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人になりたくない転生ドラゴン

転生ドラゴンが街で大冒険する話

作者: 桐 芳乃

この作品は、『転生ドラゴンがぐだぐだするだけの話(または序章)』https://ncode.syosetu.com/n6460ej/の続編のようなものです。

むしろこちらが本編のようなものなので、前作を読んでからの方が分かりやすいかと思いますが、読まなくても多分大丈夫。

 私はドラゴンだ。

 しかも最近知ったのだが、他の仲間よりもかなり体躯が巨大、つまり、ただでさえ宝の山なドラゴン達の中でも殊更、討伐価値の高いドラゴンだ。


 そんな私には、少ないが、人間や人間っぽい種族の友人がいる。


「白さん、面白い薬が出来たんですよぅ」


 私は今、スヨスヨと気持ち良く眠っていたのに、気付け薬とかいう超絶臭い薬で叩き起こされたところだ。尻尾で不機嫌を示しつつ、友人の1人である、うさ耳を生やした眼鏡の女を見下ろす。


 うさ耳眼鏡は研究者とかで、たまに怪しげな薬を携えてやって来る。

 頑丈で、ちょっとやそっとの毒物では効きもしないドラゴンボディをあてに、実験に協力させられるのだ。

 拒否すると、当たり前のように自分の身体で試そうとするものだから、どうも断りにくい。だって今のところ、うさ耳眼鏡の持ってきた薬程度のものでは命に別状は無いし、彼女も私を害そうとしていないし。


『どんな薬よ』


 早く済ませろと、全身で示しながら尋ねると、うさ耳眼鏡は「よくぞ聞いてくれましたぁ!」とはしゃいだ声を上げた。


「ずばり……変身薬です!」

『フーン。何に変身するやつ?』

「不明です!」

『オイ』


 と言いつつ、私は差し出された小さな小さな瓶を爪で摘まみ、蓋を取って中身を流し込んだ。


「そんな大きな手で蓋を取れるなんて、器用ですねぇ……。味はどうです?」

『少なすぎて分かんない』

「なんと」


 何やらショックを受けた様子のうさ耳眼鏡。味に力でも入れていたんだろうか。


『ん』


 その内、身体がむずむずし始めたかと思うと、ぺかーっと光を放った。

 うさ耳眼鏡は目をやられたようで、観察記録用の紙束とペンを放り出して悶えている。


『お?おお?』


 光の中で、私の身体が組み替わるようにぐにょぐにょと蠢く。何とも気色の悪い感触だ。

 ぐにょぐにょしながら、私はどんどん縮んでゆく。中型ドラゴンサイズ、小型ドラゴンサイズ、ワイバーンサイズ、大型動物サイズ、中型動物サイズ……。

 ちょっと不安になり始めた頃、やっと縮小が止まった。そして身体の形も定まり始める。


 光が止んだので、私は変わり果てた自分の身体を見下ろす。

 すべすべのミルク色の柔肌は引っ掻くだけで血が滲みそうで、何とも頼りない。細い手脚、腰はくびれ、胸もある。

 それは実に久々の、人間の身体だった。


「わあ!こんな美人なドラゴニュート(・・・・・・・)、初めて見ましたぁ!」

「え?ドラゴニュート?」


 声帯から声を出している事に違和感を感じつつ。

 頭を触れば二対に減ったものの立派な角が生えていたし、背中にも何か……恐らく翼が生えている。ついでに臀部のやや上から、見慣れた純白の鱗が生えた尻尾が存在感を主張していた。


