表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
還咲の桜  作者: 占地茸
第二章  入隊編
20/32

へんてこな編入学

あれからまだ1日しか経ってないのに、直ぐに通達が来たようで、事務職員さんが、封筒を届けに来てくれた。



「すみません。わざわざありがとうございます」

「いいのよ、仕事の一環だし。これから大変だろうけど頑張ってね」

「はい!ありがとうございます」

僕は元気よく返事をして封筒を受け取った。

「!!ぇ、えええ!どういたしまして!」

事務の人は急いで仕事場へ戻っていった。忙しいのに届けてくれたんだなぁ。


部屋に戻って封筒を開けると、合格通知書と必要な持ち物、学校の位置が示された地図が書かれていた。



東鶴舞(ひがしつるまい)訓練学校。…遠くない?」

記された場所はこの場所から自動車で順調に進んで約3時間かかる所にあるようで、徒歩だと一日とちょっとで行かなきゃならない。



いや、これは試されている。

向こうは僕の歳やここに来た思いを知っているはずだから、運転ができないことも馬車に乗るようなお金がないことなど承知の上で言ってきている。きっとこれは、僕がどれほどの思いを抱えているか、試しているに違いない。

もう訓練は始まっているんだ!ならすぐに支度して出よう!



音成さんから貰った必要最低限の用具を包み、支給された軍帽と服を見る。

「これがここの、学生服」

下の袴は黒色で裾の部分が絞ることが出来る股引と黒い足袋、上は後ろに大きく菊の模様が施された碧色の和服だった。

制服で身を包み、頭に軍帽を被る。


挨拶はいらないからすぐに行きなさい、と龍崎さんに言われていたが、お世話になった人全員へお礼の置き手紙を書き残す。



「よし、いくぞ!」

僕は黒い肩掛けを羽織り、肩に荷物を背負って、地図を手に持ち部屋を後にした。









---------------

数十分後









コンコンコン

「春君、いるかい?」

音成が扉に向かって声をかけたが、向こうから応答がない。不思議に思い、もう一度ノックをして声をかける。



コンコンコン

「春君?通知が来たと思うから、準備が出来次第、途中まで車で連れて行こうと思うんだけど、どうかなぁ?」





しばらく待ったがまたしても応答がない。何かあったのかと思い、ゆっくり取っ手に手をかける。

「春君?ごめんね、入るよー?」



ガチャ

「ん?え?」

まるで人がいたのかと思うくらいに、部屋が元通りになっており、押入れの布団も何もかもが整頓されている。

「部屋間違えたか?……いや合っているな」

部屋番号を確認したがどう見ても泊めた部屋と同じだ。



部屋を見渡すと、机の上に手紙が置かれていることに気づく。

龍崎や美鳥宛だけでなく、自分宛の手紙もあったので中身を確認する為、封を開けている最中に、とある予想が音成の頭をよぎる。



「まさか、ここからあそこまで徒歩で行く訳が」




手紙の内容は、お世話になったことへの感謝と、これを読んでいる時、私は山道を歩いている頃でしょうという内容だった。



本当に徒歩で行っている。地図でも確認できるほどの険しく長い道のりを自らの脚で。

「流石あの人の子、本当に凄いな。彼に拘る理由も少し分かった」




「…て言ってる場合じゃない!遭難なんかされたら元も子もないぞ!」

音成は急いで部屋を後にする。


「音成」

後ろを振り返ると龍崎が腕を組み、壁にもたれ掛かっていた。

部屋を少し見て確認した後、音成に目を向ける。

「龍崎さんすみません!春君が徒歩で向かってしまいました!すぐに追いかけます!!」

「待ちな」

龍崎は直ぐにまた玄関へ向かおうとする音成を制止した。なぜ止めるのか分からず、音成はもう一度彼女と向き合う。



「小僧一人で行かせな」

信じられない言葉を発した龍崎に音成は目を見開いて驚く。

「な、何言ってるんですか!?あそこまでの道のりは知らない人がたった一人で、しかも子供がたどり着ける様な道じゃないことは知ってるでしょう!?」

「ああ」

「でしたら!」



「アイツはもうただの子供じゃない。これから、我々の仲間の一人になる者だ」

「!!」

龍崎は姿勢を正し、春人を仲間になる者と堂々と宣言した。

「その為にも、あの道のり程度は乗り越えてくれなきゃ困る。小僧にも我々への挨拶はいらないと言っておいた。その意味を汲み取ったから一人で向かったのだろう」



「ですが危険です。あの道には大型動物も出るのに。そうでなくてもこの寒さだ」

「心配いらんよ。今はどいつもこいつも冬眠中だ。唯一私が心配しているのは道に迷わないかぐらいだ。それに、曲がりなりにも鬼の血を引き継いでる。少しはその意地を見せてもらうよ」

