癪な医師
嘘です生きてます。生言ってすいません。
医務室は一階の様で、さっきの道を戻って行く。
すれ違う人に奇異な目で見られる。
「し、視線が気になる…」
「しゃんとしろ。貴様は今日から此処の一員なのだから、堂々と歩けばいい」
「そ、そうですね」
僕は少しだけ胸を張り直す。こちらをチラリと見るが、僕の様子に満足したのかまた直ぐに前へ向く。
「うむ、その意気だ」
だ、だけどやっぱり気になる。少しだけ聞いてみよう。
ざわざわっ
「おいあれ、さっきの子だ」
「ほんとだ。…何で大将と、一緒に?」
「あの子、もしかして大将の…孫!?」
「くっ!あの凛とした顔が、彼と会う時だけ砕けた顔を見せるというの!?そんなの、そんなのって……許せる!!」
「けど大将の孫となると、養子縁組は難しいわね…」
…なんだか彼女のせいで、余計目立っている気がしてきたぞ。
それに彼女に聞こえたらまずいようなことを言っている気がするので、どうか気づかないでと心から願う。
「ほぉ?………孫、ねぇ」
「ぁ……」
はい、終わりました^^。
……………………
………………
…………
……
「着いたぞ。ここが医務室だ」
「あ、はい…」
「どうした?」
「い、いえ。大丈夫です」
ここまで来るのに色々あり過ぎて、なんだかとても疲れたぞ…。けど身体検査だからシャキッとしなければ!
「そうか。では入ろうか」
「はい!」
龍崎さんは扉の取っ手に手をかけた。
ガラッ
「失礼する」
「失礼するなら帰ってください」
「あいよーではない。美鳥、貴様に色々と用がある」
「尚更帰ってほしいところですよ」
妙な茶番をやる龍崎さんと美鳥と呼ばれた、まだ若さが見える男。
身長が高く、黒い髪がボサボサで丸眼鏡をかけている少し細い男が気だるげそうにしていた。タバコを吸い殻が灰皿にてんこ盛りになっており、今また新しいものに火をつけようとしていたので、それを見た龍崎さんが直ぐに取り上げた。
「ここでは禁煙と伝えたはずだ」
「あー、そんなー」
「そんなではない。全く、少しは医師としての自覚を持て。見ろ。灰皿の底が見えないどころか、吸い殻の山でてんこ盛りじゃないか」
「まだてんこ盛れる」
「吸いすぎだ。控えろ馬鹿者」
「相変わらずケチな人ですなぁ」
立場が逆過ぎる。普通医者が取り上げるものなのに、取り上げられているのは初めて見た。
体制が悪いと感じたのか、美鳥さんがこちらに気付いた。
「ん?そちらの子は大将のお孫さんですか?」ゴンッ
突如目の前から鈍い音が響いた。美鳥さんは頭を抱え、痛みで悶えている。
「ぃいってぇぇ…。急に何するんですか」
「貴様が本当に馬鹿者だったからだが?私の孫ではない。というか私はまだそんな歳ではない」
「御年ななじゅ」ブンッ「!!あっぶな!」
「貴様に私自ら治療してやろう。ちと荒いだが我慢しな」
「何も悪いとこございませーん。ブーブー」
「あるではないか。行儀という悪いところが」
「やべ、待って待って!」
龍崎さんの右拳が掲げられ、パチパチと鳴りながら光り出す。明らかに殺す気だ。
「あ、あの!し、身体検査をしに来ました!」
怖かったが、医師がいなくなったら元も子もないので二人に聞こえるように声を張る。するとその声に気づいて、龍崎さんが振り抜いた拳を戻す。
「小僧に感謝しな。そのおかげで助かったのだからな」
「ありがとーねー」
「い、いえ」
手を緩く振り、またさっきの調子に戻る美鳥。多分この人全然反省してないな。
「そのお礼としてじゃないけど、私が直々に見てあげよう」
すると、緩かった顔が一転してキリッと見定めるような目つきになる。
「君、名前は?」
「花宇田春人です」
「…花宇田?え、…ちょっとごめんね。……大将さん、薄々気づいてたけど本気?」
「…ああ」
「………………わかりましたよ」
何か今の一瞬で分かり合ったかのようなやりとりを行う二人に僕は戸惑っていた。
「あ、あの」
「ああ、ごめんね。もう大丈夫だから。
因みに俺の名前は美鳥明っていうんだ。これからよろしくー。ほいじゃ続きやろうか」
「は、はい。よろしくお願いします」
暫くの間、身体中を調べられた。必要以上にね……。
……………………
………………
…………
……
…
「はーいお疲れ」
「あ、ありがとうございました」
本当に必要以上に調べられた。一般的な検査の身長と体重、視力などだけでなく、血を抜かれたり、能力の発動持続時間やその効果、回復速度など様々なものが加えられていた為、何倍も時間が掛かった。
