朝からの洗礼
ジリリリリリリーン!
「んむ、ふぁぁぁぁ…もう朝か…」
けたたましい鈴音は、僕らに新しい朝が来たことを知らせる。
周りを見ると大きな音が鳴ったのに、皆はまだ寝てる様なので、先に顔を洗ってこようと思い、季節のせいで氷の様に冷たい木の梯子に、下の人が起きないようにそっと素足を伸ばす。
不思議な寝床だなぁ。上と下で二階建てになってる寝具なんて初めて見た。寝巻きは僕にとっては少しぶかくて下が引き摺ってしまうけど、白い生地なのと何より肌触りがいいから意外とすんなり寝れた。
「あれ、誰かいない」
寝る時、暗くて誰かわからなかったが、隣の下の段は既に布団や毛布などが畳んで置いてあり、既に起きていることがわかった。
目覚ましの音より早く起きるなんて、よっぽど早起きな人なんだな。ゆっくり引き戸を開閉し、地図を持って洗面台へと向かう。
………
……
…
「えっと、洗面台は…、あった」
なんとか洗面台を見つけ、蛇口を捻ると、水が出てきた。
「ぐぐっ…冷たい」
指先で温度を確かめたが、予想通り死ぬほど冷たい。もう少し下がったら、本当に氷が出来るのではと思えてしまった。
しかしこの季節なので仕方がないと思い、顔を洗うとあまりの冷たさに眠気が一気に冷めると同時に、あることに気づいた。
「しまった、顔が拭けない!」
しかしもう顔には冷たい水が思い切りかかっており、戻ったら寝巻きも廊下も水浸しになってしまう。
だがこのままでは風邪をひいてしまう。どうしよう…。
「タオル、いるか?」
「た、たおる?」
ふと誰かに声をかけられたが、タオルの意味がわからない。
「身体拭きのことだ。ほれ、使いな」
「ありがとう」
顔を拭いて水気をとり、上を見ると少し汗をかき、半袖になった甲坂くんがいた。
「おはよう。ありがとう甲坂くん」
「おはよう、花宇田。早いな、まだ少し寝てても大丈夫だぜ?」
「え?でも鈴が鳴ったし、それに先生には5時半って言われたけど…」
甲坂くんは少しため息をついてやれやれと言った表情だ。
「癇癪ジジイはおれらを引き締めるために、そう言ってんだよ。本当の起床時間は6時だ。やられたな?」
なんと、ついてそうそう嘘をつられたのか。
でも僕にとっては少し有難かった。
「でもいいや。この冷たくて、少し薄暗い静かな時間もなんか好きだから」
「へえ、奇遇だな。おれもこの時間が好きでさ。皆んなよりも早く起きて、少しだけ身体を動かすんだ」
「まぁでも、この時期は少し寒すぎるけどね」
「はは、ほんとな」
そういって二人して窓の外を見ると、部屋を出た時よりも明るくなってきた。
なんかこうやって、たわいない話ができるのは、家族だけだったからとても新鮮な感じだ。
甲坂くんはニヤリと笑い、こちらを向く。
「それと俺が早起きすんのは、少し面白いものが見られるからだ」
「面白いもの?」
「因みに逃げるのは得意か?」
「う、うん。出来なくはないよ?」
「それは良かった。もうちょっとで見られるからここにいな」
「?うんわかった…」
悪い顔してる。恐らくまともなことじゃないことなのは確かだな。
「なあ、花宇田」
「ん?なに?」
しかしすぐに、甲坂くんは神妙な顔つきで僕の名前を呼ぶ。
昨日のように僕をどこか警戒しており、なんて言おうか迷っているようだ。
「お前の能力ってなんだ?」
「え?」
なんだ。どんなことを聞かれるのかと思えばそんなことか。
「えっと、光ることができるよ。ほら」ポッ
僕は左手を少しだけ光らせてみせた。
「うーん、本当に光るだけか?」
しかし彼はまだ納得がいかないようで、さらに目を鋭くして疑うような表情を濃くする。僕は納得いってない表情に、逆に疑問が生じた。
「え?どういう事?殊人は能力が一人一つまでなのは知ってるよね?」
「ああ、知ってるよ。知ってるんだけどさ…」
何処か歯切れの悪い答えをする甲坂くんは、目線を決して僕から逸らさない。
僕の中で思い当たる節があるなら、やっぱり僕が意識を無くなった時だ。あの時に何かあったに違いないだろう。もし本当にかれがここまで運んでいないのであれば、それが僕をここまで運んだ理由なのかもしれない。
そういえば…
「そういえば先生も似たようなこと言ってた。能力はそれだけかって。もしかして、僕が気を失った時になにかあったの?」
彼は少し目を見開き驚く。そして、当時のことを言おうか言おまいか迷っているようだ。
しかししばらくして決心したのか目を開けて、口を開く。
「実はあの時、お前から」
「起きんか馬鹿どもがああああああ!!!」
突如甲坂くんの言葉を遮って、昨日聞いた大きな怒声が後ろから聞こえた。
「っ!!な、なになに!?」
また壁が揺れたぞ!!ということは先生が怒ってる!?
