連休最後の朝
新年明けましておめでとうございます!
いやあ、新しい一年が始まりましたねえ。
今年もよろしくお願いします!
「ん-…もう朝か」
現在の時刻は、午前五時半。
今日は日曜日、つまり休み最後の日だ。
ほとんどの人が三連休ということもあって帰省しているらしく、ここに残っている人の方が少なくなっている。
だが明日からまた訓練の為、今日中にはここに帰ってくるだろう。
ここは休みの日に目覚ましはならない。
何人かは、冬であるにも関わらず毛布も被らずに床で寝落ちしている。そこら中に散乱している、それぞれ1から12まで絵描かれた妙な紙で遊んでいた様だ。
隣の下の段を見ると、丁寧に整頓された布団が置いてある。
既に甲坂君は起床しているようだ。
時間は朝の5時半。本当に早起きである。
(僕も起きるか…)のそのそっ
寝床から体を起こして、顔を洗おうと木の梯子を下りる。
甲坂君が帰らなかった理由は、恐らく僕のせいである。
3日前の夜、彼とひかりで談笑していた際に、ふと彼女から「休日はどう過ごすの?」と聞かれた。
急いでやらないといけないこともなく、かと言って実家には戻れないので、「皆んなとの実力を少しでも縮めようとここに残って自主練をするつもりだ」と素直に答えた。
それを聞き、彼女も残ると言い出した。
そこまでは聞いていて特段不自然な事ではないと思っていた。
甲坂君の驚いた表情を見るまでは。
驚いている理由を聞くと、何でも彼女は常にある2日間の休日でも必ず実家に帰り、両親に顔を見せているのだという。幼馴染と言う事もあり、二人の両親は仲が良く、一緒に帰らなかった際両親からの手紙で小言を言われた為、ここに来た初週以外の休日にこっちで過ごした事はなかったそうな。
そんな彼女が休日をここで過ごすと言い出したのだ。驚くのもまあ無理はないだろう。多分…。
彼女から「いつか家においで」と言われたが、考えておくと言って逃れた。
まだ会って一週間も経っていないのに、なぜ彼女はこんなにも親しくしてくれるのだろう?
高坂君の方はまだ知り合って間もない為か、まだ何処か僕を警戒している。
だが何だろう?警戒している理由は、ただ知り合って間もないだけじゃないように見える。何か別の理由があるようだ。
因みに甲坂君は彼女が僕を家に誘ったとき、何故か不機嫌そうに僕を少し睨んでいた。
よく分からないが安心してくれ。行かないよ…。
休日をこっちで過ごすことになった彼らは、僕の自主練に付き合うと言ってくれた。本当は一人で練習し、少しでも成長して二人を驚かしたかったのだが、せっかくの御厚意だ。こちらとしてもありがたい話なので、素直に了承した。
なのでここ二日間は普段三人、時折四、五人で生活を共にしている。
そう、僕を合わせて四、五人だ。
その一人は、
「うりうり、今日も覗きとは精が出ますなー。性だけに」
「こら美遊、押さないで!バレるバレる!あと上手くないし!」コソコソ
はぁ…、今日もいるのか。
「バレるも何も見つかってるからね?」
「「あ」」
引き戸を開けると、しゃがんでばつが悪そうにしているひかりと、美遊さんの姿があった。
そうその一人とは彼女、橘美遊さんの事である。
因みに彼女も名前で呼ぶようにお願いされた。
彼女は僕をハナと呼ぶ。
「おはよう、二人とも」
「おはよーハナ君」
「お、おはよう春人君!いやあ奇遇だね。早朝からたまたまこっちに用があったんだ!」
美遊さんはゆるりと、ひかりは焦っているのか元気に挨拶をしてくれた。
「それ、一昨日から毎朝同じこと言ってるよ」
