本領
「逆巻け、我が武具は風。その役はシルフ。吹き荒れろ大地の咆哮。デバイスト・ウィンド！」
前に立つなり詠唱を唱え魔法を放つ。
文の長さからして中級魔法か。
荒ぶる風の塊が真っ直ぐにミノタウロスへと向かって行く。
少なからずその余波は伝わってきている。
そしてそれは直撃した。
高密度の斬れる風の塊が直撃したのだその部分はズタズタに割かれていてもおかしくはなかった。が、ミノタウロスの身体に見られるのは誰も浅いかすり傷程度のものばかり。ほとんど効果が無い。
「……全然、効いて無いわね。」
「もっと上の魔法は使えないのか？」
「使えるわ。けど、それに伴って詠唱も長くなる。あなたは今使えないし隙があって使えないのよ。中級魔法が限度ね。」
詳しいことはわからないがさっき放った魔法は中級魔法の中でも威力は高そうだ。詠唱が前にシオンが使っていた中級魔法に似ていた。シオンが使っていたのも威力が高かったからだいたい同じなのだろう。
「勝てるのか？」
「中級魔法でも使い方によっては本来の威力より強い力を発揮するわ、見てなさい。」
「ッ！ミノタウロスが！」
「わかってるわよ。」
ミノタウロスは再度槍を構えての突進。
茜はそれを裕に躱す。
さっきからミノタウロスは馬鹿の一つ覚えみたいに突進しかしてこない。こっちがある程度の距離を保っているからなのか？
「唸れ、一陣の風。巻き起こせ陣風を！ウェスティオー・ウィンド！」
風が形を成してやがて剣になった。風の剣に。
それを構えて茜はミノタウロスに斬りかかる。
ミノタウロスはとっさに槍を構えて風を受け止める体制に出た。
しかし、風の剣はその槍を斬ってミノタウロスの身体に肩から左袈裟に一太刀入れた。ミノタウロスは態勢を崩した。ちなみに槍は鉄ごしらえだ。
「ヴヴヴオオオオオオ！！！」
凄まじい咆哮を上げてミノタウロスは態勢を立て直す
全身の筋肉が膨張し少し全身の傷口から血が噴き出たが直ぐに血は止まり、傷口も半ば塞がる感じとなった。
武器を失ったミノタウロスは姿勢を低くしてまた、突進をした。さっきよりも格段に早い。まだ目で追えるが点と点で見えるといった感じだ。
なんとか茜も躱していた。
どうするんだ？このままだと徐々に押されっていって最後には……。そういった未来しか見えてこない。
「そこまでにしようか。」
「「！？」」
