがとうございます。
この作品がお気に召しましたら引き継ぎご愛読の方、お願いいたします。
ただいま、諸事情により投稿が遅くなってしまい、大変申し訳ないですが、ご理解していただけると幸いです。