形勢
「暴れろ!」
誠士郎がそう言うと、身体が霧で出来た鬼達が一斉に襲い掛かる。
三人は必死で応戦するが、ジリジリと押されていく。
「くっそ!これじゃ近づくどころか、身を守んので精一杯だ!」
「っ、これは、」ブンッ「おっと!、少し不味いですね」
「うぐぐ、もう、幕引きにしては、ちとキツすぎるわ」
どれも自分達よりは劣るが手練れであり、一体に慣れてきたと思ったら別の一体が来るため、なかなか崩すきっかけを掴めなかった。
「ここは預けて良さそうだな。あとは頼む」
誠士郎は、三体の鬼を連れて森の中へと向かう。
「あぶね!…っておい!アイツ、俺らを無視して自分のガキを探しに行く気だ!舐めやがってあの野郎!」
目の端で捉えた綱海は、その行動に対して憤慨する。コイツらは自分が居なくとも勝手に殺される、と言う意図を感じたからだ。
「ですが今は『ガァァァァ!!』
いつの間にか懐へ入り込んでいた鬼が、鋭利な爪を幽間へ突き立てる。
「っ!く、あまりにも場が悪いですよ」
咄嗟に刀で爪を弾き、首筋目掛けて横薙ぎを払うが一瞬で後ろへ飛び退かれてしまう。
「ハァ、ハァ、もう、しんどいのぉ」
道弱は、血を出し過ぎており今にも事切れそうであるが、何とか耐えて必死に残り四体の傀儡を動かす。しかし、
「は!しまっ」
ドギャッ、バギィッ
愚痴をこぼしたせいか気を少し緩めてしまい、一体の傀儡が複数の鬼に揉みくちゃにされ、バラバラに壊されてしまった。その隙から一気に雪崩れ込む様に、鬼達が道弱に接近する。
その穴を綱海が何とか埋める。
「ごお!耐えろジジイ!お前に今死なれちゃ困る!」
「んなこたぁ、わかっと、んぐ!ごぼぉ!ぶふ!」
「なっ!?」
「道弱殿!」
限界を超えてしまったのか、道弱は口から大量の血を吐き出した。それと同時に、傀儡達の動きが止まる。
『ゴオオオオ!!』
動きの止まった傀儡達を瞬時に壊し、大量の鬼が大罪人の首を獲ろうと、我先に向かう。
「クソッタレ、こうなったら使うか。野郎とのタイマン用に取っといたが、そうも言ってられん」
「ありがとうございます。綱海」
「心底嫌だが、アイツの首はお前に譲ってやるよ。さっさと行けや」
「分かりました」
幽間は、誠士郎の向かった方向へと足を運んだ。
『ガァァァァ!』
大量の鬼が綱海の首を獲る為、彼の身体中を力強く掴み、四方八方に引き千切ろうとする。
鬼の鋭い爪が綱海の露出した筋肉に食い込み、そこら中から血が滴れる。
「"羅生門"」
そう呟いた瞬間、綱海がどんどんと大きくなる。否、身体中のありとあらゆる筋肉が膨れ上がっていく。鬼達の深く食い込んだ筈の爪が、押し出される。
「あ˝あ˝~、タイマンは出来ねぇし、首はアイツに譲らなきゃいけねぇし、こんな生きてもいねえ奴らの相手をしなきゃいけねえし。折角憧れに会えたってのに、俺はなんてついてねえんだ…」
いつしか見上げていたはずが、見下すほどに、戦っていた鬼達が小さくなる。
ただでさえ大きかった身体が、二回りほど更に大きくなり、赤い線模様が全身に浮かび上がる。黒く染まってしまった目が、ギロッと鬼達を見据えた。
「むしゃくしゃしてたまらねぇ!!
テメェらのせいだぞ雑魚どもがぁぁぁぁ!!!」
次の瞬間、鬼達に巨大な豪拳が雨の様に降り注いだ。
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(このまま、アイツらを押しとどめている間に!)