「つ、疲れたぁ〜」
「はいこれ」
「むぐ!?」
何か口に突っ込まれた。吐き出すついでに、舌で触ると今まで感じたことのない食感とその色に驚く。
「何この妙な色の石!」
「石?……ふははははは!!君面白いな!!」
「これは、食べても大丈夫なのでしょうか?」
「クフフ!ぁあいいとも。舐めれば溶けるからしばらく噛まないほうがいいよ?硬いけど甘いものだから」
「は、はい」
甘いのは大好きな為、そのまま舐め続ける。
けど、甘いのかこれ?甘いも何も、味がしないんだけど。
舐めてたらそのうちするのかな。
-------------------------
「どうだ?小僧は」
小僧の身体検査の内容を確認しようと、この馬鹿医者に話しかける。いつの間にかまたタバコを吸っていたが、それよりも聞きたかった為、今は水に流す。
しばらく噴かしながら、美鳥は書き込んでいた資料を見つめる。
「…鬼の血を受け継いでいるにしてはとても身体が弱いですね。身長がこの年代の平均よりかなり小さい…。それに加え、体重も平均以下。視力と能力持続性は飛び跳ねていいですが、それ以上に回復速度が遅過ぎる点が目立ちます」
「そうか。…ん?」
馬鹿医者の顔を見ると、何かが分からないといった感じに険しい顔を見せる。
「どうした?」
「…その、注射した箇所を観察したのですが、その、何というか」
「煮え切らないな。どうした?」
美鳥は頭を掻いて考え込む。
だが、急かされていることに気づき、止まった内容の続きを話す。
「すみません、不可解すぎて。その、結論から言うと、傷の治りが遅いのですが、そのせいで傷が腐る事はありません」
「なに?」
「普通なら細菌が傷口に入ったり、体の血小板が集まって傷を塞ごうとするのですが、彼はこのどちらの進行も遅いんです」
美鳥は妙なことを話す。傷の治りが遅いのは色々と問題があるのだろうが、細菌まで遅いとはどう言うことだ?
「別に医学に詳しいわけではないが、おかしくないか?なぜ細菌の方まで遅いのだ?」
「それが分からないんです。まるで傷の部分だけ、時が遅れている様な感じです。ですが血はいつも通りに出てくる。ついでに流れた血を採取し観察した所、こちらの細菌はいつも通りに付着し、増殖していた。世界的に見ても、かなり特異体質です」
「呪いや他者の能力の可能性は?」
「何とも言えませんが、その可能性は低いです。俺の能力を使っても、時間は掛かりますが問題なく治せます。自身でかけた呪いや制約でない限り、その呪いが俺自身にも作用するのですが、俺の身体には何も変化はありません。第一に、この年で自分自身に呪いや制約をかけるとも思えませんし、できるとも思えません」
このやぶ医者の能力は、触れた者の傷や毒、呪いといったものを癒やしたり、治すことができる。しかし他者の傷を癒やす際、その者が罹っている傷以外の症状が、一時的に美鳥の体にも表れる。
しかし、その者自身が己にかけた呪い、或いは先天的な症状や障害であるものは、癒やすことができない。こいつがここでこんなにだらしない生活を送れているのも、この能力の存在が一つの理由となっている。
「治るのにどれくらい時間差がある」
「まだしっかりとは言えません。ですが経過から見て傷口が完治するまでに、およそ二倍かかります。つまり、三ヶ月の見込みの怪我が、彼にとっては半年の見込みになります」
「ふむ」
顎に手を当て、少し考える。聞いた事はないが、呪いでない以上これしか考えられない。
「…………此奴の能力は二つあるのかもしれんな」
珠人が能力を二つ持つ事は、全世界で見ても一例も確認されていない。血に妖の混じりがあり、結果的に二つの能力を持つ珠人もいるが、もう一方は、必ずその血の特徴的な発動方法が存在する。
なのでどんな珠人であれ、その者にしか出来ない能力は一つなのだ。
「あり得ない、と言いたいですが、僕もその節しか今のところ思いつきませんね。まだまだ混じりの珠人は数が少ないので、例外が出るのも仕方ないかも。……けどこれは…」
「関連性がない、だろ?」
「ええ、最初は光る能力の効果かと予想し、光を出した時とそうでない時の両方を観察したのですが、結果は何も変わりませんでした。その他も色々試しましたが、全て同じ。つまりこれは別の何かが両方の働きを制限しています」
「単なる病気という説は?」
「無論調べましたが、該当する物は何も…。今のところは、やはり能力の可能性が高いです」
美鳥はバツが悪そうな顔でこちらを見る。
傷の治りが遅いとなると…
