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還咲の桜  作者: 占地茸
第二章  入隊編
29/32

戦闘の心構え

あれから毎日、みっちり先生にしごかれる毎日を送っている。


平日は、皆と共に基礎訓練、座学を行い、合間に槍の使い方を教わる。

基礎訓練はこの間の早朝の訓練と体術、それぞれ得意な武器の訓練、森の中の訓練が常時化されていた。おかげでみんな少しずつ慣れてきており、中にはわざと透明な球に触れて罠を作動させ、友達同士で足を引っ張り合っている所もいた。


座学では歴史、理科だけでなく、外国語、主にイミリスの言語や数学、社会学、そして国語を教わっている。

今では僕もそれなりに外国語に対して理解ができた。

わからないものもあるけど…まあ学生だから、多少はね?



休日は週二日あり、その内一日はしっかり休み、もう一日は先生と一対一で槍の使い方をみっちり教わる。

疲れを残さない為にも平日よりも少し早い時間で切り上げるが、この日が槍と触れている時間が一番長い。



最初の頃、自分の身長どころか、先生の身長よりも高い棒に翻弄されて、逆に槍に振り回されてしまい、目を回していた。なんとか制御しようとするも、頭にぶつけて何個かたんこぶを作ってしまったり、狭い場所で扱った際、いろんな場所にぶつけまくって壊してしまい、先生に怒叱られた。


だが一日経つにつれ、少しずつだが着実に槍の長さや振り回した時の重さが身体に慣れていった。

矛先の形状や、槍の長さによる取り扱いの違いや、それぞれの最も得意な場面や切り方の種類なども学び、その後基本的な構え方や斬り方、使い方と時折に体術を叩き込まれた。



まだまだ拙い部分はあれど、あの三連休から一か月が経った今では、模擬戦を多少行えるようになるまで扱いが成長した。

ここでの練習にはいつも冬村さんが、今日のように時々甲坂君とひかりが顔を見せに来る。



「ふっ!」

突き、と見せかけて下段からの逆袈裟切りを行ったが空振りに終わる。

「ああ惜しい!」

間合いは完全に見切られてる。なら!


「あえて突っ込む!」

「いいぞ花宇田!ぶち当てろ!」

先生の一撃を何とか掻い潜り、槍を短く持って接近戦へと持ち込もうとするが、するりと避けられてしまい、いつもの距離に離されてしまう。

「くそっ!」

「魂胆は悪くないがまだお前には荷が重い!確かに槍は超接近戦に弱い。だがそれは今のお前も同じ事だ。今足りない部分は能力、自分の得意分野で補え。

いいか、お前の光る能力ができるのは目を潰すだけではない。丁度ワシにやった様な自分やほかの物に注目させて、欺くこともできる。どう誘導させるのかを見極めるには、戦いながらその者を観察しろ。常に相手の思考や動きの癖、特に視線を意識しながら戦うんだ」

「ハア、ハア…っはい!」



再度隙や癖に注視しながら、先生を中心にして走り回る。


戦いの最中で、相手をよく見る…。

先生は今何を注意している?持っている木槍か、僕の能力か、どっちだ?


