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還咲の桜  作者: 占地茸
第一章  旅立ち編
13/32

意志

今回少し(?)えげつないシーンがあります。

しかし物語の中でも重要な点である為外せません。どうか、ご了承ください。

お父さんが目の前で死んだ。


「ぁ…ぇ、え?」

死んだ?誰が?お父さんが?何でだ?意味がわからない。なぜ死んでるんだ?

「なんで、え?だってさっきまで、一緒に、ぁえ?」

蓋をして無くしてしまいたい、しかし脳裏に焼き付いて仕方ない嫌な記憶が蘇る。

「…ぁぁああぁぁぁぁあ"ぁあ"あ"あ"あ"あ"!!!!」

僕が捕まらなければ、もっと強くあったならば、きっとこんなことにはなっていない!許せない許せない許せない!!僕は自分を、弱い自分を許せない!自分を今すぐ殺したい!!八つ裂きにしてやりたい!!

「!!刀!!」

そばに刀がある。誰のかわからないが、丁度いい。この刀で自分の腹を掻っ捌く!!苦しむ様に切ってやる!!必ず地獄に行く様に呪いを込めて!!

「死ねぇぇぇぇ!!!」




『大切なものを守れるくらい強くなれ』

「ぁ……………」

父が最後に託した言葉。それが脳裏を横切る。

(…構うものか!こんな奴は生きていちゃいけないんだ!!)

そう思い何度も露出した腹に切っ先を当てるが、それ以上奥へ刺せない。刺すことができない。

「くそ、クソクソクソクソクソ!!!何やってるんだ僕は!早く、殺さなきゃ!ころす!ころ、す…」

どんどんと力が抜ける。自分の保身などでは断じてない。ただ今死んでしまったら、お父さんが託した言葉は、期待は、どうなるのだと、それだけで僕は止まってしまった。



「うぅ…。ああ"あ"あ"あ"あ"あ"…、どうして、なんで、こんなことに…」

涙が溢れて止まらない。仇を打てない自分を。期待を忘れて自暴自棄になったこと。誰を恨まなければならないのか。もう分からなくなってしまった。





その時、ふと思い出した。そうだ、父の死因は、何も自分だけではないと。

誰が殺した?今、数歩先で寝そべっているアイツか?アイツが殺したのだ。そうだ、そうに決まっている。




「お前も、殺してやる」

刀が重いのでゆっくりとしか動けないが、着実に近づく。




そして首元まで歩みを進め、刀を両手でしっかり支える。

狙いは、首元一つ。




「後で、また会おうね」

僕は刀を振り下ろした。





「申し訳ありませんが、まだ死ぬわけには行かないのです」

「なっ!がっ!!」

寝ていたはずの男が、一瞬で背後に回り首元を強く叩かれた。



「かは、ま、て」

意識が遠のきながらもなんとか奴の服を引っ張り、しがみつく。しかし、頭がクラクラする。だめだまた、意識が…。お父さんを、まも、らなきゃ。




ズズッ



---------------------


気づいた時には子供が刀を持ち、私に向かって歩いてきていた。すぐに無力化したが、もう少し起きるのを遅れていたら、一生目を覚まさない事になっていただろう。



嗚呼、最初から見れなかった事にとても残念だ。しかし、自分の想像していたものとは違った。その子の目は、淀み切って憎しみ以外は見れないのだけれど、その矛先は私だけではない。自分に対して向けていたのだ。何故だ?彼の父親を殺したのは私だと言うのに、何故自分を恨むのだ?



フ、面白い子だ。こんな変化は予想していなかった。

自分を恨む、か。今からこの子は死ぬことよりも辛い人生が待ち受けているだろう。そして、もう一度逢えた時、どんな顔を、目をしてくれるのだろう!嗚呼、楽しみで仕方がない!

おっと、そんなことよりもやらなきゃいけないことがあった。



「もし、幽間です。無事終わりましたよ」

『……』

「ええ、しっかりととどめも刺しました。子供の方もまだ生きていますよ。…………フフ、殺すなんて、そんな勿体無い事する訳ないじゃないですか」


『…』

「ええ、分かりました。後の事はお任せします。あ、そうそう、綱海の方もお願いしますね。あれでも一応同僚なので、いなくな」

ドォォォン!!