「う"っ」
気づいていなかったのか…。
流石に同じ理由を何度も、それも毎朝聞いたら不自然に思うはずなのだが…。
彼女はあまり誤魔化すことが得意じゃないようだ。
「ほら、汚れちゃうから」
「あ、ありがと」
彼女達の手を取って立たせ、彼女たちが服についた埃を払った後、ひかりが元気に片手をあげる。
「よ、よし!今日もじゃあ一緒に道場の方へいこう!」
「あ、うん」
「はいはーい」
僕らに有無を言わせないよう、先導して朝の目的地へと歩き出す。
僕と美遊さんは素直に従い、後ろについていく。
「…ねえ美遊さん」
「ん?どった?」
「ひかりは毎朝、あそこで何をしているの?」
ひかりに聞こえないように、彼女に問いかける。
聞こえないようにした理由は、昨日同じ質問をひかりにした際散々焦った様子を見せた後、ものすごい圧をかけられて黙らされた。余程知られたくないのだろうか。
だが、友達である彼女なら何か知ってるかな。
すると美遊さんはニヤニヤと含みのある笑いを見せた。
「ふふ、やっぱ聞いちゃう?」
「ん?どういう事?」
「いいよ、教えてあげる。耳貸して」
言われた通りに耳を彼女の方へ寄せると、美遊さんは声を抑えるために僕の耳に手を当てた。
「実はね、ひかりの奴……君の薄い寝間着越しの胸い」
「なにをしてるのかな二人とも?」
「「ギクッ!」」
前を見るとどこハナか怖い笑顔を見せるひかりが僕らを、主に美遊さんを見つめていた。
瞳孔が開いているのに…。目に、光が見えない…。
会話に夢中で気づかなかったが、すでに道場の扉前まで来ていたようだ。
ゆるりゆるりと彼女が近づいてくる。
「何を、話していたの?」
「なな何も!?何も話してないよねハナ君!?」
「え、あ、うん!」
僕らはとっさに誤魔化すが、彼女の目はまだ光を取り戻さない。
「ふーんそう…」
それどころか一層疑念を抱かせてしまったようで、睨むように目を細めて僕らを見据える。
「そうそう!まだ何も言って」
「まだ?」
「あ」
声がつい出てしまった。
ここで美遊さんが墓穴を掘る。彼女は少々お喋りなところがあり、こうやっていつも自分で自分を窮地へと誘うことがある。
「はわわ…私、また何かやっちゃいました?」
涙目になりながらも、僕の方へゆっくりと不安そうな顔を向けてくる。
そんな目で見つめないでほしい。確認せずともやっちゃってるのは一目瞭然なのだから。
僕は目をつむって、顔を伏せる。
その意図に気づいたのだろう。彼女は、「はわわわわわ…」と困惑の声がさらに多くなった。
ガラッ
「お、来たな。おはよう、って何やってんだお前ら?」
ここで救世主が現れる。甲坂君が扉を開けて僕らを出迎えてくれた。
…………
………
……
…
僕は今まで武器という武器を触ったことが無い。なので皆に相談したところこの国で一番なじみのある武器、刀を試すことになった。よって元武家の出身である彼に、二日間みっちり基礎を教えてもらった。今は、その復習もかねて彼と相対している。
「ほらほらどうした!もう終わりかよ!」
「ぐっ!」
剣術の稽古をつけてもらっているが、これがとんでもなく鬼教官だ。
蒼単ができるほど強く撃ち込まれる為、初日の夜には物が持てなくなった。
だが彼の教え方には、人間の様々な隙や弱点をしっかりと踏まえた科学的な根拠があり、教えのどれもがお金が取れる程の出来だった。
さすがは元武家だ。過去のものとはいえ、その技術と心は衰えることなく脈々と受け継がれている。
(甲坂君が上に大きく振りかぶった。なら!)
