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還咲の桜  作者: 占地茸
第二章  入隊編
17/32

華街

第二章、始まりです!

お気に召した方、どうかご愛読の方よろしくお願いいたします!(深々)

「春君!春君!」

少しだけ居眠りしていると、急に声を掛けてきた。



「そろそろ見えてきたよ。華街」

「…意外に近かったですね」

「自動車だとそう感じるかもね」

故郷を出てから数時間、予想よりも早くついた。あそこから華街まではかなり遠いはずだが、この乗り物は馬とは違い休まずに動けるからだろう。



「窓開けれるからよく見てごらん」

「えっと、これはどう開けば……?」

「扉の真ん中にある取手を右に回してごらん」

言われた通りに取手をくるくると回すと、それに合わせて窓が下がったので、窓から少し身を乗り出す。






「うわぁ、すごい…」

自分が住んでいた街が祭りをやっていた時より、もっと賑わっている。

少し離れているのに、ここからでも人の声、荷物の音などがした。まるで街が鼓動をして生きている様な感覚を味わう。屋根以外、色が派手なものが多く、遠目から見てもその建物の個性が表れている。それがが奥へ、横へと広がっている。

まさに、華街と言う言葉にふさわしいところだった。



「春君は華街は初めてか?」

「ええ!いつもお父さんから話を聞くぐらいですから、来たのはこれが初めてです。街の人は、皆この乗り物を乗っているのですか?」

「いや、自動車は君が思う倍の値段がかかるからね。乗っている人は滅多にいない。それに、これには人を傷付けるのには十分な力持っているのに、まだしっかりとした法的措置が取られていないから、よほど大富豪の人か、私たちの様な軍務用しか今は普及できない様にさせているんだ」



「なるほど。じゃあ今僕はすごい体験してますね」

「ははは、それがね。軍には幾つもこれがあるのさ。

普及できないから独占できるし、今のうちに我々で安全な乗り方を見せつけて、法的措置が取られる様になった時には、見本になる様にと、上からの差金でね。

これから君が行くとこは分からないけど、その先はきっと嫌と言うほど乗る事になるかもね」



流石の華街でも、まだ馬車の方が多いようである。自動車の方は差し詰め、軍用車として知られている様だ。



「僕らみたいな年でも運転できるんですか?」

「いや、流石にそれはすぐに措置が取られた。15歳までは運転はできないよ。…そういえば君、年は幾つかな?」

「……今年で11歳になります」

「え、11!?本当に見えないなぁー。もうちょい下の方かと」

自分の歳を言うと、皆この反応だからあまり言いたくなかったのに…。

「……よく言われます」

「なら運転できるのはまだ先だな」

あとサラッと探りを入れてきたが、年を教えたくらい別にいいと思ってしまった。軍に所属するって事なら、どうせ後で知られるだろうし。




「でもよかったよ。華街には連れてこようとは思っていたけど、[菊守]が受け入れる歳は10歳以上だからね。何年かは面倒見なきゃと思っていたけど、その必要はなさそうだね?」

「ええ、これ以上ご負担をかけたくありませんでしたから、少し焦りました」

危なかった。すっかりその辺調べるのを忘れていた。まあ調べる時間はなかったんだけど。




話しているうちに入り口付近まで来た。

「す、すごい人ですね…」

「ああ。ここはいつもこんな感じなんだ」

「僕らも並ぶんですよね。これは気が遠くなりそうだ」



さまざまな業者の荷物や、妙に装飾して車輪がある箱を運ぶ馬車が、車用の入り口前で長い列を作っている。それどころか、人用の入口付近でも沢山の人たちが長蛇の列を作っていた。

今からこれの一員になって順番を待つと思うと、少しゲンナリする。



「いや、あまり並ばないよ。この自動車は軍用だからなるべく早く通してくれるようになってる」

「へぇ、優先権みたいなものですか」

「ああ、彼らも発行すれば早めに入れてもらえる。まあこれが少し高くて手が出せないんだが、軍用には最初からついてるから、役得だな」

なるほど、この人が外でも乗り回す理由もわかった気がする。

これなら優先権を発行しなくて済むし、人用の入口よりも早く街へ入れる。



そんな事を思いつつ審査官のところまで辿り着いた時、とある事に気づいた。



「そういえば、貴方のお名前、聞いていませんでしたね。

今更ですけど、貴方のお名前は?」



窓を開け、審査官と少し話した後、黒い服の男は車を進める前に僕の方を向いた。




「私の名前は音成(おとなし)、音成(つとむ)だ。

改めてよろしくね、〔花宇田春人〕君」


…………

………

……




「これが、……華街!」


建物が木造ではないものがある。それに形も違う。屋根は瓦のものが多いが、何だか土壁?のようなもので作られている物がある。ガラス窓が当たり前で、何よりどの建物も遠目からでもわかるような派手な色の数々。