「おっと。これはこれは、まだ息長らえていたとは驚きました。凄まじい執念ですね。…おや?」



突如、大きく刺々しい何かが襲いかかるが、何とか躱し続ける。その使い手は何故か全貌を隠している。今更姿を隠したところで何の意味も持たないのを、彼が知らないはずがない。何より先ほどよりも攻撃の仕方が荒い。霧?の色も何だか黒っぽく、青色は一切感じない。



避けてはいるが既に傷ついた箇所から血が噴き出している。既に彼との戦闘でかなり流してしまっている。

「く、流石に負傷箇所が多すぎて、これ以上の戦闘はまずいですね。ここは大人しく引きましょう」



持っていた全ての煙玉で煙幕をはり、気配を消してその場を後にする。


『があぁぁぁぁぁぁぁ!!!』



後ろから恐ろしい雄叫びが聞こえた。

その声を聞いた瞬間、私は、







心の底から悦びが満ち溢れた。



「嗚呼、なんて素晴らしいんだ。本当に彼等は、美しい」





--------------------



「………!!……るくん!!」




なんだ?声が聞こえる。誰かを呼んでる。

「君、春人君だろ!?起きてくれ!」


「…おじさん、誰?」

「ああよかった!君だけは無事だったんだね!本当に、本当に良かったぁ!」

「んぐっ」

いきなり強く抱きしめる。本当に誰だこの人。





「あの、」

少し呟くと、まずいと思った顔をしながら、すぐに離してくれた。

「あ、ああ!済まない!その、つい嬉しくてね。あはは、悪い奴らは何処かへ行った様だ。今のうちにお家へ帰ろう。きっとお母さんが心配しているから」




「…嫌だ。ここにいる」

「しかし、ここはまだとっても危な」

「ここにいるんだ!!」



「…君の、お父さんだね?」

「っ!!」

お父さんのことを言われてギロッと睨む。もしかして、こいつも敵なのか?

「!!違う違う!私は味方だよ!アイツらの仲間じゃない!」

「なら答えて。何故この場所に来れたの?」



「ここには、梅さんが教えてくれたんだ。たまたま君の家に遊びに来たら、こんな事になってるって聞いてさ」

「変だよ。梅が事情も知らない赤の他人を応援に呼ばせるはずがない。本当に応援を呼ぶとなったらきっと自分が来るはずだから」



「!!それは無理だったんだ。彼女は君のお母さんの護衛を任されていた。動きたくても動けないから、私を使わせたんだ」

「…」

通りは通っている様に感じるが、どこか嘘くさい。大体何故見ず知らずの人を寄越すんだ?



「もう一つの疑問の答えにはなっていないよ。もう一度聞くけど、何であなたがここに寄越されたの?」

「…私は、君のお父さんの、誠士郎の同期で、友達だ」

「!!」



「…こんな言葉だけでは気が休まらないだろうが、本当に残念だった。私は珠人だけど弱くてさ、気も弱いから、僕が行ったら足手まといになるだけだど思った。だけど、何か役に立てるんじゃないかって今更駆けつけたんだ。馬鹿だよね、彼が居なくなったら意味ないのにさ」

「…」

「私は誠士郎の背中にずっと憧れて、支えてもらったんだ。本当に沢山お世話になったんだ。お返しは何も出来なかったけど。けど俺は、彼の友として、彼が死んでも守り通した君を、死んでも無事に家まで帰す、やっと初めて彼に報いることができる。だから、これは果たさなければならない使命なんだ」



「私は、君と言う彼の形見を、必ず無事に家へ送り届ける」

「…」

「私を信じろなんて言わない。だが、どうかこの独りよがりの使命を果たさせてくれ」



「一つ条件がある」

「…なんだい?」



「…お父さんも一緒に、連れて帰る」

「………………もちろんだとも」

「僕が持つ」

「………わかった」


「お父さん。目、閉じるよ」

僕は手で父の目を閉じた時、すっかり冷たくなってなってしまった事に気づいた。あんなに暖かった手が、まるで氷の様に冷たい事にとてもやるせない気持ちと同時に大粒の涙が溢れる。


「乗せて」

「…ああ」

身体を担ぎ、その冷たさを背中いっぱいに感じながら、ゆっくり歩き始めた。



…………………………………

…………………………

……………………

………………

…………

……



 


何事も無く、家に到着した。

お母さんに会うのがとても怖い。自分だけ生き残って帰ってきて、一体どんな顔をして会えばいいのだ。なんて言われるだろうか。足が震える。



折角の家族の時間を、こんな形で最後にした自分を恨んでいるだろう。構わない。拒絶されてもいい。家から追い出されても、殺されても。僕はそれほどのことをしてしまったのだ。



「…春人君」

「……分かってる」

ごちゃごちゃ考えても仕方がない。僕は勇気を出して引き戸に手をかけた。



「ここまでどうもありがとう。この先は僕一人だけで行くよ」

「…………ああ、分かった」

引き戸を開き、家の中へ入っていく。



「春人君」

「……何?」

「……これは、君のせいじゃない」



「……………それは、僕が決める事だよ」



僕は、扉を閉めると同時に、初めてその人の顔をしっかりと見た時、少し驚く。その顔は、慰めのつもりの言葉とは裏腹というか、何だか無機質で淡々とした表情だった。




………

……


梅が迎えに来ない。こんな時こそ気づかないはずないのに。

何かあったのだろうか?



「…」

(!)

