1-2 洗礼と使徒
私の前には兄がいました。
まあ、確かに。何かおかしいと思いましたよ。だって部屋の大きさが、お母さんたちの部屋と同じぐらいありましたから。でもそのときの私は、「一人で部屋を持つことが大人として認められた」みたいで舞い上がっていましたから、よく考えていなかったんですね。思い出しただけで恥ずかしくなってきました。なんかバカみたいじゃないですか。悪質ないたずらですよ。私がアクセサリーとか大人びたものを欲しがってるのを逆手に取りましたね。まずこんな長々自分の過去を掘り返している段階で、すごい混乱しているってわかるもんです。これがあれですか、走馬灯ってやつですか。私死ぬんでしょうか。
「おーい」
「はっはい!なななんでしょうか!」
「いやなんでぼーっと突っ立ってんの。中入らないの?それともあれ?俺が出てきて感動しちゃった感じ?」
そうでした。お兄ちゃんはいつもこうやって冗談を言う人でした。
「いや別に、そういうわけじゃないです。てかなんでいるんですか、出稼ぎはどうなったんですか」
お兄ちゃんは10歳のときに、この街に出稼ぎに行きました。お兄ちゃんは頭がよく計算ができたので、いつも村に来る行商人さんに雇われたみたいです。今はその行商人さんの所属している商会で計算の手伝いをしたり、行商人さんについてきてお手伝いをしているらしいです。まあつまり、こんなとこにいるはずじゃないのですが...
「まあ全部話すと長くなるから端折ると...」
そういってお兄ちゃんは胸元からペンダントを出しました。
金色で四角い、板状のペンダントでした。よく見ると、それには天秤のマークが彫られていて...
「天秤?でもこれは...?」
「ご明察。いやね、寝てたら夢に精霊様が出てきてだ、『君はなんかいい感じのオーラが出てるし、しっかり心を込めて祈ってくれるから気に入ったよ』とか言われて、跳ね起きて見たらこれよ」
「ということは、お兄ちゃんはいつの間にかバルウーサの使徒になっていたんですか?」
「まあ、そういうことだな」
私の知らぬ間に、お兄ちゃんは使徒になっていました。びっくりです。