「ふっ!」
「甘い!」
「ごほっ!」
思い切り横へ振り振り抜いた木刀は軽く弾かれ、手から離れていき、逆に塚頭で鳩尾を強く打たれた。
「ごほ!ごほ!っぐが…」
「足の位置がまだばらばらだ。それじゃあ腰から肩、腕、そして刀に力が流れていかないぞ」
せき込む僕の頭上から、甲坂君がいつものように何が悪かったかを教えてくれる。
「それに上段の攻撃に横の薙ぎ払いでは、たとえ鍔迫り合いになったとしても力負けしてしまう。上からは体重がかけやすいからな。まあやり方がないわけじゃないが、それができるようになるのはまだ先だ。お前も俺もな」
「ごほ…。甲坂君にも?」
「ああ。できないわけじゃないが、完璧じゃない。かなりの高等技術だからな」
彼でも難しいなんて…。我ながら無謀だったか。
「まあ狙いとしては悪くなかったぞ。俺が上段に構えたのを見て、自分が一番早く出せる切り方を出したんだろう?」
「おっしゃる通りです…」
「前にも言った通り、上段の弱点は威力が大きい代わりにその分繰り出すまでの予備動作が大きいからな。先手を取るのは常套手段だ」
「まあ結果駄目だったけどね…あはは」
「なに、俺の言った弱点をしっかり覚えていてお前はそこを突こうとした、至極真っ当な選択だ。今回駄目だったのは、単純に経験の差がものを言っただけだ。今日はここまでにしよう。ほら、立てるか?」
彼が差し出した手を握り、動きに任せて立ち上がる。
「ありがと。だといいんだけどね…」
「最初からできる奴なんていない。どんな天才だって先ずは誰かの技に倣ってやるもんさ」
「うん、そうだね」
彼の言葉には、どこか説得力がある。それは自分に対する自信と、これまで彼が積み上げてきた剣術や知識に由来しているのだろう。
「お疲れ二人とも」
僕らが稽古を終ったあと、後ろで見ていた二人が僕らに近づく。
ひかりは甲坂君にたおるを手渡す。
もう一人は雪を作り出し、僕の脹れた箇所に優しく当ててくれた。
「もう、青たんこれで12個目よ。ほら」
「ありがとう冬村さん。あはは、冷たい」
そう、もう一人の人物は冬村雪さんのことである。
こうなった理由は初日の朝、僕らが朝の稽古をして保健室に向かう途中、たまたま彼女と出くわした。その時ぼろぼろの状態を見かねたのか、今のように雪で患部を冷やしてくれた。
その後彼女の希望によりこの三日間、冬村さんにも朝の稽古の時間に付き合ってもらっている。最初、申し訳ないと感じたので断る意向を伝えたのだが、頑として譲らなかった。
理由を聞くと、「よくわからない。多分あなたがみじめだと思ったからよ」と言われた。
まあ散々雑魚だのなんだのと言われてきましたけど、こうも面と向かって言われると流石に来るものがあったなぁ。
「雪だから当たり前よ。全くもう…少しは成長して」
「はい…すみません」
「おいおい、花宇田は全然筋がいい方だぜ?そう突っぱねなくても」
「貴方も強く打ち過ぎよ。経験者なんだから、少しは手加減しなさい」
「はい…すみません」
二人して彼女の鋭い言葉に刺される。あの自信に満ちた顔だった甲坂君がしょんぼり顔である。
でもなんだかんだ言いながら、こうやって冷やしてくれたりと、根はとても優しい人だな。
因みに先ほどここに来るまで一緒にいた美遊さんは「見るもん見たから二度寝する」と言い、僕たちと別れて寝室へと逃げる様に小走りしていった。
汗を拭く甲坂君に目線を移す。
まだ僕はこの間の作戦の事を話していない。
本当ならその日にも伝えて、謝るべきだったのだが皆にもみくちゃにされて言う時を逃してしまった。何度か話す機会はあったのだが、彼の自尊心を傷つけてしまうのではないかと考えてしまい、中々勇気が出ずに、この日までずるずると来てしまった。