声が聞こえた。お母さんの声だ。どうやら二人は無事な様だ。良かった。



母の元へゆっくりと歩みを進める。冷たい父を担ぎながら現れる息子をどう思うだろうか。声を聞くだけで安心した母の声が、今一番聞きたくない声が小さく、家に入った時からずっと聞こえる。そして僕は泣き声が聴こえる部屋へ辿り着く。



「……ひっ、ぅぐ、」

奥の部屋から啜り泣く声が聴こえる。この様子だと、どうやらお母さんはことの顛末を知っているみたいだ。



「っ…」

ここまで来て逃げたい。何処かへ消えてしまいたい。

だがそれは許されない。動いてくれないけど、お父さんに会わせなければ。きっとお父さんがそう願っているはずだから。



僕は震える手で、母がいる部屋の襖を開けた。




「!!ぁ、…あぁ!そんな、そんなぁ!嫌よ、お願い、嘘だと、嘘だと言ってぇ……。貴方、お願いだから目を、目を開けて…」

「……」

何か言葉を掛けようにも掛けられない。最愛の人が、最悪な状態で帰ってきたのだ。いつも表情があまり動かない母の顔が、ぐちゃぐちゃに歪み、悲しみに暮れ、ポロポロと涙を流し続け、1番のお気に入りと話していた服が血で汚れていくのに、構いもせず父を抱きしめている。



僕が捕まらなければ、こんな事には。








「おかあさん。ご、ごめ」バチッ「っ!!………んぐ…」

いきなり何かで頬を叩かれた。ゆっくりと顔を上げると、敵を、仇を見る様な目で、息を荒くして僕を睨む、







お母さんがいた。



「なんで、なんで!何で貴方が!ぃ、生きて帰ってきたの!貴方が捕まらなければ!こんな事にはならなかった!貴方が死ねば!誠君が、死ぬ事はなかった!貴方が、居なければ!貴方なんか!




























産まなければ良かった……」

「ぁ………」



僕はどこか、お母さんなら赦してくれると、受け止めてくれるとどうしてか思っていた。だが、そんな淡く愚かな期待はすぐに打ち破られた。




お母さんは、また父の方へ意識を向けていった。



ドタドタドタドタ

ガラッ

「楓さん!!無事!?あれ、坊ちゃん!!無事やったん!?嗚呼、よかっ、た………。旦那、様?………そんな…嘘やろ?」

父を見て信じられない様な、呆気に取られた表情を見せる。梅も、お父さんが死ぬとは想像していなかったのだろう。彼女は、暫くその事実に立ち尽くす事しかできなかった。




--------------------



「楓さん!!無事!?あれ、坊ちゃん!!無事やったん!?嗚呼、よかっ、た………。旦那、様?………そんな…嘘やろ?」



家の中にも、鼠が潜んでいたため、それの処理に追われていたがようやく片付いた為、急いで楓さんの所に戻ったら、血まみれで、目を閉じて動かない旦那様と、それを抱えて涙を流す楓さん。



そして血だらけのせいか、表情が見えない坊ちゃんがいた。



あの誠士郎が、国一の猛者と謳われた人が死んでしまった。目の前に広がる現実に私はまだ、受け止め切れず、ただ立ち尽くす事しかできなかった。




(旦那様が、死んだ?…本当に死んだ?)

「梅」

「…はっ!」

悪化にとられている場合ではない。今私がしなければならない事は、二人の心の支えになること。断じて感傷に浸っている場合ではない!まずは二人の心を見て、最適な選択をする手がかりを見つけなければ!




楓さんが酷い…。荒れ狂う海の様に思考がぐちゃぐちゃで一貫性が全くない。最愛の人がこんなふうになってしまったのだから無理もないだろう。私だって大事な主の一人を守れなかった事に心が揺れてしまっているのに、自分の夫ならば、たまったものではない。




次は坊ちゃんの方へ目を向けるが、次の瞬間、私は楓さんから心を見たことを激しく後悔した。








「坊ちゃん!!けがは、ない……………の……」


何も感じない。心の揺れどころか、何もない。否、暗すぎて何も見えないのだ。こんな事は初めてでいつもの日常なら、特に何も感じなかったかもしれないが今は違う。

確実に心が揺れる場面の筈なのに、何も感じられないなんて事は、確実に異常でしかない。



いつも、可愛くて仕方がないと思っていた坊ちゃんが、今は途轍もなく怖くて怖くてたまらない。

前の心の時よりも見ていたくない。いや、何か見てはいけない、触れてはいけない様な気がした。




何も読むことができない私に、坊ちゃんはゆっくりと顔を向けた。



頬は打たれたのか真っ赤に腫れ上がっており、あの澄んでいて綺麗だった碧色の眼が、ひどく澱んでいて、先が見えない。何より、こんな不相応な場面であるのに私に向かって微笑んでいた。




「お母さんの事、後頼むね」

そう言うと、坊ちゃんは部屋を後にして、自室へ歩いて向かった。



「あ、…まっ、て……」

すぐに追いかけようとしたが、その小さな後ろ姿に恐れを成してしまったのと、楓さんのことを託された為、私は楓さんの方へ身体を向ける。










この選択が後々心底後悔する事になるのをこの時の私は知らなかった。



書いている時死ぬほど辛かったです。

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