「…まあいいや。花宇田、そのまま後ろ見てなよ」
「え?」
「来るぞ」
「なにが?」
「屍が歩いてくる」
「しかばね!?」
『ウアアアァァ……』
奥からうめき声が聞こえると同時にその姿を現す。
「これは!」
「ああ、屍だ」
それは眠たすぎるせいで、まるで目的もなくさ迷い歩く屍人のように、おぼつかない足取りでゆっくり歩いてくる同級生。
そう、男子生徒達だった。とても昨日保健室で騒ぎ立てていた者たちとは思えない姿で、目の焦点が合っていない。顔は死んでおり、同い年がこんな雰囲気を出すことができるなんて信じられなかった。
何人かに至っては、這いずってきてるぞ。
「み、みんな。どうして…」
「面白いのはここからだ」
え?まだあるというの?この先に一体何が…。
気になり、彼の方を見ると肺いっぱいに息を吸う姿が見えた。
…………来る!!
「遅れた奴の朝飯は全部食ってやるからなあああああ!!」
その言葉を彼が大きな声で発したら、彼らの動きが同時にピクリと止まる。
そしてうつむいていた顔をゆっくり上げ、目を光らせる。
『ジャアアアアアアスティス!!!』
叫びだしたと同時に一斉に或る者は生き返ったように、或る者は獣のように四足歩行でこちらへ走ってくる屍たち。走り方も個性的で、そのどれもがまともな走り方をしておらずとても気持ち悪い。だがそれは一つの波のように見え、飲み込まれたが最後、生きてはいられないだろう。それほどの圧をビリビリと感じた。
というかまずい!!このままじゃ僕も人の波に飲み込まれてしまう!!
「食堂まで逃げるぞ花宇田!!」
「え!?」
振り向くとすでに逃げる体制へと移行する甲坂くんがいた。
「早く来い!!死ぬぞ!!」
「は、はい!!」
その返事を皮切りに僕ら二人は一斉に波から逃げ出す。
ゴオオオオオオ!
「はっはっは!!面白れぇ!!」
「ひいいい!!」
懸命に逃げているが決して距離が離れない。食べ物の執念は恐ろしいものだと古来より決まってはいるが、ここまでとは思わなかったぞ!
「そういえばここの案内してなかったな!!今は食堂だけだが案内してやる!!ついてきな!!」
「出来ればこんな状態の時じゃない方がいいんだけど!?」
「ついでだ!!遅れたら死ぬぞぉ!!」
「あわわわ!?」
なんて時に案内してるんだこの人は!
こうなったせいなのは、他でもない目の前を走っている甲坂くんのせいなんだけど。
でも今はそんな文句を言っている場合じゃない。
後ろを見るとすぐ後ろまで迫る人の波。妙な走り方をしているのに、全然速度が落ちない。体力も無尽蔵にあるように感じる。
はっ!わかったぞ!!
これが、いわゆるこの学校流の新人への洗礼!!
怖い!ここ怖い!!
