偽物のパンダ
動物園でのある日。
保育園の遠足で、たくさんの子どもたちが人だかりを掻き分けて、アクリル板に貼りついた。
「うわあ、パンダちゃんだ」
「うわあ、おっきいねえ」
「うん。おっきい」
笹を両手で持ち上げて、大きな口を開いて食べる哺乳類は、見物客そっちのけで、股を開いて堂々とあぐらをかいていた。
「かわいいねえ」
「そうだねえ」
看板にはジャイアントパンダと書かれていた。
「白いね」
「そして黒いね」
子どもたちはうっとりとパンダを眺めている。
「パンダって実はピンクなんだぜ」
突然二人組の男女が園児に語りかけた。
「そんなのウソだよ。だってパンダは白と黒だからパンダなんだよ」
「お前ら知らないだけで、生まれたてのパンダはピンクなんだって」
「ちがうよ。ゼッタイ白黒だもん。おにいさんはニセモノのパンダを見たんだ」
若い男女は園児の言葉に顔を見合わせて笑った。
「じゃあ本当にピンクだったらどうするんだ?」
「だからパンダのあかちゃんも白と黒なの!」
「ふうん。ならついてこいよ」
手招きする男に、鼻息荒く園児が続いていく。
展示室の側にあるモニターには、保育器に入れられたピンク色の小さな生き物が泣き叫ぶ映像が流れていた。
「ほら、ピンクじゃないか」
「そんなことないもん、あれはニセモノだよ」
園児はツンとして言い放った。
「子どもってばっかみたい」
苦笑いする女に向かって男は肩をすくめた。二人は子どもたちを残して部屋をあとにした。
繰り返される映像を園児たちは食い入るように見つめている。
「ねえ、パンダのあかちゃんはピンクなのかな」
「ニセモノだよ。だってどうやったらピンクがあんなにキレイな白と黒になるの」
「そうだね。ニセモノだよね」
いつの間にか他の園児はいなくなっていた。
「ねえ、わたしのパパって本当にわたしのパパなのかな」
ふいに女の子が呟いた。
「どうして?」
「ママといつも二人で暮らしてきたの。でもねサイコンして、新しいパパが来るの」
「でもパパはお墓で眠っているんでしょう?新しいパパはニセモノだよ」
男の子ははっきり口にした。
「そっか、でもニセモノは何て呼べばいいの?」
「うーんとね。名前を教えてよ」
「さとうさん」
「じゃあ、さとうさんでいいんじゃない」
男の子の女の子はニセモノのあかちゃんパンダの映像に手を振って、先生たちの元へ走り始めた。




