彼らは犬死ですか?
「最初はすぐに帰るつもりだったので着替えなど持っておらず、川を見つけてそこで洗い落とすことにした。血も付着したばかりなので割と簡単に落ちるだろう。
「しかし、こうも都合よく川が見つかるなんてな。おかげで助かったけど。……カイル?」
さっきの戦闘が終わってからずっと何かを考えているようだ。
「ん?ああ、すまない。妙に引っかかることがあってな。先ほどの連中オストロミスの刺客にしては賢治にあまり関心がなかったなと思ってな。それどころか殺しにかかっていた。前に聞いた話とは随分な気の変わりようだ。」
「じゃあカイルはあれは師匠は関係ないって言いたいのか?」
「一概にそうとは言えんがその説はかなり薄いな。そうなると考えられるのは……。」
「『フラグムント』の差し金ってことかよ。」
「そうなるな。理由はわからないが『フラグムント』に入った時点で向こうにもその情報は入っているはず。使者としてきている者にしかもその道中で殺そうとするということは『フラグムント』は『リザルト(うち)』と戦争でもするつもりなのか?」
「……戦争って!?どうするんだよ俺たち?敵地の中にいるってことだろ?」
「ああ、さすがにそれはまずい。物資的な問題で俺たちは追い込まれるだろうな。なるだけ早く『リザルト』に戻るぞ!」
時を同じくするころフラグムントの都市ではダンケとその周りをフラグムント兵たちが囲っていた。
「……戻らないか。」
「ダンケさん、ということは……。」
「全滅したんだろうな。……リン様の指示とはいえ死にに行てしまったとはな……。」
「彼らは犬死ですか?」
「犬死ではない。我らがなぜリン様についているのかを思い出せ。リン様のすることの多くは完璧に決まる。だが、たまにそれが外れることもあるがそれは滅多に起こらない。そして外れた時の損害は次に繋がっている。今回のは恐らく外れだ。損害も今までよりも大きいだろう。だが、その分繋がった先はもっと良いものになるはずだ!我らはその糧となるのだ!安心しろ早期講和なら儂が必ず取り付けてみせる。だから今はこれから起こる戦争にそなえろ!」
「おお!流石ダンケさんだ!」
「リン様に右腕として選ばれるわけだ。」
「俺は命ある限りリン様とあんたについて行くぞ!」
広間は彼らの高揚した湧いた声で埋まる。
「随分と士気が上がっておるようじゃな、ダンケ。いいことぞ。」
「リン様!?なぜこのようなところに?」
「開戦前の皆の様子を見に参ったのじゃ。しかし、『リザルト』の考えておることが見えてこん。なぜこのようなタイミングで戦争など仕掛けて来ようとしておるのか。妾には全く見当がつかん!だが、仕掛けてくるのなら迎え撃つまで!皆、しっかり備えておくのじゃぞ?」
「はっ!」
ひとしきり話終わった彼女はくるりと背を向けて去って行った。
「……ダンケさん、リン様の様子だと誤解を解けるんじゃあ……。」
「……かもな。だが、襲撃してしまった以上『リザルト(向こう)』は黙っていないだろうな。やはり開戦は避けられぬ。我らの出陣は予定では今夜、夜襲から始めることになっている。気を引き締めておけ!」
彼の指示で広間に集まっているフラグムントの兵たちは相槌を打つとそれぞれが一斉に各々の持ち場へと散っていった。
カイルと賢治もリザルトへの足を早めていた。
フラグムント陣が予定としている開戦まであと4時間を切っていた。




