黒幕
ミノタウロスに意識が集中していたためか俺も茜もそこに第三者が現れたことに気付けなかった。
現れた第三者は少し長めの黒髪を後ろで束ねている。肌は白く眼は細い糸目という言葉が当てはまるだろう。背もそこまで高くはない160センチ後半で細見だ。
そして気が付けばその第三者はミノタウロスの隣に立っている。
「……まさかこのミノタウロスに一太刀入れるなんてね。ま、それくらいでないと困るのですが。」
「なんだ、こいつ?」
「失礼、自己紹介がまだでしたね。今回の黒幕、と言えば分りますかね。」
「今回の黒幕?」
「ええ、そうです。この町のことは僕がやりました。」
「……あなた、もしかしてオストロミスの部下なの?」
「こういった事件があるとオストロミスさんに繋げちゃうのか。嫌われてるみたいだね、あの人。」
「つまり、あなたはオストロミスの部下ってことでいいのね?」
「もちろんそうだよ。それを確認してどうするの?」
「当然、生きて返さないわ。」
「怖いこと言うね。でも、それが君に出来るとは思わないなぁ。だって、一人は辛うじて動けるけど戦うのは無理そうだし、君もこのミノタウロスと互角……あのままいってたら押され始めただろうね。そんな状況に僕も加わるんだ。それでも勝てるって言えるのかい?」
「はっ、そんなヒョロイなりして何言ってんだ?虚勢は結構だぜ?聞こえてんだろ、さっきの戦闘の音を聞きつけてここの調査をしに来ていたフラグムント兵達がもうじきここにくるぞ。」
「……君、僕のこと侮ってるでしょ?侮ってるからそんなこと言えたんだろうけどさ。あと、フラグムント兵のことなら君の言うとおり知ってるよ。彼らのことは触れなかったけどそれを含めて僕らが勝てるって話だ。そのフラグムント兵がどれほどの人数なのかは知らないけど調査ってことはそんなに多くはないだろうし仮に予想よりも多いなら彼らの相手はミノタウロスで十分だ。代わりに西園寺茜とは僕が戦うことになるけどそれも問題ない。」
「町の方で音がしたと思えばこいつがこの騒動の犯人か。」
「まさかミノタウロスだとはな。」
「……喋ってる間に到着したようだね。数は10人と少しか、概ね予想通りだ。うん、問題ない。こっちは僕がやろう。」
ヒョロイ男がフラグムント兵達の前に立つ。それと同時に静かになっていたミノタウロスが唸りだし殺気を放っている。が、男の方はまるでそういったものがない。ヘラヘラしていてとてもこれから十数人の兵士たちと戦うとは思えない様子だ。
「じゃあ、戦ろうか。」
「ッ!?」
一瞬ヘラヘラとしていた表情が消え、ミノタウロスに劣らない殺気が放たれた。
しかしそれもすぐに表情は戻り殺気も消えた。
こういうタイプか……。これじゃあギリギリまで読めないな。
前に戦った……俺は見てただけだがミーハも読みにくかったがそれとはまた違った読みにくさで殺気のあるなしじゃあそれのレベルが違う。
「やあ、まずは君からだ。」
「ぐあっ。」
なんだ!?張りつめている中で相手の殺気が無いとこんなに気付かないものなのか?
誰も接近に気付かずに一人が斬られた。
そのあとも碌に対応も出来ないまま立て続けに4人が斬られた。
「これであとは10人。」