だが、今なら。あの時の面子が丁度そろっている今なら。
「ね、ねえ甲坂君」
「ん?どうした?」
「その、実は三日前の作せ」
「お前らこんなところで何やっとる?」
僕の言葉にかぶせて扉から顔をのぞかせていたのは、顔が四角い人、もとい原栄先生だった。
また逃してしまった…。
「あ、先生。帰ってきたんだ」
「うむ。昨日、本会議が終わったのでな。特別向こうでやることもなかったので帰ってきたのだ」
「ちぇ、もうちょいいてくれてもよかったのになー」
甲坂君が横で文句じみた事を先生にわざと聞こえるように言う。相変わらず肝が据わっている。
「喧しい。…ん?お前達二人が休みの日をこっちで過ごすなんて珍しいな」
「まあ色々あってね。今回は帰らなくてもよさそうなんでな」
甲坂君は少し笑いながら、ひかりの方を横目で見る。
「もう、こっち見ないでよ。無理して誘ってないのにさ」
ひかりは少々恥ずかしそうに、愚痴をこぼす。
「そうか。しかしこんなところに四人でなにしとったんだ?」
「それなんですけど、僕が自主練をすると言ったら皆が手伝ってくれたんです」
「ほう、それは殊勝な心掛けだ」
先生は顎髭を触りながら、笑ってそう言うとほんの少し辺りを見回した。
「ほう、稽古の内容は剣術か」
「はい。甲坂君に教えてもらってます」
「なるほど、な」
なにか引っかかるような言い回しといい、こちらをじっと見つめる様子といい、先生は何か言いたげである。その様子に、甲坂君が少しへそを曲げる。
「なんだよ。俺が人に何か教えるにはまだ早えってか?」
「それも少しあるが…本筋はそこじゃない」
「あるんかい…」
彼は顔と肩を下げる。何も包まれず、直球で言われたので少し傷ついてしまったようだ。
同情したのか、ひかりが彼の背中を擦りだした。
全然そんなことないのになぁ。
「葉っぱ、お前は槍を使ってみるがいい」
「や、槍、ですか?」
どうして槍なのだろう?僕には刀の才能がないのだろうか?
「お前は身長が平均より小さい。これは両手の長さも他者より短いということになる。刀ではその長さの有利が特に浮き彫りになってしまう。先ほどお前が甲坂に木刀を弾かれたのは、経験の差だけではなく、お前より奴の方が間合いが広かった事も起因している。そこで長さがある槍を使えばその不利を補えるという訳だ」
あの立ち合いで、そこまで見抜いているとは驚きだ。
「ですが、それは槍の場合も同じなのでは?」
「確かにそうだ。だが、槍の利点はそれだけじゃない。槍の良さはその刃の形状の豊富さにある。一方刀にもあるにはあるが、あくまで基本の形状は変わらないものが多く、せいぜい刀身の長さや反りの角度を変えるくらいのもの。
その点槍は、貫通力に特化した直槍。相手を切ることに特化した鎌槍。
そして、このどちらの要素も組み込んだ十文字槍というものがある。時と場合によってさまざまな用途ができるのが槍の利点の一つだ」
槍でなら自身の欠点を補い、様々な状況でも対応できる、か。
「な、なるほど…」
「確かに扱いは難しいが、慣れればたとえ上手な敵でも寄せ付けることなく倒すことができるぞ」
「相手が、強くても…」
先生の言葉を聞き、僕は考える。
これから先、僕は強くならなくちゃいけない。それはどんな相手だろうと負けないほどに。その為には自分が抱える不利を補い、さらにはそれすら活用していかなくちゃならないんだ。
「まあ刀の筋は確かに悪くなかったから、判断は」
「やります。やらせて下さい」
僕の即答に、高坂君とひかりが少し驚いていた。
「え、いいのか?もうちょい慎重に選んだ方がいいぞ?変な癖がつく前にはな」
「それに、内の同級生には槍を習ってきた人いないよ?」
「え、そうなの?うーん困ったな…」