「しかし」

「つべこべ言わず、お前は自分の仕事を片付けて来な」

「は、はあ。分かりましたよ」


音成は、意図は理解したが、納得入っていない表情を浮かべる。

龍崎は部屋に入り、置き手紙を手に取る。

「いらないと言ったのに。……フ、律儀な奴だ」









--------------------

十数時間後












「ハァ、ハァ」

ここまで、結構歩いたがまだつかない様だ。

ご飯はしっかり用意してきたからいいとして、心配なのは明かりだ。太陽が落ちかけているのでこれからどんどん暗くなる。マッチを持ってきてはいるが、中身の量が決して多くはないので大事に使わなければならない。



後ろを振り返るともう華街は見えず、通ってきた山ばかりが見え、その間には霧や雲が浮かび、その奥から橙色の陽の光が差し込んでいた。この風景を見ているとなんだか、さっきまで華やかな場所にいたとは思えないほどに遠い記憶な気がする。



「凄い景色…。ぅぐ!!」

急に横風が吹く。冬時季の真っ盛りな為、少しの風でもとても寒い。山だから下より気温が低く天気が変わりやすい。早く抜けたほうが良さそうだ。

「早く行こう…。向こうで待ってるはずだ」



「ここを、のぼるのか…」

僕の目の前には、断崖絶壁と言える程の坂道があった。岩を切り崩し、階段を作っているがいつ崩れたりしてもおかしくない。落ちない様に一本だけ鎖の柵があるが、ほぼ無い様なものと言っていいだろう。



門の人は、徒歩ならここの道を通るって言ってたけど、本当に凄い道を通る。一人で行くって言った時に、驚いていた理由がようやく分かった。ここまでくるのにも山を登ったり下がったり、橋を渡ったりなど、ロクな道を通ってきていない。



「ぐ、もうひと頑張りだ!」

地獄の様に急な階段を登る。まだ荷物は多くないので、負担はまだ無い方なのだろうが、ここまでの道のりと季節の寒さでかなり疲労困憊しており、足がおぼつかない。それでも何とか足を進める。



まだまだ続きそうに見えるが、周りが既に暗く、上が視認できない。


僕は灯を灯す為に、火を付けようとマッチを取り出す。

「ふぐぐ、寒いぃ…」



ビュオオオッ!

「うわわ!」

急に前から強い風が吹き、後ろへ体が持っていかれた!

ゴロゴロッ

「ぐがぐぐぐ!」

登ってきた階段を転げ落ちていく!!


ドコッ

「がっ!!」

何とか踊り場で止まったが、頭を強く打った様だ。

また横になってしまったせいで、これまで抱え潜んでいた疲労が一気に噴き出し、体を動かせずにどんどんと意識が遠く離れていく。


風が更に強く吹き、水が頬に落ちた。目を少し開けると空は雲で覆われており、ポツポツと雨粒が落ちる。



「ダメ、だ。せめて、灯だけでも」

瞼が重く、何度も開こうとするが重力に逆らえずそのまま閉じてしまい、同時に意識を手放してしまった。



いきなり、もうダメかもしれない……。











ズズッ



---------------------











「よーし!!今日はここまでだ!明日に備え、さっさと食事と風呂を済ませて就寝に移れ!!」

『はーい』

「返事を伸ばすな馬鹿ガキども!さっさとその青臭いケツを動かせ!」


『はいはい』

「はい、は一回でいい!まったくここに来てから、同じことを何度言わせる気だ!!将来貴様らがここを出た時、恥を描くことになるぞ!さっさと動け!!」





いかにも頑固そうな四角い顔をした老齢の男に叱咤され、ゾロゾロと11歳程の男女の生徒達が食堂に向かう為に、教室から出て行く。全員服が汚れ、疲れた顔をしており、さっきまで授業や実技・実習でしっかりとしごかれていたことが分かる。



「おー、今日もえげつなかったねぇ。ねぇナオ」

「ああー、本当にな。しんどすぎるぜ毎日よぉ」

肩まで髪を伸ばした女子が、気さくに話しかけ、堅いがよく、後ろを刈り上げた短髪の男子がそれに対して気さくに返す。


「な、なぁ。今日は」


「ひかりー!早くご飯食べようよー!」

「あ、はーい!んじゃ行ってくるね!」

「あ、お、おう」



ひかりと呼ばれた女子の背を見て、直也はもう少し話していたかったのか、少しだけ残念そうに肩を落とす。



「おやおや〜甲坂直也くうん、幼馴染を取られて残念だったねえ?」

「!!いきなり背後から寄るなよ!」

その姿を見ていた男子が、後ろからぬるりと寄り話しかける。急に話しかけられた直也は体を跳ねさせる。



「おやその反応は図星か?いやー残念だったなぁ!お前の愛しいひかりちゃんはお友達とごはんだと!仕方ない。ここは心の友であるこの俺がお前と飯を共にしてやろうではないか!