 間違いない。(面倒だからいつも寝たままでやり過ごすけど)時折貢ぎ物を捧げに来ては、私を拝んで行くドラゴニュート達と同じ姿になっている。


「良かったですねぇ、白さん!人間とはちょっと違いますけど、人間っぽい種族ですよぅ!」

「何に変身するか分からない薬でドラゴンがドラゴニュートになるってどんな皮肉よ」

「あ、それはその薬が人化薬なので当然ですねぇ。本当はもっと完璧に人間になる筈だったんですけどぉ……要改善ですね」


 いつの間にか持ち直していた紙束とペンに何事か書き留めるうさ耳眼鏡に、私は文句を言う。


「初耳なんだけど」

「初めて言いましたもん」


 悪びれずにそう言い放ったうさ耳眼鏡は、何気無い口調で続けた。


「だって白さん、本気で人間になりたいわけじゃなかったでしょう?人化薬って知った上で飲んでくれるか分からなかったし」

「……そんな事ないよ」


 無駄に鋭いうさ耳眼鏡の言葉に、何だか居心地が悪くなって、尻尾をビタンビタンと地面に打ち付ける。


「まあ白さんがそうじゃないって言うならそれでいいですけどぉ。まあ、せっかく街に入れる格好になったんだから、街に行ってみたらいいと思いますよぅ」

「街?」


 思い出すのは、随分と朧げになってしまった食べ物達の味。

 ドラゴンって物を食べる必要が無いから、自然と何も食べなくなってから、もう何百年も経つ。

 人間の料理する食べ物ってどんな味だったっけ?


「行く気になったみたいですね」

「うん」


 私は小さくなった翼を広げ、飛び立とうとした。

 が、うさ耳眼鏡に止められる。

 うさ耳眼鏡は真顔でこう言った。


「白さん、その格好で行く気ですか?痴女って呼ばれますよ」


 私は再び一糸纏わぬ自らの身体を見下ろす。


「……服、持ってない?」







 とある街があった。

『神光白竜』と呼ばれる巨大なドラゴンの棲家が程近くに存在するので、人里にあまり降りてこないドラゴニュートが多く見られる街だ。

 一般的にはドラゴンの棲家の近くに街を作るなど、正気ではない、という認識だが、神光白竜は、こちらから攻撃しなければずっと眠っている温厚で無害なドラゴンの上、人との交流もある知性あるドラゴンだ。

 人間とは逞しいもので、極たまにではあるが神光白竜を討ち倒さんとやって来るハンターや、神光白竜を崇めるドラゴニュートという『客』を、むしろ神光白竜の存在で呼び込んで、今日まで街を発展させてきた。


 そんなこの街に、新たなドラゴニュートが訪れた。

 街に入る手続きをした兵士が、終始、彼女に見惚れるあまりに反応が鈍くなってしまい、そのドラゴニュートを内心苛つかせていたというのは蛇足だろう。

 兵士だけでなく、誰もが声を失って、彼女のふわりと風に靡く白い髪を目に焼き付けていた。


 街に入った彼女は、食べ物の匂いにつられるようにふらふらと、屋台が並ぶ通りに向かった。

 すれ違う人々は、ドラゴニュートとしても珍しい、白い髪、翼、尻尾を見て物珍しさからまず振り返り、次いでそのあまりの美貌に息を飲む。彼らが今まで見てきた、美人と噂のハンターや美しいドラゴニュートなど、彼女を前にしては可哀想なくらいに霞んでしまうだろう。

 いつからか人々は道を開き、距離を保ってぞろぞろと追従するようになっていた。その行列を見た者が何事かと先頭の彼女を見、また行列に加わる。そうやって、信者の如き群れ達は加速度的にその数を増やしていった。







 私は、あまりにあんまりな現状に呆然としていた。

 まずは屋台を物色して、とか計画を立てていたら、いつの間にか人が距離を開けてぞろぞろ着いてくるわ屋台のおっちゃんおばちゃんは拝んでくるわ、買い物も満足に出来なさそうな感じ。

 何故こんな異様な状態になったのか、意味が分からない。目の色と角の色と鱗の色が同じだから、私が近くに棲むドラゴンだとバレたのかと思ったが、それにしては怯えられている風でもない。