「扱うには少し難しいな」
「…ええ。正直実践投入はかなり難しいです。能力も援助向けですから、後衛に回せば怪我をする場面は少なくなります。しかし、その、万が一怪我をした場合は…、その、貧血になる可能性が高く……」
無神経なコイツも、流石に口籠る。父の遺言の為に、幼い身でありながら、たった一人で遠い故郷から遥々来たのだ。彼のただならぬ覚悟に気づいているのだろう。
「荷物になるだけ、か」
「その、…………はい」
美鳥は目を伏せ、私のつぶやいた言葉に賛同する。彼にどう諦めさせようか悩んでいるのだろう。
私は飴に夢中になって、話を聞いていない小僧に目を向ける。
「わかった。ではその資料を訓練学校の方へ送付しておいてくれ。それと、」
私の言葉を聞き、美鳥が瞑っていた目を見開きこちらを向く。
「ちょいちょい、話聞いてました?」
「聞いた。その上でだ」
「彼への情けですか?らしくないっすよ?」
「ないと言えば嘘になるな」
「いやだったら」
「賭けてみたくなったんだよ」
「は?」
目線を小僧のままにしながら、自分の執務室で啖呵を切っていた事を思い浮かべる。
「あいつはこの私に、願いを叶える力が欲しいと宣った。自分の父親よりも強くなると、真の強さを付けると、啖呵を切ったんだ。私にとって、何でもないただの子供の戯言なのに…。
なのに、何故か久しぶりに沸るものがあったんだ」
「…」
「だから、賭けてみたい。ただの小僧がどこまでやれるのか。どこまで上り詰められるのか見てみたい」
「はぁ、わかりましたよ…。上司直々の命令ですし、従う他ないんですけど…」
美鳥は諦めた様に、身体検査結果の紙を封筒に入れて、糊をつけようと机を漁る。
「それと、小僧の担当をお前にする」
「はいはーい、りょーかいいい??俺に?何で?」
「話は以上だ。ほら小僧、いつまで飴を舐めてる。貴様の担当医が決まったぞ。さっさと挨拶せんか」
小僧の方に手を置くと、「んう?」と声を上げながらこちらを見上げる。
「…はっ!!僕は一体何を!?」
自分の状況に直ぐに気がつき、慌てて飴を口から離す。どれだけ集中して味わってるんだコイツ。
「その、甘いと言われたのでずっと舐めてたんですけど、全然わからなかったです!!」
「馬鹿言ってないで、さっさと美鳥に挨拶しなさい。担当医になってくれるんだぞ?コイツは傷の治りを何倍にも促進する能力があるから、貴様の傷の治りにも打ってつけだ」
「え!?あ、はい!!」
すると後ろで固まっていた美鳥が、突然動き出した。
「はっ!!いきなりのパワハラに驚いて、頭の処理が追いつかなかった!」
「ぱわ、はら?な、なんです?それ」
「お前を担当医になれて嬉しいという意味だ」
「へぇー、そんな意味が」
小僧は私が教えた言葉の意味を覚える様に頷く。
「待った待った!純情な心に漬け込んで、間違った知識を植え付けるな!!大将、俺はまだやるなんて言ってないですよ!」
「聞いたら受けてくれるのか?」
「お断りします」
「だからだ。これは上官命令、お前に拒否権はない」
「訴えてやる!」
イー!!と呻きながら、美鳥は手をぐるぐると回す。
「ほお?ろくに働きもしない穀潰しに、わざわざ私自らが仕事を与えようとしてやっているのに、訴えるだと?」
「ぐっ!」
「やってみるがいい。たかが一介の医者のお前と、国が経営する軍事組織で大将の役職を持つ私。果たしてどちらが発言力がある?」
「ぐぐっ!」
「どうなるかなぁ?いやぁわからんなぁ?」
「この、クソバ」
ドゴオオオン
その言葉を言い終わるより先に、美鳥の顔を掠らせ壁に拳を思い切り当てる。壁はぶち抜いてしまったのでそのまま崩れてしまい、隣の部屋にいた部下が唖然とこちらを見ている。
このやぶ医者は本当に、躾のなってない犬だな。
「なにか、質問は?」
「ああ何もございません喜んでお引き受けいたしますどうぞよろしくお願いしますね春人さん」
「は、はい!こちらこそよろしくお願いします!!」
よし、一件落着だな。
「では、小僧。今日は特別に、貴様が泊まる部屋に案内してやる。ゆくぞ」
「はい!」
我々は意気揚々と医務室を後にした。
「二度と来るな疫病神め!!悪霊退散!悪霊退散!」
後ろの方では我々に向かって塩を撒く美鳥がいた。
アイツ、本当にいつか絞めるか。
時代背景はなるべく明治初期時代風味をとりますが、あくまでここは別の世界なので多少、歴史、言葉の浸透時期は異なります。
それでも少し気になるなぁと感じたら教えてください。出来る限り頑張って修正します。