「ヒィイィ!!怖いいぃぃ!!」
「こんなので根を上げんなよ!!この後にゃ更にえげつない訓練が待ってんだ!!」
「やっぱりぃ!!皆んなで僕をボコボコにする訓練が待ってるんだ!!」
「へ!?そんなことしねぇよ!?」
「外で裸にひん剥く!?」
「言ってねぇし!?やらねぇし!?」
「けど負けない!梅と約束してきたから、僕、ただでは帰らないですから!屈しませんから!!くっころ!!」
「ああなんかよくわかんねぇけどその息だ!」
「よっしゃぁ!あそこを曲がるぞ!!」
「は、はいぃぃ!!」
僕らは食堂という安全地帯かもわからない地へ、決して最高速度を緩めずに向かうのであった。
……………………
………………
…………
……
…
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私たちは今、男子たちが食堂に来るのを待っている。きっと今日もナオが雪崩れ込む様に引き連れてくるだろう。
「ふぁぁぁ…」
「ひかり〜、眠い〜。次の休みいつだっけぇ?」
友達の橘美遊が頭を肩に置きながら休みの日について話しかけてきた。金色の髪は地毛のせいか、とても綺麗に輝く。うーん、いい匂い。
「…んん?頭回ってないからわからん…寝みゅい」
「それもそうねー。あ、冬村さんも船漕いでる。本当、髪や肌は真っ白だし可愛いなぁ。顔も綺麗だし、いいなぁ」
斜め前で船を漕ぐのは、冬村雪さん。その能力と同じ様に性格は冷静沈着でクールな人。その人のことを思ってのことだけど、偶に鋭い言葉を使う。そのせいでよく誤解されることが多いけど優しい人なのには違いないので、まだ仲良くなれてないけど、いつか絶対に仲良くなりたい人の内の一人だ。
「ねぇー。はぁ、私もあんなに綺麗になりたいもんだよぉ」
「あんたは十分綺麗でしょぉ。嫌味かこの野郎」
「そんなつもりはございませーん」
「その言い方だとある様に思えるんだけどぉ?」
「へへ、そんなつもりはございませんよ姉貴」
「あるようにしか聞こえない答えばかりだよ」
惰眠を貪りながらも親友の一人と戯れ合う。
そう言えば最近仲良くなりたい人はもう一人いる。
いや、出来たと言った方が正しい。その人は昨日の夜、ナオが急に連れてきたのだ。
同い年の男子とは思えないほどの童顔で、背丈も私と変わらない。目はクリッとしながらも凛としていた。こうして思い返すと何だか少し同じ性別の様な顔立ちだったな。きっとお母さん似なのだろう。
ただ、目の色は碧色だったが何故か濁りが見えた。元は綺麗な目だったんだと思うけど、何かがその澄んだものを霞ませている。
あの目を見た瞬間、彼が少し怖くなってしまった。
だけど私は彼を知りたい。あの目を濁らせている原因を知りたい。それはきっと、彼が編入学という形を選んででも、早くここへ入りたかった理由にもなる。
私が考えているものよりよっぽど酷い目に遭ってきていると思うので、慎重に行かなきゃいけない。
けどいつか、
いつかあの目を綺麗な碧色に戻したい。
ん?そういえば…
「春人くん、あの屍集団の中にいるのかな?」
……ドタドタドタドタ!!
ガラッ
「おっしゃあ!着いた!!花宇田!!急げ早く!!」
「え?」
引き戸の奥を見ると、走ってこちらに向かう春人くんの後ろに、人の波が押し寄せていた。
来て早々何をやらしているんだ私の幼馴染は。
「あわわわわ!!」
「もうちょいだ!頑張れ!!」
「入ったぁ!」
「おし!ふっ!!」
ナオは戸をすぐに閉めて、両扉に手を置き、いつもの様に扉を緑色の炎の様なもので包んでいく。
「封印!!」ゴン!
ドゴォッ!!
その声と発動音の直後に、鈍い音が扉から響き渡り、一瞬だけ扉がこちら側に曲がる。
「はっはっはははは!!ああ面白かったぁ!どうだった花宇田?言った通り面白いもの、見れただろ?」
「ハァ、ハァ、怖かった…生きた心地がしなかった」
「道覚えたか?」
「ハァ、ハァ、にげるのに、必死だよ…」
「はは!良い逃げっぷりだったぜ!」
「それ、褒めてる、の?」
「おうよ!まさか初日から逃げ切れるとは思わなかったぜ。いざって時には担ぐ気満々だったからな。いやぁ大したもんだ」
ナオは春人君の背中をバシバシと叩き、春人君は「うっ」とむせながら息を整えている。
緩い服を着て膝に手をついてるせいで彼の胸元が見える。少し汗もかいてるせいか艶っぽい。
何だろう。男の子なのに妙な色気が出ている。何だか今、見てはいけないものを見ている気がする。
いや大丈夫。相手は男の子だし、胸元を見ても大丈夫だ。そう、大丈夫…。
「ん?どうしたのひかり、ずっと彼を見て。目が少し怖いけど」
「へ!?そそそんなことないよ!?別にそんな見てないし!?」
「あ………うん。えっと、そのぉ………目が覚めたんだね?」
「そ、そうだよ!!ああー!早く訓練始めたいなぁ!?」
危なかった。美遊を何とかごまかせた。
けど、いつの間にかそんなに集中して見てたとは思わなかった。今後はばれないよう…、ではない!!なぜ私はあんな注視してたんだ!!これではただの変態ではないか!!
「っ!!」パアアン!
「うお!?急に自分のほっぺなんか叩いて、ど、どうしたの急に!」
「~つぅ…。大丈夫、気合入れなおしただけだから」
こんなのではいけないと思い、両頬を叩き気合を入れなおす。こんなんじゃ彼とは仲良くなれないし、強くなれない!私は龍崎さんみたいな強い人になって皆んなを守れるようになるんだから!