 ひとまず撤退して計画を練り直しだ!と路地裏に逃げ込んだ、ところで私の意識は暗転した。




「……ん、んん……」


 身動きが出来ない不快感で、目が覚めた。

 瞼を持ち上げて視線を巡らせると、いつもの巣穴ではなくて、檻の中にいるようだ。

 一瞬意味が分からなくて混乱しかけたが、順々に記憶を辿り、最後の記憶が路地裏に駆け込んだところで途切れているのを確認して……やはり意味が分からない。

 とりあえず身体を起こそうと手を床についた時、耳障りなじゃらりという音で、手枷のようなものが嵌められている事に気付く。


「ひひ、ひ……目を覚ましたか?」


 手枷に付いている鎖が擦れる音の所為か、禿げ頭の大男がにたにた笑いながら何やら話しかけてきた。


「見れば見るほど別嬪なドラゴニュートだぁ……。一体幾らで売れるだろうなぁ、ひひ!」

「……そういう事」


 そういえばうさ耳眼鏡も、私を見て美人だとか言っていたっけ。つまり、売れそうなくらいに美人だったから、売り物として捕まったようだ。

 ああ、全くーーやっぱり、人になどなるものじゃない。私がいくら美ドラでも、ドラゴン仲間達は捕まえようなんてする筈無いのに、人になった途端これだ。

 合法だか違法だか知らないが、似たような姿の種族を商品として売るなんて恥を知るべきだ。


 私はただでさえあまり乗り気でなかったのが、一気に白けた気分になった。早く巣穴に帰ろう。こんな怯えた匂いが充満している所では安眠も出来やしない。


「ふん」


 私は手枷を引き千切り噛み切って、纏めて丸めてポイした。

 何やら喋り続けていた禿げ頭の顎が外れそうになっているが、人間1匹を気にかけている場合ではないのだ。私には早く巣穴に帰って安眠するという使命がある。


「えい」


 檻を掴んで、私が通れるくらいの幅になるまでぐんにゃり曲げて、外に出る。


「し、し、商品が逃げたー!誰か来てくれぇ!」

「逃げてない」


 禿げ頭が喉が裂けんばかりに叫ぶと、わらわらと何匹も人間がやって来た。


「術封じの手枷はどうした!嵌めてないじゃねえか!」

「か、噛み千切って紙屑みたいに丸めて捨てたんだ!こいつただのドラゴニュートじゃねえ!」


 禿げ頭からは怯えの匂いが強くしている。臭いったらありゃしない。

 私はブレスで一気に片付けようと息を吸い込み……ブレスが吐けない事に気付いた。


「本っ当に人の身体って……不便!」

「ぎゃあああ!」


 仕方ないので、パンチ、パンチ、しっぽを繰り出し、何匹か纏めてぶっ飛ばす。


 パンチ、パンチ、しっぽ。

 パンチ、パンチ、しっぽ。


 いつの間にか、立っている人間はいなくなっていた。

 さて、帰るかと翼に力を籠めた瞬間、私の身体がぺかーっと光り始めた。

 今度の変化は一瞬で、みるみるうちに私の視界は高く、高く上昇してゆく。そして天井を突き破って元のサイズに戻った。


 私は随分と久しぶりに感じるドラゴンボディの感覚に安堵の息をつき、建物を豪快に破壊しながら巣穴に向けて飛び立ったのだった。




 後日うさ耳眼鏡から聞いた話、突然街中にドラゴンが現れ、人々は恐慌状態になったらしい。知ーらないっと。

 そして私が壊した建物は、違法な奴隷商人のアジトだったらしく、この度めでたく全員お縄についたらしい。うんうん、良かった良かった。


「それで、領主様は白いドラゴニュートをお探しらしいですよぅ」

『……もう人化は散々』


 私は前脚に顎を乗せて、フスーッと鼻息を吐き出す。


 やっぱりドラゴンが一番だよね。

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