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消えた彼女に僕は…

作者: 雨雲

個人的に気持ちを整理するためだけに書いたので

文章めちゃくちゃかもしれません

 高校1年の時、僕はとある女の子に救われた。


 彼女の名は橘夏希たちばな なつき

 

 彼女との出会いは、1通のLIMEの通知からだった。


 高校の入学式を終え、僕は母親と買い物をして家に帰った。 新しく始まる高校生活に上手くやっていけるか僕はとても不安だった。中学の友だちはほとんどが公立や国立の高校に行き、僕だけが私立高校へと入学したからだ。

 僕は、帰るなり自室のベットへと寝転んだ。ポケットからスマホを取り出し、通知が来ていないかチェックをする。しかし、通知はゼロ。そのまま慣れた手つきで僕は動画アプリを立ち上げてだらだらと動画を見て過ごす。

 

 高校受験が終わってからは、僕はこんな自堕落な生活ばかりを送っていた。このとき、少しでも体力作りをしておけば良かったのに・・・。


 高校生活が始まると、部活見学の時期に入り僕は迷わずにサッカー部へと入部を決定した。理由は単純に楽して楽しくスポーツをしたかったからである。

 

 『高校の部活なんてゆるいから大丈夫だろ』


 入部する前の僕は、そんなどうしようもない甘ったれた考えをしていた。初めは体験入部という形で、練習に混ざった。

 しかし、高校の部活は中学の部活の比ではない練習量だった。序盤のランニングですら、僕はついて行けずに前を走って行く他の同級生の背中を涙目で見送ることしかできなかった。

 我慢できずに、息を切らしながらその場で立ち止まってしまった。容赦なく前にいる先輩からヤジが飛ぶ。


 「おい後ろのお前、走れないなら帰れ、邪魔だから。ランニングにすら付いてこれないやつなんて使えねーから」


 先輩のヤジに続いて同級生までもが僕を見て嘲笑っている。


 「あいつ、まじかよ」

 

 「なんのために、サッカー部に入ったんだろうな」

 

 「見た目はなんかできそうに見えたんだけどな」

 

 「根性ねぇな、あいつ」


 この先輩・同級生の言葉に、いままでサッカーを頑張ってきた努力が全否定された気持ちになって、僕の心はあっさりと折れ、グラウンドを去った。その翌日、僕は顧問の先生に入部届を取り下げるようにお願いしに行った。

 理由は、他の部活も見学してみたいとそれらしい理由を付けたらすぐに返してくれた。

 そして僕は、いろんな部活を回って最終的にテニス部に入部しようと顧問の先生に入部届を提出した。しかし、彼はため息をつきながらこう言い放った。


「きみねぇ、期限が過ぎてから持ち込まれても困るよ」


「・・・え?」


 入部届の締め切りをよく見ると確かに期限が1日過ぎてしまっていた。


「大体、君・・・この前サッカー部の入部届一度戻してたよね、あのままサッカー部でも良かったんじゃないの?」


「サ、サッカー部はちょっと僕に合いませんでした・・・あははは」


「どっちにしろ、そんな優柔不断なら入部しない方がいいんじゃないの?根性無いやつなんていらないよ。君の入部は認めない、お断りだ」


「そ、そんな。根性ならあります!サッカーを小学校からしていたので」


「そのサッカー部を蹴った結果お前はここに来てんだろが」

 低く重い言葉が僕の心を容赦なくえぐった。

そうだよ、サッカーが駄目だったから他に言って何が悪いんだよ・・・。だから他の可能性を試そうとしてるんじゃねぇか。


「一度逃げたやつに、居場所なんて無いんだよ。早く教室に戻りなさい」


 テニス部の顧問がなにか話しているけど、もう聞きたくない。じゃあ、帰宅部は帰宅部らしく楽しんでやるよ。


 教室に戻ると、なにか見えない壁を全体的に感じた。僕の座席に他の誰かが座ってゲスな笑みを浮かべながら喋っている。


 お前の居場所なんて無いんだよ


 そう突きつけられているような錯覚に陥った。この日から、僕は極度の人見知りになってしまった。家族に対しては普通に話せるのに、高校だと誰と話すのにも躊躇してしまう。会話の輪にはいることもできない。


