奥の手
「行け、"縄熊"、"冥鶴"、"猿螺"」
綱海とおそらく幽間と波瑠を模した傀儡が襲い掛かる。
「くっ!」
先に近づいた冥鶴と縄熊の猛攻がとめどなく続く。さすがの誠士郎も防戦を強いられた。
「読みずれえ剣捌きまで似てやがる!」
「ではさらに二人ではどうです?」
更に幽間も加わり、
ギギ…
「!!」
ボゴオ!!
いつの間にか背後に回った縄熊の上段突きを紙一重でかわす。空振った拳が地面と触れた瞬間、周りが凹んだ為、その破壊力が伺える。
(こいつも気配が感じ難くなるのかよ!)
縄熊を思い切り蹴って、距離を測るが、その先で猿螺が待ち構えていた。
誠士郎は爪に霧を集め、猿螺に振りかぶる。
「"霧裂き"!」ザンッ
猿螺の脇腹から左肩にかけてザックリと切り傷ができる。
「うお!?」
しかし、すでに遺体である猿螺にはあまり有効打ではないようで、傷に構わず、すぐさま掌打を繰り出した。
当たるまで止めないといわんばかりに掌を何度も仕向ける。
(殺したから元の能力が解らんが、余程手のひらで触れたいらしいな)
(だがこいつ、動きがのろい。なら、先ずはこいつから壊す!)
左の掌打に併せて、右拳に霧を巻き付かせ、繰り出す。
(ちょうどコイツと同じ響きの技だ)
「ハァ!」
「ちぃ!くそ!」
しかしすぐ後ろに迫っていた綱海に邪魔立てをされ、回避に転じる。
猿螺の攻撃は、止まらずにそのまま綱海の胸に当てられた。
「じゃあお前だ!」ギュルッ!
「あが!いだだだ!ジジイ!テメ…。ておい!ちょっとま!」
捻れる霧、"煙羅"!
今度は誠士郎が、綱海の横腹に深々と入り、それを中心に綱海の肉が渦巻き状に捻れ、そのまま真っ直ぐに吹き飛ばした。
「ゔご、っぼは!でめぇ!!ぐぞじじい!ぞの能力考えで使えや!皮が全部めぐれたじゃねえか!そのせいで一撃いいの貰っちまうし!ああぁもう、クソ痛え!」
「なっ」
土煙から顔を出した綱海は、口から大量の血を吐きながら悪態をついていた。しかし誠士郎が驚いたのはそこでは無い。
驚いた理由は、綱海の全身の皮が剥がれて筋繊維が剥き出しになっているからだった。
(あれがアイツの能力か。手のひらに少しでも触っていたらと思うとゾッとするな)
「お主、霊体のくせして痛覚があるとは。何故その様な作りにしたのか」
「ほっとけ。確かに俺は妖だが、身体の造りはわざと人間とほぼ変わらん様にしたのよ。俺は他の妖と違って、元々人だったからな。こっちの方が馴染むんだ」
「血も出るのですね。素晴らしい。少しだけ頂いても「絶対に嫌だ!」…そうですか」
「ったく、うぉ!…くそったれ。まじかよ…」
綱海は何とか体を起こそうとするが、誠士郎の攻撃が予想以上に効いており、足に力が入らない。
「しばらくは立てん。内蔵を掻き回したんだからな。造りご人間と同じだからよかったよ」
「お前、俺たちとタメ張る技持ってんな。…くそ、マジで立てねぇ」
今が好機だと感じた誠士郎は、今度こそトドメを刺そうと、そのまま綱海に近づく。
「"葉狐"」
しかし、腕と足が長い不恰好な傀儡が目の前に立ち塞がる。
「邪魔だ!」
それを予期していた誠士郎はまた拳に霧を巻き付かせる。
"煙羅"!
完璧な形で、葉狐の顔面に深々と突き刺さった。
「ぬ!?」グニュウ
顔の表面にはしっかりと捩れている跡があるが、いつもと感触が違う。この傀儡だけは他とは違い、何故だか受け流されている様に感じた。
「ほほ」
誠士郎は何かまずい気がして防御を構えを取る。
「っが!?」ガンッ!
