ただでは転ばない
「くっ、ケホッケホッ……。」
「即効性は無かったみたいだな。だが、十分だ。」
体内に入った瞬間に毒が回って死ぬまでの毒では無かったようだが苦しみ方を見ればいずれしに至る毒であるのは間違いないようだ。
「君、自分が使った毒をちゃんと認識していないのかい?……うっ。」
「ああ、そうだ。だからその毒の解毒剤とか期待すんなよ?」
「……愚かだね。そのおかげで助かったんだけど。……カハッ。」
「どこがだよ?さっきからずっと吐血してるじゃねぇか。そのうち死ぬぞ?」
「そのうちってのが問題なんだよ。まだ僕にこれだけ喋らせるほど余裕を残させているんだ。確かにこのままいけばあと30分くらいで死ぬだろう。だけど僕なら30分もあれば解毒可能さ。残念だったね。」
「喋る余裕はあるみたいだが実際膝をついてるし吐血も繰り返す。息も荒い。それに解毒が可能でもそれをさせると思うか?」
「こうすれば、いいのさ。ミノタウロス!」
直後、茜と戦っていたミノタウロスがやってきた。
激闘の跡がよくわかる数がいたるところに見えるがどれも浅い。
……待て。茜ならこのミノタウロスを簡単にこっちにはよこさないだろう。だが、ミノタウロスは呼ばれた直後に現れた。
つまり茜は……。
「あっさりきたね。彼女が簡単にはこっちには来させないかなって思ってたけど。殺してきたのかな?」
「なっ!?」
「さて、どうする?満身創痍の君たちがこのミノタウロスに勝てるのかな?大人しくしてなよ今の僕は時間が惜しいからね。じっとしてるなら何もしない。それにここでの目的は果たしたからさ。
じゃあね。」
「目的だと?」
「このミノタウロスはね。元はこの町の住民なんだよ。すごく優秀な個体になってくれて嬉しいよ。……つまり、人をモンスターにするのが目的だったわけだ。」
最後に苦しみをこらえてあの不気味な笑みを浮かべ去っていった。
ただでは転ばないな。
そして俺たちはそれをただ黙って見ていることしか出来なかった。それは告げられたことの突飛さ、そして、男が最後に見せた笑みの今まで以上の不気味さによるものだろう。
「人をモンスターにする、だと?ふざけやがって!」
男が去ってしばらくしてやっと動けるようになりすぐに茜を探した。俺たちがあの男と戦っている間に茜は戦いの場所が離れていってしまったようだ。
「見つけました!深手を負っていますが息はあります!」
「すぐに医療班を呼べ!」
よかった。深手を負ってはいるようだが生きているようだ。