ヅコッ

「え?うわっ!」

回り込んでいると、考え事に集中し過ぎたせいで急に足がもつれた。

そのままころがってしまい、壁に顔が激突する。

ゴンッ

「ぶごっ…いたた」

鼻をさすっていると、後ろで先生がため息をつく。


「考えながら動くときは自分の足元と現場の地形を頭の片隅に入れておけ。活用できるものがあるかもしれんし、なにより今のようなことにならないからな」

「はいぃ…」


「ぷはははは!おーい大丈夫か花宇田ぁ!?」

「笑っちゃだめだよ、まったく…。ぷふふ…」

「お前も笑ってんじゃねえか。はははは!」

「…………っ……っ…」

後ろで見ていたひかりや甲坂君、更には冬村さんまでもが笑っていた。

うう、恥ずかしいところを見られた…。




…………

………

……




そして、その日には皆に秘密でやっている訓練が一つある。

それは…



「まだ光度が足りん。それでは使いもんにならんぞ」

「くっ、はい!」

能力の強化・応用訓練である。

森の訓練が全員合格した際に、普段の訓練で取り入れられるようになったのだが、少しでも早く皆に追いつくためにもこうして先生と共に皆から隠れて日々修練を重ねている。

現在は、石ころでなく木槍を光らせようと試みている。

触れたものを光らせる技の名前は、〔仮倉敷(かりぐらし)〕と名付けられた。

命名者は甲坂君である。


この技は、どうやら物体の大きさによって込めなきゃいけない光の量が比例するようで、この間は小石だったから僕と同じくらい光ってくれた。

だが、今やろうとしているのは何十倍も大きい物体であり、それを充分光らせる為には比例して大量の力を込めなければならなかった。


色々と試している内に、仮倉敷には新たなやり方が生まれた。

触れた後すぐに光らせる即発式と、触れた後タイマーをかけて光らせる時限式の二種類ができた。

後者は、離れた所でも光るようにと試みた結果できた産物である。


他にも普段の練習の際、みんなに能力について話し合っていたら、光を一方方向に照らす、光源を飛ばす、光の色を変えるなど、できる出来ない関わらず様々な工夫が出てきた。

そして出来た技全てに名前が付けられた。それらも全て甲坂君が命名した。


派手な変化や技はないが、色んなやり方を提案したり、こうやって実際に試してみるのは何だかとっても面白かった。



僕の能力は、後衛向き且つ敵に対して直接的な攻撃がある訳ではない。

その為、少しでも応用の幅を広げるためにこうやって先生にも付き合ってもらっている。

基本的に先生はその技が実戦で通用するのかを判断し、足りない部分や体の動かし方、人間の行動心理、そして何より戦闘での使い方をその都度丁寧に教えてくれた。


だがそのためには、僕がこの能力を完全に知り尽くし、且つ使いこなさなくてはならない。



「もう一度!」

「はい!…ふっ!」

今度は目いっぱい槍へと力を込める。

すると小石の時とは比にならないほどに光ってしまった。

「ふお!」

眩しい!目が痛い!


「馬鹿もん!力を込め過ぎだ!もう少し押さえろ!」

「ごごごごめんなさい!難しくて…」

しかし他のものを光らせる場合、自分の体ではない為かその調整が難しく、直接触れていても中々その匙加減が分からない。

明るさを抑えようとしたら、今度は光が消えてしまった。


「あ…消えちゃった…」

「ふむ……。お前はものを光らせる時、何を意識している?」

「えと、兎に角、力を送り込む様な感じで…」



先生はしばらく考え込んだ後、槍を拾って僕に渡す。

「なら今度は、槍を自分の身体の一部だと思ってやってみろ」

「体の、一部…。でも考え方だけで変わるようなものでしょうか?」

「お前は自分の力を一部分に使う時、力を集約する様な意識をすると言っていたな。要領はそれと似たようなものだ。そうだな、先ずは…」


先生は懐から小さな懐中電灯を取り出し、直接見たら少々眩しい程度の明かりをつけた。

「これぐらいの明るさにゆっくり近づけてみろ」

「けど仮倉敷での明るさの調節は得意じゃ」

「いいから、つべこべ言わずにやってみろ」

「は、はい。じゃあ…ふっ」

言われた通りに今度は槍を自分の身体の一部だと考えながら力をゆっくり込める。



ホワァ

「あれ?さっきよりも…」

まだおぼつかないが、明らかに先ほどよりも光の調節がやりやすい。それに前まで出来なかった明るさの調節が、今はこうやって段々と光度を変化することができている。

別に力の込め方が変わった訳じゃない。変な工夫をしているわけでもない。


ただ意識を変えただけ。

それなのに、意識を変えただけなのにここまで違ってくるものなのか…。


「どうして、急に…」

「意識を変えるということは、ただの精神論ではない。時にはそのやり方に合う様、身体自身が力の使い方の最善の選択をしてくれることもある。お前に意識だけを変えるように言ったのは、変な力の込め方を覚えさせない為だ。

どうやらお前の身体は、最善の選択をしたようだ。よし、そのまま光度を上げろ。

そしてこれからは今の感覚を意識せずともできる様、体に沁み込ませろ」

「…っはい」

僕は出来なかったことが出来たことへの感動しつつも、そのまま意識を忘れずに力を流し込んでいった。



「このくらいですか?」

「もう少し明るくてもいいが…、まあいいだろう。その槍を放し立ち上がって見てみろ」

「え?はい」

僕は言われた通り槍を光らせたまま手放し、立ち上がった後に槍を見つめる。


「何か気づいたことは?」

「え?別に何も変なところは…」

ただ少々、光っているせいで全体が見にく…

「あ…」

「気づいたか?」


そう、全体が眩しく光っているので全貌が見えにくい。

つまり、相手からしたら間合いが取りずらいのだ。


「お前は自分の能力を後衛向きだと語っていたが、ワシは然程そうは思わなかった。お前が実際に誰かと対峙した時、こうやって武器を眩しいほどに明るくしておけば、敵の目をくらませられるだけじゃない。武器の間合いを測りにくくすることもできる」




先生は時折、敵を不利にさせるやり方を僕が自主的に気づくように仕向けてくる。


「いいか葉っぱ。敵と対峙する際は常にすぐに切れる手札、なるべく切らないようにしておきたい手札、そして最後まで残しておく切り札を必ず用意しておくことが重要だ」

「…はい!」

訓練や練習はとてつもなく厳しいが、そのどれもが分かりやすく、僕ら子供でも納得が出来る様丁寧な説明を行ってくれるので、自分が練習している技に対し実践で使えないといった心配をすることなく専念できるのだ。