一方、誠士郎はこの隙に春人を捜索する為、幽間達の後ろにあった森の中を走る。すぐにでも春人の位置を確認したいが、百鬼夜行は百体の鬼と、それを操る為に必要である洞天を同時に模らなければならない為、今は護衛用についてこさせた三体の鬼と、ある程度の量の霧しか使えない。
前に洞天を何とか索敵にも使えないかと模索したが、うんともすんとも言わず、今現在も百鬼夜行を操る為に必要な土台としかならない。
「くそ、どこにいるんだ。全く物狩りめ、最後の最後まで面倒な奴だな。お前らも頼むぞ。しっかり目を光らせてくれ」
「「「グアッ」」」
ふんすっ、と鼻息を荒くして、鬼三体は気合を入れて辺りを見回す。
ヒュッ
「!!」
何かが喉元をかすめた。横を見ると木に針が刺さっており何者かがこの針を発射したようだ。
刺さっている針に気を取られている内に、別の方向からもう一つ発射されたが今度は難なく止める。
「…お前たちはどれだけ邪魔をすれば気が済むんだ」
木の陰から何十人、何百人と先程見た感情のない者たちが姿を現す。しかし、誠士郎にとってはありがたい奇襲であった。
「お前らがこうやって出てきたってことは、この先に春人がいるってことか?」
何も答えずにそれぞれの武器を構え、隙を作るため、何人かが跳びかかる。
『グアアア!』
しかし、彼の背後にいた三体の鬼によってその者たちは地面に叩き潰された。隙を作るどころか一瞬にして肉塊に変貌した仲間を見て、影たちは一歩下がり一層警戒を高める。
「お前ら、外れくじを引いたな」
その言葉を皮切りに、影たちは一斉に襲い掛かる。
鬼たちが潰して回るが、何人か漏れてしまい丸腰の誠士郎に向かって武器を振る。
"蜃刀"
斬りかかったはずの影たちが、胴真っ二つに切られる。誠士郎の右手には、いつの間にか青黒い刀が作られていた。
今度は誠士郎が一気に間を詰めて次々と斬り伏せていく。それに鬼たちも続き、より一層闘志を剝き出しにして殴り倒す。
「!!」
バアン!
(っ!鉄砲隊か!)
対峙している中でこの存在に気づき、咄嗟に影の死体を盾にする。鉄砲隊は放っておくと厄介なことこの上ないので早めに潰したいが、辿り着くまで距離があり、まずこの大人数を相手にしなければならない。
「お前たち!回り込んで先に奴らを潰してくれ!」
『グア…』
三体とも心配そうに誠士郎を見つめる。
「大丈夫だから!こんな奴らには殺されんから、さっさと行ってこい!」
『グガッ!!』
元気よく返事をした鬼たちは森の蔭へ消えていった。
鬼達がいなくなってやりやすくなったと思った影達は、距離をを詰めようとする。
グシャ
『!!』
しかし、既に彼の間合いに入っていた為、走ろうとした途端、身体はバラバラに崩れてしまった。
「相手が減り、残った者も疲弊している。今なら自分達でも殺せると思ったか?」
図星をつかれたことか、バラバラに斬り刻まれた仲間を見たせいか、影達は後ろへ少したじろいだ。そんな彼らを誠士郎はギロッと睨みつける。
「舐めるな、つけ上がるな鼠風情が!この程度の状況、飽きるほど潜ってきたわ!」
誠士郎はまた距離を詰め、一気に複数人を切り倒す。
「かかってこい!全員仲良くあの世に送ってやる!」
影達がまた一気に何十人も襲いかかる。その一人一人は決して弱くない。だが、その強さを感じさせない程に次々と切り伏せていった。切っても切っても現れる影達。飛んでくる銃弾、矢、針を全て掻い潜り、又相手を切り倒す。
誠士郎はこの無限とも思える様な作業を、何度も何度も繰り返した。
‥‥……………………
…………………
…………
……
…
その後、十数分もかからない内に、
影の群勢全てを惨殺した。
何百、何千とも思える死体の数が散乱し、立っているのは四人の角の生えた鬼達だった。
「ハァ、ハァ、やっと終わった。い過ぎだろコイツら」
『グアグアッ!!』
鬼達があたふたとしており、声を上げて誠士郎を呼ぶ。
「何だ?…まさか、春を見つけたのか!?」
急いで指差す方向へ走る。
そこには、まるで女の子のような姿をした息子が、木の側で気を失っていた。誠士郎はすぐに駆け寄り、抱き起こす。
「春、春!おい、起きてくれ!大丈夫か!?」
少しだけ体を揺らし、刺激を与えると
「…んん、おとう、さん?」
ゆっくりと目を開け始めた。
「春!怪我はないか?」
「…ん。大丈夫…」
「何か変なことは?体の調子が悪いとか」
「…何も、ないよ?」
「そうか。あぁ、よかった」
本当に何事もなさそうなのでホッとし、しっかりと抱きしめる。
「んぐ、お父さん。僕、いつの間に寝ちゃったの?」
「あ、ああお前は疲れて寝」
「"慰偲突き"」
「!!春!!」
「え、うわ!!…イテテ、どうした、の…」
「……え?」
急に突き飛ばされたので、尻もちをついてしまい、痛い箇所をさすりながら顔を上げたら、
白髪の男が刀で、自身の父親の胸を貫いていた。