どうしよう。我流でいくわけにも…。
「安心しろ。わしが教えてやる」
『えっ』
なんと先生自ら教えると提案してきた。
「…本当ですか!?助かります!」
「うむ」
本当に我流でやるしかないと思ったがこれなら安心だな。
するとひかりが僕の肩を掴み、まるで先生から隠すように僕の前に体を移す。
「ちょちょちょちょ待ったまった!先生、また春人君に無理させるでしょ!」
「初心者相手にいきなり無理難題なことはせん」
「信用できなーい」
「ぬう」
そんなはっきり言わんでも…。流石の先生もたじろいじゃってるよ。
「まあまあ、先生は僕のために行ってるんだしさ」
「そうそう。独学で学ぶんじゃなくて、癇癪ジジイに教えてもらうんだから間違いねえだろ」
「私もそう思う」
先生の意見に、僕だけでなく甲坂君に冬村さんが賛同してくれた。
「安心しろ天菜。ちゃんとそれなりの使い手になるようにするだけだ」
「ほら、先生もああ言ってるしさ、ね?」
「むぅー、ならいいけど…」
ひかりはしぶしぶといった感じで離れる。
甲坂君は頑張れと言って、僕の肩を叩いた。せっかく教えてもらったのに申し訳ない。
「先生、ご指導のほどよろしくお願いします」
「相分かった。ならば午後からはワシが教えてやる。場所はここでいいな?」
「了解です」
僕の返事を聞いて、再度頷く先生。
「ではワシは書類整理があるのと飯を食べるため失礼する」
そして扉を閉めて、歩いて行った。
「ごめんね、せっかく教えてもらったのに…。その、乗り移るような感じで」
「いいさ。確かにあのジジイの言う通りだったし、何よりお前の能力上、寄せ付けない戦い方の方が性に合ってるしさ。兎も角、俺は何だろうと応援するぜ。それに、なんせあのジジイ、知ってる通り加減を知らないからなあ」
僕をまっすぐ見ながら、甲坂君は笑って答えた。
とてもまぶしい笑顔。
目を背けたくなってしまう程に明るい。
皮肉だな。光る能力なのに、光り負けしてしまうなんてさ。
だけど……
だけど少しくらいはさ……
僕も彼をしっかり見れるようにならなくちゃいけない。
その為には、
「ねえ、皆」
「ん?」
今度は甲坂君だけでなく、全員の目が集まる。
「この間の作戦、皆に話していなかったことがあるんだ…」
手に汗が滲む。冷汗も出てきた。いまだに言うのをためらおうとする自分が嫌になる。
だけど……
「……実は…」
言わなきゃ、もっと自分が嫌いになる。
「実は、最後の僕の攻撃は機転を利かせたものじゃなくて、最初から図ってやったことなんだ」
「「えっ?」」
「…本当?」
冬村さんの質問にゆっくりと頷く。
怖い。皆がどんな顔をしているのかわからない。だけど見るのも怖くて、顔を上げて話せない。
だけど皆に説明するためにも、俯いたままあの時の話を続けた。
…………
………
……
…
「…なるほど、な」
「…」
僕は、あの時の事を洗い浚い全てを話した。
顔が上げることができない。先ほどよりも鼓動が速くなっているのが分かる。
新参者が、よく知りもしない奴が自分たちを利用し、その結果への踏み台にしたのだ。
何をされても仕方がない。僕は、それだけのことをしたのだ。
「春人君、私たちは」
「待てひかり」
ひかりの話を甲坂君が止める。彼女は素直に黙った。
甲坂君からの圧が強くなる。
「甲坂君。僕に借りを返す必要なんてない。それどころか、僕は君に対して酷いことをしたんだ」
「…」
「だから…その、君の気が済むまで何をしてくれても構わない」
僕はさらに深く頭を下げる。
彼は怒っているのか軽蔑しているのか、動かなかった。
「何故、俺たちに話したんだ?」
「え?」
「あのまま黙っていれば、何も問題はなかったはずだ」
「それは…」
何故彼らに話したのか、…それは、