「そしてなにより、お前が相手よりも上手になるには、


常に心を熱くし、且つ冷静な頭で挑むことだ」



先生の言葉を心と頭で反復する。

「心を…熱く…、冷静に…」

「そうだ。小手先だけではない、精神も鍛えろ。どんな場面でも諦めない強く熱い心を持ち、最悪な状況だろうと打開策を模索し続けられる冷静な思考を身に着けるんだ。


さすれば、お前は父と、いや、父をも超える者となる」



!…そっか。お父さんの言った通りだったんだ。


『お前は心の勝負で圧勝したんだ』

父のあの時の言葉がこだまする。あの時の言葉は間違いじゃなかったんだ。



でも、約束を叶える為には更に速く、もっと速く、誰にも追いつけないほどに駆抜けなきゃ。



「…先生」

「ん?」

僕は先生をじっと見つめる。僕の様子を見て、先生も真剣な表情を向ける。


「……何か試したい、て顔だな?」

「!…はい」

僕の考えている()()()()()()が面白そうだと感じたのか、先生は不敵に笑う。


「よし、申してみろ」

「実は、最初の森での訓練の時に…」

僕はあの時の出来事とその日の講義の内容を織り交ぜながら、試したいことを先生に話した。




………

……




「ど、どうでしょうか?」

「ふ、…面白い。実に面白い試みだ。成功するかはわからんがやってみる価値は十分にある」

「本当ですか!」

「よし、今後の能力強化には今のも取り入れながら訓練を行う」

「!…はい!」

もしこれが成功すれば、きっとみんなとの実力差を少しだけでも埋めることができるはずだ。



「だが、そんな応用を思いつくとは。いやはや少々驚いたぞ」

「まあでも、できるとはまだわかりません。当分はまだ光の出し方を主に訓練しようと思います」

「うむ、ワシもその意見には賛成だ。今は自分ができる事を突き詰める時…。同時に自分や仲間と考えたアイデアを創造していく時でもある。どちらも怠らないように」

「はい!」



「丁度二か月後の春に訓練学校同士の御全試合、新風祭がある。各訓練学校の各代表四人が華街へ一度に集まり、自分たちが培った成果を見せる最初の場だ」

へえー、そんなお祭りがあるんだ。

ちょっと面白そうだけどおっかなそうな催し物だなあ…。

「できればそれまでには形になるようにしたい」

「そうですねぇー…」


…え?今の口ぶりは何?

「…ん?えと、僕も出るんですか?」

「当たり前だ。ワシが何のためにここまで付き合ったと思ってる?お前をその大会に出場させるために決まっているだろうが」



おいちょまてよ。

僕はここにきてまだ一か月ちょいしかいないんだぞ。それなのになんで僕なんかを出場させるんだ。

もっとほら、できる人がたくさんいるじゃないか。

「えーと、僕以外にもここにはふさわしい人がたくさんいると思うのですが…。それにまだ新参者ですし」

「時間なんてものは関係ない。まぁお前よりも強いやつがいるのは確かだ」

「な、ならその人を出場させてみては…?この学校の面子も保てますし、何より代表として向かわせるなら、その人の方がふさわしいと思います」


「はっ、面子なんぞ糞喰らえだ」

く、糞喰らえ!?何て言い草だ。僕を出場させたら、自分たちが恥をかくかもしれないのに。

先生は急に僕の方へ鋭い視線を向ける。



「いいか葉っぱ。今度の祭りは己の力を存分に発揮し、それが通用するか確かめるいい機会だ。だがはっきり言って今のお前では太刀打ちできん。他校の一番弱い奴と当たって、良くていい勝負、悪くて一撃入れれるかどうかだ」

「ぐっ」

何とも手厳しいお言葉を頂いた。

だが先生の言っていることは事実であり、実際普段の長距離走でもまだ誰も抜かしたことがない。



「無論ワシは最後の最後までお前が代表にふさわしいかを見極める。だからそれまでに今言った技を何としても完成させろ!さすれば、少しはまともな戦いができる筈だ!わかったな!わかったら早速練習だ!」

「は、はいぃ!」


「まずは自分の身体にならすためにこいつを使う」

ごそごそと腰の取り出したのは、手のひらくらいの大きさの黒い機械だった。

「先生それは?」


ジジッ

「うわあ!?今のは!?」

「これは敵をしびれさせ、気絶させるための道具だ。先ずはこれに気絶しないように耐えろ。そしてその中で光から作り出せるきっかけを探せ」


…………ん?なんて言った?…痺れる?


………えーっと、更に気絶する?


なななな……

「え、ちょ、ちょ待てヨンぎゃああああああ!!」




………………

…………

……



翌日



朝起きて、顔を洗いに行こうと廊下を歩いていると甲坂君と出くわす。

「うわ!どうしたんだ花宇田!?身体中焦げだらけだぞ!」

「…何でもないよ」

驚く彼に、遠い目をしながら天井を仰ぐ。



果てしない後悔とともに、新しい技作りが始まった。

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