"とも"だけにな!」

拓己(たくみ)、明日の稽古ん時覚えてな。余程命が要らないと見えた」

揶揄われたので、拓己に凄む直也。その様子を見て拓己は、やり過ぎたと思ったのか焦り出す。



「じょ、冗談冗談!!ほ、ほらさっさと俺らも飯食いに行こうぜ!早く来ねぇとお前の分も全部食うぞ!」

逃げる様に走って食堂へ向かう。そんな情けない友達の背中を見て、直也はため息をつく。


「はあ、全くあの野郎は……」










ガタッ






「ん?」

廊下を歩くと横の窓ガラスが揺れた。

(なんだ?今の感じは…)

直也は窓ガラス越しに外を見る。ただの風かも知れないが、すっかりと暗くなった校庭の向こうに、何か得体の知れないものがあるのを感じた。



「…何もない、よな」

窓から目線を外そうとしたその瞬間、








奥から自分よりも体が小さい男子らしき者が、ゆっくりと姿を表した。



「!!何だあいつ!」

妙と感じるのは夜だから全体が視認できないのではなく、何か黒いものが彼を包む様に蠢いている。蠢く速度は決して風に影響されることがなく一定だが、動く方向はまばらで、異様な雰囲気を醸し出していた。



(あのままここに近づかれるのは何かまずい!)

そう思った直也は急いで外に出て、男子の前に立つ。



「おいお前!そこで止まれ!」

「……」

ギロリと碧い目が直也を見据える。年下と思える男子が出来るとは思えない眼光に、少し気圧されるも毅然と構える。



「この学校に何か用か?それなら先ず、そのおっかないものを引っ込めてくれ」

あの服装を見るに、彼がここに用があるのは確実だ。だが先ずは、恐らく害があるであろうあの黒いものを取り除かなくてはいけない。最悪戦いになった場合、今の自分じゃ彼に勝てるかどうか怪しいと思える程の実力差を感じ取る。


「…」

彼は依然として何も言わずに、ただジッとこちらを見つめる。

時間が経つ程に空気が重くなる。まだ数秒しか経っていないのに何分もこうしている様に感じる。

ただ下手に動いたら不味いことだけは分かっていた。




「……ガッ」

「が?」


「ガッコウ?」



「…へ?」

予想していたものより素っ頓狂な答えが返ってきた。

(てっきり壊すとか、殺してやるとか物騒なものが飛んでくると考えていたのに、学校??)


「あ、ああ。学校だぞ?菊守附属、東鶴舞訓練学校だ」

取り敢えずまずは彼に歩み寄ろうと思い、正直に答える。



「…」

「あ!おいおい!!〜ふぅ、危ねぇ」

どんどんと黒いものが無くなったが、同時に目の前の男子が、まるで糸が切れた様に倒れ込んだので、急いで駆け寄り、何とか受け止めた。膝から下がさらに汚れてしまったが、彼はそんなことを気にせずに受け止めた男子の様子を伺う。

顔を見るが目を瞑っている。意識がない様だ。



「何事だ!」

「あ、遅いぞ先生!」

後ろから先程の四角い顔をした男が、直也へ駆け寄る。


「たく、食堂でお前の姿が見えないと思ったら、こんなとこで何しとるんだ」

「いや、なんかコイツが凄い気迫でこっちに来ててさ」

「コイツ?」

直也が抱き抱えるものを見ると、男は驚いた表情を浮かべる。



「なんと。徒歩で来ると聞いていたが、もう着いたとは…」

「え?どういう事?コイツのこと知ってんの?」

その回答に直也は不思議に思い、男の方へ顔を向ける。




「コイツの名前は、花宇田春人。


ここの、編入学生だ」

「へ、編入学生!?てことは、同い年!?」


直也はこれから更に、この学校が騒がしくなる事を予感する。

読んでいただき本当にありがとうございます。

この作品がお気に召しましたら引き継ぎご愛読の方、お願いいたします。

ただいま、諸事情により投稿が遅くなってしまい、大変申し訳ないですが、ご理解していただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