私は双子の姉に婚約者を奪われました。足の不自由な私を優しくしてやっているふりをしていると姉と王太子が話しているのを聞いてしまったのです。私から婚約破棄を宣言いたします!
『お姉さま、ほらみてみて綺麗なお花よ』
『危ないわよ、ユーリ、ほら……』
『大丈夫、だいじょう……』
幼い時の悪夢を思い出す。私は姉と二人で館を抜け出し、きれいな花がある森に出かけて。
「夢、またですか」
「ユーリ大丈夫?」
「大丈夫ですわお姉さま」
優しいお姉さま、私はいつも申し訳ない思いにとらわれる。
私たちは双子、とてもよく似ている。ただ一点を除けば……。
「足は痛くない?」
「はい大丈夫ですわ」
隣で寝ている姉が優しく私の両足をさすってくれます。まるで何も感じない両足です。
幼い時私は崖から落ちて、両足に大けがをして二度と歩けないと宣告されてしまったのです。
お姉さまが私をもっと強く止めなかったからと私のお世話をそれからしてくれるようになりましたが、申し訳ない思いでいっぱいです。
「ほらほら、もう大丈夫よ。怖くない、怖くない」
「私はもう15ですわお姉さま」
「もう、私から見たらまだまだ小さい妹です!」
優しいお姉さまは穏やかに笑う。私はいつもお姉さまへの嫉妬を抱えた自分を醜いと思ってしまう。
私は車いすがなければどこにも移動できない。
階段は男性に抱えられなんとかといった感じだ。
必然的に私は外に出ることが少なくなり、本ばかり読むようになった。
「でも名誉なことだわ、あなたが王太子殿下の婚約者に選ばれるなんて!」
「ありがとうお姉さま、でも私なんて……」
「大丈夫、お医者様もこ……子供ってやめましょう。こんなこと、でも大丈夫だっていってくださったし、うんうん、これで私も安心してお嫁にいけますわ」
「うふふ、ありがとうお姉さま」
私が家にいる最後の夜、二人一緒の寝台で眠り、明日はどんなドレスを着ようかなんて話をしていました。
やっとこれでお姉さまを解放してあげることができる。私もほっとしていました。
ずっと両親にお前がきちんと見てないから、妹の足があんなになったと責められ、私がどんなに私が悪かったといってもごめんなさいと謝っていたお姉さま。
やっとやっと解放してあげられます!
「ピンクにしましょう。あなたの白い肌によく映えますわ」
「うふふ、ありがとうお姉さま」
これが私が姉と話したとても楽しい日々の最後でした。
私は……自分の認識が間違っていたことを後から知ることになるのです。
「足は痛くないか?」
「はい大丈夫ですわ殿下」
殿下は車いすを押しながら微笑みます。
慈悲深い殿下、と回りの方も言われますが、その通りだと思います。
自分の足で歩けない私のようなものを婚約者にしてくれるなんて……。
庭園を車いすで散歩すると皆から「足がご不自由でよろしかったですわね。同情で婚約者に選ばれて!」と嫌味を言われることも忘れます。
「……そういえば姉上はお元気か?」
「はい、エブリス侯爵家のレイン様と結婚されて、幸せそうでしたわ」
「それはよかった」
殿下がにこりと笑います。実は婚約が決まってからの初めての夜は、婚姻をしてからにしようということになり、いまだに白いままの関係ですが、うまくいきますわ。
私は殿下にとても感謝していました。
足が不自由な女をこうして婚約者にしていただいて……。
でも私はある時見た光景でこの思いが間違っていたことを知るのです。
「エリー、やっと会えた!」
「ええ、殿下、夫の目をやっと盗んでこれましたわ!」
私は車いすなしに歩く練習をしていました。部屋から抜け出して、杖を手に歩いていたのです。
そして私は殿下の部屋にいこうとして……殿下の部屋から聞こえてきたある会話で凍り付くことになったのです。
エリーとは双子の姉の名前です……中にいるのはお姉さま?
