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 件の祠は、裏山を少し登ったところにあった。


「……確かに、ここは」


 光の加減によっては『扉』のように見える、山の斜面にぽっこりと盛り上がった崖の凹凸に手を伸ばしたクラウディオが、感嘆の声を上げる。そのクラウディオが着ている豪奢な衣装から目を逸らし、カトゥッロは斜面の下に見える村の静寂に息を吐いた。


 この場所は、実はあまり好きではない。躊躇うことなく崖の凹凸を触るクラウディオの背を、横目で確かめる。そのクラウディオの向こうに、ファイリングされた書類の雑多な積み重ねが見えたような気がして、カトゥッロは思わず首を強く横に振った。ここは、異世界。自分にしっかりと言い聞かせる。あの、仕事に追われていた仄暗い場所とは、違う。


「もうそろそろ、戻りませんか?」


 寒気を覚え、クラウディオの方へ声を掛ける。


「そう、ですね」


 カトゥッロの方へ顔を向け、微笑んだクラウディオは、しかし次の瞬間、一歩踏み込んでカトゥッロの腕を掴むと、細い身体に似合わない力でカトゥッロをクラウディオ自身の方へと引き寄せた。


「え……?」


 戸惑う前に、カトゥッロの視界からクラウディオの細い身体が消える。


 次に映ったのは、今にも崩れそうな書類の山。


「……加藤(かとう)


 上司の声に、眠い目を擦る。


「起きたか?」


 ここで死んだら、社長が遺族に遺体処理代を請求するぞ。冗談に聞こえない上司の声に、唸るように頷く。眠気と胸の痛みは、治まっている。仕事を、片付けないと。書類を崩さないように斜めに腕を伸ばすと、加藤は、薄暗いオフィスに似合うどんよりとした色のコーヒーカップに手を伸ばした。

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