腕で固めたはずなのに、顎を跳ね上がられた。
「っぐ!何!?ごは!?」バコッ
しっかりと抑えているのに、何故か、攻撃が全て通り抜けてくる。
「ぐっ!くそ鬱陶しい!"霧裂き"!」ザンッ
先程より多く霧を纏った為、深くまで斬撃が入りそのままバラバラに壊れて動かくなった。
「ぐ、やはりまだ脆かったか。ほれ、これでチャラじゃ」
「チャラな訳ねぇだろ!ジジイ!覚えてろよ!こっちに飽きて、あの世行ったら必ず殺しに行ってやる!」
「ぼほほ、死人をどう殺すと言うのか。…まぁ、その時は、相手してやるわい」
「2人の血は後で拝借するとして「「おい」」道弱殿。そろそろキツそうですね」
「ぅ、ゔむ。些か、眠くなってきたわ。早いとこ、ケリをつけようかの!」
両頬をパンっと叩き気合を入れる道弱。その目は次の殺り合いで最後にするという覚悟が伺える。
「ぺっ、…良いぜ。俺もそろそろケリを着けてぇと思ったところだ」
口の中の血を吐き捨てた誠士郎は、右手を掲げ天に向かって指を刺し、左手を祈る様に腹の前で全ての指を合わせて伸ばす。
ゆっくりと口と目を開いた。
「"洞天"」
発した直後、不敬にも天を指す右の指先から細く濃い、蒼い霧が空に向かい、一瞬にしてここ一帯の空を青い霧で覆い尽くした。
「こりゃあなんかやべぇ!キモ男!ジジイ!」
「ええ」
「ゔむ!」
危機を察知して、一気に誠士郎に近づく。しかし何故か誠士郎はそのまま留まった。
「合わせろキモ男!」
「わかりました」
ドゴォッ!
綱海の剛拳が深々と刺さった。
「!!ぐっ!」
誠士郎は血を少し吐きながらも、先ほどと同じ様に一瞬でもう片方の手を壊す。しかし綱海は臆せずに、そのまま誠士郎の両腕を抑えた。
「うぐっ、今だ!」
「秘技、"水面断ち"」
「!!」
幽間の刀が、誠士郎の首に切り掛かる。
「これで詰みじゃ」
八体の傀儡達も続いて二人の間を縫い、とどめを刺そうとする。
「"百鬼夜行"」
「「「っ!」」」ゾクッ
幽間達は危機を感じて直ぐに攻撃を止めた。
突如、誠士郎を中心に台風と言う言葉では生易しいと思えるほどの疾風が巻き起こる。
「ぐお!うぐぐぐ!」シュッ「痛ぇ!?」
「くっ!これは!?」ザクッ
風の中には、鋭く尖った霧の塊がばら撒かれていた。
「鎌鼬とは。がは、何とまぁ往生際の悪い奴よ」
切り刻まれながらも幽間と綱海は、何とか外へと抜け出す。
道弱も傀儡を戻そうとするが、何体か壊れてしまい、使い物にならなくなってしまった。
「あーくっそ!あともうちょいだったってのに。奥の手出しやがった」
「いえ、逆にそこまで追い込まれているとも取れます」
「ハァハァ、残る傀儡は4体か。それも損傷が激しい。あれがやつが最強と謳われる所以よ。悔しいが、あの歳にしてわしよりも操り師として上におるわ」
三人は天災と思える様な竜巻を仰ぎ見る。
「ここまで追い込まれたのは久方ぶりだ」
竜巻の中から、風の様に無機質で、冷たい声が聞こえる。
そして次の瞬間、竜巻は無くなり、
百体の大柄な鬼の群勢が姿を見せる。
「誇るがいい。
貴様らは、鼠でありながら俺を本気にさせた」
その頂上には、我こそが鬼の王足らんと言わんばかりに、[鬼神]と呼ばれた男が服装を変えて佇んでいた。
黒い袴と青黒い着物で身を包んであるが、袖が肩紐で結んで二の腕まで見える様になっている。
その姿はまさに首切り処刑人の様であった。
次くらいで物語が進展します。
親父殿、強く描きたいと思ってたら長くなっちゃった; ;
ごめんなさい!