 人が怖い・・・

そう思ったのは高校に入学してから初めてのことだった。

中学まで僕の周りの人間関係を構成していた物が、『サッカー』という脆い1本の糸だけであることを僕は自覚した。

 高校に行けば、もうすでに高校の中では部活同士の仲間や同じ中学のグループに固まっているのが分かる。


 いままで、いっしょにいた友だちはここにはいない。僕はただただ、休み時間になると机に伏せ寝たふりをしながら授業が始まるのを待つばかりだった。

 気づけば、授業が終わっていて特にすることもなくまっすぐに家に帰る。自室に引きこもり、母親が仕事から帰ってくるまで動画を見てだらだら過ごす。

 また、入学前と同じサイクルに逆戻りだ。もういい、こんな人生でとっとと終わってほしいものだ。


 この頃から僕は、常に死ぬことばかりを考えるようになった。誰にも迷惑を掛けず、無難なところに就職し、一人の休日を過ごし、そして定年を迎える頃には安らかに眠れるように安楽死でもしてみよう。

 そんなことを考えていた矢先だった。鳴るはずのないスマホが振動した。液晶画面には一件のLIMEの通知。


『こんにちわ!初めまして・・・かな。高校で同じクラスの橘夏希です。びっくりさせてごめんね!友だちに連絡先聞いて、連絡してみました!よろしくねー』


 一瞬いたずらメールか何かだと思ったが、出欠確認の時に聞き覚えのある名前だった。とりあえず返事を返してみる。


『はじめまして、橘さん。こんな僕だけどよろしく』

 

 よし、返事はした。僕はスマホをベットへ放り投げ、読み残しがある小説へと手を伸ばした。また、スマホが振動した。今度は2回もだ。

 通知の内容はもちろん橘だった。


『こんな僕なんか言っちゃ駄目だよ、僕君て少しネガティブだね』


『ねね、聞きたいことがあるんだけど・・・僕君は私の顔知ってる?多分あまりみたことないよね??』


『うん・・・正直言うと、橘さんの顔自体まだ知らないかも』


『ええ~ちょっとショックだな・・・。明日学校ではちゃんと見てね笑』


 LIMEのなかで話す彼女はとても元気で活発な印象を受けた。高校で誰にも声を掛けられない僕は、人との会話に飢えていたのかもしれない。僕はそのまま寝る時間まで、彼女とのやりとりを行ったのだった。


 明日、高校に行く足取りが少し軽く感じる。心がそわそわして落ち着かない。校門の下駄箱で内履きに履き替える。

階段を上り、いつも通り3階の教室へと向かった。

扉を開くといつもの風景、クラスの男女がグループで固まって雑談をしている。僕は、一番前の自分の席の椅子に腰掛ける。そして、今日も授業が始まる。


 数学の授業中、先生が黒板に書いてある問題を解くように何人かの生徒を当てた。そしてその中には、昨日やりとりをしていた彼女の名前が聞こえた。


「佐藤くん、鈴木くん、橘さん、この問題を解いてください」


 後ろから、数人の生徒が黒板に出てきて答えを書いていく。

その中に、じょっしは一人だけだったので僕はすぐに彼女だと分かった。彼女が橘夏希。


 髪型は、ミディアムの少しおとなしめな印象の子だ。顔にはうっすらとニキビが見えている。しかし、容姿は普通に整っていて、可愛かった。身長は低く守ってあげたくなるような女子である。彼女は問題を終えると僕の方をチラッと抱け見て席に戻っていった。