「その、自分のため、です」
「え?」
ひかりが考えていた答えではなかったのか、疑問の声を漏らす。
「僕が僕を、これ以上嫌いにならない為に。皆に隠し事をして、負い目を感じない為に。何より」
「俺たちに、謝りたかったからか?」
「!…そう、です」
先に言われてしまったが、心の中で一番に思っていたこと。
僕は、皆に謝りたかったんだ。
「花宇田」
「っ…」
覚悟を決めて僕は、彼の声に耳を傾ける。
彼の手が僕の肩に置かれる。
「俺の代わりに、いや、俺たち全員の代わりによくやってくれた。ありがとう」
「………………え?」
想像していた返答とは真逆なものが来たので、思わず顔を上げる。
するとそこには、先ほどと同じ様なまぶしい笑顔があった。
なんで今、そんな顔ができるんだ。
「どうやら俺の方こそ、覚悟が出来ていなかったようだ。
ここでは、常に自分にできる事を最大限活用し、成長していかなくちゃならない所だ。
お前はあの時、俺たちが出来る最善手を考え、教えてくれたんだろう?」
「けど僕は…」
僕のもう片方の肩に、甲坂君はさらに手を置いた。
「お前は俺達を利用したんじゃない。俺達の事を頼ってくれたんだ」
「…でも」
「俺達がいる此処は、仲良しこよしでいるようなただの学生がいる所じゃない。俺達は、いつだって全力で挑まなきゃならない、菊守の卵なんだ」
「!」
僕たちは、菊守の卵…。
「あの時お前がやった作戦は、まさに俺たち三人に残された力を、自分に出来る力を最大限活かしたものだったんだ」
「…」
「たとえ失敗しようが関係ない。どうあれ俺たちはあの時、全員本気で考え、本気で取り組んだものだった。
そこに、価値があるんだ。本気の挑戦にこそ、本当に価値があるんだよ」
「……本当の価値、か」
心の中に合った妙な不安の霧が集まり、ぽっかりと空いていた穴へすとんと入った。
そうか。そうだったのか。
僕がやった、いや僕たちみんながやり遂げたあの挑戦には、
僕たちにとって、一番の価値があったんだ。
「だから、これからも頼ってくれよ。今度は必ず、期待に応えっからさ!」
「うんうん。私にもじゃんじゃん頼ってね。頑張っちゃうから!」
「ふふ、何を言うかと思えば、案外つまらないことを考えていたのね」
彼らはただ僕を励ます為じゃなく、本気でそう考えて答えている。
ああ、本当に眩しい人達だ。
だけど何でだろう、何故かこの眩しさに前より少しだけ、目が慣れたみたいだ。
「ありがとう、みんな」
「!!…今の目!」
僕が応えると同時に、ひかりが急に声を上げて近寄り、僕の両頬に手を当てる。
どうしたんだろう。僕の目が何か変だったのだろうか。
「あ…、戻っちゃった。ねえもう一回笑って?」
「え、えと…あ、あはは…」
「うーん、全然違うなあ…」
少しがっかりした顔でそう言われても…。こちらとしては何のことやら。
というか今笑っていたのか?全然無意識だった。
「ひどい笑顔ね」
ひかりの背後でさらっとひどいことを言われた。
笑顔を浮かべるどころか泣きそうなんだが。
「お前も似たようなもんだろ」
ぼそっと彼女の横でつぶやく甲坂君に向けて、硬そうな雪がぶつけられた。
今結構鈍い音がしたぞ。
「ふふ、まあでも兆しが見えたから良しとしますか」
「何のこと?」
「えへへ、こっちの話だよ」
ひかりは立ち上がって、僕に向かって手を伸ばす。
「さあ皆、そろそろご飯の時間だよ。春人君も簡易食でいいから一緒に食べに行こ!」
僕は、差し伸べられた手を握る。
「…うん、行こっか」
僕は前よりも軽くなった体で、皆と共に道場を後にした。
橘美遊
年齢:11歳
性格:ゆるい、おしゃべり
容姿:長い天然のブロンド髪、少々発育が良い
能力:未来予知
好きな物:ずんだ餅