「あの妹、殿下に感謝してるって泣くのです。鬱陶しい、でもやっとあれから解放されましたわ。私が殿下の婚約者になりたかったのに、両親が早々にあのぼんくら夫を婚約者に決めていて……」
「私も残念だった。君に一目惚れしたのに、君はもう婚約者がいて、双子の妹がいると知って君と似ていたらと思って話を振ったら、なぜかあの足の不自由なあいつが婚約者に決まったんだ……」
私は悪夢を見ているようでした。盗み聞きなんてするつもりではありませんでした。
でも……中では殿下と姉が……。
「妹に会いに行きたいといったらすぐ許してくれましたわあのぼんくら!」
「……こうして君に会えてうれしいよエリー」
「私もよ殿下、ずっとあの子の足をお前があんなにしたって責められてつらかったわ。やっとあれから解放された。せいせいしますわ」
……姉の気持ちはわかるのです。
私が姉が危ないわよといってくれたのに、子供のころ崖に生えている花を取ろうと足を滑らせたのが悪かったのです。
でもあの後見せてくれた優しさもすべて嘘だったのですか? お姉さま。
殿下、私を選んでくれてありがとうそういったら、足のことなど気にすることはないといってくださいましたわよね。愛しているといってくださいましたわよね。
馬鹿な女と思っていたのでしょうか? 騙されている愚かな女と。
愛しているという殿下の言葉が偽りで、愛しているのは本当は姉で。
こんなところまで来るわけがないとおもっていたのでしょう。扉に耳を当てると、姉と殿下の……。
もうこれ以上聞きたくない、私はなんとか杖を頼りに歩きだしました。
どこをどう歩いたかなんとか自分の部屋に戻ってきました。
すると使用人から姉が会いに来ているという言葉があったのです。
気分がすぐれないから、会えないとだけ返しました。
寝台につっぷして泣きました。
優しい姉の偽りの優しさと、愛しているといってくれた殿下の偽りの愛を……信じていた自分の愚かさを呪いました。
お姉さまの気持ちは少しわかるような気もします。
お前のせいで双子の妹があんなになったと両親から責められ続ける。やめてといってもやめない二人。
私も両親を止められなかった。そして私が怪我をしたのも私のせいなのに……。
でも、なら言ってくれればよかった。殿下とともに私と義理の兄を裏切ったのは許せませんでした。
ぼんくらと言われていた侯爵の義理の兄はとても良い人です。良い人過ぎていつも損をしている人でしたが……。
姉をとても義兄は大切にしてくれていました。
義兄さんを裏切った姉を許せない。私を裏切った二人を許せない……。
私はなんとか動くようになった足を見て、証拠を集めることにしたのです。
「……こうして集まっていただいたのはほかでもありません、不貞を働いたわが妻を法に従って私は断罪しようと思いましてね、いっしょに不貞を働いた方とともに」
優しい義兄が怖い顔をして、私たちを見ていました。
私と殿下、そして姉、殿下と私に会いに来たという名目で姉と連れだってきて人払いをしたのです。
二人はきょとんとしていました。
「殿下、わが妻と何度もあなたの私室で逢瀬を重ね、時には……体を重ねることもあったと」
「旦那様、私はそんなことはしておりませんわ!」
「アベル殿、それは何かの間違いだ!」
「いえ……証拠もあります。私はこの証拠をもって、不貞を働いた妻エリシエルを断罪し、古来の法ですが、不義の罪によりこの国よりの追放、地位を取り上げることを提案いたします。そしてわが妹、ユーリ殿」
「私は、わが夫となるべきはずの殿下、レイン様、あなたを断罪いたします。婚約を破棄し、ここに不義の罪により、地位を取り上げることを宣言いたします。そのあと軟禁。陛下の了承も得ております」
私は陛下の書状をだしました。そして集めた証拠を義兄さんが姉たちに突きつけるのを見ます。
違う、何かの間違いと言い張る二人。
でも私は魔法の盗聴などによって証拠を集め、それが証拠となることを確認し、義理の兄に姉の不貞をお話ししたのです。
陛下にも伝えました。そしてこの日がやってきたのです。
……古来の法によると不義密通は貴族の場合は男女どちらも地位を取り上げ、辺境追放でした。
だがしかし、地位が高い殿下は辺境追放できず、地位を取り上げ、軟禁がふさわしいという陛下のお言葉でした。
証拠を見せられ、あっけにとられる二人。
衛兵が義兄の合図によって入ってきて、二人を取り押さえ連れていきます。
「どうして、嘘ですわ旦那様!」
「アベル殿、ユーリ、これは何かの間違いだ!」
叫ぶ二人を冷たい目で見る義兄と私、お姉さま、私はあなたが好きでした。私のせいで歪んでしまったことも理解しています。
でも義兄さんをともに裏切り、殿下と密通したことが許せなかったのです。
あの子なんて鬱陶しい、どうして私があの子の世話をしなければ! という愚痴を言うくらいなら許しました。というより私が悪かったので申し訳ないと思ったのですわ。ずっと両親が責めるのを私も止められなかった罪があるのです。
義兄さんが、はあとため息をついて、終わったなと言います。
私もそうですわねと一緒にため息をつきました。
「君の足がもしかしたら治るかもしれないというのだけが希望だな、ユーリ」
「ありがとうございますお義兄様」
「君は大切な義妹だというのはかわらないから、良い医者を探していた。やっと見つかったからすぐ行くがいいよ」
「はいありがとうございます」
義兄さんはとてもやさしい人なのです。歪んだところもなく、慈悲深い……私の足が動くようになれば、お姉さまが両親に責められることがなくなると一生懸命良いお医者様を探してくださっていたのですわ。
そんな義兄さんを裏切ったことが……殿下がはじめからお姉さまを諦めきれなかったら、次に双子の私をと考えたことが許せなかったのですわ。
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