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花祭  作者: たこやきいちご
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Chapter6『ふたり』

いろいろな出来事が怒濤のように発生するまえの、ちょっと小休止。

女の人って、お人形遊び好きですよね? って回です。

Chapter6『ふたり』


 客室でまんじりともしない時を過ごしていたふたりを迎えに来たのは、ティータではなく、侍女の一群(いちぐん)だった。

 有無を言わさず湯殿(ゆどの)にひきたて、ふたり並べて、ひとりにつき三人がかりで泡だらけにし、手の中の小芋でも洗うように、あっというまに洗いたててゆく。

 頭のてっぺんから爪先まで、石鹸の匂いのしないところがなくなった彼女たちが、湯切り用の柔らかい下着一枚で次に連れてゆかれたのは、湯殿の続き部屋であった。

 おおきな鏡の前に椅子を並べ、着席すると、待ちかまえていた侍女たちが、手早く髪の水気をふき取り、櫛を通し、すこしだけ油をつける。

 金の髪が燭台(しょくだい)の明かりに光り輝く。

 その(うるお)いのある目映(まばゆ)い輝きは、光砂のあふれる夜明けの森を彷彿(ほうふつ)とさせた。

 下着から覗くほっそりとした首筋、まろやかな肩、のびやかな足。

 すべてが、内側から輝きを放っているような、白さである。

「なんだか驚くほど見栄えのするお嬢様方でございますのね。これはもう、手入れをしないのはもったいのうございます」

 いちばん年輩らしい侍女の一声で、ふたりは手足の自由を失った。

「動かないでくださいましよ、仕上がりが悪くなりますからね」

 と、手足の爪を磨かれる。

 ルカは湯殿のあたりから、ずっと、

「気持ち悪い」

 とか、

「くすぐったいから、いいよ」

 などと、さんざん抗議の声を放っていたが、侍女たちはどうやら聞こえない振りをしているようだった。

 ルカが抗議すれば、

「はいはい」

 とか、

「そうでございますね」

 などと返事をするわりに、なにひとつやめようとしないから、聞こえない振りより始末が悪いかも知れない。

 リナだってこういうことは慣れていない。

 石鹸が気持ち悪かったり、ひとの手がくすぐったかったりしているはずなのだが、黙りこくったまま、じっと辛抱している。

『辛抱してるっていうより、気が付いてないのかもねえ……』

 ルカは侍女たちにいいようにされている合間を縫って、ちらちらと妹を見遣(みや)りながら、そう思った。

 これからのことに思いを巡らせているのか、目線が遠くを彷徨(さまよ)っている。

 浮ついた考え事ではないのは、表情で分かる。

 リナの表情は重く、苦しげですらあった。

 爪を磨かれている合間に、あいたほうの手で、ルカは妹の手をそっと握った。

 弱い力が、姉の手を握り返し、頬と目元に微笑が刻まれる。

「姉さん、大丈夫よ。わたしは、大丈夫だから」

 小さな声で、リナが言った。

 ようやく仕上げだ、とばかりに、たぶん急いで用意されたらしい衣装に袖を通した。

 すこしくらい寸法(すんぽう)が合わなくてもなんとかなるように、ゆったりした意匠(いしょう)のそのドレスを身にまとうと、ふたりは(つい)の人形のように美しく、そして、身体の線が強調されなくなった分、それまでよりすこし幼く見えた。

 あるいは、年齢通りに見えるようになったと言ってもいいかもしれない。

「見違えるばかりでございますよ、お嬢様方」

 真珠のような光沢を湛えた自分の爪を、不思議そうに見遣っていたルカが、侍女の言葉に、はっと顔を輝かせた。

「これで、やっと終わりなんだね?」

 なにもかも手際はよかったとはいえ、最初に湯殿に引き立てられてから、すでに二刻は過ぎ去っている。

 こんなに身仕舞いに手間をかけたことのないルカは、草臥(くたび)れ果てていた。

 できることなら、いますぐ床に寝ころびたい。

 床は板張りで堅そうだったが、贅沢(ぜいたく)は言わない。

 野宿で地べたに寝たこともあるのだ。

 清潔な分だけ、上等だ。

 そのまま自分の腕枕で寝てしまいそう。

『でも、せっかくの衣装に(しわ)が寄るのも、もったいないねえ。こんな柔らかい布、初めてだよ』

 その気持ちで、(こら)えているに過ぎない。

 しかし、ルカの期待はあっさりと裏切られることになった。

「ご冗談をおっしゃいましな。髪が乾きましたら、結わないといけませんよ。眉もすこし剃って、薄くお化粧もいたしましょうね」

 侍女は楽しそうだった。

「もうたくさんだよ……」

 ルカの絶望的な呟きに、侍女たちのあいだにちいさな笑いのさざめきが起こる。

「公爵様とのご面会の時間までは、まだまだ余裕がございます。それまで、わたくしどもが腕に()りをかけて美しくしてさしあげますから」

 侍女のその言葉に、ルカは服の(しわ)にも構わず、その場に倒れ込んだ。

 結局、ふたりが侍女たちから解放され、すっかり遅くなった夕食にありついたのは、これからまだ二刻ののちであった。

 夕食後、化粧直しと称してまたしてもふたりが侍女たちに取り囲まれるはめになり、ルカが、

「化粧なんか(めし)食い終わってからでよかったんじゃないか!」

 と、悲鳴をあげることになるのではあったが。


このあと、なんというか主要登場人物たち、それぞれの人生と人生観が変わってゆきます。

そしてあともうすこしで……恋愛ものっぽくなります(^^;)

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