しかし誰かが思いついて建てたというよりも、何かを真似している様な感じだ。



街行く人は着物じゃない人もいる。

女の人の服は、全体的にフワフワとしており、特に特徴的なのが、腰から踵まで花の様に少し横へ広がった服を着ている。傘を持ち歩く人もおり、番傘の人もいれば、着ている服にそっくりな傘を持つ人もいる。


男の人も着物じゃない。横にいる音成さんのような、袖や裾が締まっており、全体的に黒くシュッとした格好をしている。周りに鍔がついた帽子を被り、その格好だけでなんだか誠実さが伝わってくる。



「何というか、別の世界に来た様な気分です」

「あはは!まあそれはそうだろうね!此処では別の国の文化も色々と取り入れているから、見た事ないものが多い。というか見た事ないものだらけだろう?」

「ええ、本当に見慣れないものばかり…。建物も服も、文字の意味すらわからないものもあります。ほらあれなんか、あ、あいすくりいむ?というのでしょうか」

実際、店と思われる看板が見えるが、時々意味がよく分からない言葉がある。



「どれも西洋のものを模倣させてもらってるが、建物の屋根だけ瓦のものが時々あるだろう?あれは建築業界じゃ<擬洋風>と言って、西洋のものを僕らの技術で真似したものだよ。今はこれが流行りなのさ」

「擬洋風…ですか」

街はとても華やかで活気にあふれかえっている。名前にふさわしい場所なのは間違いないのだが…。

こんな事を思うのは西洋の人に失礼かもしれないが、何だかこの国の文化が侵食されてるみたいだ。

まるで僕らに気付かれない様に。




「こんなこと言うのは変ですけど、大和の文化が忘れられるみたいで、その、何だか…少し寂しいです」

「寂しい、か。そういえば君の街ではまだ、どこも大和家屋だったからな…。そう思うのも分かる」

「はい…」

「だが新しい事を取り入れるのは、悪いことばかりじゃない。他の国とも差がつかない様にし、街に新たな活気を作ることができる」

「…」



「だが私たちに出来るのは、常に大和らしさというのを真に持つ事だ。いつ何時もこの国が築いてきた誇りと歴史を忘れてはいけない。ある意味そういう想いで出来たのが、あの義洋風なのかもね?」



「……そうですね」

彼の言葉が、何だか自分の中でとても納得した物だった。

そうか、どんな事も忘れない事が大切なんだ。誇りも二人の願いも。



「…やっと少しは笑ってくれたね」

「え?」

「あ、戻った。まだ流石に警戒されてるか…」



彼が笑ったと言っていたが、全然気づかなかった。

「笑ってませんよ?納得しただけです」

「ははは。いや、まあそういう事にしてあげよう」

「むぅ…」

何だかはぐらかされた感じで少し嫌だなぁ。だかこれ以上突っかかると余計に子供に思われるだけだから、自分の中に落とし込む。



「はは。君は表情には出ないが、わかりやすい子だな」

こやつ、僕をまだ揶揄う気だ。



「どういう意味ですか?」

「そのままの意味だよ。わはは」

「生憎、この間初めて嘘をついたばかりなので」

「逆にすごいなそれ」




「あ、見えてきたよ。あそこが、君が今日から拠点とする菊守隊総本部だよ」

「え…ここ!?」

目の前に見えたものに僕は驚愕した。


そこは大きく豪勢な門の先にはあまりにも広い敷地、車を停める場所だけで家が何軒も立つ広さ。その奥には、何十棟もの擬洋風建築物があり、そのどれもが屋敷のように大きい。

(物によったら四階建てがあるぞ…)

目の前につくと門が独りでに開き、僕らを迎え入れる。



「す、すごい。今のはどうやって…」

「言っただろ?他の国と差がつかないようにって。この国は今まさに文明開化の真っ只中なんだ」

「文明…開化ですか」

「君にも少しは大和の意地を見せられたかな?」

「ええ、とても」

今度は、自覚しながら笑った。

「そうか!それはよかった!」

その様子を見て満足そうにした音成さんは、車を中へ入れていった。





「菊守隊へようこそ、春人君」

その言葉を聞き、僕は改めて心を引き締める。



ここから、ついに父の願いを叶える為の戦いが始まるんだ。

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