そうと決まれば彼に挨拶だ!
「彼に挨拶してくる!」
「あいあい」
私は席を立ち、二人の方へ向かい歩く。
「おはよう!ナオに春人君!」
二人はこちら向いて、ナオは元気に、春人君はどこかよそよそしく返事をする。
「おはようひかり!いやあ今日も面白かったぁ!」
「お、おはようございます天菜さん」
「ナオ、いきなりとんでもないものにつき合わせたね?」
「いいじゃんか!こうして二人とも無事五体満足で着いたんだからさ!解解!」
悪びれるそぶりすらない幼馴染は、片手間で扉にかけた自身の能力を解除する。
ガラッ
ドコドコドコ
ナオが扉を開けると、思い切りぶつかったであろう何人かの男子生徒が鼻血を出しながら、積み重なってできた人の山からこちらへなだれ込む。
「はあ、全く…。ごめんね春人君」
「い、いえ。新人への洗礼はあると思ってたので…大丈夫です」
「洗礼?………はあ。ほら、変な誤解してるじゃん。もう」
「まあいいじゃん。ある意味いい景気づけになったと思うぜ。生半可な気持ちだと色々とやられるからな」
「そりゃそうだけど…」
「また入り口前で何をやっとる貴様ら!!さっさと席につかんか!」
人の山の奥を見ると、先生が立っていた。という事はご飯が食べれる合図だ。
「先生やっときた。遅えよ」
『そうだそうだ』
ナオに続いて、人の山が賛同の声を上げる。
「じゃかしい!朝っぱらからドタドタ、ドタドタと騒がしくしかできん貴様らに言われとうないわ!!さっさと席に着け!朝食にするぞ!」
『はーい…』
人の山とナオは、それぞれ席に着くために、ホロホロと崩れていった。
「葉っぱ、基本的に食事の席は自由だ。誰と一緒に食おうがかまわんぞ」
「は、はい。でも、えっと」
彼はおろおろと周りを見渡す。
なんと幸運だろうか。この機会を逃す手はない。
「じゃあ私と一緒に食べよ!」
『「え!?」』
後ろの方で男子生徒全員の声がしたが、気にせず彼が来るように誘いかける。
「けど、友達がいらっしゃるのでは?」
「大丈夫!みんな優しいよ?」
「けど…その」
「?」
彼は何かにおびえるような表情を見せる。その目先は私に対してではなく、背後の方に向けている。
後ろを見るけど何もない。最初は美遊達かと思ったが、ゆるい笑顔で手をこちらに振っている。彼女たちはそんな人じゃないから威嚇するとは思えないけど…。
「花宇田!!こっちで一緒に食べようぜ!」
「むっ」
見かねたのか、ナオが笑顔で春人君を誘う。くう、まずい。誰も知り合いがいない状態での同性からの誘いは強烈なものだ。彼の顔も、一筋の光が差し込んできたかのように明るくなる。
「あ!う」
逃がすか!!
ガシッ
「ん?」
「ど、どうした花宇田?」
「いや、その。天菜さんが…手を」
「ひ、ひかりが?なにかあったのか?」
ナオが再び立ち上がり、こちらへ近づいてくるので、彼を睨む。
「ナオ」
「っ!はい!!」
「少し、黙ってて?」
「はい」
彼はすぐにも解いた席に座った。座った後は体を揺らして震えている。
いつの間にか男子たちの声も静かになり、邪魔者は消えた。
「春人君?一緒に食べよう?」
「……は、はい…」
何故か彼も震えており、か細い声ではあったが、了承の返事をもらったので手を引っ張り彼を連れていく。勝ち取ったり。
あ、そうだそうだ。
「春人君、私の事なんて呼んだっけ?」
「え、天菜さん、ですけど」
「ひかり」
「え?でもさすがにまだ」
「ひかり」
「あ、あの…まだ早いよう」
「ひ・か・り」
「ヒッ…。ひ、ひかり、さん」
「…まあいいよ」
「ほっ…」
「あと」
「!は、はい」
「敬語は無し。わかった?」
「はい……わかりました」
「春人君?」
「あ!すみま……。…ごめん…」
「それでよし。ほら、行こ?」
「はいぃぃ…」
そのあと私たちは、”仲良く”ご飯を食べた。
けど、彼は堅かった。まだまだ時間がかかりそうだ。
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ご飯は緊張しすぎたせいなのか、味が全くしなかったよ。
読んでいただき本当にありがとうございます。
この作品がお気に召しましたら引き継ぎご愛読の方、お願いいたします。
ただいま、諸事情により投稿が遅くなるかもしれないです。大変申し訳ないですが、ご理解していただけると幸いです。