 ――その夜、また彼女からLIMEが来た。


『こんばんわ!数学の時、夏希の顔ちゃんと見てくれた?』


『見たよ、橘さんは結構身長ちっちゃい人だったんだね』


『あぁー、女の子に身長ちっちゃいなんて言っちゃいけないんだよー』


『あ、ごめん。気をつけるよ・・・』


 昨日と変わらず、僕たちは今日あった出来事や、身の回りのことについて話したのだった。彼女は、僕にいろんな出来事を話す。世界の出来事一つ一つに感動するように。

僕は彼女との会話が好きだった。


『僕君・・・実は私、好きな人がいるんだ』


 ある日、唐突に彼女は僕に切り出した。なんの前触れもなく、なんの前提もなく。いきなりだ。あまりの唐突さに僕はそうなんだ・・・としか他に返す言葉が見つからなかった。

 ポツリポツリと彼女はその人物のことを語り出した。

 同じクラスの同級生だそうだが、見ている内に好きになってしまったらしい。でも何故か名前だけは教えてくれない。好きだけどなかなか切り出せずにいるようだ。

 できることなら僕は、彼女の力になってあげたい、彼女がいなかったら僕はこのまま生きたまま死んでいる生活をしていただろう。そんな日常を彼女は少しだけだけど変えてくれたから。

『橘さん、僕で良かったら何でも力になるから、相談してね。友だちなんだから』


『そうだね・・・ありがとう。僕君はやさしいね、遠慮無く頼ることにするね』


 次の返事を打っていると、突然スマホが鳴り出した。通知ではない、電話のお知らせだ。一瞬、母さんからかと思ったらそこには”橘夏希”彼女の名前が表示されていた。


―――ヴヴヴ、ヴヴヴ

 僕の部屋に、スマホの着信音が僕の自室で鳴り響く。

いきなりの彼女からの電話に戸惑う、僕はあの日から人間不信になってしまったのだ。電話で会話なんてできるわけがない。

 でも、今さっき決めたじゃないか・・・彼女の力になってあげるんだと。でも・・・やっぱり怖い。

 スマホを片手に持ったまま動けずに、固まってしまう。


 10秒ほど鳴り響いたスマホは、沈黙して最後の残りかすを這い出すように振動した。


『ごめんね。間違って通話のボタン押しちゃった・・・』


『そうだったんだ、全然気にしてないよ。ちょっとビックリはしたけど・・・』


『もう今日は寝ちゃうね!お休み、僕君。また明日学校でね』


 どうやら間違いだったらしい。いつも通りの彼女の文章なのにメッセージ越しに伝わる彼女の感情は、悲しんでいるように感じた。


 それから月日は経ち、気づけば僕は橘とはあまり話さなくなった。偶然にも3年目も同じクラスだったのにもかかわらずだ。 彼女の周りには、たくさんの友人が並んでいる。それに対し、僕の周りには相変わらず友人はゼロだ。

 でもこれでいい、彼女はあの時好きだった人と上手くいったのかは分からずじまいだったが、今こうして笑っている。

 その様子を眺めているだけで幸せだ。そう思っていた。


 3年生の夏休みが明けてから橘が学校に来なくなった。原因は不明だ。夏休み前も、偶に休んでいることはあったけども今回は1ヶ月経っても来ていない。僕は、とても心配だった。橘は、普通に進路も決まっていた。空いた時間には教室で友人と勉強していたり、資格も取ろうとしていたことも知っている。 なのにそんな彼女が何故来なくなったのだろうか。

 今となっては分からない。


 そのまま、卒業式になっても橘は学校に顔を出すことはなかった。家に帰って卒業アルバムを開くと、橘はアルバムの中からも消失していた。どのページを見ても彼女の姿も名前すらも見当たらなかったのだ。


「・・・あれ、なんで」


 気がつくと涙が溢れていた。分かっていても目頭から溢れる熱いしずくを押さえることができなかった。

 他人のために泣いたのはいつぶりだろうか・・・

彼女に会いたい、話したい、触れたい。


そうか・・・僕はあのLIMEで彼女と会話し始めていたときから、彼女のことが好きだったのかもしれない。

いや、僕は橘夏希のことが好きだったんだ。


 あの時、僕は電話を取るべきだった。取っていれば彼女のために何かできたのかもしれない。

 あの時、彼女は本当に電話を掛けたのかもしれない。

でも、もう彼女に会うことはできない。


この物語は、そんな後悔の物語。


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― 新着の感想 ―
[良い点] こういう主人公なのだから自ら一歩を踏み出すことはできないということが至極当然のように見える。周りが見えていなくて、自分のことに終始している。そういう意味で、ぐちゃぐちゃ感は出ていたし、他者…
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