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鍋奉行(落語風)

作者: 紫李鳥

 



 えー、寒いね、どうも。暴れん坊の冬将軍がいきなりやって来ちまった感があるが、カンと言や、熱燗だ。


 えー? この時期になると、熱燗をチビチビやりながら、鍋を突っつくってぇのが、おいらのお決まりコースよ。


 鍋は手っ取り早くていいやな。冷蔵庫の残りもんを突っ込みゃ、はい、出来上がりだ。


 春菊とか水菜がねえ時ゃ、大根の葉っぱを代用し、味噌汁に使った残りの豆腐やら油揚げでも入れりゃ、それなりに様になるもんよ。


 独り身のおいらは、一人侘しく一人鍋だ。けど、ま、それなりに楽しいもんよ。


 テレビを観ながら、お笑い芸人のギャグに大笑いし、アッチッチと、ヤケドしそうになっては、


「面白れー」


 なんぞと独り言なんか言っちゃって。いわゆる、“貧しいながらも楽しい我が家”ってぇ奴だ。


 ……ま、寂しくねぇと言や嘘になるが。と言うのも、最近、彼女と別れたばっかよ。


 なぬう? 別れた原因を教えろだと? プライバシーの侵害だ。けど、ま、減るもんじゃねぇから教えてやっか。


 別れた原因ってぇのは、何を隠そう、実は、……この鍋よ。


 そのめぇに、あいつのキャラを例に挙げたエピソードを一つ。




 おいらの部屋に遊びに来てたあいつが飯を作ってくれることになって……。


「ねぇ、寄せ鍋と土手鍋、どっちがいい?」


 持参したピンクのエプロンなんかしちゃってるあいつが、そう聞くもんだから、


「ん? だなー、……寄せ鍋」


 って答えたら、


「えー? 土手鍋って言ってほしかったのにぃ」


 って口をとがらすもんだから、


「……なんで」


 って聞いたら、


「どーて、土手なの? 土手の柳は風任せだから? って言って、ドテって倒れる予定だったのに」


 って、大して面白くもねえオチを言いやがった。


「……ン! ン!」


「でも、ま、いいわ。寄せ鍋に変更ね。じゃ、最初から行くわよ。ね、寄せ鍋と土手鍋、どっちがいい?」


「……寄せ鍋」


「えっ? なんだって? 落語鍋?」


 なーんて、寄せ鍋パターンもまたおやじギャグでツッコミやがった。ま、寄せ鍋のヨセと、落語の寄席(よせ)をかけたわけだが。で、おいらも負けじと、


「よせっ! って言われてねぇからな」


 って返したら、


「予選で寄せ集めた寄せ書きなんざ、寄せ付けねえ。余生幾ばくもねぇからよ」


 なんて、男口調で機関銃みてぇに即刻返して来やがった。


「…………ッ」


 結局、後が続かなかったおいらは、舌打ちで幕を閉じた。


 いつだってそうだ。あいつの頭の回転の速さにゃ負けっちまう。だから、先手必勝。あの日はこっちからペラペラ喋りまくってやったのよ。


 だが、それが(あだ)となった。


 ありゃあ、つい十日ほどめえの話だ。すき焼きをすることになって……。





「おっと、牛肉の横に白滝なんか置いちゃいけねぇよ。肉が硬くなっちまうじゃねぇか」


 と、料理担当のあいつに余計なお節介を焼いたのが、事の発端よ。


「も、いちいち煩いな。だったら自分でやってよ」


 へそを曲げたあいつはプイと横を向いちまったが、毎度のことなんで、別段気にもしなかった。


「すき焼きの材料ってぇのは、それぞれに居場所があんのよ。ま、よく聞きな」


「……フン」


「私、高級和牛ちゃん。Oジービーフじゃないわいな。だから、横文字、感じない。だから、縦文字、感じるの。モジモジしてたら、黒文字で、あんたをツンツンしちゃうわよ。ツンツン。ツンツン怒っちゃイヤなのよ。ツンツン。さて、ここからが本番だ。

 私(牛肉)の両サイド、色白豆腐と根深ネギでガードして。私の宿敵、白滝は色は白いが気が合わぬ。絶対こっちに来ないでね。ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、椎茸さんも一緒に、白滝から私を守ってね。

 あらあら、椎茸さんの石突(いしづき)は捨てないで一緒に食べると旨いのよ。あんら、そう言ってる間に、私と豆腐が食べ頃よ。あららら、卵はそんなに混ぜ混ぜしちゃ駄目よ。っと来たもんだ――」







「帰るっ!」




語り:秋風亭流暢しゅうふうていりゅうちょう(架空の落語家)

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