講和成立
俺たちは『リザルト』の街から現在、フラグムントの軍勢がいる場所に向って行軍していた。
その場所は『リザルト』の街からそう遠くはない。馬を使っているし到着まで一時間もかからないだろう。
一方、リザルト領内のフラグムントの軍勢は最初の侵攻から全く動かずその場に居座っていた。
「ダンケさん、ついに『リザルト』が動きました。西園寺茜本人もいるようです。」
「やっとか、この時を待っていた。……西園寺茜自らが出てくるとは都合がいい。」
「講和が成りそうですね。」
「相手の出方次第だがな……。それと、カイル・ヴァ―チスの足止めを解いてこっちに合流するように伝えてくれ。」
「はっ。」
「茜、もうすぐ目標の地点だよ。」
行軍の中リーネは馬を並べて伝える。
「分かっているわ。臨戦態勢を取るように全軍に伝えて。」
「はーい。」
了承すると馬を走らせ伝達へと向かった。
「……賢治、緊張しておるか?」
「いえ、そんなには……。リザルトに戻る途中一戦闘ありましたから。」
「ふむ、初陣というわけではないのじゃな。」
「……比較的小規模の戦闘しかやったことないので、今回のような今までよりも規模の大きい戦闘は初めてです。」
「そう身を固くすることはない。向こうの指揮官がダンケという男なら講和に持って行ける。そうでなければ一戦交えることになるがの。」
「……なんでリオットさんはその、ダンケという人のことを知っているんですか?」
「……ダンケは儂の息子じゃからの。」
「え!?リオットさんの息子ならどうしてフラグムントにいるんですか?」
「儂がお嬢の下に着いた時にはもう巣立っておったからのう。」
「……はぁ。」
色々あるんだな……。
「伝達です。目標までわずかです。臨戦態勢を取りますので所定の位置へお願いします。」
「了解した。いくぞ、賢治。」
「はい。」
リザルト、フラグムントの両陣営共に見える位置に布陣している。
フラグムントの指揮官がリオットさんの息子、ダンケという人なら講和へ、違えば一戦交えることに……。
緊張が走る。
「確認が取れました!確かに相手の指揮官はダンケという男でした。」
「よし、これで講和だ!」
「そうね。早速その旨を伝えて向かいましょう。」
「お嬢様!フラグムントから使者が来ております。通しますか?」
「向こうも同じ考えだってこと?落としなさい。」
「了解です。」
「こちらです、どうぞ。」
少し経つとさっきの兵士に導かれフラグムントの使者が入ってきた。
やってきたのは大柄な男でどことなくリオットさんに似ているような気がするけど、この人がダンケって人なのか?
「ダンケ・ムーイと申します。この度は突然の侵攻申し訳なく思います。誠に勝手ながら講和を結んでいただきたく参りました。」
「ムーイってあなた……。」
「儂の息子ですな。お嬢。」
「……親父!?なぜ?」
あれ?その反応、親のこと知らなかったのか?
見た感じ俺以外は全員知らない感じだったな。
「その話はとりあえず置いておきましょう。講和が先よ。」
「そういたしましょう。」
「で、では話を進めましょうか。」
「まず、講和を結びたいって話だけどそれについては受け入れるわ。こっちもそのつもりでここに来たわけだしね。」
「では、講和は成ったということでいいのですね?」
「ええ、構わないわ。」
「ありがたい。」
「それはそれとして、何故攻めてきたのか理由を聞かせてほしいわね。こちらが考えられる限り理由もそれによって得られるメリットもないはずよ。ましてやあの女に限ってね。」
「……わかりました話しましょう。すべては我が主、リン様の勘違いで始まったと思われます。」
「思われるっていうのはどういうこと?」
「我々もリン様の考えははっきりとわかっていないので。あの方は天才ですから。」
「天才なら勘違いはしないと思うけど?」
「要因があるのです。それは、あなた方がこちらに送ったカイル・ヴァ―チスと他一名を確認し宣戦布告と思われたようで……。」
「カイルを見てそう思ったわけね。まさかそんなことになるとはね……。私の人選ミスかしら。」
「我々はそれでも違和感を覚えたのではなから講和を前提として攻めましたのでそちらの被害はなるべくこちらで押えましたので損害はないはずです。それでこちらに使者を送った本当の理由をお聞かせ願いたいのですが。」
「私たちはフラグムントにある事情で協力を要請したかったのよ。」
「その事情とは?」
「それは言えないわ。そこで条件があるの。」
「……条件ですか。聞きましょう。」
「被害はないとはいえ、そっちの勘違いで迷惑を被ったわ。そこで改めてそちらとの対談の場を設けてほしいわけよ。」
「……なるほど。わかりました。手配いたしましょう。」
「なら、これで講和は完全に成立ね。」




